彼らは天下の回りもの ~目指せ億万長者!守銭奴商人と御者の冒険~   作:庭鳥

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決闘、そして決闘

 

 

 女王が森に吹っ飛ばされた瞬間、チェロの動きは速かった。飛行ゴーレムを切断したあの尋常ならざる剣技に対応できるのは、自分だけだと確信したのだろう。「僕が追跡します!」とその一言だけを置いて、すさまじい勢いで森に入っていった。事実、フルートが女王と対峙したなら一瞬で切り刻まれることは簡単に想像がついた。であれば、私はどうするべきか。フルートは考える。そんなのは決まっている。彼女は、血相を変えて森の方に飛んでいこうとする長老にめがけて銃を撃ち放った。

 

「ぐっ!?」

 

「追わせはしないっ!降りてくるんだ!」

 

 銃弾は長老の右羽に命中し、バランスを崩した長老は地面に勢いよく落ちてくる。しかし地面のすれすれで「『イシャプ・モントロス』!」と再び呪文を発すると、一瞬ふわりと木の葉のように浮遊する。しかしすぐにその力は失い、長老は地面に両足をついた。ぎろりと長老はフルートの方を睨みつけた。フルートは銃の狙いを長老の頭にピタリとつけながら言った。

 

「お前の相手は私だ。女王の救援には行かせない。」

 

「ふっふっふ。お前の相手は私?女王の救援だとぉ?」

 

 長老はフルートの言葉を聞くと大笑いを始める。しかしその両手には魔力が込められており、目だけは油断なくフルートの銃をじっと見ている。彼は笑い終えると、嘲るような視線をフルートに向ける。

 

()()()()()()()()()()()。女王を追った者が勝てるとでも思っているのか?たった一人の人間が?貴様は私を抑え込んだと思っているようだが、それは違うっ!私が恐れたのは貴様らが卑怯にも二人がかりで女王を襲うことだ。いいか、私が女王の元に向かえないのではない。貴様が仲間を助けに行けないのだ。」

 

「行けるさ。アンタを始末したらな。」

 

 フルートはそんな軽口を言いながら、長老の前に構えられた両手を見る。両手から青白いドーム状の光が微妙に放出されている。何度か見たことのある魔術の痕跡だ。漏れ出た微量の魔力が光となって空気中に霧散していくらしい。つまり、間違いなくあの長老は魔術を準備しているという事だ。奴は他の妖精と違って武器を持っていないことを見ると、相当魔術に自信があるらしい。あるいは老年で武器を持つのが難しいのか……。しかし重要なのは、つまり奴は魔術で戦うということだ。奴と戦うのなら、使用する魔術を理解するのが要になるだろう。

 

 フルートは目をちらりと自身の銃に向ける。奴の魔術は『マグネタック』、『イシャプ・モントロス』。この二種類の魔術を使っていた。『マグネタック』は投射物を捕まえる魔術……だろうか?奴がその呪文を唱えた途端、射出した銃弾の勢いも殺し手元に保持されていた。少なくとも不用意に銃を撃つべきではないだろう。そして『イシャプ・モントロス』は跳ね返しの術か?マグネタックで捕まえたものを射出し返す術……。いや、たしか奴は着地の時にもこの術を使っていた。であれば強力な斥力を発するような術と考えるべきだろうか……?彼女の頭では思考がぐるぐると回る。固まったままのフルートを見た長老は少し唸ると、大きく口を開けた。

 

「どうした?来ないのか?……ならば私から行くぞッ!」

 

「……!?」

 

 長老はなんとフルートに向かって突進をしてきた。両手を構えたまま突進してくるのはある種異様であった。老人の妖精の癖に、私に接近戦で勝てるつもりなのか?フルートはそう思うも、自信ありげな長老の表情を見ると油断は失せる。銃を撃ってみすみすそれを捕まえられるわけにもいかないので、彼女はナイフを取り出し左手で構えた。そしてそれを目と鼻の先まで迫った長老に向かって振るった。

