ドラム担当、東雲絵名です。   作:水が死んでる

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タイトルだけで理解したそこの豆腐さん。
流石でございます。


01 しばらく筆を取っていない

 

 

画家になる才能がない。

そのことを1番理解しているのは恐らく私で、その次に父親なのだろう。彼は画家だ。その道のプロである彼が、才能のあるなしを見抜けないはずもないだろう。

ただまぁ、それを直接言われた私が、はいそうですかと、素直に頷いて進路を変えるのは難しい話で。

 

通いたい高校には落ちて、せめてと夜間のある学校を選んで、日中の時間に出来る限り絵を描く。そんな日を続けて行って、いつかは、なんて。

そう思っていた1週間後には、私は情熱を失っていた。

 

それから1年。

特に劇的なことが起こるわけもなく、何がしたいのかも分からないまま日々を過ごしている中で、2年に進級した。

やることがない。とはいえ何もしていないことに耐えられなかった私はただ勉強をしているだけの毎日で、これからもそうなるだろうな、と漠然とした将来を見据えていた中で、愛莉から連絡が入った。

 

内容は、まぁ要約してしまえばこれから会えないかという内容だった。

 

正直言ってしまえばひどく眠い。

現在の時刻は午後3時。昨日授業を終えてそのままぶっ通しで起きている私からしてみれば、そろそろ寝たい時間帯だ。

今日この後の授業はないからと、自習が進んでいるのも相まって起きていたのだが、ここにきてあだとなっている。

 

「...まぁ、いいか。久しぶりに私も会いたいし」

 

高校に入学して以来、連絡自体は取りあってはいたものの、直接会って話すことはまだしていなかった。

友達を呼べる人間も大していない私にとって、愛莉は貴重...と言ったらおかしな印象を持つが、大事な親友だ。

 

着替えていなかった制服をハンガーにかけて、眠気覚ましにシャワーだけ浴びて。

体を温めすぎると眠気覚ましが睡眠導入剤に早変わりするので、手早く髪と体を洗ってすぐに出る。

上はピンク、下は黒のいつもの私服に着替えて、白の肩掛け鞄を手に取った。

 

「行先は...喫茶店? それなら、夜ご飯はそこで済ませようかな」

 

スマホに送られてきた目的地を確認して、リビングへと向かう。

母親に今日の夜ご飯は愛莉と食べることを告げて、家を出た。

 

「う...まだ肌寒い」

 

今日は太陽は雲の影に隠れており、風も少し強くて冷たい。

何か羽織る物でも持ってこようか、と頭にちらつくも、すぐに戻るのはめんどくさいという結論に至り、足を動かす。

 

女のおしゃれは我慢だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

「あ、絵名!」

 

恐らくこの辺りが目的地だろう、というあたりで、私の名前を呼ぶ声で顔を上げた。

 

桃井愛莉。私が通う神山高校とは別の、宮益坂女子学園に通っている。年齢は同じで2年生。

元アイドル、なのだが、世間にはバラエティタレントとして顔を覚えられている。

まぁ、あれだ。彼女の長所であるトーク力が、アイドルに求められていないものだった、という話だ。

 

「ごめん愛莉、待たせた?」

 

「全然。私も今着たところよ。さ、中に入りましょ。席は取ってあるわ」

 

今来たと言いつつ、私が着たらすぐに座れるように席は確保してある。一瞬で矛盾しているが、特にそれに突っ込むという野暮なことはしない。

もし逆の立場なら私もそうする可能性が高いし。

 

まぁ、ある程度親しい人間相手なら誰にでも優しいのは、愛莉の美点だろう。少なくとも、私には無理だ。

 

「このお店、前から来てみたかったのよね~」

 

「愛莉も初めて来たんだ」

 

「ええ。少し忙しくて。...事前に調べてきたけど、これとこれで迷ってるのよね...」

 

中に入ると、席はあらかた埋まっており、愛莉が取ってくれていた席は2人で向かい合う形の席だった。

そこにカバンをそのまま置いている愛莉には、不用心な、と思ってしまうのも仕方ないだろう。

せめて上着をかけて、カバンは手に持つ、とか。

 

