彼らは天下の回りもの ~目指せ億万長者!守銭奴商人と御者の冒険~   作:庭鳥

8 / 11

 空を飛べるって能力は本当に脅威だと思います。空から一方的に攻撃されるなんて、神話じみていて相当に恐ろしいです。多分虫の恐ろしさの八割くらいは飛行能力にあるのではないかと思います。ちなみにコレ、お話に関係ありません。第八話始まります。



vs長老

 屋敷の建った丘の上、その上では勇気ある妖精が何体か矢を射続けているも、すでに大半の妖精は逃げ腰になっていた。何せ片腕を失ってなお余りある重量の石の巨人が空を飛んで突っ込んでくるのである。飛行ゴーレムを躱すことで大半の妖精は精一杯であった。一方、村人たちの方も妖精に矢が届かないため、出来ることは何もない。彼らの戦いは不毛な持久戦の様相を呈していた。それを見て、長老は一つ舌打ちをする。

 

「全く、さっさと奴を片付けてしまわんとな。」

 

 無論、奴とは重ねられた丸太の陰に隠れたフルートの事である。彼女は左手で銃を持ちながら、今か今かと待っていた。すなわち攻撃の瞬間をである。しかし、彼女は同時に考えてもいた。今までの傾向から奴も策を弄するタイプの敵であると理解していた。この状況で長老が何もしかけてこないとは思っていなかった。

 

(奴は一体、どんな攻撃をしてくる?)

 

 フルートはすでにいくつかのパターンを考えていた。一つ、丸太を引き寄せて隠れ場所を崩す。その後、丸太を射出して攻撃してくる。この場合の攻略は既に考えている。引き寄せきるまでの間、奴は攻撃することは出来ない。その瞬間を銃撃して終わりだ。そしてパターンの二つ目、何かを吹き飛ばしての攻撃。これが一番可能性が高いだろう。そのため奴の魔力の動きには常に気を付けている、しかし何もしてこないのが逆に不気味である。パターンの三つ目、妖精達を使って上空から攻撃させる。隠れている場所は上からは丸見えだ、狙い放題もいいところだろう。しかし、どうも妖精達はそれどころではないようだ。フルートはチラリと上空を見た。そこでは間一髪で飛行ゴーレムの突進を躱す妖精の姿が映った。

 

「さて、一体どうくる?」

 

「……。」

 

 長老は何も言わなかったが、その口端が小さく動くのをフルートは見逃さなかった。途端、彼女の視界に何かがきらりと光る。長老の方向……ではない!森の方角から風切り音と共にナイフがすさまじい勢いでフルートの方に引き寄せられてくる!とっくに攻撃は始まっていたのだ!

 

「うおっ!?」

 

「ふぁふぁふぁ、『マグネタック』!貴様が逃げている時、既にナイフを引き寄せ始めていた!」

 

 フルートは間一髪、ギリギリでナイフを躱す。しかし丸太には大きく穴が開き、そのすさまじい破壊力を感じさせた。一瞬でも気づくのが遅れていれば、彼女の腹に同じような大穴が開いたことであろう。さらにその衝撃で丸太は崩れ、フルートの無防備な姿をさらした。それを見て長老はにやりと笑う。そしてナイフを射出してとどめを刺そうと、大声で呪文を発せようとした。

 

()が崩れたぞッ!奴の無防備な腹に今度こそ叩き込むッ!『イシャプ・モン……』!?」

 

「……。」

 

 長老は驚愕した。フルートの持つ銃の狙いが長老の頭につけられている。彼は思う。(何故だッ!?奴は向こうを向いているのに!?だからこそ私は引き寄せて攻撃した!こちらを警戒すればナイフを喰らい、それを避けても私がとどめを刺す。そうだったはずだ!)。その瞬間、彼は後ろを向いているはずのフルートと目が合った。地面に建てられた『手鏡』越しにである。持ち手を地面に差して、彼女はその鏡越しに睨んでいたのだ。引き金にかけられた指が動くのがスローモーションで見える。

 

(な、なにぃ~~!?鏡越しに見ている!という事ははったりで銃を向けているのではない!奴はこちらが見えている!)

 

(丸太を崩してくるのはわかっていた。後ろを向いたまま狙いをつける工夫くらいしているっ!)

