TS転生でチート美少女になったから好き勝手生きたい 作:ぼんひん
親のスネをかじっていたら家を追い出されてから数年、私は立派な冒険者になった。
冒険者ランクB、上がAで下がEまである冒険者ランクにおいて、Bとは一流の証だ。
Bランクになるには、冒険者問わず多大な実績を残し、戦闘力だけでなく人間性の面でも品行方正でなければならない。
マギステル王立魔導学院で実技含めて優秀な成績を残し、例の発表会以外で大きなミスのない時点で条件を満たしてるから、親の推薦もありスタート時点でBランク冒険者だったことはここだけの秘密。
いいんだよ、その後の活動で結果を残せなければBランク維持もできないんだから。
維持できてるってことは、妥協できる程度には実績が及第点ってことなんだから!
両親からは今年こそAランクに上がるか? ってせっつかれてるのは秘密だ。
恋人できたか? 並に聞いてくるのは親として当然だけど陰キャにはきついぞ!
でも、自分としてはこのくらいが分相応だと思うんだよね。
Aランクって世間的には英雄とか、伝説とか言われるレベルで。
自分みたいな小市民が自滅するのは、例のトラウマからも明らかだ。
というわけで普段の私は基本的にBランクを維持するために活動している。
品行方正な一流の冒険者というわけだ。
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「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか」
「あっ、クエストの受諾を……」
「はい、クエストの受諾ですね? 冒険者カードの提示をお願いします」
そんな品行方正にして冒険者の鏡たる、私は今日も冒険者としての役目を果たすべく冒険者ギルドへやってきていた。
冒険者の街ラビリスの冒険者ギルドは大きい。
街に複数のギルドがあって、どこも同じ機能を有することで人の分散を図っているものの、それでもギルド内にはかなりの冒険者がごった返している。
今の時刻は昼前で、朝の冒険者が冒険にでかけて、昼を食べに来る冒険者が集まる隙間の時間帯にも関わらず、ギルド内部にはおそらく百人近い冒険者が行き来していた。
「はい、Bランク冒険者のマテリナ様ですね、確認しました。ご希望の依頼はありますか?」
「えっと、これとこれを……」
「ミスリル鋼の採取と、フェスタ―クロウラーの討伐ですね? かしこまりました、少々お待ち下さい」
「あっはい」
当然、チート美少女ボディのマテリナさんはとても目立つので、今はマントとフードで顔を隠している。
クソながポニテは隠すのが大変なので、次元収納だ。
いわゆるアイテムボックスみたいなのをフードの中に作っているのである。
無駄に高度な技術だが、私は天才なので問題ない。
「はい、処理を完了しました。採取したミスリル鋼の数量と、討伐したフェスタ―クロウラーの討伐数は冒険者カードに記載されますので、都度確認をお願いします」
「わかりました」
そんな品行方正で天才魔術師の私が受ける依頼は、Bランクの採取依頼や討伐依頼だ。
ミスリル鋼ってのは、ファンタジーによくあるミスリル素材の装備を作るための材料。
フェスタ―クロウラーってのは、アンデッド型の魔物。
一言でいうとゾンビ蟲、死ぬほどグロいけど遠くから一方的に攻撃すればいいので、倒すのは楽だ。
「マテリナ様、いつもありがとうございます」
「あっありがとうございます」
「こういうクエストは人気がないですからね、やっぱり」
この間のダンジョン上層に出現する「レッドアイドトード」の討伐もそうだけど。
私の受ける依頼は、基本的に人気がない。
何故かって言えば実入りが少ないからだ。
レッドアイドトードの話と違うじゃないかって?
アレは私がクエストを一人でこなした場合の話で、一般的にはそうではない。
一般的に、冒険者というのはパーティを組むのが基本だ。
パーティを組んで、危険なクエストをこなすのが定石。
危険なクエストってのはそれだけ報酬が良い、複数人で分け合ってもなお、今私が受けている依頼よりも手に入る量が多いのだ。
私がレッドアイドトードやフェスタ―クロウラーの討伐を請け負うのは、別の所に理由がある。
まず、報酬は安いけど、安くても私が暮らす分には困らない。
毎日好きな食事をして、適当に娯楽に金を使っても若干余るくらいだ。
そして何より危険が少ない。
報酬の豪華さと危険度ってのは比例するもので、より善い報酬を手に入れたければより危険なクエストに挑まなくてはならない。
だけど、私は毎日をてきとーに好き勝手生活できればそれでいいので、わざわざ危険を冒す理由がない。
最後に、これが一番大事なのだけど――
「“銀妖精”マテリナ様がこうして活動してくださることで、ダンジョン内の冒険者の死者数は以前と比べて随分と下がったんですよ?」
「あ、へへ……」
ギルドへの貢献度が高いのだ、こういうクエストをこなすと。
冒険者がランクを上げる、もしくは維持するためには、冒険者としての実績を残すか、ギルドに貢献するのが一番だ。
私の受ける依頼は、冒険者としての実績にはつながらないけれど、ギルドへの貢献度という点に関しては群を抜いている。
そもそも、上層のレッドアイドトード討伐は新人冒険者にとって危険な存在だから、間引くためにギルドが上級の冒険者にクエストを出しているわけで。
ギルドにいい印象を持ってもらうためのクエストを、ギルドが用意してくれているのだ。
これを利用しない手はない。
加えて、そのついでにこの間みたいに新人冒険者が死にかけているのを助けていることを、ギルドは知っている。
こちらが明かしたわけではなく、ギルドは冒険者が受けたクエストの内訳を把握しているわけだから自然とバレるのだ。
最初に私が銀妖精だって言われた時は精神的に死ぬかと思ったけど、こうして貢献度を稼ぐ役に立っているわけだから、今は感謝しか無い。
今後も、陰ながらに冒険者をこっそり助けていこうと思うわけだ。
褒められて調子に乗ってるわけじゃないよ?
