運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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2023年4月9日に2話目を投稿予定。
その後は週間程度のペースで更新できたらと考えてはいます(儚い理想)。


プロローグ:彼が左腕を切り落とした理由とその顛末

 

 世の中何処にも、自分だけは巧くやって労苦を回避できると思い込む馬鹿はいるもので、古くは仏法を記録する律経にも、仏陀のサークルで自信満々馬鹿を言って教団追放される大馬鹿者の実例が多く書き記されている。

 尚それら判例に従い裁定すると、日本の著名な僧侶は、殆ど漏れなく教団追放の憂き目に遭う訳なのだがとまれ、星霊神社神主“ショタおじ”こと峰津院(ほうついん)堂満(どうまん)は、目の前の男もその一人かと、白けた顔でその言葉を聞き流していた。

 小柄な体に、皴一つ見当らないいっそ幼いと言っていいその顔立ち。

 板張りの道場の神棚の下、神職らしからぬ蓬髪に張り付いた笑みを浮かべた男は、目の前で捲し立てる少年に、内心辟易しながら溜息を吐き出した。

 目の前の彼の言い分を纏めると、この神社の覚醒修業は効率が悪いと言う事らしい。

 いや、内容自体には確かな知識が感じられたし、指摘自体もまぁその通りだとは思うが、もしやり方に不満があるなら、自前で覚醒修業をおこなえばいいだけの話。

 それが出来ない男が、不満を述べれば自分が優遇される等と何故考えられるのか?

 

『流れでなんとなく聞いていたけど、切りの良い所で止めるか』

 

 口には出さずにそう考えて、だから神主は、その言葉を聞き流した。

 

「なので、少し掛け金を釣り上げてみようかと思うんですが、どうでしょう?」

 

「……え?掛け金?」

 

 違和感に言葉が引っかかる。上の空の思考の、ピントが合った。

 表情は変えずに、しかし目の前の少年の顔をしっかりと見返す。

 

「ええ、やはり治してもらえる安心と、切迫感の薄さが原因だと思うんですよ。

 まぁ、マンパワー的に一人一人には寄り添えないですし、前世の死因や精神の根底に触れる痛みに遭えば覚醒できるって目算あっての話だとは思うのですけど、なら、こっちの意志で天秤に乗せるモノを増やせば、メクラ打ちより成功率が上がるかな、と……」

 

 身長百七十後半から、八十前半と言った所か?

 肩幅も広く中々に恵まれた体格に、人の良さそうなやわらかな目つき。中村(ナカムラ)翔意(ショウイ)。確かそんな名前の高校生が、こともなげに言葉を連ねた。

 そうして左を横に伸ばすと、肩のすぐ下をポンポンと、手刀の右で叩く。

 

「……なのでとりあえず、この左手一本、落としてみようかと思うんですが」

 

「あー、それは、落とした左を直さず、傷を塞いで終わりにしようってことかな?」

 

 意外な流れと、嫌な意味で思い切りが良すぎる発言に、ショタおじの笑みが罅割れた。

 

「ま、まぁ確かに、決意と掛け金分だけ成功率は上がるかもしれない。

 けれど、それで覚醒したら腕を落とすのは“誓約”になる、後で治すのは難しいよ?

 ぼくら転生者なら、普通に修行するだけでも覚醒できる可能性が高い。

 その為だけに腕を落とすのは、流石にお勧めできないかな」

 

「いや、治す気もないですけど、流石にそのままにしとく気もないですよ。

 ほら、先日の一件で割と紛糾してるって聞きまして、その収拾に貢献できたらなと」

 

……先日のことだ。転生者の互助組織である彼らガイア連合から、初めての死者が出た。

 それが、未だ霊能に目覚めていない非覚醒者が、ルールの隙をついて悪魔の巣である異界に飛び出した結果だとか、死因が雪女にチュッチュしようとした結果吸い殺されたとか、にも拘らず反省もせず、武勇談として掲示板で情報を拡散したとか、何かと突っ込みどころが多いこの事件だが、その中でも今一番ホットな話題が、ガイア連合の技術で蘇生されたその馬鹿が、霊能への覚醒と性転換とを果たしていた事だろう。

 

「腕一本落として参加しました。腕シキガミで順番消費したんで、優先順位最下位になりましたって発表すれば、浮ついた層も少しは黙るんじゃないですかね?」

 

