TS転生でチート美少女になったから好き勝手生きたい 作:ぼんひん
中世風異世界ファンタジーの、ある意味最大の問題点。
娯楽が少ない。
ゲームもマンガもアニメもない。
オタクにとっては死活問題だ。
正直、前世に未練がないかといえば嘘になる。
オタク向けの娯楽がない異世界は、正直やることがないって時もたまにある。
異世界の娯楽といえば、おそらく一番は友人との呑みだ。
酒を飲み交わしながら親交を温める、正しいこの時代の人間の娯楽と言える。
言うまでもなくオタクが一番苦手なやつである。
他の娯楽に何があるかといえば、ギャンブルと風俗が最も大衆的な娯楽ではないだろうか。
前者は私も、気が向いたら遊びに行くことがある。
そこそこお金はかかるが、時間を有意義に浪費した感はある。
後者は……そもそも異性とそういう行為をする気は今のところないです、はい。
同性? …………
ともかく。
他にも前世からの趣味で、温泉巡りはそこそこの頻度でする。
でも、冒険者の街“ラビリア”の外の温泉に出かけるとなると、結構な遠出になる。
そしてラビリアの温泉は源泉が一本しかないので、「しおさい」以外の温泉に入る理由もない。
毎日の楽しみではあるけれど、休日にフラッと近くの温泉へ入りに行くような娯楽って感じでもないんだよね。
ああ、魔術の研究は半分くらいは趣味の範囲だ。
今は特に大きなテーマを持って研究しているわけではなく、気になることを適当に齧ってるだけだから気楽なものだし。
でも、それだってやる気が全く起きないこともある。
趣味でイラストや小説を書いている人の、全く手が進まない時期みたいなものというか。
他にも本を読んだり、観劇を見に行ったり、上げてみればそこそこに娯楽らしい娯楽は存在する。
しかし、やっぱり前世と比べると種類は豊富ではないし、飽和している感じはしない。
何より感じることは、布団の中で惰眠を貪っているときのお供がない!
そう、スマホである!
アレがアレば、もう何もしたくないくらいぼーっとしてる時だって、多少は時間をつぶせるというのに。
とはいえ、それくらいぼーっとしたい時の代替は、一応存在する。
魔術の研究のやる気が起きず、布団の中で惰眠を貪ろうにも特に眠気が訪れなかった時。
そんな時、ぼーっとしながらも、それなりに時間を有意義に過ごせる娯楽が、一応この世界にも存在していた。
<<<>>>
「状況はまさに逼迫していた。俺とダイラスがクリプトリザードの猛攻にさらされる中、リリアーネは毒によって意識は朦朧としている、まさに万事休すだ」
「それで? そこから全員で生還するなんて普通じゃない。どんな手品を使ったんだよ」
「ははは、ここからが面白いんだぜ、クリプトリザードの舌をな……ぐいっと引っ張ったんだよ! あまりに痛かったのか、あのトカゲ野郎思いっきり動きを止めやがったんだ!」
ガヤガヤと、喧騒が響く。
「それでね、聞いてよあいつったら酷いのよ? アタシがやだって言っても全然止めてくんないんだもん」
「はいはい、もう何度目よその話」
「何度だって言ってやるわよ! ああもうイライラしてきた!」
ここはギルドに併設された食堂の一角。
周囲には複数の冒険者パーティが、思い思いに酒や食事を食べながら話をしている。
そんな中に、フードを被ったソロの冒険者が一人。
そう、私だ。
マテリナ・マギスフィアだ。
ぼっちと言っては行けないぞ、私のメンタルは脆いんだ。
で、そんな孤高の冒険者が何をしているかといえば、一言で言えば
いや別に、悪いことをしているわけじゃない。
そもそもここは無数に冒険者がいて、他人の話なんて幾らでも耳に入ってくる。
だから盗み聞きはマナー違反じゃないんだ。
