運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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4話ボス戦前半戦終了まで。
後半戦も入れると長くなるのでここで切ります


第4話-5

 

 教会にほど近い路地裏の端、少年はゆっくり呼吸を整えながら手首の時計を確かめる。

 あれから一週間は、慌ただしく、瞬く間に過ぎた。

 そして今、次の日曜のお昼前、彼は相手を待ち構え、装備を確かめている。

 礼拝堂に居る筈の白尽くめの黒は、折鶴のシキガミが張っていた。

 男が違う方向へ向かう時、派遣された悪魔がそれを伝え、先回りする事になっている。

 敵か或は、その知らせか――それを待ちながら翔意は、心を研ぎ澄ます。

 

『情報の無いボスクラスとやり合うのは、例のGLZYTの一団以来ですか……』

 

 彼が戦った最強の敵は、神主の式との虐めに近い組手を除けば、一度だけ現れた百目鬼がそうだが、あの時は倒した経験がある冨和と讙が居て、相手の情報も粗方割れていた。

 初めて異界に潜った時は原川弾、GLZYTと行き遭った時には霊視ニキ。

 思えば彼が、本当の意味で一人で敵に立ち向かうのは、これが最初なのかもしれない。

 翔意はふとそう考えて、(いや)鬼神(ひだりて)をポンと叩いた。

 

「……僕にはお前がいましたね」

 

 ――自身の腕と錯覚しそうなほどに馴染んでも、これは武器であり相棒だ。

 

 そう思いだし、彼が防御担当の左を撫でると、その傍ら、歯車が勝手に組み変わる、かちゃりと言う音がした。

 

「悪いけど、君は未だ戦力外なので、そこで見ていてくださいね。

 ……君を頼るのは、本当にいざという時だけですから」

 

 その音に微かな苦笑、沢山の細いパイプが渡るビルの壁沿い、自立するWildHunt(あいしゃ)に向かってそう告げる。

 彼の鉄馬は、まだ単独で戦うにはレベルが低い。

 少年ではまだ、止まれば沈んでしまう為に踏ん張るのが難しい水上、或は空中での戦いでは、騎馬として共に戦う事もあるのだが、それ以外は低レベルの悪魔を駆除する際に、戦わせたり、騎乗戦の修練として共に戦う程度しかさせられないからだ。

 かちゃりと音を立て、再び歯車が組み変わる。

 

「槍か何か、習った方が良いですかね?」

 

 どうやってか、自転車の体でシュンとする偉業を成した愛馬に、翔意はそう困ったように苦笑、一転、クスリと笑みをこぼした。

 少年はこれから、一人であの白尽くめの黒と対峙する。

 少なくとも最初は、その心算だった。

 アレが撒き餌で、相手が釣った魚を伏兵で網に入れる算段を立てていた場合、今の彼ではまだ、その罠を食い破れない。かと言って、増援を多く動かせば、間違いなく相手には察知されるだろう。

 だから、今密かに動かせる最大戦力であるショタおじの使い魔を後詰に、彼が一人、あの男と対峙する運びとなったのだ。だが……。

 

「思いの外賑やかになりました」

 

 そう言って目を閉じ、息を吐く。

 深呼吸、仮の契約を伝い、ショタおじに貸与された一人と一体が、身を隠しながら傍らのビルの屋上に移動するのを感じた。

 戦いの緊張に研ぎ澄まされる感覚が、今向うの角を曲がり、こちらに顔を出さんとする人間の気配を捕える。

 そうして顔を出した男は、一瞬驚いたように目を広げると、口元のにやにや笑いを拭い片手を軽く上げた。

 

「よう久しぶり、俺だよ!神……」

 

 出会い頭の言葉。或は相対したのが翔意以外の転生者であれば、一瞬思考を止め言葉を待った未来があったのかもしれない。

 だがその体質は、彼に使うには余りに遅すぎる(・・・・)

 目の前の男が口を開くと同時、少年の目に相手の口から自分へと延びる、何かの影響力の兆しが見えた。その動きに、翔意の思考が瞬発する。

 

 ――翔意(ショーイ)/(/)鬼神(モノガミ)体術/蹴術技能(ジムナ/サバット・テック)/ホッピング/跳び膝蹴り(ジャンピング・ニー)・重複発動・突撃(チャージ)成功(ヒット)

 

 そして同じ瞬間、少年の大柄な体が消えた。いや、跳んだ。

 ジャンピング・ニー、デビルサマナーに登場する、前後列関係なく一体を攻撃する蹴技。

 彼の義手(・・)の鬼神が、どう言う理由でか最初に覚えた特技(EX)だ。

 速運特化+速強化特技、ブーストダッシュ(ホッピング)移動攻撃特技(OffenseEX)に、身体の動きを補正し、歯車を正しく噛み合わせる補助をする技能。

 その組み合わせは、純粋なレベルで翔意に一枚落ちる神野には、まさしく彼が瞬間移動したかのように映った。

 ぱきり、頬を掠めた(・・・・・)その一撃に、堅いものが罅割れ砕けた様な、そんな硬質で乾いた音が響く。

 しかしそれでも反応し、その威力を最低限に抑え得たのは、恐らく彼が似た状況で、既に考えるより先に殴り掛かった脳筋を経験していたからだろう。

 

『……スニーカー坊主みたいな真似を』

 

 神野の思考の空隙が、驚愕と怒りとで埋まった。

 一瞬遅れの衝撃波。その身を跳ね飛ばされながら、しかしその力に敢えて乗る事で、僅かな間合いを稼ぎだす。

 そして、壁に身を叩きつけられながら、こう叫んだ。

 

