彼らは天下の回りもの ~目指せ億万長者!守銭奴商人と御者の冒険~ 作:庭鳥
この小説を開いていただきありがとうございます。一応、第一章の終わりまでは書き終わってます。よろしければ見ていってください。それでは二人の冒険の始まりです。
美しき森には笛の音のなる
スカーリア王国の東端にはある農村がある。大して発展した村ではないが、美しい大森林を擁しているためしばしば観光客が現れる。農村と言えどその観光客が落とす金は、多少の潤いを片田舎の街に与えた。総評すると田舎町の雰囲気を残した、知る人ぞ知る休息地……と言ったところだろうか。その村の名をリャードと呼んだ。
一台の馬車が止まり、御者の席から一人の男が降りる。まだ年若い男であるが、仕立てのいいスーツの上に汚れ除けのコートを羽織ったその姿は、実直さと見栄えの良さを同時に感じさせた。その男は眩しそうに森林に目を向けるとほうと感動したように息を吐いた。
「ただの木の集合体があんなに美しく見えるとは思いませんでした。噂に違いない!ここに来て正解でしたね、フルート。」
「
男の問いかけに答えたのは、馬車の中から聞こえてきた高い声である。しばらくしてから馬車の扉が乱暴に蹴り開けられ、その中から重そうな荷物を持った小柄な女が現れた。一瞬子供かと疑うような体格だが、着こなしたスーツと高級そうな数々の装飾品は美しく、いっそ悪趣味にさえ感じられた。彼女はその荷物をチェロと呼ばれた御者に押し付けると、森林に向かって男とは対照的に眠そうな目を向けた。
「私が言ったのは木の名前だよ。スラバの木。秋には美しく黄金色に色づき、見る者の心を癒す。確かに美しいが……私はあんな一銭にもならないものより、金貨の輝きの方がずっと好きだね。」
「風情がないですねぇ。」
「ま、あれが生み出す金貨には興味がある。」
そう言うと、フルートと呼ばれた商人風の女は歩き始める。その後ろをチェロが……ようやく渡された荷物の重さに気づき始めたチェロが文句を言いながら歩き始める。この村に、あるいはこの地方に古くから続く因縁など何も知らぬままに……。
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リャードの村は観光客が多少来ることもあってか、農村と言えど客を受け入れ慣れていた。適当に捕まえた農民に話を聞くと、快く宿屋の場所を紹介してくれた。やはり馬車で来る客が多いのか、その宿は馬小屋も併設してありチェロは早速喜んだ。部屋の手配もそこそこに、馬の世話をしに行ったチェロをしり目に、フルートは宿屋の店主に話しかけた。
「なあ親父、この村で一番偉い人は誰だい。長老か村長がいるだろう。」
「偉い人、ですかい?それなら領主代行のリカルドさんですかねぇ。村長もいますが、リカルドさんは領主様の親族です。実質、この辺の土地は彼のモンですよ。」
「ふーん、リカルドね。彼の居所は?挨拶がしたい。」
「へえ。宿を出て右手を向くと『黄金樹の森』の前に小高い丘があります。その上の館にリカルドさんはお住まいです。まあ目立つ建物なんですぐわかりますよ。」
「黄金樹の森とは?」
「スラバの森の事を最近そう呼ぶんですよ。スラバの森よりも、黄金樹の森の方が通りがいいんでね。これもリカルドさんの考案です。」
「成程、よく分かったよ。ありがとう。」
フルートは礼として少々多めの銀貨を店主に渡すと、外に出て行った。こういう場面でケチるべきではないとフルートは思っていた。節制は必要だ。しかし小さな報酬を忘れると、常に必要な場面で重要なものが足りなくなる。すなわち、人の心と信頼というものを。信頼は金を生む。ならばこれは先行投資なのだ。そのようにフルートは考えると、馬小屋の方に目を向ける。
「チェロ君。お偉いさんに会いに行くぞ。用事が住んだら身支度を整えてくれ。」
「ん、僕も行くんですか。どうせ何ぞ商談でもしに行くんでしょう。」
「いいから来てくれ。荷物持ちでも頼むよ。」
「わかりましたよー。」
チェロのそんな適当な返事を聞きながら、フルートは考えた。さて領主代行殿はどうも村民からの信頼が厚く、また観光地化に熱心なお人らしい。田舎者の感性につけこんで、あわよくばこの周辺の利権をすっかり手に入れてしまおうと考えていた彼女の計画……妄想はさっそく頓挫し始めていた。さて、そろそろお気づきかもしれないがこの女の行動基準は金、金、金……それしかない。
ふとフルートがチェロを待つ間、その周辺を当てもなく歩いていた時、一筋の風に乗って笛のような風音が聞こえた気がした。恐らく森にぶつかる秋風が、色づく音色を持ったのだろう。フルートは少々その音を面白がったものの、そんな事よりも領主代行殿に何か買ってもらわねば足を運んだ意味がなくなる。そう考え、再び思索の中に潜っていった。奇妙にも、その風音に歌声が混じっているのも気づかぬままに……。
