本来オマケな解説ばかり長くなって本編が短いとかホントアホ。
あの日、報告を送ってから三日後の朝、彼は突然派出所に現れた。
「よ、翔意。久しぶり」
そして土曜の昼過ぎ、事務所に顔を出した少年に、男は軽く片手を上げる。
浅黒い肌、少し乱れたオールバック、鼻に掛けた丸眼鏡のサングラス。
原川・弾――事務所の自席に腰かける先輩に、少年は目を丸くする。
「……原川先輩?
どうして突然栃木まで?」
「おいおい、ヘルプを送ったのはお前さんだろ?」
「ですが、先輩は製造班では?」
「だから、だよ。俺はシキガミコア製造の資格持ちだぜ?」
シキガミ、ガイア連合を象徴する一つであるこの特殊な使い魔は、悪魔を人為的に零落/召喚させたものを契約で縛り、それをコアに用いて創られる。
そしてその成長と共に、主の相棒と言う物語を刻印された、原型悪魔の特殊な分霊として返り咲くのだ。つまりそれは……。
「トイレの花子さんを、伝承繋がりで
流石にショタおじに御出座し頂くには小さな案件だし、なら俺達の出番ってわけさ。
今後、開設する可能性が高まってきた、支部施設のテストベットにもなるしな」
彼らガイアのシキガミコア製造資格持ちは、他組織の一流の悪魔召喚師にも比肩しうる召喚術師だと言う事だ。契約術式をショタおじのそれに依存し、素の悪魔を戦力として使役する技術に欠けるものの、花子さんと契約を結び、望む方向へのランクアップが可能な使い魔に仕立て上げるのに足る技術を、彼らは備えている。
「支部施設、ですか?」
「ああ、支部に対終末仕様大規模結界の構築機能を持たせる案があるらしい。
なんで、東京有事の備えも兼ねて、ここの派出所で試したいんだとさ。
で、土地神との交渉は面倒だし、そもそも仲立ちする旧家も壊滅してるって話だから、この花子さんランクアップ計画と連結してやればいいんじゃねって話になった」
東京結界の関係で、すでに地脈操作がなされている栃木は調査の手間が少なく、仮に支部が開設されない流れになっても、結界を通じ異変が伝播する可能性が高い土地柄、後方施設にその対抗設備を用意する意義は少なくはない。
「なるほど、ありがたいお話です」
……と、言う名目で援助してくれたのかなと、翔意が過保護な神主を思い浮かべると、その目の前、椅子にふんぞり返って座る原川が、その顔をにやり歪めた。
「ふっふっふっ、それだけじゃあないんだぜ?
例の花子さん再発防止策とか、現地覚醒者用の武器とか、自転車部からのレヴューの謝礼とか、色々纏めて持ってきてやったさ。
このお優しい先輩様を、平伏して崇めたまえよ。
……おかげで山梨からこっち、重い軽トラを只管転がしてきたんだからな」
「ありがとうございます、先輩」
そして、流石に平伏はしないが、普通はしない程深々と頭を下げる翔意に、一転、原川は真面目な顔をした。
「まぁ、あれだ。
割と精神的にやられてるって聞いてたから、思った程では無さそうで少し安心したよ。
こっちにいる間は、俺も掃除も手伝うから、大船に乗った気でいいからな」
「とは言え、今日は余り報告が来てませんから、原川さんの出番はないと思いますが」
そこに、お茶とお茶請けの盆を手にした小鳥が、横から合いの手を入れると、原川はふむと腕を組む。置かれた湯呑と茶請けの小皿に目もくれず、言った彼女を見上げた。
