もしも小説版にRoseliaがあったなら。   作:星乃宮 未玖

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二番煎じなので初投稿です。よろしくお願いします。


春風は遠く

『なぁ友希那。歌は好きかい?』

 

『うん! 私、あんまり上手くないけど自分で歌うのも、お父さんの歌を聴くのも好き!』

 

『そうかい? じゃあ、今日はとっておきの曲を教えてあげよう。これはね、お父さんの憧れの人達の曲なんだ』

 

『ほんと? やったー!』

 

 幼い女の子は、夢を見る。それは遠い昔の、今はもう戻らない日々の幻影の記憶。

 その中の女の子は幼稚園くらいの歳で、大好きな父親と一緒に歌を歌ったり、幼稚園じゃ教えてもらえない歌を教えてもらったりと、幸せな時間を過ごしていた。

 そして、そんな日々がずっと続くと無垢に信じていた頃の、甘い夢。

 

『クソ! こんなんじゃ駄目だ……! もっと上手くなってメジャーデビューしないと……。これだと先輩に合わせる顔が……!』

 

『ね、ねぇお父さん……。今日お歌の練習……』

 

『あぁ? ……ってなんだ、友希那か。ごめんな、今日お父さんは自分の歌の練習しないといけないんだ。だからまた今度やろう、な?』

 

『うん……わかった。また今度ね。今月でもうそれ六回目だよ、お父さん

 

 女の子は、夢を見る。それはいくらか昔の、今は戻らない日々への序曲の記憶。

 その頃の女の子の父親は理想と現実の狭間に苦しんでいて、女の子が声を掛けても父親が見せてくれたのは張り付けたような笑顔ばかりで、心からの笑顔は向けてくれなかったのを女の子は覚えている。

 それでも、いつかはかつてと同じように過ごせると健気に信じていた頃の、ほろ苦い夢。

 

『ねぇ、お母さん。お父さん今日は遅いね。大丈夫かなぁ』

 

『きっと大丈夫よ。でもそうねぇ、先にご飯食べちゃいましょうか。友希那、準備手伝ってくれる?』

 

『はーい。あ、お母さん。電話鳴ってるよ』

 

『あら、ありがとう。もしもし、湊です。…………はい、はい、そう……ですか。わかり……ました、今から向かいますので……はい、失礼します』

 

『お母さん……? どうしたの?』

 

『友希那、お父さんがね……事故に遭ったって』

 

 少女は、夢を見る。それは少し昔の、父親がもう戻らないと知った日の決別の記憶。

 その日の少女の父親はやけに帰るのが遅くて、少女はどこか嫌な予感を感じていた。それでも、父親は家に帰って来るのだと願い続けて、もう何ヵ月も出来ていない歌の練習を今日こそはと思い続けていた。

 しかし、少女の待つ家に帰ってきたのは父親が冷たくなってしまったことを告げる電話だった日の、そんな寂しさと涙の記憶。

 

 

『友希那……大丈夫?』

 

『そう見える?』

 

『それは……! ねぇ友希那、昔みたいに一緒に歌おう? 友希那のお父さんだってそんな友希那見たくないに決まってる!』

 

『来ないで。それに私は……』

 

『嫌だよ! アタシは友希那の幼馴染みで、友希那の歌が大好きなんだから! ……そうだ! 友希那が歌えないなら歌う理由をあげる!』

 

『理由……?』

 

『そう! ねぇ、友希那──』

 

 少女は、夢を見た。それは暫く昔の、少女が今の生き方を決める決意をした日の感謝の記憶。

 その頃の少女は父親を喪い、微かな繋がりであった筈の歌も喉の障碍が発覚したことにより断たれかけていた頃で、全てが嫌になっていた。

 けれど、そんな世界を少女の幼馴染みがまるでハリケーンのように容易く吹き飛ばした日の感謝と陽だまりの記憶。

 

 

「……ゆめ」

 

 そうして、少女──湊友希那は涙で視界を滲ませながら目を覚ます。涙を拭い窓の外を見やればもう既に空は明るく、傍らのスマホはアラームを鳴らし続けていた。それを手に取りアラームを解除すると、彼女はベットに身体を深く沈ませる。先ほどまで見ていた夢のせいか、どこか気だるいような、動きたくない感覚が友希那を包む。

 スプリングの軋む音と射し込む朝陽。それらをぼんやりと感じていると、ふと友希那のスマホがメッセージアプリの通知音を発した。あまり現実での交遊関係の広くない友希那にとってメッセージアプリで連絡をしてくるのは一人くらいしか心当たりはない。

 

(リサ……)

 

