夕暮れの国道を、灯りを点けた自転車が駆け抜けていく。
あれから早一月以上時は過ぎ、同じ時間の街を夕暮れの赤が染めるようになっていた。
そして、変わったのはそれだけではない。
街道から駐車場に入りながら、制服の少年はその一角に目をやった。
彼らの基地である多目的遊行施設“
その駐車場の一角には、アニメキャラの絵馬やら同人誌やら、菓子やらジュースやらが供えられた小さくない社があり、丁度、そこにカートをおいた
再出現時、無事に契約成功した例の記憶持ちの、器として連合が用意した神社施設だ。
当初は、施設内にもっと小規模な社を設置する予定だったが、どこから漏れたものか?
――美少女花子さんを“トイレのかみさま”に祀りあげ、江戸期に厠の女神と崇拝された天津神、埴山媛と習合する――
栃木派出所のプロジェクトを知りしゃしゃり出てきたガイアアニメーションと、続いて自分も手を上げた漫画喫茶経営母体が、なんか突貫で作り上げてしまった小さな神社である。
突貫とは言えその原型は、連合の土地神勧請型広域結界のプロトタイプだ。
そこらの神社より遥かに霊的なパワーは強く、祭神相応に小さいが、敷地全体を花子さん神の結界で覆っている。そして、社内で据え置き式オルゴン機器が常時稼働している為、結界内は常時清浄、と言うかオルゴンエナジーに満たされ、ガイアの覚醒者にとっては微々たるものだが、参拝者はその影響でほんの少しだが心身が活発になるらしい。
これは本来、怪異の花子さんの力が人に悪影響を及ぼす懸念や、例のトイレの抑えとしておいた分社の神棚を通じ、こちらにも力が漏れて来る可能性への対策だったが、それが巧く嵌ったのか、この社は小さいが本物の御利益を参拝客に与える施設になっていた。
結果口コミもあって、この社の参拝客は妙に途切れない状況で、最近は神社の巫女兼漫喫店員として小遣い稼ぎをしている埴山花子さんも当惑しきり。
毎日御備えを撤饌にして、新たな御供えをする際、律義に裏で口を付けたり、目を通したりしようとする彼女が、時折供えられるアレな同人誌に目を通して真っ赤になるのも、既に派出所の日常となって久しい。
それ以外にも、真面目一方な某校長先生が、携帯電話に黄ぶなのストラップを付けるようになったことが小さな話題になったり、宇都宮市立城西中学で、夕暮れ時に空を泳ぐ張り子の黄ぶなの怪談が産まれたりと言った小さな変化もあった。
なおその直前に、ガイア連合で預かっていた某悪魔のドロップ品が、管理不行き届きで行方不明になる不祥事や、連合技術者某氏が、簡易型シキガミの連合外への提供許可を求める書類を神社に提出したりと言った事もあったが、それらの関連は定かではない。
カートから掃除用具を降ろして、バスケットに分別した撤饌を入れている少女を横目に、中村翔意は少し口元を緩めながら、裏口へと向かった。
自転車を車庫に入れ、バックヤードに足を踏み入れる。
そうしてそこで、溜息を吐きだした。
……ここまでは良い変化と言えるものだったが、それ以外にも、悪い変化や、良いとも悪いとも言えない変化も幾つもあったのだ。
その筆頭が、根願寺の仲介により、県内メシア教会との害虫駆除に関する協定が締結された事だろう。
おかげで負担が減ったのは良いのだが、彼我のレベル差を理由に、低レベル帯の悪魔依頼を多く取られる形になってしまった事、メシア教の下っ端は取り決めを故意に無視する傾向が強い事から、ただでさえ転生者よりLv上昇が遅い校長や、新入りの埴山花子さんのレベリングが滞り、メシアンと接触する事例も増えてしまっているのが心配だった。
店の廊下を歩きつつ、少年はもう一度、重い溜息を吐きだす。
メシアンは悍ましい。
一見普通の人が、明日は狂信者に変わり自爆テロを仕掛けてくるかもわからない。
日本でその感覚を真に共有できるのは、現状、彼ら転生者の同胞だけだろう。
メシア中枢の天使達は、堕落し、神の愛を失った生き物として人間を見下していた。
自分達が神の声を失ったのも、愚かな人間の扱いをしくじった為だと。
だから人を洗脳し、道具として使う事に躊躇が無いのだ。
人から見ればド外道な行為でも、地獄に落ちる罪人相手なのだから許される。
いやむしろ、こうする事で地獄に落ちる魂を救い上げている――そう言い放ちかねない傲慢さが、メシアの天使達にはあった。
