運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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主人公はハッピーエンドを前提にどんだけ虐めても良いけど、なんで私はぽっと出の花子さんや校長先生をこんなに虐めてるのだろう?

※ご指摘に基づき、誤字修正及び、リベラマとエストマの解説を追加しました。
 現状、説明を挿入修正するまでの余裕がが無さそうなので、取り急ぎ解説だけです。


第3話-2 トイレと校長と

 南下してきた四号を、折り返して北上する。

 途中分岐し、大きく曲がって新四号へ接続するY字路を、無視して直進。

 かつて藩の中心だった宇都宮城と、今市の中心の一つである東武宇都宮駅。

 二つの脇を通り、市内横断の目抜き通りに突き当たる旧四号、現119号東京街道をまっすぐと。

 進んだ先の国道沿いに、築三十年の、その幾分古びた校舎はあった。

 市立城西中学校――その名の通り、戊辰戦争で焼け落ちた宇都宮城址のすぐ西側にあるその中学は、学校敷地内が城の刑場跡だとかで、首切り坂の地名はあるわ、オカルトスポットとして一部で有名だわと、まるで漫画の様に盛り沢山な市立中学だ。

 そしてそんな子供に噂しろと言わんばかりの学校が、栃木の現環境下、東武日光線の支線、宇都宮線の終点駅近くにあるのだから、これは妖怪の一つも現れると言うもの。

 それが、戊辰戦争の怨霊や、宇都宮城釣天井伝説を反映した妖怪ではなく、現在小学生を中心に流行している都市伝説の花子さんであったことは、まだ助かったと言って良いやら、それとも子供達が危険に巻き込まれる位置に再出現(リポップ)する事を嘆けばいいのやら?

 

『危険を考えれば、赤マントやカシマレイコ辺りが現れるよりはマシ、と考えるべきなんでしょうが……』

 

 どこぞの身内の犯行で、近年花子さんには悲劇のヒロイン枠の認知が定着しつつあるらしい。その為、学校に顕れる個体も、概ねは無意味に人を傷つける個体ではなかった。

 とは言え、怪談に根ざす以上、どんなに善良そうで愛らしくとも、ルールに触れた途端、こちらを容赦なく殺しにかかるのは変わりないわけで、出現地点が中学、日本中でその怪異の物語が流行中とあっては、最優先駆除対象となるのも当然の話だ。

 当然、なのだが……。

 

『……本当に、どこかにクシロカヘシ使いでも落ちていませんかね』

 

 アクマを殺して平気なの、とはゲームの台詞だが、少なくとも彼やその先輩は、人型で会話が通じるものをこちらから攻めて殺して、何も思わない程冷徹にはなれそうにない。

 尤も、二人とも必要と判れば心を切り替え蓋をするくらいはできる性質だったが、出来る事と、それに何を感じるかはまた別の話だ。

 

「ショタおじが、悪魔と交渉なんてさせたくないって言ってたのが身に染みるな」

 

 それこそ、ショタおじの知識と力、転生者達(かれら)の素養が合わされば、彼女達を殺さず祀り、その周辺の地鎮とする事も不可能ではないのだろう。

 だが彼らの盟主は、こう言った所では過保護もいいところで、悪魔との交渉や祀りの技を教える事にはあまり積極的ではない。

 そして花子さんの駆除経験を思えば、それは大多数の転生者にとって正解なのだろう。

 

「無駄に抱え込んだり、騙されて操られそうなのが、目に見えて」

 

 そうして溜息を一つ。

 目的地を行き過ぎて、市街地へと入り込む。

 このまま進めば城址公園に突き当たるその道から更に路地へと入り込み、乗り手は目立ちすぎる自転車に向いた視線を切った。

 

『たのむよ』

 