たとえ聞かれたくない話であっても、話すことを許した時点で、その話をしている方が悪いってのが冒険者の常識。
何なら
最初に耳にしていたクリプトリザードの話なんて、特にそうだ。
クリプトリザードは結構危険な魔物で、倒せれば周囲から一目置かれる。
Cランクパーティが相手するのがちょうどいいくらいの危険度の魔物だ。
装備からして、彼らは多分Dランク、相当な死闘だったことは想像に難くない。
こういう武勇伝を話す時、むしろ話す冒険者は周囲に聞いていてほしい。
周囲がそれを耳にすれば自然とその話は冒険者の中で広がっていくし、自分の知名度向上にもつながる。
逆に、そういう武勇伝を聞きたくて、周囲に聞き耳を立てる冒険者だっているくらい。
私もその一人。
ただ私の場合は、少し他人とは事情が違う。
「だからさぁ、何度言えば解るわけ? 魔術師は下手にでかい魔法を使うと倒せなかった時、その魔物が魔術師を狙うの、それがどれだけ迷惑か解らないの?」
「はい、すいませ」
ぶつっ。
不意に聞こえてきた話を、私は魔術で“ミュート”にすることで聞こえなくした。
いやだって、失敗して怒られてる話とか聞きたくないし。
私は天才だけどね? 何故かああいう話を聞いてると動悸がドウキドウキしてくるんだ。
これって……ストレス?
ともかく、私は魔術の天才だ。
聞こえてくる話を“選別”することなんて造作もない。
面白い武勇伝や興味深い噂をピックアップして聞きながら、叱られてる話とか陰口とかマイナス方面の話を聞かなかったことにする。
そうしながら食べるギルドのおつまみ――主にお菓子系、お酒を頼まずこれだけで食べて美味しいのが個人的に好みだ――を摘みながら聞く。
なんとも、優雅な午後の穀潰しと言うべきか。
時間の無駄な使い道というべきか。
そういうわけで、他人の面白い話を聞きながら暇を潰すのは冒険者なら偶にする行動だ。
私の場合はそれが結構な頻度で訪れるってだけで。
後は、そもそもそういう趣味の冒険者は話の輪に加わって、自分も楽しく話をすることが多いんだけど。
私にそんな陽キャ行動絶対無理って程度。
でもまぁ、こういう楽しみ方って前世でも覚えがあるんだよね。
関係ない他人の話を何でもなく眺めつつ、適当に時間をつぶす行為。
さながらそれは、SNSのタイムラインを眺めるかのような行為だ。
何となく、私がこの行為にどういう楽しみを見出しているか、そう例えれば伝わるのではなかろうか。
そして、こういう事をしていると聞こえてくる話の中には、こういうものだって含まれる。
「そういえば聞いたかよ、
そう、私のことだ。
私がSNSのタイムラインを眺める行為に楽しみを見出す理由には、これがある。
銀妖精、すなわちダンジョン内で冒険者を助ける謎の銀髪少女の話が、話題に登ることがあるのだ。
盗み聞きがタイムラインを眺める行為なら、これはさながらエゴサだな。
そしてまぁ、銀妖精の話題はたいてい好意的なものであるのも、私的には嬉しい限り。
「また冒険者を救ったんだってよ、今度はあの呪われ冒険者を救ったんだと」
「呪われ冒険者? あの、借金まみれのやたら運が悪いって噂の女冒険者か?」
「そうそれ。顔はいいんだけど、あまりに運が悪い上に、借金まである。正直あんまり近寄りたくねぇよな」
ふむ、どうやらこの間助けた、乙女ゲーの主人公っぽい美少女冒険者ちゃんのことらしい。
呪われ冒険者か、たしかになんというか幸薄そうな雰囲気をしていた。
というか、ソロでレッドアイドトードと戦うとか無謀もいいところだし、わざとじゃなければ
そりゃまた、運が悪いってのも本当みたいだ。
「でも、銀妖精はそれすら助けちまう、ってことか」
「お優しいねぇ、俺も銀妖精に助けられてみてぇ。すっげぇ顔がいいんだろ?」
そもそも助ける相手の事情なんて知らないよ!
