運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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前回書き終わらなかった後半部と、今回の更新予定の前半っす。
相も変わらず分量が書けない……。


第4話-3

 霊視ニキに通されたビルの最上階は、それほど大きくないその一階層の、通りに面した側がPC設備の整った事務所、奥側がパーテーションで区切られ応接室になっていた。

 その更に奥の扉の向うには、給湯室にトイレとシャワー、仮眠室があるようだ。

 

「ここは、ガイア関連企業が所有するビルに、東京有事に備え改装を施したものだ。

 ショタおじは山梨に引き篭もりゃいいって考えなんだろうが、政治家や社長のニキらには、色々と責任ってもんがあるからな。

 使い捨てを視野に入れた施設だから本当に最低限だが、いざって時に前線司令部や一時避難所として機能させられる設備や備蓄が一応整っているらしい」

 

 そう説明しながら彼は、奥に置かれた自販機に向かった。

 

「……なんじゃこりゃ」

 

 一瞬、不安の残る言葉を吐きだし、その疵顔を苦悩に歪めると、ままよとばかりに機械にコインを投入する。

 困ったようにしばしボタンに指を彷徨わせると、結局一つを選び出てきたそれを投げて寄越した。受け取った白い缶の品名を見れば、その名は熱血飲料。

 オクタコサノールだったか?良く知らない成分をクローズアップしたスポーツドリンクで、変身ヒーローめいたCMを流していた筈だった。

 こう言ったみょうちくりんな名前や見た目の缶ばかりが入っていたのか?

 

「誰だよ、ここに入れる缶選んだ奴は……」

 

 霊視は再び呻吟すると、ややあってその中の一つを選んだ。

 ガタンと音を立てた受け取り口に手を入れると、黄色い瓶の炭酸飲料、リターナブル瓶のチェリオオレンジを取り出す。

 それから王冠を見て、栓抜きが無いのに気付きため息。先端を手刀斬りに切り離した。

 そうして煽ったチェリオの瓶は、みっちり詰まった分厚い指の下、栄養ドリンクのそれのように小さく見える。

 

「……あ、これDAKARAの味だ」

 

 そんな彼の傍ら、翔意は自分も缶を傾け、舌感じるその味に思わずそう呟いた。

 その声に籠る懐かしさに、霊視は瓶を口から離す。

 

「マジかよ?俺もそれにすりゃよかったかな」

 

「チェリオだってむこうにあったと思いますが?」

 

「だがなぁ、時期的にDAKARAは発売されるか怪しいだろ?」

 

「まぁ確かにそれはそうですけど、そもそも熱血飲料もまだ終売してませんし、今飲まなきゃなくなるってものでもないでしょう?」

 

「それはそうだが、機会がないと結局いつものに落ち着きそうな気がしてな」

 

 小便小僧のCMで有名だったDAKARAは、西暦2000年頃の発売と少年は記憶している。

 確かに、終末が訪れる可能性が高いこの世界では発売されるか微妙ではあった。

 それ以前に、ガイアコーポレーションなどと言う企業連合体が存在するこの世界では、終末が無くとも踏みつぶされ発売されない可能性もあったが……。

 

『……そういえば、前に冨和さんが言ってたな』

 

 前世で大好きだった小説家のPNが変わっていて、幾つかの作品が出版されていない。

 代わりに、別の作品が幾つか出版されているのだが、前世で読んだものも含めて、作風が少し変わっていると。

 それは当然の話だろう。前世知識のカンニングに盗作で、好き放題やっている転生者がいて変わらないかはずも無い。けれども、メガテン世界の組織企業や、転生者による過去改変、社会情勢の違い、オカルト的技術の重要度等、これ程違う世界のわりに、前世のままの文物が多すぎる気もする。

 懐かしい味を、チビチビと舐めるように飲みながら、前世と今生の世界についてふと思いついたことを考えていると、その傍ら、巨漢はごきゅごきゅと音を鳴らして、残りを一気に喉に流し込むと、空になった瓶を傍らの机に置いた。

 

「さて、時間もそんなにねぇし、そろそろ本題に入るとするか」

 

 未だ中身の残る缶を傍らに置く翔意に、彼はこう口を開いた。

 

「まず出張だが、表向きはそのまま、実際の仕事はショタおじのシキガミが引き継ぐ。

 義腕はそいつとお前さんの目で、メシア教会周辺の調査をしてもらいたいそうだ」

 

 そうして翔意の傍らの折鶴を指し示す。

 

「メシア教会を、ですか?」

 

「ああ、何が目的かは知らねぇが、奴らはメシア教団を侵食している。

 で、仮面の事があるからな。

 直接所属するのではなく、一般信徒として出入りしてると思われる、らしい。

 ま、俺はついでで頼まれた伝書鳩だから、詳しくはこっちの書類を見てくれ」

 

 霊視はそう言うと、事務所に置いてあった鞄から、一束の書類を取り出し手渡した。

 翔意は受け取った分厚いそれの、目次と今後の指示にざっと目を通し、

 