 

 フルートはそう思い、鏡越しに長老を睨む。だがまだ撃つわけにはいかない。なにせ使える腕は一本しかないのだから……。しかし長老は再び大きく叫んだ。

 

「だがッ!撃ち合い上等!先ほどの結果を忘れたか!貴様が何発撃とうと真正面から打ち砕いてくれるッ!『イシャプ・モントロス』!!」

 

「……来るか!だが同じ手を使うなど愚策なりっ!」

 

 ついに呪文が発せられた。すさまじい勢いで再びナイフが吹っ飛んでいく。その速度と重量は例え銃弾が何発当たろうとものともしないことだろう。長老は連続で放たれた銃弾を弾きながら進むナイフを予感した。しかしそれを見てもフルートは銃撃をしようとしない。代わりに銃を捨てると振り向きざま、ハンマー投げの要領で『革製の鞄』を投げた。それを見て長老はせせら笑った。

 

「ただの鞄っ!革で出来ていようと、先ほど丸太を貫通したのを忘れたのかっ!」

 

「ただの鞄ならな!!」

 

 フルートは叫んだ。ナイフが軽々と鞄に突き刺さる。鞄が勢いよく吹き飛んでいくのを見て、長老は勝利を確信する。しかし、突然ナイフが弾けとんだ。細かい金属片が宙に舞い、三日月に照らされ光を乱反射する。ありえない光景に長老は目を見開いた。瞬間、その瞳は捉える。鞄から零れ落ちる『暗い色をした物体』を。

 

()か!石を鞄に詰めて投げた!?ナイフと銃弾なら重量の差でナイフが勝つ。だが当然、さらに重いものには吹き飛ばされるが道理!!だ、だが弾くとならともかく、バラバラになるとは一体!?」

 

「あのナイフは四度も高速で射出されたんだぞ?そうなって当然だ!魔術はすさまじいが、射出されるナイフはただの物!繰り返された高速での衝突に耐えきれなかったのだ!」

 

 フルートは飛んできた鞄を横に飛んで躱す。その瞬間、長老は目撃する。銃口がこちらに向いているのを。殺意に染められた女の瞳を。フルートは横に飛びながら、捨てた銃を回収し、瞬時に狙いを敵の頭につけていた。長老の全身が怖気だった。死んでしまう。なんとか防がねば死んでしまう!彼は瞬時に両手を構え、魔術を行使しようとした。しかし、それを見てもフルートは構わず引き金を握る指に力をこめる。

 

「よーく選ぶことだ。自分に当たらない一発を!」

 

「な……!?」

 

 フルートは連続で六回引き金を引いた。銃弾が六発、長老に向かって迫る。高鳴った心臓の鼓動音すら、いつの間にか聞こえなくなっていた。極限状態、脳内物質が過剰に分泌された長老の脳内ではその死までの一瞬が極限まで引き延ばされていた。今やその老体には髭の先まで感じ取れるかのような異常に鋭敏な感覚さえもあった。無論、それは目の前の物質相手には何の意味も持たない。スローモーションのように、ゆっくりと六匹の飢えた弾丸が命を貪ってやろうと長老の方まで迫ってきていた。彼はその最中、必死に思考していた。

 

(六発!?マグネタックでは一発しか防げない!最初の一発を引き寄せてそしてはじき返す?全部を?無理だ!!)

 

 長老は何も考えつくことがなかった。彼はただ死が迫ってくるのを眺めるだけであったのだ。銃弾が彼の元に迫る。死がどんどん迫ってくる!彼はマグネタックで一発防ぐこともできはしなかった。……だからそれは恐怖のあまりに発せられた、ただの悪あがきであったのだ。恐怖にかられた鼠が猫に噛みつくように、本来は結果の伴わない無意味な行いであったのだ。

 

「『イ、イシャプ・モントロス』!」

 

「なにっ!?」

 

 長老が発したのは、今まで攻撃に使っていた射出の魔術。強力な斥力を発するそれを防御に使った!六発の銃弾は両手に発せられた不可思議な力場に当たり、なんと長老の体をすべて逸れて飛んでいった!想像とは違う展開にフルートは表情をゆがめた。

 

(く、くそっ!連射を防がれたっ!だ、だがとにかくリロードをしなくてはっ!)