調子に乗って失敗するのは、私のいつものパターンだからな。
戒め戒め。
「それでは、マテリナ様。いってらっしゃいませ」
「あっはい行ってきます……」
かくして、品行方正にして、ギルドの覚えめでたい一流冒険者ことマテリナさんは、今日もギルドのため人のため、楽をして生きていくため、クエスト達成にでかけるのであった。
……ギルドの受付さんとのやり取りが陰キャのそれだったことに触れてはいけないよ。
ハナちゃんと話していたときと比べて、声のトーンがダンチなことに触れてはいけないよ!
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冒険者の街ラビリアに冒険者は数いれど、“銀妖精”マテリナほどの変わり者はそういないだろう。
まず、その経歴からして異質だ。
元マギステル王立魔導学院の首席魔術師にして、神童と呼ばれた天才。
当時の神童マテリナは、あまりにも神がかった才能を有した、怪物であったともっぱらの噂だ。
それがどうして、冒険者のような立場にいるのか、まずこれが不思議でならない。
冒険者というのは、マテリナの前世で言えば日雇い労働者と扱いはそう変わらない。
いやそれよりも更に悪い。
チンピラ以上、社会人未満。
それが冒険者の実情だ。
もちろん、高ランクの冒険者は、民衆どころか国からも注目を集める英雄の類だが、そのレベルにまで上り詰める存在は一握りだ。
とはいえそれでも、マテリナの元の実績を鑑みればBランク冒険者――一般的には一流とされるレベル――でも、まだ格下であると言わざるをえないのだが。
話によれば、マテリナはある時大きな失敗をしてしまったらしい。
その失敗で心を病んだマテリナは表舞台から姿を消した。
今冒険者をしているのは、精神面でのリハビリを兼ねての社会勉強であるのだとか。
実際、マテリナと直接やり取りをするギルドの受付嬢が、マテリナは心を病んでいるのだろうと話していた。
陰キャに対する理解の薄い、中世風異世界ならではの認識だった。
加えて言えば、マテリナが受ける依頼は冒険者が受けるにしてはあまりに奉仕精神が強すぎるものだ。
ほとんど慈善事業のような、新人冒険者の救済も同様に。
大きな失敗で心を病んだマテリナは、どこか自罰的になっているのだろう。
そうとしか、ギルドの人々には受け取れなかった。
――ここまで話せば、ギルドとマテリナの間に、よくある勘違いもののようなアンジャッシュが起きていることは解るだろう。
問題はマテリナがそれを知らないこと、否定出来ないこと。
あながち間違いでもないことも、大きな問題だ。
マテリナはあの研究会での失敗が、トラウマになっている。
それが結果として、ミスを叱られないことに対するトラウマにもつながっている。
そして、困っている人間を見捨てられないのも、その経験が関係していないとはいえないだろう。
それでもやっぱり、本質的な問題はマテリナが前世から陰キャであることにこそ原因がある。
長年染み付いたコミュ障の性分は、改善の余地は殆どないと行ってよい。
そもそも本人が今の生活に満足している以上、改善する理由もさほどないし、それは本人が好きでやっていることだ。
だからきっと、ギルドとのアンジャッシュにマテリナ本人が気付いても――それを解消する理由がない。
これからもマテリナは危険度の少なく、ギルドに貢献できる依頼を冒険者ランク維持のために受け続けるし、それがマテリナの望んだことだ。
とはいえ、それは――
「――あの、すいません」
「はい?」
――マテリナを取り巻く世界には、
「さっき、受付さん……あの子に“銀妖精”って言ってませんでしたか?」
ふと、先程までマテリナと話をしていた受付嬢に、一人の少女が声をかけてきた。
「アタシ……リン、っていいます。冒険者です、Eランクで……」
リン、数日前にマテリナが救った新人冒険者だ。
それは、すなわち。
好き勝手生きるTS転生者と、その世界が、
「銀妖精さんについて、どうしても知りたいんです! お願いします、教えて下さいませんか!?」
――少しずつ、変わり始めようとしていた。
「冒険者の個人情報をお伝えするのはちょっと……」
「あっ、で、ですよね……ごめんなさい」
なお、変わるまではもう少しかかりそうであった。
なお、盗み聞き事態はマナー違反ではなく(次回触れます)、実際に物語はまだ動きません