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その館は丘の下から見たときは大きく見えたが、上がってみるとそれほどの大きさでもない。館と言っても小さな二階建てであるし、いっそ丘の上にあるのも見掛け倒しに見える。あるいはそれが館の主の貞淑さを表しているのだろうか?どちらにせよ、フルートはそんなことを気にしてはいないようだった。彼女は非常に珍しく、商売相手にだけ見せる愛想のいい笑顔を浮かべながら扉を叩いた。
「どうも、リカルドさんはいらっしゃいますか。」
「……どちら様ですか。」
「え、ああ、私は商売人のフルートという者です。今回は観光に参ったのですが、リカルドさんに挨拶をしとこう思いましてね。」
扉から目元だけを出したのはメイドらしき女であった。明らかに歓迎されていない。このように初めから警戒されているのは初めての経験であったので、彼女は少々面食らった。
「旦那様は今日は誰ともお会いになりません。どうか日を改めてください。」
「はあ、何か事情がおありですか。我々はいくつか珍しい物を扱っていますので、お役に立てるかもしれませんよ。」
そのようにチェロも口を挟む。もとより善良な男である。きっと無駄足を嫌っての事よりも、純粋にただならぬ様子のこの家を心配しての事だろう。しかしメイドは少々悩むように目を伏せたが、再び顔を上げていった。
「申し訳ありませんが今日は誰も通すなと言われております。どうか何も聞かずにお引き取りください。」
「はあ、そうですか。」
チェロがそのように気の抜けるような返事をすると、軽く会釈をしてから扉が閉まった。フルートはその態度に腹を立てたように鼻を鳴らした。
「なんだい、どうも失礼な奴らだ。こっちから出向いたってのにただの挨拶も断るって言うのかぁ?ふんっ、良いさ。アンタらだけが相手の商売じゃないんだから!!本命はこれから観光地にやってくる金持ちたちさ!!」
「まあまあ、きっと何か事情があるんですよ。」
チェロがそんな風にフルートをなだめていると、ふと耳に残る心地のいい音色が聞こえてきた。笛の音である。元々、名前に反して特に楽器に詳しくない二人はその音が美しいということの他にはわからなかったが、とにかく引き付けられる音であると感じた。どうやらその音は黄金樹の森から響いているらしい。
「綺麗な音ですね。誰か、屋敷の人間が弾いてるんでしょうか。」
「さあね、リカルド氏の細君か娘さんか。どっちでもいいよ。しかし森の中で吹いてるのか。どうも奇妙だね。」
二人は丘を降りて黄金樹の森の方に足を向けた。近づいてみると、観光地と言われる割には道も何もなく碌に整備されていない。未開の山野と言った風体であった。見る人間が分かれば分かるものだが、手の入っていない森であると感じた。耳を澄ますと遠くの方から先ほどの音色が聞こえてくる。するとチェロは得心が言ったように手を叩いた。
「ああ、これは風の音ですよ。この森の中で演奏なんてできるわけがない。幼い頃、嵐が来た時その風音に怯えたものです。きっとこれはそれに類するものですよ。秋の吹きすさぶ風が、森の木々に当たって笛の様な音色になってるんだ。」
「うーん、成程。風の癖に良い音だ。自然の神秘だね。これじゃあ私の自慢の商品の『歌う蓄音機』も碌に売れないかも……。ん?」
フルートとチェロは遠くから、確かに音に乗って聞こえる歌声を聞いた。何かをたたえる美しい歌の様であったが、どこか恐ろしい破滅的な響き。美しく、そして恐ろしい。そのような旋律であった。フルートは首をかしげながらチェロに聞いた。
「風音は歌声のようにも聞こえるもんかねぇ?」
「さ、さあ……どこぞ研究者でもいれば詳しいことはわかるでしょうが。しかしなんだか不気味な感じですな。」
二人は少々森を睨んでいたが、がさ、がさと森の中をかき分ける音が聞こえた時は驚いた。すわ獣かとチェロは腰もとの剣に手をかけ、フルートはどこからか短銃を引き抜いて構えた。
「私の後ろに下がってください。」
「お、おう。」
チェロはフルートを守る様に前に出るが、フルートは言われるまでもなく下がっている。いっそチェロを囮に逃げるつもりまであるのだろう。いよいよその姿が見えた時、再度二人は驚いた。その音の主は人間、しかも血まみれで傷ついた様子の男だったのだ。その男は肩で息をしていたが、二人の姿を見ると地面に倒れ伏した。
「こ、こりゃあ大変だ!!フルート手伝ってください!!」
「えっ、そいつ血まみれじゃないか!!これは一大事だ!!」
「ど、どうします!医者を呼ばないと……!」
「とりあえずリカルドの館に運ぼう。そこが一番近い。」
二人はえっちらおっちらとその血まみれの男を運んだ。血まみれなのもそうだが、背中に背負った弓が揺れるたびに膝に当たるのがフルートの気に障った。そんな場合でないのはわかっているが、安いわけではない服も既に血まみれだった。ともかく何とかリカルドの館に再びたどり着くと、フルートは今度は勢いよく遠慮もなく扉を叩いた。
