ドラム担当、東雲絵名です。   作:水が死んでる

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03 担当楽器

「それじゃあ、ひとまず自己紹介をすませちゃいましょ」

 

愛莉の後ろについていって入った教室には既に、恐らくバンドメンバーである少女2人が座っていた。

 

愛莉に促されるままに、黒髪ロングの少女の隣に座ると、愛莉は早速といった感じで仕切り始めた。

正直、こうして進めてくれるのは助かる。

 

愛莉に呼ばれて、咲希、と呼ばれた金髪のツインテールの少女が立ち上がった。

 

「それじゃあ、青春を思いっきりエンジョイするバンドの、バンドミーティングを始めるわよ! まずは発起人の咲希ちゃんからお願いね!」

 

あれ。私が聞いていたのは顔合わせだったはずなのだけれど。

 

いつの間にか私の知らないうちに顔合わせがバンドミーティングと化していたのだが、愛莉の言葉に咲希と呼ばれた金髪の少女も、隣の黒髪ロングの少女も不思議そうな顔をしていない。

 

「...」

 

まぁ、いいか。

 

「はい! 宮女1年、天馬咲希です! 担当はシンセサイザーです。みんなでたっくさん青春出来たら嬉しいです! よろしくお願いします!」

 

すごい元気な子だ。

まるで、我慢していたものを解き放っているかのよう。

これからは、恐らくこの子に振り回されるのだろうな、と私は予想を立てた。

 

「じゃあ次は一歌ちゃんね」

 

「はい」

 

咲希ちゃんが座って、それと入れ替わるように一歌と呼ばれた私の隣の少女が立ち上がる。

 

「えっと、咲希とは幼馴染で、宮女1年の星乃一歌です。担当はギターで、ミクが歌ってる曲なら何曲か弾けます。よろしくお願いします」

 

若干照れくさそうに自己紹介を終えた一歌ちゃんは、ほぼ言い切ると同時に椅子に座った。

 

ミク。初音ミクか。

確か、ヴァーチャル・シンガーと呼ばれるものだったはず。

昔絵をまだ描いていた時に、作業用BGMとして自動再生していたら、流れてきた記憶がある。その曲名は分からないけど、妙に元気づけられていた。

 

「それじゃあ...次は私ね。ベース担当の宮女2年の桃井愛莉よ。担当楽器は今決めたわ」

 

愛莉がそう宣言したことで、私の担当楽器がドラムに決まった。

正直どちらでもよくて、この後譲り合いにでも発展するかと想像していた。

 

「知ってると思うけどアイドルをやっていたわ。実はバンドもやってみたかったの。だから、声をかけてもらえてうれしいわ!」

 

「えへへ、アタシ、入院中に先輩からたくさん元気と勇気をもらいましたから。もし一緒にバンドできたらいいなって思ってたんです!」

 

どうやら、咲希ちゃんは入院していたらしい。

先程の第一印象で感じた、我慢していた分を、というのは間違いではなかったらしい。

私の勘もまだ捨てたもんじゃなさそうだ。

 

「じゃあ、最後は絵名ね」

 

考え事をしている間に2人の話しは終わっていたらしく、3人の目がこちらを向いていた。

うーん、初対面の人間がいるものの、愛莉が輪の中にいるのだ。猫を被る必要もないだろう。

 

「東雲絵名です。この中だと唯一の神高の2年で、夜間クラスに通ってるよ」

 

「絵名とは中学時代からの友達なのよ」

 

私の自己紹介を愛莉が補足し、2人が『へ~』と頷く。

妙な気分だ。

 

「その中学時代からの友達である愛莉から誘われて、来ちゃった。担当のドラムは...まだ練習すらできてないっていうか、私も今決まったから。経験者の2人には迷惑かけるけど、よろしくね」

 

「いえ、私たちも、素人と変わらないぐらいなので...こちらこそ、よろしくお願いします。東雲先輩」

 

文字通り『元気!』な咲希ちゃんとは正反対な、大人しそうな一歌ちゃんにそう言われた。

先輩、と呼ばれる体験はそうなかったから新鮮だ。

 

...そうだ、これからバンド仲間になるんだし、名字呼びは距離を感じるのではないだろうか。

 

「あー...せっかくバンドやるんだし、下の名前で呼んでよ。私も、そうさせてもらうからさ、一歌ちゃん」

 

「はい、わかりました、絵名先輩!」

 

かわいい。素直でいい子だ。

 

お嬢様学校の後輩ができるなんて変な気分、と愛莉から話を持ち掛けられた夜から考えていたけれど、その思いは早いうちに解消できるかもしれない。

 