「こっちは忙しいって聞いたけど、暇な今日だと何件くらいなんだ?」
「長岡百穴の鬼と根来衆、五寸ババァに、雷獣、黄ぶな、化け猿に河童、ですから、今のところ七件ですね」
未だ立ったままの少年を椅子に促しながら、簡易シキガミの監視に掛かったそれを上げる彼女に、原川はあんぐりと口を開いた。
「……え? それで少ないのか?」
「少ないですし、大体が県央県北に集まってくれているから今日は楽ですよ。
……原川先輩、校長先生の武器はどの位で用意できますか?」
「ああ組み立てにフィッティング、講習含めて、一時間もあれば問題ないが――早速試すのか?」
尋ねる先輩に、彼は頷きながら使われていない机に腰を下ろした。
人員の増員が行われていないお関係で、この事務所では机と椅子は余っている。
そうして、茶請けの干柿を手にとりながら、こう口を開いた。
「ええ、今日はキブナが出てますからね。
キブナにゴスンババァ、ネゴロシュウ辺りは、サポート有りなら初心者でも十分行けます。
まぁ、連絡はまだなので、向うのスケジュール次第ではありますが」
そう言って、最後に一口、ヘタを残して手の干柿を齧り取る。
そうして少し上機嫌、もきゅもきゅと美味そうに口を動かした。
彼に決行を決めさせたキブナ――今現在では、張り子の玩具になっている栃木の黄ぶな――は、本来、疫病の際に顕れた薬効を持つ霊魚の民話だ。
天然痘が流行った年に、病人に栄養をと魚を釣った所にこれが掛かり、食べた病人が快癒したと言ったざっくりとしたお話で、その逸話と玩具とを器に顕れ出でた霊魚キブナは、伝承通り攻撃性を持たない。
ただ、捕食動物の悪魔化や、探知した他の悪魔が狩猟目的で移動する可能性等から、早期の駆除が求められてはいた。
レベルのわりに高い治癒力を持つが、反面攻撃面はからきしなので、ある意味スライムより相手にし易い悪魔だろう。
『先生には悪いけど、スライムよりLvが高くて、弱いからな……』
……最近テレビで目にしたアニメのマスコットキャラ宜しく、空中をふよふよ泳ぐ丸っこくてかわいらしい悪魔に、一方的に殴りかかって殺す精神的なアレさえ除けば、だが。
なお、残る五寸ババァと根来衆は、土地の伝承に残る死者が怪異として現れたもので、結界の異変に伴い、無理矢理引っ張り出された類の、レベルも低く精神的な障壁もそれほど大きくはない悪魔だ。
尤も後者は、割とキチガイレベルな老害の一方的な犠牲者なので、その来歴を知っている可能性が低くない校長が多少の引っ掛かりを覚える可能性はなくはないが。
「機能は保証するがまだ改良中だから、俺とウチの子らもデータ取りに同行するぞ。
付け加えると、持ってきたのは飛び道具だ」
そう言いながら、こちらは干柿未経験か、先輩は恐る恐ると言った風にヘタを手に取り小さく齧りつく。
「じゃあ、長岡百穴も行けるかな。
……鳴無さん、ドウメキは出てないんですよね?」
そんな先輩を横目に、少年は湯呑の中身を口に含むと、自分はちゃっかり小さなフォークで柿を切り分ける鳴無に、そう尋ねかけた。
「ええ、今の所はそうですね」
彼女の答に、頷く。
翔意が確認した
そして、秀郷に敗れた百目鬼が実は逃げ延びていたと言う異説で、その後隠棲していた場所が、宇都宮北部の横穴古墳群“長岡百穴”である。
それが“盗賊が多く隠れ潜む”と言う同じ場所の別の伝承と結びついたのか?