 確認してみるとやはり相手は友希那の隣の家に住む幼馴染みで『起きてる?』『おーい』『友希那ー?』という内容がよく見ればいくつか送られてきていた。それに『起きてる』とだけ返し、友希那は寝ぼけて回らない頭をなんとか働かせ、徐に虚空に向け指で象った銃を作る。

 

「……BANG」

 

 友希那はそう小さく呟いて、指で象った銃で虚空を撃ち抜く。その先にイメージするのは先ほどまで見ていた幸せと悲しみの混じった夢。その夢に決別という風穴を空けて、かつての少女はベットから起き上がり、準備を済ませて部屋を出る。

 

「──ごめんなさいお父さん。もう私は夢なんて見ないから。だから向こうで応援してて」

 

 閉じ行く扉、部屋の中の増えることのない父親の写真に言葉を向けて、行くのは高校二年の始業式。湊友希那にとっての運命の一年が始まった。

 

 

「あ、友希那。おっはよ~」

 

「おはよう、リサ。……先に行ってても良かったのに」

 

「そんなことするわけないじゃん。大事な幼馴染みなんだしさー」

 

「……そう。じゃあ、行きましょうか」

 

 玄関を開ければ、友希那の幼馴染みである今井リサが既に外で待っており、小さく手を振っている。そんなリサにあえて突き放すような言葉を掛けても、返ってくるのは明るく真っ直ぐな言葉ばかりで。それをなんの躊躇もなく言える幼馴染みが友希那には少しむず痒く、とても眩しく思える。

 

(やっぱり、言えないわね。貴女に私のバンドに入って欲しいなんて)

 

 そして、そんな陽だまりのような幼馴染みだからこそ、友希那は心の奥底で決めたことがある。

 

 それは、リサの前で音楽の話を一切しないこと。幼馴染みとしても、一人の人間としても、今井リサという人間はとても良い人間だと友希那は思っている。それこそ今自分が頼めばすぐにバンドに入ってくれるだろうと確信できるほどに。

 けれど、それをしてしまえば音楽に妥協できない友希那はリサの足りない部分に強い言葉を投げてしまうし、リサもその言葉に応えようとしてくれるだろう。それこそ、彼女の持ちうる限りの全力を出しきって。

 だからこそ、大切な幼馴染みかつ恩人に対して友希那はそんなこと出来ないし、して欲しくない。故に友希那はリサの前で音楽の話をしないのだ。例えリサの指が硬くなっていることに気付いても、夜な夜なリサの部屋からベースの練習音が聞こえても、絶対に。こうして二人で話ながら通学路を歩く、それだけで友希那の心は確かに満たされるのだから。

 

「ねぇ、友希那」

 

「なにかしら、リサ」

 

 そうして歩いていると、ふいにリサが立ち止まり友希那の方を見つめる。振り返った友希那が写したリサの瞳はどこか心配そうに揺れていて、それに心を締め付けられながらも、優しい幼馴染みが言うであろう分かりきった言葉を友希那は促す。

 

「友希那は、今日も喉の病院?」

 

「……えぇ」

 

「そっか。……ねぇ、良かったら今日は一緒にさ」

 

「大丈夫よ、リサ。お医者様は良くなっているって言ってるから」

 

「でも……!」

 

「……ありがとう、リサ。でも、本当に大丈夫なの。だから心配しないで。ほら、遅刻してしまうかもしれないし急ぎましょ」

 

「友希那……」

 

 ひどい嘘だと、友希那は己を軽蔑する。本当は喉が良くなっていることなんてないのに。ステージで不意に制御の効かなくなる喉はこんな時だけ簡単に言葉を紡ぐ。遅刻してしまうかもしれないなんて嘘を更に塗りかためて、友希那は足早に通学路を進む。暫くしてチラリと後方を覗けば、そこには慌てた様子で友希那を追いかけるリサの姿。

 

(追いかけてくれなくても良かったのに……)

 

 それでもこの優しい幼馴染みは自分についてきてしまうのだろうと、友希那は悔いるように目を閉じる。いつかきっと、この優しい幼馴染みを振り払うことの出来なかったツケがやってくる。そんな未来を幻視して、迫る足音を聞きながら友希那は青い空に小さく言葉を零す。

 

「あぁ……最低ね」

 

 晴れやかな春の日の朝、暖かな風と裏腹に葛藤に曇り行く心と、罪悪感という冷たい痛みを抱きながら友希那は追い付いたリサと進む。いつかのあの日、リサに貰った『メジャーに行けなかった父親の代わりにメジャーデビューを果たし、父親の憧れのバンドの歌を歌う』という夢を果たすために。隣を歩く幼馴染み以外の全てを犠牲にしてでも、絶対に。




感想、評価あると早く書くかもしれません。
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