 そして放ったその念を受け、彼の駆る自転車はほんの少しだけ身震いする。

 リベラマ、気配を操作し周囲のものの感覚の働きかけて、発見を促したり、妨げたりする魔の技が、隠れ身を目的に放たれる。

 それは空気を震わせるようにして周囲に伝わり、一人と一台の姿を覆い隠した。

 そして、跳躍。

 少年の放つ力と動作、車輪のロック、早さの反動、そして自転車(シキガミ)の力。

 噛みあう力が上に跳ね上げ、人車一体宙を舞う。

 リフトマ、幻視、身を浮かせる術の力に、空を駆ける妖精馬の蹄が重なった。

 人より高く跳び上がった前輪、虚空を掴み、その着宙の衝撃、反動、体動、後輪を引き上げ、そして更に上へと跳躍、放射。

 まるで、崖を昇る山羊類かなにかの様、自転車は切り立つ虚空を駆けあがる。

 そして跳び昇る事暫し、今度はしかりと馬の前足、車の前輪が目の前の虚空を噛んだ。

 高さはもう十分か?崖を登り切り駆けだすようにして、宙を掴む車輪は今度は前へ。

 そうして民家の、ビルの、体育館の屋根上を過ぎ越し、やがて車輪は校舎屋上の柵を走り超え、音を殺して降り立った。

 

「ここで待っててくれよ?」

 

 自立する二輪を降りると、隠蔽から外れた一車に一人が、突然姿を現したように見えたのだろう。階段を納め屋上に突き出す塔屋の傍らで、鶴の様に痩せた撫で付けた白髪の男がびくりと身を震わせる。

 今の時代から見れば、小柄と言うしかない体躯に載った温厚そうな顔が、確かな驚きと僅かな恐怖とを宿しているのが見えた。

 

「おはようございます……と言うのは少し変な気もしますが、僕ですよ、直枝先生」

 

 そして直枝老人の身の震えは、その声と同時、ほっと僅かな笑みに変わる。

 少年には、自分に向いた視線や意志、感情の方向を、運気の流れで見分ける力がある。

 それに見えたモノは安堵。自身ではなく、恐らく生徒への被害を危惧したそれ。

 

「あ、ああおはようございます、中村さん。

 いつもの事ですが、その自転車は凄いですね。まさか空を走るなんて……」

 

「空飛ぶ馬の伝承は多いですしね、獣が空を駆けるなら、自転車だって空を走りますよ。

 何せ重さが、何百分の一です」

 

 天駆ける悪魔が、見た目通りの重みを備える身で空を駆けるなら、その何百分の一の重さしかない自転車が宙を走れないなどと言う事はあり得ない。

 そう胸を張った自転車部部長、全身の毛と言う毛の殆どを剃り落した禿頭小兵の中年、生松氏の言葉を思い出す。

 無論、それを行えるようにするには、適した悪魔の選定にシキガミ化、術の補助によるその能力の発現と言った様々な技術的ハードルを越える必要があったそうだが、氏によれば、飛行型自転車技術は既に充分な採算性、再現性を備えているらしい。

 

「なるほど、言われてみればそうですな。

 馬が空を駆けるなら、より軽い自転車はもっと空を走る、ですか」

 

 尤も、本来足を地から離す程度の効能しかないリフトマを介し、自転車の車体を獣の体と見立ててのこの能力だ。現時点ではそのまま宙に走り上がることはできず、上下動はああして、獣の如くに宙を跳ね昇って行くしかないのだが。

 

「……それよりも先生、今日も立ち会うおつもりですか?」

 

「ええ、私はこの学校の責任者です。それに、この歳になって自覚するのも奇妙な話ですが、どうやら彼らを見る力を持っているらしい。生徒を預かる身として、彼女等の排除を求めた責任者として、それをきちんと見届ける必要があると、私は思います。

 ああ勿論、専門家の皆さんが危険や負担だと判断されるのであれば、おとなしく後ろで待たせてもらいますが」

 

 少年、翔意の質問に、直枝校長は屋上の柵に手を掛け、グランドで活動する部活動の生徒たちを見下ろした。その口元が、何かほろ苦い笑みを湛えているように見えたのは、少年の気のせいだろうか?