近年の異変で百穴に現れる悪魔が、百目鬼の手下の妖鬼、通称長岡百穴の鬼だ。
虚言密告を繰り返し処刑された五寸ババァ、鉄砲集団としても有名だが、処刑された大工衆として現れる根来衆と比べて格上だが、元が盗賊且つ、複数体で現れる為、その強さは一般的な鬼とは比べるべくもなく、遠隔攻撃手段も持ってはない。
武装が遠距離攻撃で、壁が四枚もあるなら余裕をもってレベル上げに使える悪魔だ。
「まぁ、仮に出たとして、先輩らがいるなら何とかカバーも出来るでしょう」
なお、その棟梁である百目鬼については、冨和と讙が対策してあたればギリ普通に倒せる強豪で、今顕れたら、他の仕事を放り出してでも冨和と翔意が共同して当たるし、単独での遭遇戦となった初回は、本当に死力を尽くし、どうにか勝利を掴んだらしい。
しかも、それだけの強さを持っていてなお、環境要因で劣化している節があり、仮に長岡百穴が異界化し、百目鬼がそのボスとして陣取ったら、山梨から応援を呼ぶしか方はないと言うのが栃木派出所の共通認識となっていた。
「ふむん、なら説明も兼ね、花子さん再発防止策も一緒に組んでおくか」
そう言って、残る干柿を口に放り込み、原川は立ち上がる。
立ったままそれを飲み込むと、続き湯呑の緑茶を一気に胃の腑に流し込んだ。
「翔意は、その冨和さんと校長センセとの連絡を頼む。
いろいろ準備もあるし俺はその二人とも会った事が無いんでな」
「判りました。そっちの手伝いは要りますか?」
「いや、助手が三人もいるからな、こっちは十分だ」
そんな彼の言葉に、少年はおやと眉を少し動かした。
「そう言えば、結局レェラァさんも作ったんですね。
まだレベルもそう上がってないと思いますけど、大丈夫なんですか?」
「まぁ、今はこっちも忙しいからな。
レベルもまだ一桁だし、そもそも余り戦闘向きの能力じゃないから戦力として当てにされても困るが、装備はまぁまぁだから、聞いた感じ肉盾くらいはできると思うぜ。
そうそう、お前さん用の装備もあるから、スケジュールは少し余裕みとけよ」
「……え?そんなの注文してましたっけ?」
「支給品だよ。
今のところ閑古鳥が鳴いちゃあいるが、お前さんは替えの利かない特能持ちで、装備の優遇を引き替えに専従捜査班やってるってことは忘れんな」
そう言って手をひらひらと、彼は外への扉を開く。
するとテレパシーでも使ったか? ほぼ同時、更衣室から感情豊かな
「お久しぶりです、中村さん。
装備と説明書は更衣室に置いたので、目を通しておいてください」
「ああ、ひさしぶり、ありがとう」
そう言い置いて主を追う長女の背に挨拶を返すと、それに続く次女は会釈して通り過ぎ、三女は、こちらは目にも入らないと言う風に三人を追う。
まだ閉まり切らない扉の向こう、末っ子への主と姉の注意が僅かに漏れ聞こえた。
「……あの三人の事、先生にはなんと説明しよう」
見た目と実経験が反比例する美女美少女の集団にそっとため息。
翔意は思わずと言った風にそう呟く。
「それは、三人のご主人様に丸投げすればいいんじゃないですかね」
そして、棘を感じる小鳥の言葉に、今度ははっきりと重い息を吐きだした。
・翔意の呼び方。
仮面の件が明らかになった為、原川も原作と結びつけるような呼び方は慎んでいます。
・悪魔のランクアップ
真3で実装されたシステム。
一部の悪魔を成長させる事で、伝繋がりがある高位悪魔にランクアップ出来る。
シキガミも零落コアを高位分霊に成長させている為、同系統の技術で可能と判断した。
・支部施設のテストベット
東京結界に組み込まれている土地柄なので、有事にこれの影響を受ける可能性が大と言う事で、先行実験の場となった。
結界同士の干渉を抑える目的で比較的小規模な実施となった為、丁度出ていた花子さんランクアップ計画と連携する事になっている。
この関係で、栃木支部の本格開設は更に後回しにされる事になる。
・干柿
主に渋柿を吊るし陰干しにして渋を抜いたもの。
個人的にはお湯につける方が熟柿っぽくなって好きだが、程よく水分が抜けねっとりした干柿にも捨てがたい上品な甘さがある。
・霊魚キブナ
栃木の民話を元にしたオリジナル?の悪魔。適当なカテゴリが無いのでそちらも創作。