「……今すぐ戻って、調査を始めた方がよさそうですね」

 

 すぐにそう言って、書類をバックパックに仕舞い込む。

 その厚みの大半を占める、山梨支部での調査結果にはまだ目を通していないが、指示書部分を見れば原状は大凡理解できた。

 事は単純で、敵はわざわざメシアの人事に介入するほど、中村翔意と言うイレギュラーを警戒している。或は、そう思わせようとしているように見える。

 これが罠や陽動でも、ある程度現地メシア教をコントロールできるよう、教会周辺に人員を配置している可能性が高いので、まだこちらの察知に気付いていない可能性がある今の内に調査してくれ! その為に、アリバイ工作と隠密特化シキガミの支給を行うよ、だ。

 

『この指示は、向うに対する罠か陽動かな?』

 

 そうも思ったが、まぁ自分が本命等と言うよりそちらの方が余程気楽でやり易い。

 

「それともう一つ、義腕の例の感覚は、占術でより高度な使える可能性が高いそうだ。

 暇見て山梨まで修行に来いと、ショタおじからの伝言だ」

 

「なるほど、確かに。

 了解しました……が、ウチに纏まった暇の宛なんかあるんですかね?」

 

 翔意はそう言って、傍らの缶を手に取った。

 終末は山梨でやり過ごせばいいと言うのがショタおじの基本スタンスで、だから、各県の派出所等は、外に繋がりを持つ所属転生者達側の意志と事情が大きい。

 頼られれば手を差し伸べるが、その先はあくまで自由意志。

 転生者たち全員に関わるGLZYTの件は兎も角、だから彼が、個々の派出所の事情に誰かを振ったりと言った事は正直考え辛かった。

 増えていく厄介毎に比して、マンパワーが絶望的に足りてない。

 少しばかり眉を顰めて、缶の中味を傾ける彼に、霊視はさてなと肩をすくめた。

 

「まぁ、事情を知ってるショタおじがそう言うからには、何か考えてんだろうよ」

 

「……ですね、じゃあ、僕はそろそろ仕事にかかります」

 

 そうして彼は、乾杯と言うように手にした缶を軽く掲げる。

 一息に残りを呑み干すと、ゴミを小さく握りつぶした。

 

 

 

.

.

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.

 

 

 

 パリパリと音を立て、海苔が砕ける。

 そのカスが下に落ち、少年は一瞬視線で追ったが、すぐ意識を手元に戻した。

 多少海苔が降りかかった所で、どうせこちらには気付くまい。

 ちらり、肩口に浮く折鶴を見ると、そう多寡を括って、眼下の景色を眺めた。

 夏期を除く毎週日曜十時、かつてのカトリック宇都宮中央教会では、主日の――キリストが復活したとされる日曜日に行われる、主の復活を祝う――ミサが行われていた。

 そのスケジュールはメシア教に吸収された今でも同じで、新しく救世主の降臨を願う意味を付け足されながらも、そのミサは見た目上はなにも変わらず続いている。

 そんな、一週間で最も多くの信徒が集まる儀式を前に、彼は双塔を持つ大谷石の教会の、左の尖塔の上、急角度で切り立つ屋根に半ば身を預けるように、コンビニおにぎりをパクついていた。

 何しろ今日は、朝から二時間、計二百キロ強。宇都宮東京間を自転車で往復し、そのまま途中、コンビニに寄った程度でこの場で張り込み。

 この後十時からミサを監視し、場合によってはその後、怪しい信徒の尾行しなければならないと来ている。今の内に補給しておかなければ、体が持たないというもの。

 彼の傍ら、急斜面に張り付いた自転車の角型ハンドル(ブルホーン)には、未だ重そうなコンビニのビニル袋が、吊り下げられ、風に吹かれて音を立てていた。

 そうして時折、彼は手のおにぎりを口にくわえると、パシャり、首から下げたカメラを持って、前庭に入った信者たちを写真に写す。

 率で言うなら、行動を切り替えた初日の今日が、最も無防備な可能性が高い。

 一個、また一個と新たなおにぎりを引きだしながら、翔意は門や教会を出入りする信徒たちを見張り、その姿を写真に……。

 

「……ブフッ!」

 

 撮っていた少年の口から唾とご飯粒が溢れた。

 慌て顔を逸らして屋上側に向け、少年はすぐさま、その視線を前庭に戻す。

 そうして彼は、目の前の光景を写真を撮るのも忘れ、大きくその目を見開いた。

 

『にゃ、にゃるらとほてぷの、しんるいみたいのがいりゅ???』

 

 余りのその視覚的衝撃に、思考が思わずひらがなになる。

 

『なにあれ?なに?』

 

 心の中でそう呟きながら、おにぎりを銜え、カメラを構えた。

 最大望遠、信者たちの中心で談笑するその姿を、唖然、シャッターに納める。

 カメラを降ろし肉眼でもう一度、目をぱちくりさせて大きなため息を吐いた。

 確かに、彼ら転生者と融合した仮面は、アニメや漫画、小説、ゲームと言った創作のキャラクターである事が多い。だから、例の仮面の変化が仮に服装まで及ぶのであれば、そう言う事もあるのかもしれない。

 だが……。

 

「流石に囮?ですかね?」

 

 そう呟いて、彼はその青年を見下ろした。

 さもなくば、その奇矯さを於いて尚、使わざるを得ない能力でも備えているのか?

