勉強しなければ!
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拙い作品ですが、あと少しで完結の予定です。
それまでよろしくお願いします。
みんな大好き夏休みの到来だ。
長期休暇ということもあってか、学生のほとんどが外出をしている中。
アイマスクを装着した俺は、ガーデニング用の日除けシェードで直射日光を避けるように設計をした自立式のハンモックで、ブラブラと中を彷徨っている。
こういうスローライフは、今だけ味わえる贅沢というものだろう。
「……のどかだなぁ」
これが永遠と続けば、どれだけ幸せだろうか。
俺はこの至福の時を……
「あ、ルオがハンモックで気持ちよさそうに寝てるじゃん」
一瞬で終わらせてしまった。
やかましいやつが返ってきたと、アイマスクの右目側を上げる。
「いいねそれ。私に頂戴よ」
「ここは俺のサンクチュアリだぞ」
「私もそれに乗って眠りたい」
駄々をこねる公孫勝に、俺はどうするか考える。
この自立式ハンモックの耐荷重は300キログラムだから、二人で乗ることは出来るだろう。
だが、一人で寝ることを想定して設計されているこのハンモックは、二人で寝ようにも狭すぎる。
さてさてどうするかと悩んでいたのだが、それよりも先に動くのがこのニートのまさるだ。
「ほら半分こ半分こ」
「暑いんだよ。部屋でエアコンつけて寝てろよ」
「別にいいじゃん。この天才と寝れるなんてラッキーだぞ?」
「アンラッキーだわ」
よいしょよいしょと頑張って横へとずらそうとする公孫勝だが、腕力のない彼女が俺を動かせるはずもない。
無駄な時間ご苦労さん。
「入雲龍。何をしてるんだ?」
「あ、ブショー! いい所に来た」
高みの見物をしていたのだが、武松が到来! じーっとハンモックを眺めている彼女をみて、いやな嫌な予感が体をよぎる。
「よいしょ!」
「何やってんだよ!」
「つい。やってしまった」
「つい。じゃねぇだろ! お前しばらくここを見てただろうが!」
公孫勝は武松と付き合いが長いことから、彼女が起こすアクションを予測していたのだろう。
横へとずらされて向かい合っている、俺と武松の隙間にすっぽりと入ってきた。
俗にいう川の字の状態だ。
「ルオったら顔を赤くしてさ。意識してんの?」
「そうなのか?」
ニシシと笑いながら煽ってくる公孫勝にイラつくが、デコピンをいれようにも狭いハンモックの中では身動きが取れない。
「梁山泊の修行の時を思い出す。私とルオと林冲の三人で布団の中で眠ってたな」
「その頃からそういう関係だったの?」
「そういう関係ってなんだよ。エリートコースではない俺達の寝室の冬は、寒かったんだよ」
山の奥地にあることから、修行していた者達の冬の寝室は、凍えるような寒さだった。三人一組で組まれていた寝室で、夜を過ごすためには仕方のないことだと思う。
逆に、公孫勝のようなエリートコースは一人一室で、なおかつ暖を取れるような仕組みになっている。
今は真夏だけどな!