 転生者、他の世界に生まれ、死に、この世界に生まれ治した彼らは、その経験から霊的なパワーが強く、またその知識から、今生の世界が危うい事を知っていた。

 そう言ったイレギュラー達が、峰津院堂満と言う特級の才能の元に集った互助組織がガイア連合で、その性質上彼らの中には、自衛の力を求めるものが少なくない。

 そして、ハードルは低い方が望ましいと感じるのも、人情と言うものだろう。

 加えて、転生前後の性別が異なり、その性差に馴染めずにいる者達もいた。

 長く地道な修業や、辛い地獄めぐりを経ず、手っ取り早く力を得たいと思う者、前世の性に戻りたいと願う者。その事件は、彼ら彼女らに福音を齎したのだ。

 

『なるほど……』

 

 屈託の無いその言葉に、ショタおじは少しばかりの安心と、同じか少し多い位の失望を抱いた。

 彼がこの神社に同じ転生者を呼び集めたのは、同胞意識もある――と言うか、割とクッソ重い――が、デスマ常態な異界管理の肩代わりを狙ったものだ(と、本人は自己欺瞞を行っている)。

 だが見た感じ、彼には性別の違いに悩んでいる風もなく、また、一般的に、こう言ったズルをしたがる者は、折れやすく、不真面目と相場が決まっている

 

「ふぅん、それで君は、どうなりたいんだい」

 

 だからと、打ち折るつもりで期待を持たせるような問いを返して、

 

「え?」

 

「え?」

 

 きょとんとする相手の顔に、こちらも半拍遅れて同じ言葉を返した。

 

「あ、ああ、ああ。いや、違いますよ。俺は前世から男ですし。

 余り痛い思いをせずに覚醒したいのは確かにそうですけど、どっちかと言うと、情報集めてる時に、これだと覚醒できる気がしないって思っちゃったのが元ですから」

 

 その少年、中村・翔意は、現在高校一年生。それ以前は当然中学三年生だった。

 それは、転生者達の尽力に普及が早まった今世でも、自前のネット環境を持てるような歳ではなく、だから必然的に修行オフ会の存在を知るのも遅くなった。

 加えて受験だの、進学直後のゴタゴタだの、学業の色々だのとあって、中学三年生の時に知った修行に、高一の夏休みの今、初めて参加している状況だ。

 そしてそれも、夏休み一杯使える、と言うようなものでもなかった。

 それが予想できていた為、翔意はその存在を知った直後から掲示板で覚醒修業の情報を集め、自前のオカルト知識とすり合わせてその真似事を日課にし、ハードモード修行に付いても端々漏れ出てくる情報を集めて纏めていたのだが、その結果、思ったのだ。

 

『これで覚醒するのは無理っぽい』

 

 知ると言う事は、備えが出来ると言う事だ。心構えが出来てしまえば、知らない時よりもその衝撃は少ない。つまり、魂を揺り動かす衝撃は、弱くなる。

 そうなると、後は期間一杯使って延々拷問を受け続けるしかなく、翔意は痛いのが嫌いで、苦手で、そうと知って尚、続けられると思えるほど自信過剰でもなかった。

 

「まぁ、心構え(思い込み)もそうだけど、知ると感得が難しくなることは確かにあるね。

 ……じゃあなにかい?

 義腕の件は、単に覚醒の二の矢とデメリット克服の為で、それ以外他意はない?」

 

「腕落とす関係で、直感的に違うと判って、長袖と手袋で誤魔化せる程度に異形で普通にしてほしいとか、ダルヴ・ダオル対策は徹底して欲しいとかはありますけど……」

 

 少年は、覚醒のお膳立てを損なわないようにしたいとか、アイルランド神話の主神を隠棲に追い込んだ虫の名等を指折って挙げるが、そもそも“システムにバグやウィルスが入らないようにして欲しい”は、当然の心配であって要求とは言い難い。

 

「あー、怪力が欲しいとか、武器に変形させたいとか、左腕に光線銃とかは?」

 

「いざという時盾に出来るぐらい頑丈だったり、後は器用な方が嬉しいかなとは思いますけど、腕一本だけ過剰に強かったり、武器を仕込んだりすると、使い辛かったり、色々バランスが崩れたり、それ前提の鍛錬とかする必要があったりしません?

 そもそも俺、覚醒してないですし、まだ適性とかも判らないんですけど?」

 

 不思議そうな顔でマジレスする翔意に、ショタおじは苦笑を浮かべた。

 

「……そうだね。

 じゃあ、製作費は借金として計上、割り込みにより二体目以降の製作優先度は最低とする。

 また、キミが覚醒しないと、使った分の資金・資材が回収出来ないから、失敗した場合、覚醒するか、時間一杯になるまでハードコースの修業を強制させてもらうよ。

 それでもいいなら、許可しよう。どうする?」

 

 ではそれならと、止める心算、半ば以上脅しで、そう不利な条件を連ねる神主……。

 

「はい、お願いします」

 

 ……その問いかけに間髪入れず頭を下げた男に、神主はジト目と苦虫を噛み潰したような表情を向けた。

 

「中村くん、君、思い切りよすぎないかい?