 

 彼女は驚愕に目を見開きながらも、薬莢を全て排出し弾をこめなおそうとする。薬莢の排出が終わった銃を口にくわえ、無事な左手で弾丸を取り出そうとする。長老は息も荒く、自身が生きているのが、攻撃を防げたのがどこか信じられないようであった。その一瞬、彼は呆けているようですぐには攻撃が飛んでこなかった。しかし、敵が装填をしようとしているのを見た長老は我に返り、慌てて魔術を唱えた。

 

「『マグネタック』!」

 

「う、うおおおお!?」

 

 その瞬間、引き寄せられていた。彼女の口元の銃が長老の方に引き寄せられていた。武器を奪われるわけにもいかず、フルートは左手でそれを掴むがそのまま引きずられていく。彼女の手から装填しようとしていた弾丸がこぼれた。引き付けられ体勢を大きく崩した彼女の顔面に、長老の拳が飛んだ。妖精の老人の一撃である。そこまで大したダメージではない。だが攻撃はそれで終わりではなかった。長老は殴りつけたまま、呪文を唱えた。

 

「『イシャプ・モントロス』。」

 

「ぐ、がっ!?」

 

 途端、見えざる力場が彼女の顔面に広がり勢いよく吹き飛ばされていく。彼女は大きく吹き飛ばされ、そして丘の上にある大岩に叩きつけられてようやく止まった。体からミシミシと嫌な音が響き、彼女は恨み節と共に血を吐いた。ぼやけた視界の中、彼女はこちらに向かってゆっくりと歩いてくる長老の姿を見た。呆然とした彼女の意識の中では、それは絶望の飛来、あるいは死神の歩みにも見えた。しかし彼女はその最中でも左手の動きを止めはしなかった。

 

(ああ、クソ。さっきまで勝ってる感じだったのになぁ。……リロードだ。とにかくリロードをしなくては。)

 

 長老は満身創痍となったフルートの前で足を止めた。装填をしようとどうにか無事な左手を動かしているさまを、何もすることなく見ている。それどころかまるで同族の妖精に向けるような、穏やかな顔をしている。フルートはその胸中が読めず、一瞬眉をひそめた。彼はその表情のまま穏やかに語りかけ始めた。

 

「ああ、どうか言わせておくれ。本当に、今の一瞬は危なかったんじゃ。いや本当に死んだかと思った。策も何もない、とっさの判断が功を奏しただけなんじゃ。」

 

「ああ……そうかい。」

 

 もはや返事もだるそうにフルートはそう返す。装填を止めさせないところを見ると、最早長老は完全に余裕を取り戻したようであった。脅威と思っていた銃の連射すら防いで見せたのだ。最早、彼女は敵ではないと思われているのだろう。その胸の内は一体何があるのか。穏やかなその表情を見ると、敵への尊敬か称賛であろうか。長老はどこか遠くを見る様にしながら語り掛ける。

 

「貴様はまだ策を考えているのだろう。歩けもしないというのに。その武器の準備をしているのが良い証拠だ。だが先に言っておこう。すべて()()()だと。最早貴様の尽くせる手は全て見抜いてしまった。何せそんな体でうてる手など限られるからのぉ。」

 

「……。」

 

「たとえば、今後ろから飛んできている『飛行ゴーレム』にワシを襲わせるとかのぉ!」

 

 長老はそう叫びながら後ろを振り返る。そこには既に轟音を響かせながら、飛行ゴーレムが迫っていた。彼は妖精を狙うように命令をされていた。妖精……その中には勿論長老も含まれる。妖精達を追い回すのを止め、ついに長老に牙をむいたのであった。しかし気づいていた長老は短く冷酷に「マグネタック。」とだけ呟いた。途端、ゴーレムの背部、翼の生えた部分が外れて長老の両手に引き寄せられる。翼をもがれたゴーレムは地面に激突し、そしてもぞもぞと動くばかりになった。長老は少し興味深そうにゴーレムの破片を眺めながら、口を開いた。

 

「手は読めている。読めてしまったんじゃ。無駄なんじゃ。……ああ、今度は貴様は手以外の部分を狙って攻撃をしてくる!」

 

「……!」

 

 フルートはその言葉通り、三発の銃弾をそれぞれ長老の頭と両足に向けて撃ったところであった。両手がフリーでない時を狙う。斥力で吹き飛ばされない様に手以外を狙う。どちらも長老の攻略法である。しかし、長老は体を縮めて引き寄せたばかりのゴーレムの破片に身を隠した。そして、全然無事な状態で再びフルートの前に姿を現した。それを見てフルートは軽く絶句する。長老はその様を見ると喉で笑って、フルートを嘲った。