 

「『マグネタック』。」

 

「ぬあっ、ナイフがッ!」

 

 しかし、ナイフは呪文を唱えた長老の両手に吸い込まれる。あのマグネタックとかいう魔術はつまり引力!矢を防ぐ魔術ではない!物を引き寄せて止める魔術!フルートはそう考える。長老が手の中のナイフを掴みにやりと笑った。そしてそのまま突進してくる。……しかしフルートは飛びのくと、無言で銃を長老の頭に向ける。魔力は既に霧散した。接近戦と言えどナイフを振るよりも私が引き金を引く方が早い!彼女は叫んだ。

 

「だが終わりだ、老いぼれがッ!」

 

「ああ君がな。」

 

「……!?」

 

 長老は未だナイフを振りかぶってもいなかったが、フルートはその言葉と態度に言いようのない恐怖を覚えた。例えばそれは、自身が怪物の腹にいることにも気づいてもいないような、そんな違和感である。上から何かを擦るような音が聞こえた気がした。彼女は考える暇もなく銃を上に向けると、予感のまま一気に三発乱射した。

 

「ぐっ!」

 

「あっ、こいつ!気づかれたぞ!」

 

「くそっ、妖精共か!」

 

 フルートがそのように呻く。いつの間にか何体かの妖精が彼女に向けて上空から忍び寄っていた。彼らは既に矢をつがえ今にもそれを放つところであった。他の妖精も彼女を狙おうとしていたが、急速に迫ってきた飛行ゴーレムに散らされた。フルートは今度は狙いをつけて残った妖精二人を連続で撃ち抜いた。上空を向いて、である。そんな隙だらけの行動を長老が見逃すはずがなかった。彼は老年とは思えない身軽さでフルートに躍りかかると、連続でナイフをふるってきた。掛け声こそ軽そうであるが、その目と力には明確な殺意が宿っていた。フルートは何とか銃身でそれを防ぐが、どんどん押されていく。

 

「ほいっ!ほれっ!ほれぇっ!」

 

「ぐ、この老害がッ!卑怯だぞ!」

 

「卑怯!?同志を使ったことがか!?そも、これは殺し合いじゃぞ、戦争じゃぞ!そこに卑怯なんて存在しない!あるのは生きるか死ぬかだけよ!それに奇襲だの奇妙なアイテムだのを使ったおぬしらに言われたくないわい!」

 

「ああ、そうかい!」

 

 もう持たないと思ったフルートは大きく飛び下がって長老に銃を向ける。まだ弾丸は一発残っている。両手がフリーでない今ならきっとマグネタックは使えない!彼女はそう考えて銃弾を放とうとした。長老はそれを見てつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「今の瞬間、仕留めきれなかったのが敗因だ!喰らえ!」

 

 銃から放たれた弾丸が長老に迫る。その弾丸はただの一発といえども、今まで幾人かの妖精を屠ってきたことを考えれば、この目の前の強者たる妖精にとっても十分致死量であろう。無論、それは当たればの話であるのだが。長老の手の中のナイフが光に包まれたのをフルートは見た。

 

「『イシャプ・モントロス』。」

 

「はっ?」

 

 一瞬、魔術の光が辺りを照らすと恐ろしい程の勢いで長老の手からナイフが吹き飛んでいく。急加速する青白く光った刀身は、何者にも反応できないような速度で飛翔していく。そのナイフは弾丸と正面から衝突し、そして一方的に弾き飛ばした!銃弾はあらぬ方向に飛んでいき、逆にナイフは殆ど曲がらず真っ直ぐにフルートに向かって行った。それは銃を握っていた彼女の右手を大きく切り裂いて、遥か彼方に飛んでいく。恐るべきはそのまま木を何本も貫通しているのに一切止まる気配がないことだろう。そのままナイフは地平の彼方に消え去った。一瞬遅れて、フルートの右手から大量の血液が噴き出した。

 