だが、それを共有できるのは、転生者達の中でもごく一部。
女神転生シリーズでの彼らの所業を良く知っている極一部のみだろう。
ハレルヤと連呼するだけの、リアル餃子の皮に包まれた女神像にされかねないなどと言う危惧を、知らないものに理解できるはずもない。
扉を前に、浮いた溜息を呑み干した。
「おはようございます」
その顔に笑顔を張り付け、挨拶しながら事務所に入る。
そこで事務作業をする鳴無とヘイゼルに軽く会釈して、翔意は自席に座った。
端末を立ち上げ、データを流し見る。
「依然、GLZYTらしき予兆は見つからず、か……」
そして、そう呟いた。
変化ではないが、明らかに悪く推移しているのが、GLZYTの件だ。
心折った悪魔に仮面を被せ、配下にできるらしいGLZYTと、人間に仮面を被せ、GLZYTのような存在を生み出せると推測されるその黒幕。
戦力の増殖と言う意味ではメシアを上回るやもしれない彼の者は、アレ以降完全に行方をくらまし全くその尻尾を掴ませない。
それどころか、
こちらの県のメシア代表が、真っ当過ぎるほど真っ当――チョロイと言う意味では全くない――な為、緩みかけた意識に箍を嵌めつつ、少年は小さく息を吐きだした。
『……汚い。流石メシア汚い』
この現状の一番の理由は何かと言えば、人が足りない事だ。
彼が担当する目標は、転生者に食い込んだ仮面をハブにしてその動向を探り、影に隠れる能力を持っている。そして、前世のキャラのそれを持つ者は一部と認識されていたが、実はどうやら、そうではなかったようだ。
その上、そもそも形になった仮面に対する処置すら、行えるのはショタおじ一人という現状では、GLZYT対策で動ける人員はどうしても限られた。
『転生者のペルソナ使いって、限られてるらしいからな』
個々の意識に繋がる集合無意識に働きかける術なので、最低条件がペルソナ使い。
加え、製造班程度のオカルト技術がないとおぼつかないとなれば、それも当然だろう。
ただでさえ数が少ない連合ペルソナ使いは各々忙しく動いている上、ペルソナ以外の能力は弱いか持たない傾向が強く、そんな彼らが製造班に入る例は少ないのだ。
そう言ったわけで、精神操作に対する当面の対抗手段は、簡易式神による記録と結界による防御に限られており、現在ガイアでは、例のメシア教の蚕食事件への対応策も含め、元々進めていた各地への支部開設計画の前倒しを強いられていた。
なお、元より派出所レベルでは設備が突出しており、且つ、対仮面人材が充実している上に、貴重な製造班まで出向しているこの件への支部開設は、結界への干渉の調査も必要な事もあり、第一期支部開設計画が完了してからと言う事になるらしい。
その代わりと言うか、代わりとは言えないものだが、その特殊な知覚力で干渉を探知できる彼には、一時的な支部長代行と監査の権限が付与された。
つまり、施設が整うまでの間は、お前が周辺県へのメシア蚕食や仮面対策の面倒をちゃんと見ろよ、と言う事だ。
或は、逃さぬ、お前もデスマーチに堕ちよ、か……。
若干被害妄想的な事を考えながら、翔意は端末を落とすとラウンジに移動する。
「おはようございます、冨和さん、原川先輩」
そうして壁面のモニターを見上げた。
当初は死蔵されていたモニターだが、漏出対策が複数勢力による分担となり、また、原川とそのシキガミ、校長、埴山花子さん、メシア教徒達と、関わる人数が大幅に増えた事から、現在ではきちんと活用されるようになっている。
出現が確認されている地点、予想されている地点。
栃木県地図に表示された情報とその注釈に、ふむん、顎に手を当てた。
基本、夕方以降の活動になるこちらと違って、メシアは昼間から動いている。
低レベルの怪異等を中心に幾つか並んだ処理済みの表示に、チッと舌を慣らした。
「見ての通り、手頃なのはもう処理済みだ。
先生への連絡も済んでるから、今日はもう俺らだけだな」
化け猫、化け猿、河童に雷獣……。
残りは既に、先生を帯同するには不安のある、Lv10を超える悪魔達ばかり。
「んー、花子さんとレェラァのレベリングと割り切った方が良いかもしれませんね」
とは言え彼ら三人の足しになるかと言えば、帯に短し襷に長しと言った所だ。
原川の言葉に翔意がそう答えると、横から冨和が、そう言えばと口を差し挟む。
「翔意くんの週末の予定はどうだい?