 

「先生、何度も言うようですが、彼女らは人の噂話を媒介にこの世界に顕れた悪魔であって、見た目通りの人間霊では、ましてや、この学校の生徒ではありません」

 

「老人の感傷で、皆さんに余計な負担をかけているは重々承知しているつもりです」

 

「いえ、そう言う意味で……」

 

「中村さん、冨和さんもそうですが、どれだけ強い力を持とうとも、私の様な者から見れば、お二人はまだまだ子供なのです。どうか私を、子供達に殺戮の責任を預けて校長室の皮椅子で知らないふりをする、そんな卑怯な大人にはさせないでください」

 

 言葉を遮る様にして頭を下げた老爺に、少年は溜息を吐きだした。

 似た遣り取りは、もう何度も交わしているのだろう。

 互いに言葉は真剣なのに、その表情には幾分の慣れと言うか、互いに取り下げないのだろう、そう言った諦観に似た情が薄く滲んでいる。

 

「僕らはそれでお金を貰っているわけですし、これは文部省とは別方面からの依頼で、先生はそのただの協力者です。そんなに気負う必要はないと思うのですがね」

 

「もう歳ですし、この貧乏性だけは治りそうにありませんよ。

 尤も、余計な手間を駆けさせたお詫びは、何かしないといけないとは思っていますが」

 

 だが、その先はいつもとは少し違ったらしい。

 その教師の言葉に、少年の口元がほんの少しだけ、ニヤリと吊り上がる。

 

「でしたら、許可が出次第先生をウチにご招待しますよ。

 ええ、先生が最低限でもこちらの業界を知り、対処法を学んで下されば、僕らも少しはのんびりできますから。

 ご存じないと思いますが、戦後の混乱に乗じてメシア教の屑どもが無茶苦茶やってくれたおかげで、今こちらの業界は慢性的な人員不足なんです」

 

「……え?」

 

「今日もね、別件が本業の僕はここで仕舞なんですが、冨和先輩の方は泊りで県南を横断する大仕事なので、先生が管理してくれて、ここを緊急対処案件から外せるだけでも、こちらは大助かりなので、ええ」

 

 何かの癖なのか、ショタおじへのプレゼン同様に捲し立てた彼に、校長はその両目をぱちくりと。

 

「いえ、教えてくれると言うのはありがたいお話ですし、やれと言うのなら喜んでと答えますが、それはこの歳からでも大丈夫なのですか?」

 

「そりゃあ、なんだって若い方が有利ですし、肉体の衰えは霊的なアレコレにもかかわりますが、こう言った事は血筋だの才能だのより、ソウルの強さの方が重要ですからね」

 

 何しろクズノハも、霊的血脈等よりそうした面を重視し人を集めていたし、だからレッドマンもカツヲを導いたわけで、正直ロバだの血脈がなんだの言う風潮は、そう言った呪い(にんち)を自分達に課してしまっているだけなのではと、彼は思っている。

 自分達転生者周りがハッチャけているのも、そう言った鎖が絡んでいないからではと。

 そして、そう言った意味で、先生は間違いなく見所があった。

 なんと言えばいいのだろう、彼ら栃木派出所の二人と知り合い、友好的な関係を築いた事も含め、何処か運命の糸が絡んだようなところがある、そう感じるのだ。

 尤も、一般物語主人公ズと比べれば、薹が立つどころか葉が枯れ落ちてからの開幕ではあったが……。

 

「……だから先生なら大丈夫です。僕らが保証しますよ」

 

 加えてまだ自覚こそ無いようだが、目の前の校長の霊格は、花子さんの駆除に立ち会い、その様を直視し続ける事で磨かれ始めているように見えた。

 勿論少年には、人の位階を見抜き、数値に直すような便利な能力はない。

 だが、人それぞれが持つ影響力の大きさとその質を、なんとなく認知する事は出来たし、老人のそれは、徐々に大きさと鋭さを増しているように感じられるのだ。

 これについては、冨和も同意見で、だから誘い方や関わらせ方に違いはあれ、勧誘自体には賛成で一致していた訳なのだがとまれ、困惑のまま黙り込む校長に、少年は言った。

 

「無理に、とは言いません。

 ですが、歩きだすのに遅すぎる事はないと思うのですよ、僕は」

 

 ――そうだ、二度も失敗した自分が、こうしてまだ歩いているのだから。

 

