ストグリ世界を全力で楽しむ 作:ストグリメンバーその0
全然弱そうだの、どこに居たのか分かんないだの、貧弱そうだの、さっき後ろに並んでただの、どう見ても弱そうだの散々言われるクライ。
『嘆きの亡霊』のテーブルに上半身を預け、何か変な事をブツブツ言っているが、別に精神がおかしくなった訳では無い。
部屋中の視線を集めているが、その理由はクライだけではなく、ここまでクライを引っ張ってきたティノにもあるだろう。
「ますたぁ、気にしないでください。ますたぁの素晴らしさは、私が、一番知ってます」
「君のせいで今僕は、多大なる精神的苦痛を被っている」
小噺だが、ティノがクライのことをマスターと呼んでいるのは、パーティーリーダーであり、クランマスターだからである。それ以外に理由は無い。ご主人様とかでもなければ、師匠の師匠とかでも……多分ない。
「なんでここにいるの? ハントは?」
クライの疑問に対して、ティノが師匠譲りの媚びる様な仕草でクライを見る。ティノ本人は邪な事は考えておらず、知らずの内に師匠の癖が移ったというだけである。
媚びるとも、変な意味があるとも思っていない。正に純粋な子である。数少ない完全癒し枠だ。
「……だって、今日、ますたぁの『嘆きの亡霊』がパーティメンバー探すって、聞いたので……」
「…………言ってないし。ちょっと顔出すって言っただけだし……」
「クライ、遅かったね。何かあったの?」
誰も近づいて来ないのをいい事にティノとだべり続けるクライ。そこに1人のイケメンがやって来る。
クライ曰く、クラン共通の、帝国陸軍の軍服をオマージュして作った白い制服が誰よりも似合う男。
少し前に書いた捏造新聞にいた人物、アーク・ロダン。レベル7にして『銀星万雷』の二つ名を持ち、帝都でもトップの実力を持つ、普通に良い奴である。そして、あの
しかし、その性格はものすごく良い奴で、優しく、強く、イケメン。頼れるのであればアークに頼る。それだけで大抵の問題は解決出来るだろう。もちろん、転生者にもおすすめだ。オススメ度は文句なしの10点満点。この世界で1,2を争う安全度である。
「……別に。寝坊しただけ」
「あははははは、相変わらず面白い冗談だ」
「マスターに近づかないで。軽薄が移る」
「あははははははは」
威嚇するティノは可愛いが、よく分からないツボによく入るアークは何なのだろうか。アークの数少ない不思議な所だが、良い奴な事に変わりは無い。クライの無茶振りに応えまくっているのだから、その性格の良さは推して知るべしと言うやつだろう。
「今日という日を思うと楽しみで眠れなくてね」
「なるほど……それで参加者として影で査定してたのか。……それ、ずるくない? 大体、制服着るってルールだったはずなのに、着てないし、マークもない」
そう。制服は着てないし、『足跡』のマークも着けていない。おまけに本当に寝坊している。クランマスターがクランのルールを破っている。よくある事である。
俺は変装の下にマークは持ってきているため、制服はともかく、『足跡』所属ということは最低限わかる。見せれば、だけどな。
「ますたぁ、この男、あまりに無礼。クランを除名しましょう」
「あははははははは、ティノは相変わらず、面白いなぁ!」
「皆、アークと同じくらいに懐が深かったらいいのに」
アークが頭を撫でようとティノの頭に手を伸ばし、それをティノが避ける。ちなみにクライは遠い目をしている。遠い目をしてないでアークの悪行を止めろ。ティノの頭を無断で撫でるなんて……許されざる行為だぞ。
そんなこんなしばらくじゃれた後、アークはごく自然にこちらを見た。
「そうだ。クライも出てきたし、アルトも出て来たらどう?」
「……そうだな」
「!?」
「あ、アルト兄さま? いつから居たんですか?」
アークに指名されてしまったので、姿を表す。全く気づいていなかったからか、ティノの驚き方が凄い。他のメンバーも驚いてる。観客ハンター達も。
「みんなおはよう。早速だけどティノ。気付かなかった?」
「はい……全然気付きませんでした」
少し落ち込んだ様子を見せるティノ。別に叱るつもりではないからそう落ち込まないで欲しい。確認しただけなのに。
「そうか……まあその件はまた後でね。ほらクライ。慰めてあげなきゃ」
「それ僕がやるの? アルトがやったのに?」
クライはパーティーのリーダーなんだからメンバーの責任はリーダーの責任だよな。もちろんそんな事はないが。
もしその理屈がそのまままかり通るなら、今頃クライは無事じゃないな。バレなきゃ犯罪じゃないとはいえ、監獄にぶち込まれるどころじゃ済まない。
「それはそれ。これはこれ」
「あははははははは」
アークはまた何かがツボったのか、テーブルを叩きながら笑っている。アークの笑い方って癖あるよな。普通なんだけど普通じゃないというか、記憶に残るような。
「説明になってなくない? ……ほらティノ、こっち座りなよ」
「ありがとうございます、ますたぁ」
「……で、誰か良いメンバー見つけた?」
暫くしてティノが落ち着いた後、クライがアークに問いかけた。それだけでも随分と様になる男である。