「あああああああああああ!?私の腕が、あああああ!?」

 

「はっはっは!そんなに嘆くことないじゃろう。まだくっ付いてるじゃないか。()()()()ね。」

 

 長老はそう言って笑う。フルートはたまらず足を後ろに向けて逃げ始める。その時どうにか銃を左手で拾うのだけは忘れてはいなかった。長老はその姿を見て、笑いを引っ込めるとゆっくりと歩き始める。その顔には余裕の表れか、微笑が浮かび上がっていた。

 

「ふん?逃げるのかね?しかしその出血で走り回るのはお勧めしないぞ。死が近づくだけじゃ。そう、残り一分の寿命が三十秒にな。」

 

「……!」

 

 フルートは激痛に悶えながらもなんとか遮蔽物を見つけるとそれに身を隠した。それは薪として使うのか、何本か重ねられた丸太だ。何よりも分かれているというのが良い。なにせ、マグネタックでいっぺんに引き寄せられないからである。彼女は鞄からいつぞやの緑の衣を出すと、口と左手で、右手にきつく縛って止血していく。そしてちぎれかけのボロ布のようになってしまった右腕を見て、一瞬歯噛みしてから、少しだけ冷静になった頭で考察しはじめた。

 

(ああ、クソ!こんな風になるはずじゃなかった!ただのナイフが、なんて威力だ!多分銃弾が当たっていなかったら私の胴体に風穴があいていた!……だが奴の魔術はわかった!そしてその『弱点』も!)

 

(奴は追い詰めた。だが追い詰められた者は誰であれ、死も恐れぬ戦士に変わる。決して油断はしない。たとえ私の方が圧倒的に有利だとしてもだ。)

 

 長老はそのように考えながら、重ねられた丸太の前に近づいていく。フルートもその様子を伺いながら、銃弾をこめなおしていく。六発、その全てをこめなおして左手一本でそれを保持する。狙いづらい、だが六発もあれば十分だ。彼女はそのように考えた。

 

(奴の魔術の『弱点』は一回使えばそれを捨てるまで使えないこと!両手がフリーでないとマグネタックは使えないんだ。そうでなければわざわざナイフで弾き飛ばして防ぐなんて、一歩間違えれば自分が死ぬような曲芸をするはずがない。つまりは連続攻撃だ。連射をすれば奴は倒せる。)

 

(奴の妙な武器は目にも止まらぬほど高速じゃ。だが弾道は直線的、予想していれば防げない程ではない。問題はどうやって奴にとどめを刺すかじゃな。今は怖気づいて隠れているとは言え、きっとあの武器をまた使ってくるじゃろう。不用意に近づくのは危険か。)

 

 二人はそのように思考する。彼らは似たタイプであった。お互いに腕っぷしよりも予想と戦術を重視するタイプ。強力な魔術よりも、絶対的な武器よりも、賢き一人の軍師を恐れるタイプである。であるから、彼らがたどり着く結論もまた同様であった。平等に照らされる月明りの下、彼らはほぼ同時に笑った。

 

((この勝負、私の勝ちだ!))

 

 無論、両者が勝つなどという事はない。この決闘はきっと血塗られた幕引きによってのみ、締めくくられることだろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^

 

 一方、森の中ではチェロの予想外の展開になっていた。森の中に不気味な沈黙が響いている。チェロは額に汗を浮かべながら、辺りを見回して女王の姿を探していた。彼は敵の姿を完全に見失ってしまっていた。

 

(くそっ!?一体どういうことだ?暗い森の中だが、空を飛んでいれば流石に気づくはずだ!)

 

 彼は先ほど、突進し、木を蹴って女王に斬りかかった。そこまでは良かった。しかし女王はその剣を躱し何故か姿を消した。チェロは空中で逆に斬りかかられるか、それとも着地を狙われるかと思っていたのだが、それもなく女王は姿を隠していた。チェロの胸中に得体の知れない不安が広がる。女王の意図が読めなかったのである。

 

(つまり女王は地上を走って逃げているのか?森の中では空を飛んでいても、木を蹴って狙われる。だから木のない広場に移動しようと……?そうならば不味い!)