 ……痛いの苦手で根性無しって、絶対嘘だろ?」

 

「いや、本当に苦手なんですよ。基本平和主義ですし、追い詰めないと動けないし。

 ……アレですよ、銃夢って漫画知ってます?

 あの続編に、臆病な思想家の(Drヴァレスって)マッドサイエンティストがいたじゃないですか?」

 

 そんなショタおじに、翔意はしかし、飄々とそんな事を言った。

 

「映像の中の自分が、涼しい顔で構わず殺したまえとか言ってる下で、現在の自分は浅ましく泣きながら命乞いしてる。大体ああいう感じですって……」

 

 

.

.

.

.

 

 

 

シキガミボディの生体移植を考えるスレ その32

 

762:★運営

 シキガミ生体移植の治験について、応募ガイドラインが制定されました。

 合わせて、近く行われる大型移植治験第一号に付いての資料も添付されておりますので、希望者各位は確認の上、検討をお願いします。

 

763:名無しの転生者

 ガタッ

 

764:名無しの転生者

 俺が左腕にビール瓶を持つ時が、終に来たのか

 

765:名無しの転生者

 おかしいな、あんなにお気持ち表明したのに、俺のとこには何のメールも来てないぞ

 

769:名無しの転生者

>>765

 ウチも着てねぇな。

 

770:名無しの転生者

 このガイドラインマジ?切迫した理由の無い応募者って、ほぼほぼ奴隷契約やん

 

776:名無しの転生者

 あー、切迫性の無い案件だと、内臓とかの大規模移植は未だ無し。

 現状、希望して出来るのは魔法治療で十分復元できる手足の移植程度。

 移植するパーツも、基本切り落とした自分の体を元に作るから、性転換なんかもない。

 しかも、移植部位落としてからそれを元にボディ作るから、数日から数週間、不自由な状態で過ごす事になる。ほんとに基礎データ取ってる段階って感じなんだな……。

 

777:名無しの転生者

 志願した人、マジでこの条件受けたんか……。

 シキガミボディ移植で覚醒し、移植時切り落としたパーツで高級シキガミ製作してチュッチュする、俺のぱーへくとなプランが……。

 

778:名無しの転生者

 資料の方に、被験者の腕落とすムービーあるけど、これマジか……。

 流石に、作り物だよな。

 

780:★運営

 捕捉します。この条件の殆どは、被験者側から提示されたものです。

 ムービー撮影も切除方も、被験者の希望で本物です。

 当人曰く「リスクを負う事で自分を追い詰め、覚醒率を上げたい」とのこと。

 なお彼は、この左腕切除により覚醒を果たしました。

 今は、義腕の完成と移植手術を待ちながら、霊能の修業を継続しています。

 

782:名無しの転生者

 覚醒ガチ勢……。

 悪魔に家族でも殺されたのかな?

 

785:名無しの転生者

 何で鬼の金棒で腕落とさせてるんですかねぇ……。

 

786:名無しの転生者

 目線は隠れてるけど、歯をガチガチならして、膝も笑ってる。

 なんでコイツ、こんな公開処刑みたいな切断方選んだんだ?

 

788;名無しの転生者

 キンキの金棒で腕落とすって、控えめに言っても狂ってるよね。

 未覚醒で初見なら、まぁこうなるのもむべなるかな

 ……まぁ、ハードコースだと日常茶飯事なんですか。

 

790:名無しの転生者

 このキ○ガイに、俺ら移植希望者は夢を潰されたわけか。

 

796:名無しの転生者

>>790

 いや、性転換希望者なんかは、寧ろ少しでも事が進んだのを喜んでるぞ。

 

797:名無しの転生者

>>790

 あんまり都合の良い事言ってる奴が多かったから、わざわざこう言う条件提示して、で交渉して移植を勝ち取ったんやろな……。

 メールボムには事務方も迷惑してたくさいし。

 

801:名無しの転生者

 覚醒してからの移植なら、そんなに負担も大きくないよな。

 ※既にMyシキガミ持ってる奴に限る。

 

802:名無しの転生者

 移植する腕も、耐性以外特に力も能力もない予定なんだな。

 本当に、初期実験って感じ……。

 

809:名無しの転生者

 まぁ、彼のおかげで少しは移植案件も先に進む……んだよな。

 俺達は感謝しないと。

 

 

 

 

 

 

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