 ふと、心の奥を掠めるそんな思いを、意図せず流し、少年はその口元に、少しばかりの苦味が混じった微かな笑みを浮かべてみせた。

 そんな彼の目の前で、校長もまた、フッと口元に困ったような笑みを浮かべる。

 

「そこまで言われては、何も言えませんね。

 中村先生、この歳の初心者で恐縮ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします。

 ……まぁ、まだ申請中で、許可が出たわけではありませんがね」

 

「そう言えば、そう言うお話でしたな。これは勇み足だったようです」

 

「いえ、どちらにせよ、中途半端に目覚めた状態は返って帰って危険ですので、元々、少しこの業界の知識や、自衛力は持ってもらおうと言う話はしていたので……」

 

 そう言いながら、翔意は階下を見下ろした。

 陽はもう暮れかけ、グランドの部活生徒も、既に部室へと戻りつつある。

 

「……と、そろそろ動いてよさそうな頃合いですね。」

 

「ですな。花子さんらしき怪は、今回も例のトイレです」

 

 流石に学校は不味いと思ったのか、この件では根願寺の手により、学内の力の導線が創られ、顕現する個室を限定する仕掛けがごく初期に施されている。

 一応、同じような仕組みを路線上の漏れやすい幾つかに形成、力を集中し敢えて異界を形成する事で排気孔とし、対処を楽にする計画もあるそうだが、異界発生を容認する方策と、後ろ盾は確かにせよ、海のものとも山のものともしれぬ者達に管理を丸投げせざるを得ない現状、そう言った動きに対するメシアの反応、純粋なマンパワー不足など、様々な問題から寺内で紛糾しており、計画が実行に移されるにはまだまだ遠い状況らしい。

 

『きっと、仕事が楽になりだした辺りで動きだし、また別の問題が出て来るんだ』

 

 ――とは、一番やさぐれていた時期の冨和の言だが、実は翔意も、その可能性は少なくないと考えている。尤もこちらは、

 

『間違いなく奴らは、一番不快なタイミングでシャシャってくるでしょう』

 

 デスマーチ漬けの諦観ではなく、某組織への個人的感情から醸造された、強烈過ぎる負の信頼感のなせる技であったが……。

 ともあれ二人は、人通りのない階段を下り、校舎内を件のトイレへ向かって歩く。

 屋上から四階、四階から三階、校舎中央の階段を降りその傍らのトイレをの脇を通り過ぎると、そのまま三階端の、倉庫に改装された空き教室へとその歩を進めた。

 花子さんの噂で最もポピュラーなものは、三階のトイレの三番目の扉を三回ノック。

 これでは三階トイレを封鎖するしか事故防止の方はない為、根願寺は細工の際、三階端の空き教室を仕切り倉庫化。その一つの中の、生徒用トイレの二番目、三番目の個室の間に新しく個室を造り、呪術的にそれを三番目と定義づけて、本来のトイレから花子さんの個室を消している。

 校長が鍵を開け、閉鎖された倉庫の中へ。

 二重ドア、防音が施されたそれを開いて、中の灯りのスイッチを入れた。

 窓の無い暗室、掃除が行き届き無機質な印象を受ける部屋の中、その中程に一つだけ、場違いに設えられたトイレの個室がある。その中からしくしくと、若い女の物らしき啜り泣きが聞こえて、扇動する校長は眉をひそめてその顔を伏せた。

 翔意が前に出、個室の扉をトントントン、三回叩く。

 

「だぁれ?」

 

 嗚咽混じり。どこぞの声優に似ているらしい、聞きなれた少し舌足らずな鼻声。

 男は答えず、鍵の無い扉を奥に向かって押し開いた。

 少女だ。

 この倉庫にただ一つだけの小さな採光窓の下、蓋を降ろした真新しい洋式便座の上に。

 白シャツとループタイ、クラシカルな赤い吊りスカート。あどけなさの残る顔立ちを悲嘆に染めて、おかっぱの少女は、呆然と扉を開けた少年を見上げていた。

 

「こんばんわ、花子さん」

 

 感情を押し殺した声で少年が言うと、

 

「……そう、貴方はまた、あたしを殺すのね」

 

 少女は、見上げる涙跡、そんな言葉を呟いた。

 ひゅっと、少年の背後、校長がか細い息を漏らす。

 