もし開いてるようなら、山梨まで足を延ばしたいんだが」
「……すいません。今週末は出張です。
来週なら大丈夫ですが」
「じゃあ、遠征は来週か。
悪いが、原川組だけで百目鬼は、まだ無理だろうしな」
そして三人の言葉が途切れた。
徐々にではあるが、状況は以前より良くなっている。
戦力は増え、施設は充実し、栃木の現環境と仕事量と言う
メシアの低Lv帯占拠といった不安要素もあるが、全体としては+だろう。そのはずだ。
「兎にも角にも人が足りん。
俺にも本業があるし、正式にこっちの所属になったわけでもないからな」
そのはずなのに、主に現場に出る三人の中には、何故か奇妙な閉塞感があった。
思うように動けない。歯車が噛み合わない。真綿でゆっくり絡め捕られているような。
原川とそのシキガミ、メシア教により、人員不足は見かけだけ埋まってしまった。
霊感、と言えばいいのか? それで何か、歪な形に固まってしまったという実感がある。
「……こんなことなら、人型のシキガミにしておくべきだったかな。
今更人化や事務を入れるスロットは讙には無いし、新しく注文するにしても、納期も育成期間も足りん」
「花子さんが育っても、独りでは戦いに出せませんしね」
ある程度成長した人型の高級シキガミであれば、単独で討伐や事務などをさせる事が可能で、心折れた転生覚醒者が、人型の彼ら彼女らを仕事に出し、自分は引き篭もったり普通の仕事をしたりと言った話は希に聞く話だ。
だが、冨和の讙は霊獣型、翔意の鬼神とWildHuntは義腕に自転車で、そう言った役には立たない。
そして、新入りの埴山花子さんは人型だが、シキガミほど縛りがきつくない為、一人で戦いに出すのは難しい。
「私がどうかしましたか?」
……と、そんな翔意の言葉に合せるように、ラウンジの扉が開いた。
千早姿のおかっぱの少女が、お菓子とジュースの籠を手に、部屋に入ってくる。
「……いや、いつもの愚痴だよ」
そう言う冨和にそうでしたかと答えを返し、花子さんはラウンジにの一角を区切った自分のブースの、小型冷蔵庫に菓子とジュースを入れた。
ぎゅうぎゅうになったそれに半ば無理矢理圧し込め、三人に向き直る。
「お待たせしました。今日の仕事はどちらですか?」
入りきらない菓子を片手に、口を開いた彼女の顔は、以前より少しだけ明るく見えた。
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★【美少女悪魔を】管使いを目指すスレその3【この手に!】
0317 名前:名無しの転生者
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まさかの萌え花子さんとは盲点であった。
ペルソナではトラウマだったのに……。
0319 名前:名無しの転生者
ガイアニも、よくあんなの見つけてきたもんだよな。
ショタおじ! 悪魔召喚術解禁はよ!