 

 チェロはそう考えると丘の方に駆けて行こうとする。女王が戦場を移すとすれば妖精達の援護が受けられる丘に移動することだろう。そのように考えたためだ。もしも戦いの場が森から広場に移れば、彼に勝ち目はない。空を飛ぶ女王に攻撃を加える手段がないからだ。そのため彼は急いで地面を蹴って丘の方に移動しようとした。結論からすれば、それが幸運であった。まっこと戦場では運のいいものが生き残る。チェロが直前までいた地面が大きく抉れ、その後に祭囃子のような短い旋律が聞こえた。それを見てチェロは思わず叫んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 そう叫んだ途端、彼の目の前の地面が再び抉れた。彼は瞬時に今しなければならないことを理解した。これは恐らく攻撃だ。足を止めてはならない。彼は何が何だかわからないなりに、木を躱しながら走り続ける。彼の背後の地面や木が順番に破壊され、そして音色もどんどん近づいてくる。ついに音色が、まるで背中に背負った老婆が囁くような距離で聞こえた。チェロは横に大きく飛ぶと、その破壊を躱す。ひときわ大きな音色が辺りに響き、音は静まり返った。チェロはそのまま前に転がり、体勢をなおすと木にぴったりと張り付いて周りを伺った。破壊はいったん止まったようであった。彼は女王の姿を探しながら、思考を続けた。この爆発のような破壊、一体どんな原理なのかは知らないが振り向いた一瞬、正体を見た。いや、逆だ。()()()()()()()()。破壊される瞬間を見たのに、何もそこには飛んできてはいなかった。そうであれば、攻撃の正体はあれなのか?チェロは額に汗を流す。

 

「音……か?あの穴の開いた奇妙な剣には、明らかに音を出す機構がつけられていた。古い時代の妖精は人間には扱えないような魔術を使ったという。音で破壊を伝える魔術。それがこの攻撃か!?」

 

 そうであれば、破壊の後に音が聞こえてきたのもうなずける。……だが、一体どうする?見えもせず、破壊の瞬間まで聞こえもしない音を、どうやって防げばいいというのだ?チェロは女王を探しながらそう考える。女王は逃げてなどいなかった。姿を隠して一方的に攻撃するつもりだったのだ。森に入ったことで、空を飛ぶ女王と対等に渡り合えると思っていた。しかし、それは逆であった!見通しの悪い森の中でチェロは追い詰められていた!その時、森の中のどこからか女王の声が響いた。

 

「あらあら、まさか避けられるとは思わなかったわ。でもそんなことしない方が良かったのに。自分がどんな風に死ぬのかなんて知らない方がきっと幸福でしょうに、ね?」

 

「声を出すとは随分余裕ですね!貴方の身を守っているのは、森の暗がりだという事をお忘れなようだ!」

 

 そう言ってチェロは音の聞こえた辺りに木を蹴りながら登っていく。しかしその枝に行っても何もいなかった。チェロは落胆したように少し息を吐いた……あるいはそのように見せかけた。辺りを見回しながら、小さな笑いをかみ殺して思った。

 

(音で狙いをつけられるという事は、自分の肉声も操れるのかもしれないと分かっていた。だからわざと声をかけて僕を誘った。そうだ、分かっていた。これが罠かもしれない、いや間違いなく罠だという事は分かっていた。だが攻撃をしてくるなら、こちらを見ようとするはずだ。こちらの姿を視界に入れた、その瞬間を見逃しはしない。さあ来い。)

 

 チェロはそのように考えていた。躱せないのなら、撃つ前に仕留めるというシンプルな発想である。しかし戦闘においてそれは共通する優位性である。先んじて相手を撃破すれば、無論反撃が来ることはない。先手必勝……それはあらゆる戦闘行為で成立しうる強力な戦法である。

 