「君は、僕を覚えているのですか?」

 

「ここは鎖されているから、だから、多分」

 

「そうですか、辛いな」

 

 結界は、外と中とを峻別し、相互の移動を阻害する。

 特にここは、花子さんの怪を外に出さない為に作られた牢獄だ。

 当然、殺された彼女の欠片はここに吹き溜まり、降り積もったそれが、新たなる花子さんとして再誕する事もある……のかもしれない。

 実際見た所、彼女は今までに見た花子さんよりも受け答えがハッキリとして、その存在も、力も、以前のそれより強いように思われた。

 

「な、中村さん、その……」

 

 翔意の背後で校長が、その顔を悲痛に歪める。

 同じ顔、同じ性格、同じ姿の怪物が、定期的に現れ、殺される。

 連続性の無い、ゲームめいた再出現――それが老人の心の最後の一線を守っていたのだろう。

 一連なりである可能性を知ってしまった事で、蓋をしていた感情が徐々に溢れだす。

 そして、その反応を、少年は意識せずにはいられなかった。

 

「先生、この部屋の外に出ていてください」

 

 ふと溜息、背後の彼に少年の目が向いた。それで視線が切れて、少女が動く。

 音もない跳躍、怪物めいた。死角、俯き向けた少年の顔の反対、天井すれすれを飛び抜け、背後で同情を見せた老人と、それに配慮を見せた少年の心を攻めようと。

 幽鬼の如くふわりと、猿の如くに俊敏に、それは天井を音もなく蹴って。

 続き、パンッ!と、小さな部屋に響く、火薬めいた破裂音。

 飛び越え襲いかかっり、一矢報いるか、或は老爺を質に外へ逃げようとしてか?

 少女の起死回生は、しかし、その軌道に置かれた爆発に遮られて落ちた。

 サイ。念じた所を爆発させる、念爆の呪文。

 放つ事無く使えるまでに成長した無音のそれが、彼女の運命線を鎖し破裂する。

 そうして墜落、床に倒れ伏すその背を、少年の足が踏み止めた。

 

「うぁぁ」

 

 少女の口から漏れ出る苦鳴。自由を求め、滅茶苦茶に振り回される手足を、しかし踏み抑える翔意の軸足は霞の様に擦り抜ける。

 そして、重い。

 ただ軽く踏んだように見える足は、人ではない少女の体を、地に縫い止めて離さない。

 覚醒、そして、戦闘。二カ月と少し前、多少走るのが早い一般人でしかなかった彼は、今やそんな物理を超えた怪物に成り果てていた。

 

「すみませんが、君が今の僕に勝つには、まだ何十回か殺される必要がありますね。

 その間こちらも成長しますから、恐らくこの手段で抜けるのは不可能でしょう」

 

 その言葉に真実を感じたか、暴れる少女の手足から、くたりと力が抜け落ちる。

 鼻を啜りあげるような音。それが、人を油断される罠ではない保証はないが。

 

「じゃあ、あたしは、あたしはどうしたら」

 

「さぁ? ただ、僕らと違って君は独りです。

 投げ出す覚悟さえ持てば、比較的楽なんじゃないかと思いますがね」

 

「……投げ、出す?」

 

 返事を期待しない呟きに、返ったそんな言葉に彼女は不思議そうにそう呟いた。

 

「ともあれ、続きは次の機会にしましょうか。

 おやすみなさい、花子さん」

 

 少年はそう声をかけ、動きを止めた少女にその掌を向けた。

 

「なか……」

 

 沈痛な面持ち、二人を見ていた校長が、何某かの意志、少年の名を喉に乗せたその始まりと同時に、彼はその口の中、なにがしかを呟く。

 そして、次の瞬間少女は崩れた。

 さらさらと、風に乱される微粒子の様に、身体の端から空気に溶け崩れる様に、音も無く少女は、その形を失っていく。

 初めから幻であったように、いつもの如く、その存在は崩れ掻き消える。

 

「……あぁ」

 

 そして、詠嘆。

 少年の名は途中から、その途中で声とも息ともつかぬ、嘆きの音へと変わった。

 





