ストグリ世界を全力で楽しむ   作:ストグリメンバーその0

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7 『変幻自在』

「ますたぁー……」

 

 

 ティノがますたぁと叫びながらクランマスター室へ向かった。やはりティノには荷が重かったらしい。

 

 今ここ、ラウンジに集められたのはクライが指名した人物。一人目はルーダ・ルンベック。盗賊の女ハンター。

 二人目はグレッグ様ことグレッグ。フルネームは……グレッグ・ザンギフ……だったかな。違ったらすまん。前衛で、割とデカイ長剣使い。

 三人目はギルベルト・ブッシュ。前衛の大剣使い。この中だと1番若いだろう。

 

 

「さて、ティノがクライの所に行ったからちょっと待ってて欲しい」

 

「いやさてじゃない……だろう」

 

「俺たちをまだ待たせるのか? わざわざここまで来てやってるのに」

 

 

 グレッグは俺の事を知っているのか、なんとなく敬語気味だ。それでもツッこんでくれるのは逸材だ。

 ギルベルトは相変わらず尖っている。どうせそろそろ折られるが、ここは無視に限る。行き過ぎた自尊心は身の破滅に導くが、無いよりはマシだ。特に、上を目指すハンターならば。

 

 

「まあまあ。そうだ。ルーダからの質問に答えようじゃないか」

 

「私の? あ、さっき探協でした質問……」

 

「そう。まあ知ってる奴は知ってるだろうが、俺はアルト・パレッドだ」

 

「やはり……あの『変幻自在』、か。噂通りの……」

 

 

 『あの』とか『噂通り』とか言われているが、クライと違ってそんな噂になるような事はしていない。過激な事はやらない派なのだ。嘆霊のメンバーである以上、ある程度はやらざるを得なかったが。

 だが嘆霊の中では二、三番目に安心出来るハンターとしてたまに交渉を持ちかけられることもある。大体断ってるけど。だって面倒だし、ろくな内容無いし……。

 この前なんてパーティにインタビューさせてくれとか言われたんだぜ? しかも新聞関係じゃないし、存在すらしない組織から。わざと乗っかってみんなで潰したけどさぁ。

 

 

「変幻自在……」

 

「お前、変幻自在を知らないのか? まあレベル7の中では一番知られていないかもしれないが……あの『嘆霊』のメンバーだぞ?」

 

 

 グレッグが片眉をあげながら少し悩んだルーダに半分馬鹿にしたように言う。別に知らないから悩んだわけじゃないと思うぞ。

 俺としては知ってても知らなくてもいいが……グレッグってそれなりに知識豊富だよな。長いことハンターをやっていないということか。

 

 

「し、しょうがないでしょ? まだそこまで調べきれてないだけだし……ちゃんと知ってるのはその二つ名だけね」

 

「変幻自在はその名の通り、どこにでもいて、どこにもいない。それでいて何でも出来ると言われている。俺が将来越えるべき相手の1人だ」

 

 

 突然ギルベルトが話し出す。彼はなんだかんだ本気で上を目指しているが故に、他のハンター、特に上位ハンターは調べあげているのだろう。

 

 ちなみに、この二つ名を気に入っている理由はパーティーメンバーの何人かと同じ文字が入っているからだ。クライの二つ名である『千変万化』の変の部分みたいな感じで。

 こんな小さな事だが、意外と嬉しかったりする。まあ、残った1文字が幻なのはちと気がかりだが。

 

 

「そんなに言われると小っ恥ずかしいが、概ねその通りだな」

 

「レベル7……とても辿り着ける気がしないわね」

 

「レベルの通り実力はあるだろうが、直ぐに越えてやるさ」

 

「お前、口だけじゃないんだな。少なくともキレやすいただのガキじゃなさそうだ」

 

「んだとぉ!?」

 

 

 どこか不安げなルーダの言葉をバッサリと切って宣言するギルベルト。相変わらずの自信だ。今まで上手くいっていたからだろうが、これ、クライがいなかったら本当にやばかったんじゃ? 今だってグレッグの言葉にキレてるし。今時の若者だってここまでキレやすくないだろ。

 

 

「さ、そろそろ緊張も解れただろう? こっからが本番だ」

 

「それってどういう……あ、クライ――」

 

「遅かったな。随分、待たされたぞ!」

 

「……足跡の本部にいるなんて……ほ、本当に、嘆霊のメンバーだったんだな……」

 

 

 話が一段落? した所で、丁度クライとティノが来た。それに気づいた面々が、三者三様の反応を示す。

 ティノはクライにべったりで、ここのテーブルまで引っ張ってきた後、クライの腕をぎゅっと抱き締めている。なんて羨まけしからんことをしているんだろうか。おいクライそこ代われ。

 

 その後は、ギルベルト少年がクライに突っかかり、それをクライが適当に流していくという攻防が続いた。空気が少しづつ重くなっていく中、ティノが久しぶりに口を開いた。

 

 

「この者たち、無礼者です。私は、こんなますたぁへの敬意が足りない者と一緒に宝物殿に行くことはできません。ますたぁは、ますたぁですのに」

 

「うん、そうだね。なに言ってるのかわからないけど」

 

 

 ますたぁ。つまり、マスター。『足跡』のクランマスターにして、『嘆きの亡霊』のリーダー。

 

 

「まさ、か…………あの、『千変万化』……です、か?」

 

「ますたぁの凄さがわかったら、跪くべき」

 

「ティノ。あいつになんて教わってるんだ? やっぱり直接聞く必要があるみたいだな……」

 

 