 彼は目を皿のようにしながら女王の姿を探す。そして手の中で剣をぎりぎりと強く握りしめた。今度は逃しはしない。攻撃しようとするその一瞬、距離を取られる前に一撃で決めてやる。チェロはそのように考えていた。しかし、待ってみても攻撃は来ない。チェロはまたしても困惑した。しかしそれ以上に焦りの色が強くなった。予測がまた外れた。戦闘のペースを完全に握られている……!その焦燥感は、彼から集中力と闘争心を奪っていった。戦闘において焦りは常に敗者の胸の中にある。焦りは闘争のためのエネルギーを逃走のエネルギーに変換し、闘争心を恐怖心へと変貌させるからだ。生き残るのには必要な人間の臆病さであるが、戦場においてそれは全く役に立たない。いつの間にか、彼の口からは疑問の言葉がこぼれていた。

 

「なぜ来ない?罠ではなかったのか?」

 

()()()()()。」

 

「……は?」

 

 チェロの全身の毛が一気に逆立つ。その声は彼の真上、すぐ近くから聞こえた。いつの間にか女王が糸でぶら下がった蜘蛛のように、逆さになりながら飛行していた。彼女の手の内に秘められた剣は、既に振りかぶられている。にこやかに細められたその瞳には、強烈な殺意が浮かんでいた。

 

「音を自由に伝えられる。そこまでは予想したのね。でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もできるってことよ。こんな風に羽音を消して、貴方に忍び寄ることもできた。」

 

「……!?」

 

「あら、どうしたの?貴方が待ち望んだ『接近戦』でしょう?少しは喜んでくれなきゃあ、張り合いがないわ!」

 

「くっ!?」

 

 女王の剣が振るわれる。チェロはそれを何とか剣を振って抑えるが、振りの浅い咄嗟の一撃である。大きく振りかぶっていた女王の一撃を防ぎきれず、頬から耳にかけて切り裂かれた。耳が中ほどから切れて、大きく血が流れ落ちる。それを見て女王は笑い声を漏らした。

 

「ふふっ!裂けた裂けた、人の耳!」

 

「だが……防げた!」

 

 そうである。傷は負った。……しかし、しかし防いだ。致死たる一撃を防ぐことが出来た。彼はまだ死んではいない!チェロは歯を食いしばり、痛みを噛み殺すと、体制の崩れた女王を睨んだ。大きく振りかぶっていた分、体勢は女王の方が崩れている。ならばチェロの振るう剣の方が一瞬早い!彼は剣に再び力をこめた。

 

「さらばです、妖精の女王!」

 

 女王の眼前ににチェロの剣が迫る。しかしそれを見ても女王は少しも体を動かさない。あるいは動けないのだろうか。剣で防ぐような素振りも、躱すような動きもしなかった。しかし彼女は笑っていた。ただ笑っていたのだ。

 

「ええ、私も言っておくわ。()()()()()。」

 

「は……?」

 

 チェロの剣が到達することはなかった。その前に彼の体が吹き飛んだからである。彼はその衝撃の間際、確かに聞いた。あの祭囃子のような旋律を。爆音で響いたその音は、耳からではなく確かにチェロの体内から伝わっていた。まるで体の内側の表面全てを殴りつけられるかのような一撃は、的確に明確にチェロの体内組織と内臓を破壊していく。喉からあふれた血液はチェロの呼吸を詰まらせ、驚く暇も声を発する暇も与えられずに枝から落ちていく。女王は羽虫のように落ちていくチェロを見ながら、もう不要と言わんばかりに剣を鞘に納めた。

 

「破壊の旋律。剣を振った時に既に音を出していたわ。……やはり死ぬのは貴方だったわね。」

 

「……。」

 

 木々の中にチェロは落ちていき、そして見えなくなった。その場には三日月と暗闇、そして鮮血を浴びた女王だけが残った。森の暗がりの中に、爛々と燃える女王の赤い瞳が浮かんでいた。

 

 

 

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