「おい!扉を開けてくれ!急患だ!」
「……何度来られてもお通しするわけにはいたしま……マナスさん!?い、一体どうして……!?」
再び顔を表したメイド、急患を装って館に上がり込む気だとも思っていたのか、冷淡な反応であったが血まみれの男を見た瞬間態度は大きく変わった。しかし、おろおろとするばかりで話にならない。
「ええい、上がらせてもらうぞ!!なるべく清潔な部屋を貸せ!!とりあえず止血をするから、君は医者を探してくるんだ!!」
フルートはそう言いながら上がり込む。適当な客室らしき部屋を見つけると、そのベットの上にマナスと呼ばれていた男をチェロが寝かせた。そして弓や服をどけながら、チェロに対して聞いた。
「錬金術師から買った薬はどれが残ってる?」
「ええと、手元にあるのは『半年以内に死ぬけど楽になれる薬』、『回復薬(高級)』、『なんでも溶かす薬』、『強力な鎮痛剤だが副作用ではげる薬』、『体内の血を全部吐く薬』……。」
「……いやもういい。回復薬を使おう。」
フルートは小声で文句を言いながら、回復薬の薬瓶を開いた。緊急時と言えど、高い金で売りつけるつもりだった薬をこんなところで使いたくはなかったのだろう。その間にも汚れた外套を剝ぎ取ったチェロが傷を改めていく。男は装備や筋肉質な体格から、猟師や衛兵であるように感じられた。そして血を拭きとってみたチェロの目に映ったのは、なんと刃でつうとなぞったようないくつかの刀傷であった。
「なんだこれは……山賊かなにかに襲われたのか?獣の仕業じゃないぞ、この傷は。」
「血は止まりそうか?」
「なかなか深い傷です。自分で多少止血したようですが、このままでは死ぬでしょう。」
「じゃあやっぱり回復薬を使おう。」
フルートは気を失っている男を抱えると喉元に薬を流し込んだ。男ののどが動き、少しづつ薬が腹に流れているのがわかる。半分ほど飲ませたところでフルートはその瓶を取り外した。
「溺れられても困るから、このくらいにして残りは意識を取り戻してからにしよう。」
「……もう傷がふさがり始めてますよ。やはりすごい効き目だ。」
「包帯も巻いてやろう。流血はすぐには止まらないからな。」
そう言いながら治療を進めていく。すると、二階から駈け下りてくるような音が響いて、すぐにこの部屋に一人の男が入り込んできた。その男は少々驚いたような顔をしていたが、ベットに倒れた男の顔を見ると、すぐに顔を青くした。
「君達……一体何があったんだ?なぜマナス君がこんな事に……?」
「アンタはもしかしてリカルドさん?」
「そうだが……。」
「丁度良かった。この男が黄金樹の森から傷だらけで出てきたんだ。高い薬を使っちまったから、良ければ請求させてくれ。この男とはどういう関係だ?」
「……彼は、マナス君は娘の婚約者だ。」
「ほう?」
フルートの目が細められた。どうやらこの状況に金の匂いを嗅ぎつけたようであった。そんなことは露知らず、チェロは先ほどから気になっていた事を聞くことにした。
「刀傷です。何か小さな刃物で切られたような傷が四か所……。彼は盗賊にでも襲われたのでしょうか?」
「いや……黄金樹の森に山賊がいるなど、そんな話は聞いたことがない。だがいや……しかし。」
リカルド氏はブツブツと何かをつぶやき始める。娘、森、何者か……そんな言葉がチェロの耳には聞こえてきた。リカルド氏の恐怖におびえたような青い顔色を見たチェロは恐る恐る口を開いた。
「もしかして何か恐るべき問題を抱えているのですか?」
「……。」
リカルド氏は一瞬目を伏せると、押し黙った。助けはいる。しかし目の前の人間に話しても良い物だろうか。そのようなことを考えているような表情であるとフルートは感じた。リカルド氏はふと何かを思い出したかのように顔を上げると、二人に向かってリカルド氏は口を開いた。
「そうだ、貴方達は一体?」
「これは申し遅れました。」
フルートがにやりと笑って、恭しく礼をする。わざとらしい程に大仰で、演劇で役者がするような気取った振る舞いだ。それにつられるようにチェロも慌てて不慣れな様子で礼をした。
「私はフルート。こちらはチェロ。私どもは商売人です!古今東西の不思議な物品を届けるために、こうして各地を旅をしています!」
その挨拶を聞いたリカルド氏は一層眉をひそめた。
『歌う蓄音機』:
蓄音機に小型の人形が座っているだけのものに見えるが、本体はその人形。これはフレッシュゴーレムになっていて、曲に合わせて歌ってくれる機能付き。ただし備え付きの蓄音機のレコードで再生できるものにしか対応しておらず、その歌も市販のレコードにしか対応するようにしか作られていないので対応力は低い。しかしその人形の歌声や、見た目をある程度カスタマイズさせてくれることと、造形の見事さ、歌声の素晴らしさで人気を博している。ただしその分値段も高く、一般人にはとても手が出ない。