 眼下の男は白かった。

 くすみ一つない純白のスーツに、純白のシャツ、純白のネクタイ。

 未だ残暑厳しいと言いうのに、その手に絹だろうか?白い艶のある手袋を付け、服のボタンばかりが艶めいて黒い。

 その男は黒かった。

 浅黒い肌に、延び掛けた風な乱れ髪。

 笑みを浮かべる口から覗く、形の良い歯ばかりが、輝いて白い。

 真白い服との対比で、日本人の範疇であろうその色が一層黒く沈んで見えた。

 顔立ちの良さか、そんな姿が彼には似合っている。似合っているが、その姿を例えるなら、ホストかヤクザか、或は特撮辺りに登場する怪人物の類と言った所か?

 そして彼は、そんな冗談のような姿でにやにや笑いながら、如何にもそこらのおじさんおばさんと言った風なミサの参加者達とごく当たり前のように挨拶を交わしていた。

 

「……流石に、近所の名物お兄さんなんて事はないですよね」

 

 或は、周囲の人間に自分を不審に思わせない、ぬらりひょんめいた能力でも持っているというのか?

 そう考えながら、彼は判断を保留してその視線を周囲に向けた。

 目立つ男が気を引いている隙に、紛れ込んでいる誰かでも居ないかと目を凝らすがどうやらそれらしき人物は見当たらない。

 

「まぁ、戦闘服の類で見慣れてると言えば見慣れていますが……」

 

 コスプレ会場なら目立たない服装も、フォーマルな場で見ると無茶苦茶目立つ。

 いや、それを言うなら自分も同じか。

 コンプレッションウェアも、現代的なサイクルウェアも、この時代まだまだ一般的じゃないからと、翔意は溜息を吐き、手のおにぎりを一気に意頬張り、飲み下した。

 未だ中身の残る袋をバックパックに仕舞うと、下の様子を伺い考える。

 見下ろす先では、丁度例の白スーツらが、教会の中へ入って行くところだ。

 一瞬、後を追うかどうか考え、首を横に振る。

 まだミサまでは少しあり、しかし、中で何か工作するには残り時間はあまりに短い。

 初日でもあるし、まずは参加者全員を写真に収めるのを優先、ギリギリまで外で写真を撮ると、窓の隙間から式を差し入れ、鍵を開けさせ教会の中に踏み入った。

 

 

 

 




・自販機
 施設柄ベンダーに頼むわけにもいかないので、担当の転生者が気が曳かれたり、後に残したかったりする銘柄をてきとーに仕入れて入れたらしい。一応、オカルト技術で、中のジュースの劣化は抑えられているので、西暦2000年迄なら普通に保つ計算なのだとか。
 変わった銘柄がたくさん入っているが、激マズドリンクはないとのこと。
 カオ転の転生者達なら、きっとこういう悪乗りはすると思った。


・熱血飲料
 熱血サラリーマンおくたこさのりが、熱血飲料でオクタコサノールを摂って変身するCMが小中学生に受けたスポドリ。餓鬼の頃飲んだが、味は割とふつーだった記憶がある。
 調べてみると、DAKARAの前身だったらしい。


・チェリオ
 チェリオ。


・霊視ニキ
 なんか、AA元の関係で、缶ビール飲んで缶丸めたり、ビール瓶運んだりしてるイメージが強いのか、気が付くと翔意にジュースを奢ってる気がする。
 高校生放置して自分だけ飲み物飲むイメージも無いし。


・握りつぶした缶
 嵩張るので潰して丸めただけで、あの後ちゃんと袋に入れて鞄に仕舞い、補給ついでに道中のコンビニのゴミ箱にきちんと分別して捨てました。


・白スーツの男
 ……神野さん? ええ、とっても信心深くて良い方よ?
 そうねぇ、あの服装のセンスはどうかと思うけれども……。


・サイクルウェア
 90年代の日本で、厚めの全身タイツの上に、ジャケットと半ズボンを着ている男。
 これは怪しい。
 けどまだ、一般的なサイクルジャージよりかは相当マシな気がする。
 薄手のぴっちりシャツと、パッド入りスパッツだからね……。


・シキガミ式開錠術
 紙ぺら一枚通せば向うから鍵を外せるとか、泥棒垂涎のアイテムやんすね。
 教会のモデルが90年前の建物なので、畳んだ折鶴位通せるやろと判断しました。
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