宇都宮の伝統的な玩具である、頭が赤く体が黄色い魚の張子……の元となった霊魚で、天然痘の流行に際し現れ、捕え食べさせた所、薬効があったと言う。かわいい。
張り子の黄ぶなを基にしたキュートな外見で、ふよふよと水中、或は宙を泳ぐ。
やや極端な魔力型で、Lvに比し充実した回復魔法を持つが、攻撃特技は持ってない。
多分COMPが出廻ったら、覚醒者達に追い掛け回されるだろう悪魔。
・最近テレビで目にしたマスコット
1991年にアニメが放送された、金魚注意報のぎょぴちゃんの事。
この物語の現在時間は、ふわっと1990年代初めである。時間的な矛盾が存在する場合、世界差や転生者の干渉他によるずれとしてふわっと呑み込んでほしい。
・怪異五寸ババァ
栃木の民話をモデルとするオリジナル?悪魔。うわさ悪魔的存在なので怪異枠。
人を騙して犯人に仕立て上げ?、褒賞目当ての密告を繰り返したと言う老婆。
舌を五寸釘で貫かれた後、斬首されたらしい。
昔栃木の民話で読んだのだが、見つからないので詳細はうろ覚えである。
虚言によるデバフを使うが、如何せん攻撃力に欠ける。
・怪異根来衆
栃木の歴史を基にしたオリジナル?の悪魔。うわさ悪魔的存在なので怪異枠。
釣天井の伝説で知られる本田正純(セージュンに非ず)に殺された大工衆。
殺害されたのは頭のみ説と皆殺し説があり、昭和迄は彼らを慰撫する塚が残っていた。
正純が宇都宮城の普請を強行した際、反対して殺された……のだが、実はこの根来衆、正純の部下ではなく徳川家からの派遣な上、内容もグレーゾーンぶっちぎっていたらしく、彼が失脚した際にもしてはいけない改築をしたと複数槍玉に上がっている。
なお、彼或は彼らが刑に処されたのは、中学近辺ではなく士堂原刑場で、ここは重罪人に対する見せしめ要素を含む刑が処される場所だったらしい。
幕府から預かっている、正論で反発した大工衆を、ここで処したんかい……。
根来衆と言えば火縄銃だが、大工衆としての出現な上、釣天井伝説の若い大工と習合している節があり、一体しか顕れない上、武器は槌でバフ魔法しか使えない。
・長岡百穴
横穴古墳群。
藤原秀郷に負けた百目鬼が逃げ込んだり、盗賊が潜んでいたりと色々言われている。
今となっては、岩山の壁面に穴がポコポコ空いて、小さな石仏が沢山おいてあるだけの場所だが、昔は周囲は森や草原、小山ばかりで木や草が茫々生えていたんだろうと思うと結構怖い。
・妖鬼長岡百穴の鬼
伝承を元に改変したオリジナル悪魔。
逃げ込んだ百目鬼の伝承と、盗賊の伝承が混じって生まれた下級の鬼。
それほど強くないが群れて現れる。
本来長岡百穴は、結界の影響を受け辛い地域だが、百目鬼の出現地域をこちらに限定した結果、彼らも出現するようになったと言う経緯がある。
関係して百目鬼の出現率も減り、忙しさに追われていた冨和はにっこりした。
・妖鬼百目鬼
伝承を基にしたオリジナル?の悪魔。
藤原秀郷が倒した全身に沢山の目を持つ鬼で、宇都宮には百目鬼通りや、百目鬼面と呼ばれる硬く乾かしたかんぴょうを使った面飾りがある。
秀郷に退治された、或は逃げ延び長岡百穴に隠れ潜んだが法師に折伏されたと伝えられる。
宇都宮市内に顕れると洒落にならない為、出現地域が長岡百穴に偏る様に処理されているが、それが原因で部下の鬼たちも現れる様になった。
市内に出現する悪魔の中では最強の一角で、現れると万全を期して冨和と翔意がタッグで相手する悪魔だが、部下?が出現するようになった影響か、環境に比し強すぎるのか出現率は低い。
・結界の影響による出現悪魔
土地の伝承や、噂されている怪異が多く出現する傾向がある。
結果、割と微妙なものも良く現れるが、未覚醒の人間にとって驚異的な存在である事は変わらない。
漏出した人間の念が発生源だからではないかと言われているが、実際の所は不明。
・藤原秀郷
言わずとしれた将門スレイヤー。荒俣宏先生の著書、帝都物語で大いに盛られた結果、メガテンで凄い事になっている関東の大酋長を弓矢で倒した凄い人。
なお余談だが、著名苗字の佐藤さんは、佐野の藤原を源流とする説が有力且つ、栃木県の佐野に住んでいた藤原は秀郷さんちなので、佐藤姓の人は将門スレイヤーさんと同じ血を引いている可能性があったりする。