TS転生でチート美少女になったから好き勝手生きたい 作:ぼんひん
よろしくお願いします。
仮に異世界に転生したとして。
生まれ持った自分の容姿が、誰の目から見ても優れているもので。
しかもそれが美少女で──TSしたということに目を瞑れば──誰からも愛される可愛らしいものだったとしたら。
それだけじゃなく、生まれたのが世界有数の魔術の名門で、自分も魔術の天才だったら?
異世界といえば魔術のような不思議なパワー、それを自由自在に扱えるとしたら?
そんなのもう、人生の勝ち組決定だ。
きっと、どれだけ好き勝手生きても許されるだろう。
名声も権力も、欲しいものだって何でも手に入る。
それだけのワガママが許されるほどの存在に――チート美少女に転生したとしたら、どうする?
私は──
親のスネをかじって一生引きこもって生きていくことにした。
なお、15の誕生日に家から追い出されました。
ですよね。
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実家を追い出された私は、冒険者になった。
転生者といえば冒険者、冒険者といえば転生者。
この世界にも、冒険者と冒険者ギルドは存在していた。
そしてこの世界にはダンジョンが存在し、ダンジョンにはモンスターと宝箱がポップする。
実にオーソドックスなローファン異世界である。
そんな世界に転生したのが私、名をマテリナ。
マテリナ・マギスフィア。
それが私の今の名前で、前世の特に面白みもないオタク男性と比べて、随分と物語の登場人物みたいな名前だ。
まあ、中身は前世と変わらない陰キャオタクそのままなのだけど。
そんな魔術師にして、現在は冒険者をしている私は今、ダンジョンに潜っていた。
冒険者がダンジョンに潜ってやることといえば、ダンジョンの調査、モンスターの討伐、そして宝箱の捜索だ。
私の場合、今いる階層は既に探索を終えているから、純粋にモンスターの討伐と宝箱の捜索を目的としている。
正確にはメインの目的は、この階層に出現するモンスター、「レッドアイドトード」の討伐だ。
こいつは赤い目のカエルっていう文字通りの魔物なのだが、この赤い目が魔術の素材として結構高く売れる。
そのくせ、この階層の魔物としては危険度も高く、放っておくと被害が出るため定期的に討伐のクエストが出るのだ。
これがまた報酬が良い。
他にも色々と利点はあるのだけど、まぁその辺りはまた今度話すとして。
実を言うと、討伐は既に終わっていた。
今はこの階層でよく宝箱が見つかるポイントを回っているところ。
それが終わったら今日の冒険はおしまいだ。
早く帰ってぐっすり休みたい。
私には冒険者としてダンジョンに潜るより、布団の中で温まっている方が性に合っているんだ。
と、そんな時である。
「────きゃぁ!」
声が聞こえた。
いや、正確には聞こえていない。
ダンジョンに入る際、常時起動している探知魔術に反応があったのだ。
人の悲鳴、緊急性が高いものである。
「まじかぁ」
対して、自分の口から出てきた声は、非常に面倒そうなもの。
正直、冒険者に窮地に陥った別の冒険者を助ける義務はない。
そもそもの問題として、ダンジョンの中は密閉された空間なのにやたら音が響かない。
なので、別の冒険者の窮地に出くわす機会がないのがそもそもの原因。
それでも私の場合は、不意打ち対策に起動している探知魔術に、こうして冒険者の悲鳴が届いてしまうわけで。
放っておいたって、誰かが私を責めるわけじゃない。
本気で好き勝手生きるなら、こんなこといちいち気にしていたらキリがない。
幾ら何でも、どれだけ私がチート美少女であったとしても、世界全てを救うほどの力はないんだから。
だとしても、
「……放っておくのは、性に合わないんだよなぁ」
助けるのと助けないのと、どちらが“好き”かといえば。
面倒だけど、心底面倒極まりないけれど、助けるほうが私は好きだった。
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「うーん、アレはまずいのでは?」
私がたどり着いた先では、一人の女性冒険者が戦いを繰り広げていた。
相手は「レッドアイドトード」、さっきも言ったけど、この階層においては危険なモンスター。
それをソロで相手するとなれば、まぁ勝てないのも無理はない。
どころか、最悪生命を落としかねない。
「無理だよなぁ、多分、放っておけばあの子は死ぬ」
正直、面倒くさい。
だってそうだろう? 他人の生命にかかわるとか、たとえそれが正しいことだとしても、重い。
この世界は前世と比べて生命が軽い、今私が見ていないところで、無常にも生命を落としている誰かはきっといる。
私にこの世界の全ての人を救うことは出来ない。
でも、目の前にいる人を放っておくこともまた、できない。
まずもって、その考えが重い。
何よりも──
覚えはないだろうか、自分のやったことを褒められた時。
それを素直に受け取れない感覚を。
自己評価の低い人間にとって、手放しで称賛されるという行為は、多分この世でもっとも面倒くさい行為だ。
承認されたいくせに、受け入れられたいくせに、
素直にそうされると、今度は自分にそんな資格があるのかと考える。
なんて面倒な生き物なのだろう、私ってやつは。
異世界に転生して。
何でもできるチート美少女になって。
私は最初、こう思った。
自分の思うがままに、好き勝手生きたい、と。
でも、それはあまりにも無茶な考えだった。
柵があった。
私を取り巻く環境が、私にワガママを許さなかった。
私自身の性格に、そんな度胸ありはしなかった。
だから今、こうして私は引きこもって、それすら流されるままにやめて、冒険者をしている。
好き勝手生きるって、難しい。
私のような凡人には、チートと容姿が揃っていてもなお。
ふと、声がした。
「ああ、死ぬんだ、アタシ」
死にかけている少女の声だ。
諦めきった、少女の声が。
手にした剣は、レッドアイドトードの舌に寄って弾き飛ばされ、逃げ場はもはやどこにもない。
だから、私が助けないと彼女は死ぬ。
それは、気に入らない。
何が、といえば。
諦めている彼女と、それを見ているだけの自分。
どっちもだ。
「──第三階級魔術」
だけど、そのことで感謝されたくない。
だったらどうすればいい──?