「……正直、難しいね。何人か優秀そうな人はいるんだけど、うちの攻略する宝物殿について来れるかというと」
それはそうだろう。アーク達が攻略している宝物殿は高難度だ。将来的な素質はあっても即戦力となると難しい。それに、それだけの腕を持っているなら既に活躍している。どこのパーティにも属していないという事はあまり無いだろう。
「そういうクライは、良いメンバーはいたの?」
「んー? うちは今はメンバー足りてるからな。もしもいるって言えば、君のとこで取るわけ?」
クライは辺りを見渡した後、冗談めかしてそう言った。誰の目から見ても戯れにしか聞こえないその言葉。しかしそれは火種となる。
「…………いいよ。クライの言葉を信じよう」
「ちょ、アーク!?」
アークがとんでもない事を言ってしまった。パーティーメンバーの子は思わず声を上げ、周囲から様子を伺っていたハンター達はざわめきだす。
常識的に考えて自パーティーのメンバーを他人に委ねるってヤバイよな。結末がどうなるとかはともかく、アークって凄いよな。思わず笑ってしまいそうになった。
「…………ほう。面白いな。なんでもいいの?」
「……一人で頼むよ。うちもそんなに何人も育てる余裕はない」
アークのパーティーメンバーを見ると、全員顔が引き攣っている。驚きを通り越してしまったようだ。クライとティノの目が合うと、ティノが妙に恥じらいながら話し出す。
「ますたぁ、素敵です。でも、私はますたぁの所に行くと決めているので……選んで頂くのは光栄ですが、この似非イケメン野郎のパーティには、入れません。どうか私以外からお選びください」
「今度、リィズに教育方針を確認しないといけないな……」
「ティノ。後でお話追加な」
「!? どうしてですか、アルト兄さま!?」
クライに完全に同意。ティノに変な事を教えないで欲しいものだ。もう少し純粋というか、優しいというか……とにかくあまり汚い言葉を使わないで欲しい。
ティノにはアイツのようになって欲しくないのだ。元々普通の町の娘だったし、そんな過激派にはならないと思うのだが、なぁ。師匠が……うーん。
「うーん、そうだなぁ……いるにはいる、が。時期を見てうちにも欲しいからな……」
「またある事ないこと言ってんな」
「アルトやめて変な事言わないで」
「おい!」
さっきまで拘束されていた少年が敵意の篭った声でクライに叫びかける。足跡のメンバーの拘束を無理矢理振りほどけるぐらいの力はあるようだ。
彼の名前はギルベルト・ブッシュ。背中に背負った煉獄剣という名の大剣が彼の武器である。認定レベルは4。間違いなく素質はあるが、見ての通り問題児。
「いいだろう、ギルベルト。君をアークに推薦してあげよう。ただし、一つ条件がある」
「条件……だと!?」
クライは先程からどこか見下したような視線だが、それは勘違いであり、勘違いではない。クライから見れば皆大体同じなのだ。相手の正しい強さなんて分からないから。
ただ、比べる対象がアークレベルの今、彼はかなり下である。そうでなくてもクライは内心口悪いので、割と心の中では罵詈雑言が出ていたりいなかったりする。
「ああ。条件はたった一つ……『負けないこと』さ。ハンターに一番必要なのは『勝利』だ」
訝しげに見るギルベルト。静かに聞く全ハンター。俺はニヤケないよう必死である。
「その力がなければ、いずれ君は仲間を危険に晒す。だからこそ、『負けない』力を見せてくれ。ちなみに僕はハンターになってこの方――負けたことがない」
「なん……だと!?」
クライが左手の小指に着けていた指輪型宝具『弾指』をギルベルトへ放る。それを右手で掴み取り、顔を顰めるギルベルト。
『弾指』はごく一般的な宝具であり、大した威力は無い。大してないものの、あくまでも宝具である。それなりの値段はする、価値のあるものだ。
ギルベルトが取ったのを見た後、クライは笑みを浮かべながらこの場にいる者全員に届くよう叫んだ。
「今この場にいる全員に宣言する。僕はギルベルト少年を推薦するつもりだが、彼を倒し、今与えたその指輪を奪い取った者がいたらその者を――『聖霊の御子』に推薦しよう。ちなみにその指輪は大したものじゃないが一応、宝具だ。推薦がいらなくても、奪い取ったらその指輪あげるから頑張ってね」
アークは面白そうに口笛を吹き、クライはその場をそそくさと離れていく。状況を最初に理解したティノはギルベルトの顔面を蹴り飛ばして指輪を奪い取りにいった。
俺はというと、指輪争奪戦が始まると同時に盛大にニヤケていた。まさに妄想していた通りのもの。原作ファンとしては感動ものだ。
いつまでそのままの動向かは分からないが、聖地巡礼のような気持ちを含みながらも、真面目に挑もうと思う。ああ、なんとも楽しみだ。
加熱していく争奪戦を傍目にその場を離れる。きっと明日は、今日のことをすっぱ抜かれたクライが見れるだろう。
§
これは、奇妙な運命を辿る男の物語。もしもの世界。けれど、それは決して悪い事ではなく。『嘆きの亡霊』の物語と並んで、足跡を刻んでいる。
皆さん思い思いのキャラが浮かんだことでしょう。なんだかんだそこそこキャラいるんだ……この作品。