「まぁいい。それで、大和はどうしてんだよ」
「梁山泊が利用しているホテルで、林冲と一緒だ」
「あのホテルだったら警備も凄いから、爆破されない限りは大丈夫でしょ」
「曹一族だから助かったな」
これがもしも曹一族以外の傭兵集団だったら、多少の犠牲は付き物とかほざきながら爆破してくるだろう。
そういう点では、ある意味よかったのではないだろうか。
だがその一方で少し不安な点がある。
「椎名京とクリスティアーネ・フリードリヒが退院したみたいだが、寮の護衛はどうするんだ」
「リンがかなり気合を入れて罠とか警備網作ってたよ」
「まじで監禁しないか不安になってきたぞ」
寮で攫われるのを危惧していたのだが、それが味方でないことを祈りたい。
「豹子頭なら大丈夫だ」
「本当かぁ?」
「私は豹子頭を信頼しているからな」
「ならいいんだけどな。って、公孫勝の野郎眠りやがったぞ」
「たまにはいいじゃないか」
いや、こいつの場合は常時ではないだろうか。少し前なんて、徹夜でネットゲームのレイドボスをしていたからか、夕方まで起きなかったぞ。
「甘やかしすぎるなよ」
「仕事をするときは仕事をしてるから、怒るに怒れないんだ」
「憑依は便利だからな……」
公孫勝の憑依は、人形などにもできることから偵察や連絡に使える。
大事な場面で使えなくなっては困るので、眠いときに眠らせてあげるというのが、
梁山泊の方針なのだろう。
「ルオはどうするか決めた?」
「梁山泊に戻るかどうか……か」
だらけ部で思い描いたビジョンは未練だろう。だが不思議と後悔はない。
しかしもしあの場へと戻れるのなら、俺はどうする。
「そんなに思い悩まないでくれ。まだ時間はあるんだ」
「そんな表情をしてたか?」
「ああ。とても苦しそうだった」
「そうか……」
俺は戻ることを望んでいるのか。だが、その言葉は口には出さない。
女々しいと思われるだろうが、多分これは一度かかったプロスペクト理論からくるものだろう。
人は新しい物を手にするよりも、既存の物を失うのを恐れる生き物だ。
一度失った物は、いくら頑張っても戻ってこない。または取り戻すのにとてつもなく労力と時間が必要になる。
そのことから、あと一歩踏み出すことが出来ないのだ。
「大丈夫だ。私は待つぞ」
「待つって、いつ返事返すかわからないのにか?」
「いつまでも」
「ん……?」
武松の言葉は捉え方によっては
「告白に聞こえるぞ?」
「それ以外にないだろう」
「いやいや! そのー……あー……ん-……」
顔の表面が熱くなっているのがわかる。武松を見ると、彼女も顔が火照っている。
「返事はすぐじゃなくていい! 私は警備の仕事に戻る」
そういうと、武松はハンモックから降りて庭から出ていった。
小走りにみえるが、走っているのとほぼ変わらない速度で。
「ほえー。照れてるブショー可愛いじゃん」
「お前はいつ起きたんだよ」
「最初からに決まってるじゃん。それで、顔が真っ赤な目次洛先輩はどうするつもり?」
「どうする。ってもなぁ」
「鉄は熱いうちに打てっていうじゃん。ちなみに、今日のブショーの警備場所は駅前のコーヒー喫茶ね」
「あーもう! わかってるよ!」
「そうそう。ほらダッシュダッシュ」
公孫勝の言葉を背に、武松の気を追いかけていく。
先ほどの小走りをやめて歩いている彼女に追いついたのはすぐだった。
多摩川の河川敷だが、人通りは今はいない。一応周囲を索敵するが、すぐに人が来ることはないだろう。
武松も俺が走ってきていることに気付いたようで、足を止めて振り向いた。
「どうしたんだルオ。そんなに走って……」
「武松……いや、スン!」
星を受け継ぐ前の名前を言うと、スンはびっくりした表情を浮かべる。
本来ならば、いろいろと考えてから言うのだろう。経験がある人間だったらアドリブを利かせることもできるのだろう。
「俺をお前の盧俊義にしてくれ」
それを言った瞬間、上空にある雲は消え失せ、晴天になるほどの火柱が上がった。
「本当に私でいいのか?」
「ああ」
「感情を表に出せないんだぞ」
「気にしない。俺がわかればいい。俺じゃ……だめか?」
「……! う、うん。で、では、お願いします」
「パニくってんじゃねぇっての」
「いや、嬉しくて」
「ったく、俺もお前もしまらねぇなぁ」
そう言いながら笑いかける。スンも俺に笑いかけてくれる。
俺の告白は無事成功した。
スンはこれから仕事があるということで解散となったが、俺はこれから始まる夏休みに心を躍らせながら、眠れぬ夜を過ごしたその翌日の昼──
俺の予想が的中。大和が林冲に攫われた。