川神湾の砂浜。先週は雨で延期となった水上体育祭が本日開始された。
若さの秘訣は枯れないことを力説している学長によって、体操着はブルマと水着はスクール水着という、今ではあり得ないこの川神学園の行事で一番といっても過言ではない人気な体育祭らしい。
余談なのだがスポンサーとして呼ばれるためには、水にちなんだ景品を川神学園へと寄付しないといけないのだが、スポンサー専用である近くに設置されているテントには、ぎっしりと詰まっている。
普段は水泳の授業を休んでいる梁山泊達だが、本日はどうやら参加のようで、全員スクール水着を着用している。
こっそり聞いたのだが、学長による肉体的な説得が行われそうになったらしく、任務でもないのにあんな化け物と戦いたくないということでの妥協とのことだ。
ちなみに俺は海パンを履いてはいるが、上にはジャージを羽織っている。
学長は女子以外には興味がないらしいのでスルーしているのだが、それは教育者としてはどうなのだろうか。
この体育祭では1つの競技に必ず参加をすることというわけのわからないルールも存在する。
しかし大和には定期的に袖の下を通しているので、水につかるような競技には参加することもなく、男女混合三人四脚の参加をもぎ取ることが出来たのだが。
「それ、イーアー、イーアー」
史進と楊志によって強制的に真ん中に組み込まれてしまった。
イー、アーとは1と2を中国語にしたもので、彼女達に音頭を取られている。
「速度を上げるな」
「そうは言ってるけどちゃんと連れてこれてから大丈夫」
「楊志にも言ったが、史進。露骨に観察すな」
「気にするなって」
いつもよりも小さな胸に突っ込まないようにしながらも、段々と速度が上がっていく。
それに比例するかのように周囲の視線が増えているのだが、歩く速度の速さに注目されているのではなく、男女の組み合わせということからの、ある意味嫉妬からくる視線のほうが多いのではないだろうか。
「ぶべっ……いきなり止まるんじゃねぇよ……って脱がすな!」
歩く行為が急に止まったことで、砂浜に向かって顔面からダイブを決める。手で受け身を取れなかったのは、左右の手を二人に掴まれていたからだ。
さらに素晴らしい連携によってジャージの線ファスナーを降ろされる。
「うーっし、こっちは出来たぜ」
「こっちも完了。おらー覚悟しろー」
傍から見たらいちゃいちゃしているように見えるのだろう。嫉妬の視線から殺気が混じり始めている。
なすがままにジャージを脱がされた俺は、上半身をさらけ出されると、先ほどまでの殺気混じりの視線が消えた。
「ふーん。剣や槍の跡か」
「こっちは獣の爪と矢の跡だね」
視線が消えたのは、俺の上半身にある傷跡が原因だろう。幼いころに受けたその傷跡は、年月を経った今でも消えることがない。それを隠すためにジャージを着ていたのだが、この二人によってバレることとなった。
「武闘家として理想な肉体だね」
「だな。どっちかっていうと白よりのピンク筋って感じってとこか」
「追いはぎしておいて、なに人の肉体観察してんだよ。ほら、競技が始まるからさっさと行くぞ」
スパンと頭を叩いて立ち上がると、奪い取ったジャージを着なおす。そして三人四脚が始まるアナウンスを聞いた俺は、二人を強引に連れていく。
結果の方だが、当然1着を取ることができた。
☆
水上体育祭が終わったのだが、最後の祭りの締めということで島までの遠泳をするように強制された。
ちなみにこれに参加しない場合は景品を没収するらしい。
本来ならば参加を拒否するのだが、三人四脚での景品がコーラということもあってか、俺も強制的に参加させられることとなった。
新入部員のせいで、これまで以上にコーラが減っていくので財布にやさしくするためだ。
途中でギブアップをしようとも考えたのだが、救助をする船には、学長や実力者であるゲイル先生と我がクラス担当の梅子先生がいることから、余力があるとみられて追い出されるのが目に見えている。
さらに俺の背にはというと……
「なんで俺が浮き輪になってるんですかね。後輩君や」
「先輩は後輩のために働くのが役割じゃん」
「はぁ……まぁいいか」
公孫勝という後輩が乗っている。どこから取り出したかわからないコーラを片手に首に手をかけている彼女だが、力が弱いのでいつも以上にゆっくりなペースで泳いでいる。