・宇都宮の地理
 昔の道路地図がなんか見つからなくてうろ覚えである。見つかったら修正するかも。



・クシロカヘシ/朝松健著、魔術戦士より
 本来は、荒ぶる神を和魂として祀る神の変造術。
 作中では、大物主を蛇神の系譜で繋げ、サタンと同一視されるセト神と同体と見立てた儀式で、賀茂氏の娘にサタンの血脈を生み出させるという計画に用いられた。
 割と記憶があやふやなので原作を探したのだが、ハルキ文庫版全巻を持ってるはずなのに、何故かクシロカヘシが登場する一巻のみが見つからず。なぜじゃ……。



・山羊とワイルドハント
 レベルが足りないので、ワイルドハントはまだ、そのままでは空を飛べません。
 なので、現段階ではリフトマを併用した崖のぼりか、坂を利用して空に上がる設定。
 なお、山羊類は上下動に強く、比較的大型の種は、人の子を背中に乗せて崖登りなど普通にするそうで、最初はアイベックス的なパイコーンのアクロバティック崖登りロードにしようかと考えていましたが、ハッタリが足りないのと、今生の翔意くんは清い身であるので、ボツに。



・市立城西中学校
 江戸城本丸周辺の武家屋敷群の西側外延にあった刑場跡に作られた中学校。
 何故か東側にあると思い込んでいたのだが、モデルの立地は西側街道沿いだった。
 昔、ブラタモリであの周辺の地図と古地図を映してた記憶があるので、録画を残しておくべきだったかなぁと後悔中。
 記憶で書いてたんで、投稿前にグーグルマップで確認して良かった案件。
 後、もう解体は始まっていたようで、倉庫として使われている体育館だけになってた。
 ヨークベニマルを中心とした商業集積が出来るらしい。
 後、校舎の構造は、話に使いやすいよう端から参考にしてません。



・リベラマとエストマ
 エストマは遭遇率低下、リベラマは遭遇率上昇の魔法、なんですが、作品によってはエストマが低レベルの遭遇を無視する結界で、敵をバシバシ跳ね飛ばしているエフェクトがついていたりするので、今作ではリベラマを気配操作の魔法に位置付け、人間相手の遭遇率低下にも使ってます。
 バシバシ人間弾き飛ばしながら移動するのは流石に……ですので。
 小枝を弾いたりなんかにエストマ使ってるような解説があったのも、その辺りが理由です。




・直枝校長
 市立城西中学の校長。ふさふさ白髪頭の、鶴の様に痩せた小兵の老人である。
 状況的に再出現確率が非常に高い学校の校長であった為、普通は繋がらないラインからの要請で、現地での隠蔽その他を担当させられている人の良い定年間近のおじいさん。
 それと、あの倉庫の中の掃除も直枝校長の担当。
 真っ当な校長先生なので、そりゃあ高校生が、推定JCにあんなことしてるの見たら悲しむし、自分を責める。



・才覚関連とソウルの強さ
 カオ転開始後に血筋とかよりソウルの強さ重点と言う情報が出回って、割と設定との齟齬が産まれてる感のあるこの話。カツヲらのような野生のSSRとかが余り台頭しない点も含め、自分達の認知で自分達が縛られてるからと定義付けてます。
 黒札の中にも覚醒し難い人間がいるのも、転生の目的として覚醒したくはないか、自分で自分の殻を作ってる案件かなと。
 なので、覚醒転生者の認知に侵されているその周辺人物には、殻を破る人間が生まれやすいし、不退転の決意で挑めば割と殻は破れる設定。



・花子さん
 ただやられるだけの経験値タンクにはしたくないと言う私のエゴです。
 やられるほどに濃縮され、徐々に記憶を残し力を付けて行くJC花子さん。
 尤も、力源が力源なので強化速度は速くない上、風向きが変わるまでは、悪魔狩りにとっても、花子さんにとっても、校長にとってもハードモードが続く胸糞仕様です。



・怪物
 カオ転系の戦闘シーンでアクション主体なのって、キャーメンライダァ的なノリのが多いので、厨二入ってない伝奇系バトルを目指したい今日この頃デス。

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