TS転生でチート美少女に生まれ変わったのに。
好き勝手生きても許される立場に生まれたのに。
こんな凡人にできる「好き勝手生きる」ってなんだ?
そんなの決まってる。
「“光の魔弾”」
私の後方には魔法陣。
周囲には光の玉。
高速で飛んでいき、殺傷力はないが当たれば強い衝撃で吹き飛ばされる。
ノックバック効果のある魔術、といえばわかりやすいか。
それを、レッドアイドトードに向けてぶつけた。
ホーミングの機能もあり、狙わずとも勝手に狙った相手にそれは直撃する。
一撃で赤眼カエルを吹き飛ばした。それはそのまま連続でぶつかって、レッドアイドトードは最終的に消滅した。
モンスターは一定以上のダメージを与えると消滅するのだ。
赤眼──素材になる部分を遺して。ゲームみたいな話だが。
ともかく、
「だ、だれ!?」
──少女がこちらを振り返る。
黒髪のちょっと地味なところもあるけれど意思の強そうな美少女。
乙女ゲーの主人公っぽいといえばわかりやすいかも。
そんな少女がこちらを見た。
対して、私は──
──好き勝手生きれない凡人が好き勝手生きるには、もっとも単純な方法は逃避だ。
逃げ出してしまえば良い、面倒な称賛からも、コミュニケーションからも。
そうすれば、相手はただ助かっただけだ。
向こうもこちらにお礼なんてしなくて済むわけだから、一石二鳥だろう?
まぁ、あんまり逃げ過ぎると今度は生活にも困るからあんまりやらないけどさ。
それでもこうやって、逃げていい場面で逃げ出せる。
そうした時、私は常にこう思うのだ。
今、私は最高に好き勝手生きている────!
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新米冒険者のリンは死にかけていた。
レッドアイドトード、この階層においては危険とされるモンスター。
気をつけてはいたはずなのに、一人で冒険者になるしかなかった以上、生命の危機には最大の警戒を払っていたはずなのに。
流石に、いきなり目の前でこいつがポップするなんて不運を引いてしまったら。
新米にはもはや死は免れない。
こんなことなら、もっと家族に話をしておくべきだった。
両親が事故で亡くなり、残ったのは多額の借金だけ。
家族を養うためには冒険者か娼婦かという状況で冒険者を選んだ。
借金のある冒険者を周囲はあまり良い目では見てくれなくて、結果がソロでの冒険者活動。
明日なんてあるのかもわからない中で、結局こうしてその明日は失われた。
そう思った時だった。
自身に襲いかかるレッドアイドトードの後ろから、まるで希望が訪れたかのように光が灯ったのは。
光の魔弾。
そんな少女の声が聞こえて、気がつけばレッドアイドトードは消えていた。
助かったのだと理解するより、リンは少女のほうへ視線を向けていた。
銀の長い髪を一つにまとめた、ポニーテールの少女だった。
美しい髪は足元まで伸び、衣服は黒と白の魔術師のローブとドレスを組み合わせたデザイン性に優れたもの。
年は十代後半といったところだが、平均より少し小柄だ。
その代わり、胸元には豊満なバストが備わっていた。
美しい少女が、そこにいた。
「だ、だれ!?」
認識してもなお、困惑によってリンはそうこぼす。
対する少女は、それに答えるまでもなくリンに背を向けて──そのまま去っていってしまった。
リンは結局、彼女に言葉をかけることすらできなかった。
けれども、ようやく生還を実感しつつあったリンの脳裏に、ある話が思い出される。
「──“銀妖精”」
時折、冒険者がダンジョンなどで危険な状況に陥るとどこからともなく現れて、光の魔術とともに冒険者を救ってくれる妖精の噂。
その正体は、たまたま通りかかった冒険者とも言われているが、冒険者がそう何度も別の冒険者の危機に割って入ることは普通じゃない。
だから、人ではないのかもしれないという噂があった。
故に、銀妖精。
まさか、実在するとは思わなかった。
何より、リンのようなワケアリの冒険者にそんな幸運、あるわけが無いと思っていたのに。
「……あは、あはは、あはははは」
何だか、リンはおかしくなって笑ってしまった。
助かったことによる安心、今の少女が何だったのかという困惑、そして何より──
バカらしくなったのだ。
自分に救いなんて無いと思っていた。
ただただ理不尽だけが襲いかかり、自由なんてどこにもないと決めつけていた。
でも、そんな自分にすら、あんなにも一方的に、ただ救いが与えられることもある。
そう考えたら──諦めることが馬鹿らしくなった。
あの時、自分の死を覚悟した時、自分は生きることを諦めていた。
それが、どうにも今は馬鹿らしくて仕方がない。
勝手に、自分は好きに生きられないと決めつけていたのは自分だ。
だったら……もう少しだけ好きに生きてみよう。
彼女を見た時、あの走り去る背中を見た時、どうしてだかリンは、そう思わずにはいられなかったのだ。