 帝都で3人しかいないレベル8。『千変万化』の二つ名を与えられたハンターが、そこにいた。残念ながらその表情は弱々しいものである。

 その横で俺は、ティノへ聞かなければならない事を考えていた。

 

 

「今日来てもらったのは……ティノにあげた仕事を手伝ってもらえないか、と思ってね」

 

「そ、そりゃ構わねえ……ですが……」

 

「私も構わないわ。丁度良かったし……」

 

「そう言ってくれると信じてたぜ。いやマジで」

 

「……あなたも、『嘆きの亡霊』のメンバー、なのよね」

 

 

 グレッグとルーダは快く? 了承してくれた。クライに気圧されている部分が大きいのだろうが。しかし、ルーダはどこか訝しげにしている。そして、そう簡単に納得出来ない奴もいる。

 

 

「お前が……あの、帝都最強の『千変万化』、だと!? 冗談だろッ! 全然鍛えられてないじゃないかッ!」

 

「いや、最強なんて噂――」

 

「ば、馬鹿! 相手は見て喧嘩売れって! 相手は英雄を抜いて、最年少で『レベル8』認定されたハンターだぞ!?」

 

「離せ、おっさんッ! くそ、俺は、認めないぞッ!」

 

 

 ギルベルトが食ってかかる。グレッグが抑えているが、今にも斬りかかりそうな勢いだ。良く言えば根性や胆力がある。悪く言えば、身の程知らずだ。

 実態がどうかはともかく、レベル8という認定は事実なのだ。まともに確かめもせずこんな態度は取れないはずなのだ。それすら覆すクライは凄いなぁ。うん、凄い凄い。

 

 

「ねえ、クライ。こんな事聞くのもなんだけど……レベル8って本当なの?」

 

「数字だけ上がったんだよ。パーティリーダーとか、クランマスターになるとメンバーの実績の一部が評価に加えられるんだ。足跡は大きいクランだから、レベル認定に必要な膨大な実績ポイントもすぐに溜まる」

 

「ますたぁ、もちろん私のポイントも捧げてますよ!」

 

「俺は基本捧げてないな。特に頼まれてもないし……可哀想だし」

 

「アルト……君だけは僕の事をわかってくれるよ」

 

「ますたぁ!?」

 

 

 実際、レベル7になってからもそこそこ経つので、捧げられる……捧げられるでいいのかこれ? そのポイントはかなりある方だ。

 ただ、俺がやらなくても相当いってるからな。本当はメンバー内から話が出ればあげることもある、ぐらい。クライには内緒である。

 

 

「ギルベルト少年は……いいや。アルトって暇だったっけ?」

 

「……え?」

 

 

 矛先がこちらに向いてしまった。ギルベルトが余計なプライドを拗らせて突っかかるからである。そんなことをしてしまえば、例のアレを知っている奴らが過剰反応するじゃないか。

 

 

「まあ空いてないこともないが……今回、俺はいらないだろ?」

 

「そう? もう一人いた方が安心出来そうだけど」

 

「そ、そうですよアルトお兄さま! 一緒に行きましょう!」

 

 

 緩く話すクライに対し、ティノがかなりガチだ。必死である。それもこれも過去の行動のせいなのだが、クライに気づく様子はない。

 

 

「そもそも俺が行ったらクライの護衛はどうするんだよ」

 

「あ」

 

 

 どうやら失念していたようだが、あのクライが自分に関わることを忘れるなんて珍しい。探協に1人で行ったことといい、精神的に参ってたりするのか? 普段から参ってはいそうだが。

 

 

「それに、ティノ。気持ちはわかるが、わかってるだろ? アレだよアレ」

 

「! うう、そんなぁ。……ますたぁも一緒に来て下さらないんですか?」

 

「い・や・だ」

 

 

 クライも今度はガチである。言葉に強いナニカが籠っている。ティノが必死に抵抗していると、空気から蹴飛ばされていたギルベルトが大声をあげた。

 

 

「勝負ッ!」

 

「?」

 

 

 今この瞬間、空気が止まった。全員が全員呆然とギルベルトを見ていた。何言ってんだあいつという視線。数秒後、ギルベルトがクライを指さしながら叫ぶ。

 

 

「勝負、だ。千変万化ッ! 俺が負けたら……仲間に、なってやるッ」

 

「はぁ……?」

 

 

 ……正直、実際に聞いてみるとなんでまだ生きてるのか不思議だ。仮にもレベル8に対する態度じゃない。

 さっきも言ったが、レベルの差とは実力の差と言っても過言ではないのだ。これでは高レベルハンターを舐めてると捉えられても文句は言えない。よく今まで無事に来られたな。どっかでボコされそうなもんだが。

 

 

「俺は、自分より弱い者には、従うつもりはないッ!!」

 

「……じゃあ君の相手は僕じゃなくてティノだよね?」

 

「……え?」

 

「ますたぁは受け流すのが本当に得意ですね。ですが、いいでしょう。ますたぁに対する無礼千万な態度、お姉さまに代わってこのティノ・シェイドが天誅を下しましょう」

 

 

 呆けているギルベルトを睨みつけながら、ティノがやる気満々で出てきた。いや、殺る気と言ってもいいかもしれない。

 

 

「頑張れティノー。負けたら……ははっ」

 

「アルトお兄さま……今脅すのは辞めてください。シャレになってないです」

 

 

 俺の冗談に気が抜けたようだが、臨戦態勢は保てている。及第点は貰えるんじゃなかろうか。実際に評価するのは師匠であるリィズなので、助けられない。ごめんな、ティノ。

 

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