これで全員分の自己紹介が終えたことを確認した愛莉は、おもむろに立ち上がって拳を上に掲げた。

 

「自己紹介も済んだところで、みんなで青春をエンジョイしちゃいましょうっ!」

 

「おーっ♪」

 

これは...咲希ちゃんと一歌ちゃんのやり取りを、私と愛莉で後ろから眺めている流れかと思いきや、3人のやり取りを私が見ている流れになるのだろうか。

だとすると、演奏面以外でも体力のいる数年になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

「それにしても、練習場所を借りられたのはよかったわね」

 

自己紹介を終えた私たちは、軽くどの程度できるのかのすり合わせをして、宮益坂女子学園の練習場所へと移動していた。

すり合わせるも何も、私と愛莉は初心者なのだから、一歌ちゃんと咲希ちゃんのレベルを確認しただけだけど。

経験者から見たらどうなのかは知らないけど、初心者の私からすれば、2人ともすごい、ということだけわかった。

 

場所に関しては愛莉の伝で防音のある部屋を放課後借りることはできたものの、そこでひと悶着あった。

要は、部外者である私をどうするかという話だ。

結果としては愛莉が何とか説得してくれて、私も校内で練習する許可をもらえたのだったけど。

 

というか、音楽室とは別に防音のある部屋がいくつかある、というのは、さすがお嬢様学校と言えばいいのだろうか。

 

「だけど、本当に私たちの放課後に練習する時間を設けてもいいの? 絵名はそのあと夜間が...」

 

一歌ちゃんが練習するのに最適な初音ミクの楽曲を探しているのを眺めていると、隣から愛莉がそう心配そうに首を傾げていた。

 

「確かに私はそのあと学校があるけど...でも、休みの日だけに練習を絞ったら上手になるものもならないでしょ?」

 

「確かに、それはそうかもしれないけど...」

 

愛莉から視線をずらして教室内を見回せば、なぜか既に準備されているドラムのセットが目に入る。

その隣にベースも立てかけられているのを見るに、私の目の前で繰り広げられた話はある程度、予定調和だったのではないだろうか。

まぁ、私が他校生のくだりは事前に話が無かったのかもしれないけど。

 

自宅にドラムセットも防音性のある部屋もない私からしてみれば、実際にドラムを叩くことのできる練習機会というのは貴重だ。

一歌ちゃんたちは持ち運びが容易だけど、ドラムはそうもいかないのだし。

 

納得したような、納得していないような顔をしている愛莉をよそに一歌ちゃんたちに視線を戻すと、話しかける機会をうかがっているような雰囲気を感じた。

 

「どうしたの? いい曲見つかった?」

 

「あ、はい。この曲なんかどうでしょう?」

 

そう言う一歌ちゃんに見せられたスマホの画面に表示されていたのは、『アスノヨゾラ哨戒班』という曲。

かなりの再生数を誇っている楽曲で、かなり有名どころなのが分かる。

一歌ちゃんに流してもらって初めて、聞いたことのある曲だな、と感じた。これほど再生されているのだ、どこかで聞いたこともあるだろう。

 

「ネットのサイトにも楽譜が載ってますし、ちょうどいいのではと」

 

「じゃあ、ひとまず基礎練をしつつ、この曲を演奏することを目標としましょうか」

 

「はーい!」

 

特に私には反対意見も無いので、愛莉の言うままに練習曲は『アスノヨゾラ哨戒班』という曲に。

何の曲を演奏するにも、基礎を練習しなければ話にならないんだろうけど、私たち初心者はどうしたらいいんだろう。

 

そんな私の不安を感じ取ったのか、同じことを考えていたのか。

愛莉は一歌ちゃんと咲希ちゃんに2人で練習しておいて、と声をかけて、私の方を向いた。

 

「ドが付くほどの初心者である私たちはどうしましょうか」

 

「知り合いの中にバンドをしてる子もいないし...ひとまずは、ネットと独学?」

 

「まぁそうなるわね。...なんとか形にはしないと」

 

やれるだけやりましょ、と愛莉はスマホでベースの練習法を検索しだした。

ネットのサイトと、実際に面を合わせて教えてもらうのには雲泥の差があるのだろうけど、完全独学よりはましだろう。

 

とはいえ、私の場合はそれよりも調べなくてはいけないことがある。

私はまず、『ドラム スティック 値段』と検索した。

 




本家の方はエイプリルフールネタとはいえ、どういう流れで絵名はバンドをやる決心をしたんでしょう。
バンドをしつつ画家を目指すなんて、無理そうなんですけど。

だから、本作では絵名に画家を諦めさせる必要があったんですね。
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