0320 名前:名無しの転生者
ハナコさん、クチサケ、ブキミちゃん!
ジェットストリームアタックをかけるぞ!
0322 名前:名無しの転生者
>>0320
お前誰よ?
0324 名前:名無しの転生者
>>0319
元はガイアニじゃなく、栃木派出所の企画だとよ。
美少女花子さんが定期的にリポップする学校があるらしい。
俺もCOMPあれば職員募集に応募したんだがな。
0325 名前:名無しの転生者
>>0322
テケテケ
0327 名前:名無しの転生者
>>0319
ショタおじ、俺らが悪魔との交渉とかする事自体嫌がってる感じあるからな。
修羅勢の一部高弟みたいな人とか、製造班の資格持ちはまた別らしいけど。
0329 名前:名無しの転生者
花子さん以外の妖怪も萌え化すんのかね?
それとも怪異枠だけなのかな?
0331 名前:名無しの転生者
>>0329
伝承玩具そっくりの悪魔とか、読本由来の妖怪とかが普通に出て来るから、種族を問わないと思われる。
0334 名前:名無しの転生者
>>0329
神社に籠ってるガチ修行者の人に聞いた話だけど、書庫の古文書によると、江戸時代にヤマタノオロチの零落個体で、ヤマラノオロチが出現した記録があるらしい。
だから、何かタイミングが合えば多分どんな悪魔でも出る。
0336 名前:名無しの転生者
>>0331
ヤマラ?え?なにそれ?
0338 名前:名無しの転生者
>>0337
江戸時代の浮世絵だか艶笑本にでてきたヤマタノオロチのパロディ。
頭が御立派さまでなんか糸引いてるヤマタノオロチ
0340 名前:名無しの転生者
そう言えば、ガイアニにノラ悪魔と契約できるような修羅勢居たっけ?
あそこは、戦力的にはあんま目立った奴はいない印象だけど
・
名前が思い付かないので、結局こちらになった。
・埴山媛
花子さんの噂のルーツの一つとされる厠の神の、正体と目される記紀神話の土の女神。
日本書紀には、ヒノカグツチを産み落として苦しむイザナミの脱糞から生まれたと記され、同じ時に漏らした尿から産まれた水の女神、ミズハノメと共に火伏の神とされる。
鎮火の祝詞によれば、ハニヤマヒメとミズハノメは、イザナミが炎の神が暴れた時に備え、最後に産み落として地上に残した神だと言う。
古事記では男女一対の夫婦神が生まれているが、どうやら日本書紀の記述の方が正しいらしく、対の男神を祭る神社はほとんど存在しない上、埴山媛を火霊神、つまり、ヒノカグツチの妻とする文献や、この二柱を夫婦神として祀る神社もあるようだ。
・花子さん神社
宇都宮のガイアーズに突然出現した、アニメ花子さんのタイアップ施設。
ご神体は、顔がアニメ花子さんっぽくて若作りな埴山媛像。
一般店舗のタイアップは特典イラスト入りペーパーの頒布とグッズ販売。
他ガイアーズ店舗は+して、格安全話視聴パック(グッズ付き)に、制服花子さんの等身大ポップ他展示と言う状況で、なぜ栃木店にこの施設が常設されたのか、公式発表はない。
駐車場の中にあるただのただのタイアップ施設なのだが、奇妙に峻厳で力強い雰囲気を纏っており、詣でたら心が軽くなった。肩が軽くなった。花子さんにイメージピッタリな合法美少女巫女がいる等と一部で評判で、ミーハーな参拝客が絶える形跡はない。
・埴山花子さん
花子さん神社の巫女で、ガイアーズの店員で、エッチなものが苦手な幼げな美少女(@労働基準法違反年齢ではありません)と言う漫画の中からでも現れたような珍妙な生物。
時折ガイアアニメーションのイベントにも出没する半公式花子さんで、店員時のネームプレートの“埴山花子”が本名か源氏名かは、ファンの間でも諸説あるらしい。
時折、神社に供えられている花子さん純愛ものエロ同人誌が悩みの種。