 

「またまた読み通り!……殺してほしいか?すぐには殺さん。貴様のように屈辱を味合わせてくれた者には、同じくたっぷりと恥辱を味わってもらわなければ気が済まん。貴様は自分の死に誇りを持つこともなく死んでいくんじゃ。」

 

「趣味の悪い……ことだ。」

 

「くくく、そんな減らず口が叩けるのも後何分かな?貴様の弾丸が迫った時、ワシは死を感じたぞ。貴様が死にゆくとき、どんな情けない表情をするのか見てみたい。」

 

「……。」

 

 フルートは無言でさりげなく銃から手を離し、長老からは死角になっているポケットの中に手を突っ込んだ。そして考える。これも読まれているのだろうか?読まれていたら今度こそおしまいだ。何せこれは本当に『最後の切り札』なのだから……。私は、()()()()べきだ?フルートがそのように考えていると、長老はにやりと笑った。

 

「さて、今度は何をしてくるんじゃろうなぁ?勿論、ワシは予想通りだがね。」

 

「……本当か?」

 

「本当じゃとも。何せ年季が違う。貴様のような若造の考えなど手に取るようにわかる。」

 

「へー、ふーん。いやそうとは思わないなぁ。何せアンタは今まで何度も読みを外してきた。銃撃されたときのアンタの情けない表情は傑作だった。絶対読まれてないね。」

 

 フルートは短く、嘲るように言った。長老の今まで笑顔だった顔が固まる。その表情の中には恥辱と怒りが浮かんでいる。足腰も立たない重症でありながら、彼女はその状態で長老を嘲ったのだ。

 情けない顔?情けないだとっ!?彼はそう思う。さらにその態度が死を目前にしたとき恐れるばかりだった彼とは異なり、ある種の誇りあるものだったのがさらに彼の自尊心を傷つけた。彼は今までの穏やかな様子とは全く異なる様子で話し始めた。

 

「何じゃと?」

 

「そのままの意味さ。プライドばっかり肥大した滑稽なアンタには策を考える頭なんてついてない。三食喰って寝る、それだけで精いっぱいだからさ。さっきも言っただろう。アンタは偶然助かっただけ。私の策を読めてなんていないのさ。」

 

「……そんなに早く殺して欲しいのか?」

 

「やりなよ。その瞬間、アンタは死ぬけどね。」

 

「ハッタリじゃ。」

 

「ハッタリなんかじゃないさ。それを言うってことは私が読めてないってことだろう。」

 

「読めてると言っておるじゃろう!」

 

 長老は遂に怒りを滲ませて叫んだ。そしてハアハアと荒い息を吐く。全く、死にかけの癖に言いたいことを言いおって。長老はそのように思った。フルートはなんとこの状況で長老を挑発していた。このまま怒らせれば冷静さを失うと思ったのだろうか。そして不意打ちを決めるつもりであったのだろうか?だがこの老人は、挑発されたことによって逆に冷静になった。

 

(死にかけの癖に挑発とは……。だが怒ってはならん。コイツが次にやろうとしているのはなんじゃ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこから何かを投げてくる。……そのはずだ。それとも何か別の狙いがあるのか……?)

 

 長老は思考を巡らせ、他のパターンも考える。挑発によってフルートは怒らせるどころか、逆に対応されるパターンを増やしてしまった!しかし彼女は状況を分かっているのだろうか。それとも錯乱しておかしくなったのだろうか。ただのやけくそなのだろうか。彼女は不敵に笑っていた。死を目前にして、ボロボロの体で笑っていた。彼女は言葉を続けた。

 

「読めた?読めないだろうなぁ。私のとっておきの策は、ね。」

 

「そんなのやってみればわかることじゃろう。」

 

「は?」

 

「やってみろと言っておる。そうすれば分かる。」

 

「……後悔するぞ。」

 

「するかもな。君が無意味な人生を後悔することになるやもしれぬ。」

 

「……。」

 

 長老が軽く笑いながら、そのように返すとフルートの表情に怒りの色が灯る。意趣返しだろうか、嘲り返されたのが気に障ったのか、彼女は悪鬼の如く怒りに顔を歪めた。結局のところ、長老は恐るるに足らないという結論を変えなかったらしい。実際どんな手、あらゆるパターンが来ようと対応できる自信があった。舌戦は一瞬にして死合の空気に引き戻された。フルートはポケットの中の物を握りしめて、それを感情のままに投げ放った!