すると目の前に何者かがいきなり現れた。2-Sの
水中に潜っていたためか、彼の頭が神々しく光っている。
「出たな妖怪置いてけ海坊主!」
「ねぇ公孫勝ちゃん、そんな浮き輪よりもこっちの浮き輪のほうが便利だよ?」
「なんだこのハゲ!? やっちゃえ目次先輩」
「はいロリコンは消えましょう……ねっ!」
「痛ってぇ。何しやがる!」
「あーもうめんどうくせぇなぁ!」
水の中から器用に水弾を飛ばして顎へとクリーンヒットさせる。
しかしこれで倒れるロリコンではなかった。ロリが絡むと能力が向上するというわけのわからない能力を持っている彼は、顎に手を当てながらも同じ速度で並走してくる。
これ以上絡まれたくないと思った俺は、目に水を飛ばして目つぶしをした後に眉間へと指を突き刺した。
一瞬だけ足を痺れさせる秘孔だ。良い子は真似してはだめだぞ。
「おじさん先生、井上準君が足をひねったようです!」
「ったくおじさんに仕事を増やすんじゃねぇよ」
横を通っている船にいた
「やるじゃん」
「誉め言葉どうも。んじゃまぁゆっくりまったりと行きますかね」
「もう少し早くしてもいいぞ?」
「乗客は黙ってろ」
「あ、ブショーだ。おーいブショーこっちこっち!」
「仲間を呼ぶんじゃねぇよ!」
ここ最近俺の周辺には梁山泊の連中しかいないのかと呆れながらも、公孫勝が手を振る方向から近寄ってくる武松を迎える。
「探したぞ入雲龍」
「お荷物をお届けします。もののふしょうさんや」
「ブショーだ。入雲龍が世話になっている」
「ほら、さっさとあっちに乗れ」
「そうだな。先輩に席を譲るべきだぞっと!」
背後からゆるゆると近寄ってきた人物の弁慶が公孫勝を武松に乗せると、それと入れ替わるようにのしかかってくる。
「こんちくわ」
「うーっす。大和の方に行かなくてもいいのか?」
「最初はあっちの方にいったんだけどさ。専属のSPがいるみたいで諦めた」
「林冲か。それでこちらの梁山泊のお二人は何か御用で?」
梁山泊が来てから大和には、常時と言ってもいいほど林冲が付きまとっている。
それ以外のメンバーに纏わりつかれているが、あちらよりも緩いので気が楽なものだ。
「少し前に川神院で腕試しをしたのだが」
「で、どうだったの?」
「お前は川神一子に鍛錬を行っているようだな」
「いや、なんで弁慶が返答してるんだ」
「いいじゃん。運賃として受け取っといてよ」
「続けていいだろうか?」
「私のことは気にせずに続けていいよ」
普段からこういうことをしているのだろうか、武松は寝ている公孫勝を落とさないように器用に泳いでいる。
こっちはこっちで弾力のある感覚を背に受けながらも泳いでいく。
「彼女の動きが我々の長柄術に似ている」
「つまりは、洛の武術が気になるわけだ」
「そういうことだ」
この質問にどのように返すのが正解なのかを考えながらも、弁慶をチラ見する。彼女は興味深そうに俺の発言を待っているようで、いつものんびりしている雰囲気からは考えられないほど真剣な眼差しをしている。
「どう答えればお前らは満足するんだよ。どうせ上からは排除命令出てないんだろ?」
「その通りだが……」
「ならそれでいいじゃないか……、って傷跡触るんじゃねぇよ!」
「この跡すごいね。猛獣と遊んだの?」
「子供のときにちょっとあったんだよ」
しかし俺が真面目に答えないと分かったのだろう。その眼差しは一瞬にして消えたかと思うと、いきなり背中にある傷跡を触り始める。
こそばゆいのと背中の感触を我慢しながらもすいすいと泳いでいく。目的地はもうすぐだ。
「入雲龍は連れていく」
「さっさと持って行ってくれ。ついでに弁慶も目的地が目前だから離れろよ」
「いやでござる!」
「そこだけ武士言葉になるな。力を入れるな!」
「絶対に泳ぎたくないでござる」
「某漫画リスペクトしてるんじゃねぇよ」
公孫勝を連れて目的地へと加速する武松。背中の弁慶はというと、ノースイムと言わんばかりに腕に力が入る。
そして立ち上がれるほどの浅瀬へと着いたら、何事もなかったかのように腕を話した。
「運ちゃんご苦労さん」
「料金はいかほどに」
「私の胸を堪能していたようなので、勘定はそれにしといて」
「はいはい……」
こうして、水上体育祭は終了となった。