特に取られているものもなかったようなので、席に座ってメニューを選んでいると、どうやら愛莉は2択のどちらかで迷っている様だった。

私もメニューを流し見するが、正直どれでもいい。来てみたかった、の理由の8割は、店内の雰囲気が落ち着いたもので好みだったからだ。

今日は残念ながら、混んでいてそれどころではないけど。

 

「なら、私がもう片方を頼んで、半分こしない?」

 

「でも、それだと絵名が好きなのを頼めないじゃない」

 

「別に、2度と来れないわけじゃないし。また一緒に来ましょ?」

 

「...ええ、そうね。ありがと」

 

愛莉は何故かメニュー表で顔を隠しながら、店員を呼ぶスイッチを押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

ケーキをそれぞれ半分こして、程よくお腹も膨れたころ合いの中、愛莉が言い出しづらそうに口をもごもごとさせていた。

 

愛莉がそうなるのは珍しい。

基本的にズバズバいくスタイルなのはよく知っている。そのおかげで中学の時に少し面倒な奴にも絡まれた記憶がある。

ただ、身を引く時はしっかり身を引く。だからこそバラエティの世界であそこまで人気を確立できたのだろう。本人のしたいこととはまた別の話だが。

 

さて。

ではなぜ愛莉がこうして言いづらそうにしているのか。

ぶっちゃけ分からない。最近の愛莉とのメッセージでの会話はアクセとかの話だ。身の回りの話はしていない。それこそ、高校に上がってからは1回も。

 

ひとまず急かすということはせず、彼女のタイミングで話し出すのを待ってみようか、とコーヒーを口に含むと、ようやく愛莉は喋りだした。

 

「最近、どう?」

 

...なんだそれは。

 

今更私と愛莉の間で、身の回りの話を聞くためだけにそんなに緊張することもないだろうに、なんて考えている中で、ピンときた。

きっと愛莉は、私が絵をあまり描かなくなったことを気にしているんだ。

 

「どうも何も、面白いことでも起きないかな~とは思ってるわよ。暇だし」

 

別に、手を怪我して、だとかで自分の意志とは関係なしに描くことが出来なくなったわけじゃない。

自分でもどうかしてると思うけれど、描かなくなったのは自分の意志だ。

 

...まぁ、そこら辺の人よりかは上手いという自覚はあるけれど。

 

まぁ簡単に言えば、愛莉は私を気遣っているということだ。

 

「そう、なのね。...ねぇ、もし私がやりたい事があって、それを絵名にも一緒にやって欲しい、って言ったら。どうする?」

 

「...どうする、って言われても。喜んでやるわよ。愛莉が私を騙すようなことはしないだろうし」

 

愛莉が目をぱちくりと瞬きさせているのを見ながら、言葉を続ける。

 

「愛莉が私にそんな誘い方をしてくるってことは、多分私の事を思ってだろうから。だから、喜んでやるわ。これで十分?」

 

私が首を傾げながらそう尋ねると、愛莉は壊れた玩具のように首を何度も縦に振った。

 

見ていて首を痛めるような振り方をしていたので、正直心配である。

 

「...ま、まぁ。今すぐ何かをお願いするわけじゃないわ。1週間...1か月後ぐらい...うん、それぐらいになるかもしれないし」

 

「やけにあやふやなのね。別に急かすわけじゃないし、いつでもいいわよ」

 

「そうよね。いつでも...そうよね...」

 

結局、明確な日にちは分からないまま、私は愛莉と解散した。

終始何をするのかは私に教えてくれないまま、その時に言うわ、とだけ告げられた。

 

それに対して腹を立てる、なんてことはないが、逆に心配になる。

愛莉が妙なことに巻き込まれている、もしくは吹き込まれているのでは、と。

 

 

「...定期的に尋ねておこうかしら」

 

目を離すととんでもないことになっていることを危惧した私は、定期的にメッセージを入れようと考えて、スマホのToDoリストに『愛莉から聞き出す』と入力した。

 

結局のところ私の心配は杞憂で、この日から3日後にはまた連絡が来て全てを教えられるのだけど。

 

 

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