 

「ああ、そうかい!喰らえッ!これが『切り札』だッ!」

 

「……は?」

 

 長老の予想外の声が響く。彼の目は丸くなり、その投げられたものを見つめている。投げ放たれたのは瓶であった。その中で何か液体が揺れていた。そしてフルートはただ投げただけではない!即座に銃を拾い、その瓶に向かって銃を撃ち放った。銃弾は瓶を粉々に砕き、その中身の液体を飛び散らせた。

 

「『()()()()()()()()』だッ!ぶちまけられた液体を全部引き寄せて防ぐことが出来るかッ!?溶けて流れ落ちろッ!!」

 

「あ、ああ……全く予想外じゃ!!」

 

 長老は絶望したような表情のまま叫んだ。彼は腕をクロスさせ、防御するような体勢をとる。しかし勿論マグネタックでは液体の粒一つ一つを引き寄せて、全て防ぐことなど出来はしない。フルートは勝利を確信したような顔をした。長老は情けない叫び声をあげてから、大きく口を開けていった。

 

「これは……!()()()()()()()()()()()()()()なんて、予想外じゃよぉ!!『イシャプ・モントロス』!!」

 

「あ?」

 

 フルートの素っ頓狂な声が響く。不可思議な力場が長老の両手から広がる。まるで牧羊犬に追い立てられる羊の如く、その液体は長老から逃れていく。斥力で吹き飛ばされた液体の一部はフルートの方に返ってきていた。そしてそれを躱す暇もなく、彼女の体にその液体がかかった。彼女は目を見開き、悲痛な先び声をあげた。

 

「ああああああああああああああああ!?体が溶ける!?溶けているうぅぅあああ!?」

 

「全く、呆れたぞ!引き寄せる必要なんてない。さっき銃弾を全部吹き飛ばしたのを忘れたのか!?あんなものが切り札とは、お笑いじゃ!貴様の人生も、その終幕も!滑稽な見世物としては満点の物だったぞ!」

 

 長老が叫ぶ。彼は今にも踊り狂いそうなほどであった。自身を追い込んできた強敵が、こんなにも情けない姿をさらしているのが愉快でたまらないという様子であった。彼は狂気的に大きく笑って、今までの鬱憤を晴らすかのように苦しむフルートを指さし嘲った。フルートはのたうち回りながら悲鳴を上げ続けている。そしてついに弱弱しく懇願するような声を出した。

 

「こ、殺して……。」

 

「殺してじゃと!?嫌じゃ、嫌じゃ!もっとよく死にゆく貴様の表情を見せるのじゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 

パァン!!パァアン!!

 

 

 小気味のいい二発の銃声が夜空に響いた。何が起こったのか長老は全く理解できてはいなかった。銃声の意味も、さっきまで響いていた悲鳴が鳴りやんでいる意味も。彼にはまったくわかっていなかった。視線を下げると、勢いよく血を噴き出す二つの穴が見えた。自身の腹から生命の源たる血液を零す不遜な傷跡。そこから自身の生命があふれ出していたのだ。彼は一瞬遅れて悲鳴を上げた。

 

「あああああああああああ!?なんじゃ、なんじゃこれはあああ!?痛い、痛いいいいいいいいい!?」

 

「ああ、うん。()()()()()()。ふう、ようやく当たったなぁ。弾代も馬鹿にならないってのに。」

 

 長老の目の前で、フルートがそんなどうでも良いことをブツブツとつぶやきながら立ち上がる。長老はそれを見て驚愕する。何故立ち上がれる!?今にも死にそうだった奴が!?そもそも立てるような傷ではなかったはずだ!!そのように彼は思った。そしてその視線に気づいたのか、フルートは面倒そうに長老に目を向ける。その表情には既に恐怖は浮かんでいなかった。冷たい殺意だけが浮かんでいた。長老は思わず叫んだ。

 

「な、何故!?貴様さっきまで溶けて苦しんでいたはずでは!?それに傷が治っているのも一体!?」

 