私はただ、私が見捨てられないから助けているだけで。
ついでにギルドの貢献度も稼げるってなれば、メリットしかないんだよね。
死にかけてる冒険者を助けるって行為は。
「へへ、顔だけじゃないらしいぜ? 胸もすげーでけぇんだとよ」
「マジかよ……見てみてぇ」
むむっ、下世話な話。
正直男からそういう目で見られるのは別にどうでもいいんだけど、それはそれとしてなんかむむっ、としてしまう。
いや別にどうでもいいってわけではなくて、そもそも男じゃなくてもまじまじと自分のことを見られると私は耐えられないから、そもそもそういう目で見られる以前の問題というか。
……実際、そこら辺の問題が解決したとして、男にエロい目で見られたら私はどう思うんだ?
TS転生者の性自認問題、根が深い。
「いやー、ホントすげーらしいぜ? なんたって、こう! だからな、こう!」
「うおお!?」
おいちょっと待て。
「こうだ! すげぇだろ、こうだぞ!?」
「うおおおおおおお!?」
周りが引いてるからやめなさる!
私が悪いみたいだからやめなさる!
いや百歩譲ってそれはいいとして、
幾ら何でもそんなでかないわ!
確かに多少はでかいけどさ!
いや身長比で多少どころでなくでかいけどさ!
盛るな!
前世からさんざん言ってるけど、胸は盛るな!
素材を活かせ素材を!
「いっそ、こうだぁああああ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
こうだじゃなああああい!
<<<>>>
翌日。
朝、私は自室の鏡の前に立っていた。
宿の部屋に備え付けられた鏡で、普段はあまり使わない。
自分の美しい容姿にこだわりがないわけじゃないけれど、それにしたって普段は魔術で身支度を済ませてしまうので鏡は特に必要ない。
今回私が鏡を前にしているのは、手に握られたあるものが原因だ。
「……ブラジャー」
何故か異世界にも存在するブラとショーツ。
現代並のデザイン性を有する異世界の七不思議が一つに数えられるそれを手にしながら、私は唸っていた。
別にブラをつけるのがいやってわけではないよ?
擦れて痛いのよりはマシだし、流石に慣れた。
ただ今私が手にしているのは、私が普段身につけている少女らしい趣味のかわいい系ブラではなく、大人の色気むんむんのせくすいーブラ。
しかも寄せてあげれるやつ。
私のバストサイズは八十後半なんだけど、これで盛ると見た目的には90越える。
すげー存在感、私の人生より目立ってるぞこいつ。
いやね、盛るなとは言ったけど、それはそれとしてでっかいおっぱいは好きなんですよ前世から。
今では自分がそのデカパイを身に付けてしまっているわけだけど。
普段は正直あまり気にしない、揉むとやわらけーなーとは常々思うが、それでどうこうってこともないしね。
…………はほら、パーになると怖いし。
でもやっぱり、盛ると凄いって言われると、気になるわけですよ。
で、私は恐る恐るそのセクシーブラを身につけるわけですよ。
「…………でっか」
鏡に映った自分のデカパイは、思った以上の存在感を持って私の前に現れた。
すげぇ、私こんなにデカパイなんだ……ちょっと感動した。
いやでも、やっぱはずいな、そろそろハナちゃんが起こしに来るかもしれないし、着替えて何事もなかったかのように振る舞おう――
「……マテリナお姉ちゃん、普段そんな凄い下着つけてたの?」
――と思ったその瞬間、後ろから聞こえてきた聞き慣れた声。
そっとドアを開けてこちらを覗き込んでいるハナちゃん。
すごい顔をする私と私のデカパイを映した鏡。
世界の時が、ネットワークとの通信が途切れて更新されなくなったSNSのタイムラインが如く、停止していた。
TSらしいことをしなくちゃという使命感から書きました。
次回はTS名物オシャレ回。