「『回復薬』だ。」

 

「は?」

 

「私が投げたのは『()()()』だ。ウ、ソ、ってことだ。溶ける薬はこっち。」

 

 フルートがポケットから頑丈そうな瓶を見せる。手書きらしい汚い絵で歪んだ髑髏らしき絵が張り付けてある、全く無事な瓶である。それを見て長老は愕然とした。

 

「は、は?嘘?そ、そんなつまらんことに引っかかったのか、ワシは?ワシの予想が外れたというのか?」

 

「違うさ。私はわざとアンタの予想通りの行動をしたんだ。プライドの高いアンタは、私の行動を完璧に読み切ったら確実に油断する。その瞬間、防御は確実に緩む。アンタの魔術は強かった。だからアンタの心理的な弱点を突くことにしたんだ。防御を突破する必要はない。お前が油断したその一瞬があれば、十分だった。」

 

「は、は。ははは?」

 

 長老はそこまで言うと、急に壊れたように苦しみ始めた。忘れていた痛みが復活してきたのだろう。あたりに響き渡る声を上げて泣き叫ぶ。フルートは一瞬だけ哀れむような視線を向けた後、銃口を長老の頭に向けた。

 

「無駄に苦しませるつもりはない。言い残すことがあるなら早くしろ。」

 

「ワシが負けた……死ぬのか。ワシは?」

 

「……死ぬだろうな。だが今さら同情してもらおうなんて思うなよ。」

 

 フルート短くそう言って長老を睨んだ。金が全ての行動原理、そんな彼女にも許容できぬラインはあった。自身の身勝手な思想で、戦乱を起こそうとしたこの男を許すことは出来なかった。妖精と人間が共に歩む道もあったろうに、それをこの男は否定した。その時長老は急に穏やかな表情になると、どこか遠くを見るように言った。

 

「そうか……。死ぬか、フフフ。なら仕方がない!」

 

「おい。私は最後に言い残すことはあるかって聞いてるんだ。情けをかけてるんだぞ!妙な動きをするんじゃあない!」

 

 長老は急に苦しむのもやめ滝のような汗を流しながらもフルートの方を見た。その視線は揺れていて、まるで酩酊者の様である。恐らくもう死がすぐそこまで迫っているのだろう。しかしそれを感じさせないような大声で長老は叫んだ。

 

「女王様、申し訳ありません。貴方と共に、妖精族の夢の果てを見たかった。……『イシャプ・モントロス』!!」

 

「……!?」

 

 長老は地面に向けて魔術を放ち、なんと弾んだボールのようにフルートに向かって飛んできた。そしてそのまま殺意の炎を宿らせた瞳で彼女を睨み飛びかかってくる。彼女は慌てて、残り一発の銃弾を放とうとする。

 

「ワシは死ぬ。それは良い!だが貴様も道連れじゃあ!!」

 

「くっ!」

 

 目の前まで飛んできた長老の頭部に向かってほとんど反射的にフルートは銃撃をする。しまったと思ったのは、撃ち終わってからである。長老がにやりと笑い「マグネタック……。」と呟いた。地面にぼたり落ちた長老が笑う。その両手のうちに、銃弾を止められてしまっていた!

 

「貴様の武器の弾数は……確か六発じゃったのう。おやおや、それじゃあもうその武器を恐れる必要はないってことじゃ。」

 

「……。」

 

「妖精族の悲願のため、貴様は消し去るッ!!『イシャプ・モントロ…』」

 

「ふんっ!!」

 

 呪文を唱え終える前に、フルートが瓶をなげうった。……『なんでも溶かす薬』である。瓶が割れ、長老は頭からその液体を被った。長老は悲鳴を上げることすらできなかった。最早彼は呪文を唱えるなど出来ない。そのための口がないのである。最早、彼は死を恐れる必要はない。考えるための器官がないのである。ぐずぐずに溶けていく肉塊をフルートは苦々し気に見て、そして視線を逸らした。あそこまで非道だった相手にも情けをかけたのだろうか。それとも残酷な死に方となったこの死体に罪悪感でも覚えたのだろうか。彼女は長老の死体だったものに指を指すと、少しだけ言葉を零した。

 

「土に還れ。その思想と共に。」

 

 彼女の寂しげな呟きだけがその広場に響く。彼女は十字を切り、ほんの少しだけ目をつぶった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。