「クッ、苦止婁得宗(くしるうしゅう)妖術、修羅偏在!」

 

 その呪文(ことば)と同時に、ホッピング、空中を蹴り振り返っていた少年の背後に、力が凝る。

 しかし、苦し紛れに放った男の最も得意とする術は、やはり翔意には遅すぎた。

 背後に凝った力が白尽くめの黒を形作った直後、短刀を構えたその体の鳩尾を、

 

 ――翔意(ショーイ)体術/蹴術技能(ジムナ/サバット・テック)/ホッピング・重複発動・後ろ蹴り(バックキック)成功(ヒット)

 

 空中で背後に加速した少年の蹴り足が貫く。そうして黒い影は弾けた。

 出現直後の痛撃に、現れた影法師は雲散霧消。

 二・三度地に足を付け、トットッとバックジャンプ、勢いを殺し再び構えた翔意の視線の先で、顔を抑えた青年の口から、クッと呻きが漏れる。

 

「……仮、面?」

 

 少年の口が、思わずと言った風にそんな言葉を紡ぐ。

 白絹に覆われた指と指の間から、浅黒い男の顔に入る幾筋かのヒビが覗いていた。

 そしてそれには、色も何もないように見える。

 罅割れ走った仮面には、それを覗いた瞬間盲目にでもなるかのような、“なにもない”が蜘蛛の巣状に広がっていた。

 

「……霊視と比べて相手を軽んじ、甘く見たのはこちらの責じゃ。

 今はお主を失うわけにはいかん、この場は代わりを寄越す、戻ってくるがいい」

 

 そして、男のその罅割れの向うから、ふと老いた男の声が響く。

 一瞬の攻防の最中、既に折鶴の結界(エストマ)は周囲に敷かれていた。

 式鬼とは言え、ここは曲がりなりにも高Lv悪魔の結界(・・・・・・・・)の中、しかもその主はあのショタおじだ。

 その内部にあの声は干渉し、また、逃げられると宣言していた。

 

「……!」

 

 拳を構え、姿勢を整える。

 今すぐ飛び込むべきか?それとも?

 目の前の男のみが敵であるなら、畳みかけるのが正解だった。

 しかし目の前には、結界の外から語りかける声があり、それは増援を送ると目の前の男に告げている。

 もしそれが本当に可能で、こちらの能力と相性がいい何者かを送り込めるなら。

 自分が送り込むなら、その投入には横殴りできるタイミングを選ぶ。

 速特化、高速化された思考が、周囲を探り、解法を探して頭の中の歯車が回る。

 もしブラフだったら、それは、増援を送る時間稼ぎか、或は後詰を呼ばせ、周囲を鎖す結界を開けさせる判断か?

 攻めるか、待つか、少年はごくりと、つばを飲み込む。

 

『……流石に、ペルソナの向う側には及びませんね』

 

 彼の感覚にも、流石に罅割れの向うに潜むなにかの、その方向性は読み取れない。

 結果、二人の動きが止まった。

 壁に背を付け顔を抑える青年と、一息に詰められる間合い、両腕を構える少年と。

 或はそれは、同格・格上との戦闘経験型足りない翔意の、限界だったのかもしれない。

 そんな僅かな躊躇の間に、状況が動く。

 それは、ぱきりと、青年の顔の罅が立てた破壊の音から始まった。

 見えない蜘蛛の巣のその端の、辛うじて繋がっていた仮面の端の砕片が、毀れ、落ち、その最中でキラキラと、空に溶けるかの如くに散り広がって見えなくなる。

 そして男のその顔の端、砕け歪んだ輪郭の、その内側に一回り以上細身な、別の輪郭が覗き見えたような。

 

「……俺は、俺の名は白凰坊(はくおうぼう)神野十三郎(しんのじゅうざぶろう)

 この借りは、いずれ必ず返させてもらう」

 

 そして、狭間から覗くその目をぎらつかせ、青年、白凰坊は立ち上がる。

 退散を告げるその言葉に、少年の体が戦意と力に満ちた。

 逃走か、増援か、次の動きがどちらであろうと、その起こりを打ち潰す。

 そうして構える翔意の目の前、しかし起きた変化は、彼の想定とは異なるものだった。

 目の前に立つ男の掌の向う、罅割れた仮面(かお)がその陰影を失う。

 顔を抑える白絹の手袋が、浅黒い肌が、乱れた髪が、白尽くめのその服装が、霧か何かが吸い込まれるかのように罅割れの内に呑み込まれ、後には宙に浮かぶ若く小柄な女性の体と、頭全体を覆い隠した罅割れ毀れた黒い仮面が残る。

 代わりを寄越す、罅の向うから届いたその言葉が、少年の脳裏に浮かんだ。

 

「まさか……」

 

 そう呟いた翔意の目の前、少女の頭を覆う仮面が変わる。

 黒い仮面に変わり現れたそれは、目に空洞が穿たれた、真白い石の仮面。

 頭に髪の毛を模した造形のあるそれを、レゲーシューターやオカルト趣味の者が見たならば、或はそれを、火星の人面岩の様な、と評したかもしれない。

 そして黒い仮面の零れを写し、しかし罅は見えないその白面から、先の逆廻しの様に、歪み延びた何かが、宙に浮かぶ少女の前身を蔽った。

 

「……ペルソナ、チェンジ?」

 

 端の毀れた白い顔、撫でつけられた白い長髪、黒いスーツ、肩に掛かる同色のマント。

 白凰坊を反転したような、何処か彼に似た黒尽くめの白が、そこに現れる。

 しかし一つ、最大の違いを上げるとするなら、強い意志と感情を宿して見えた白尽くめの黒と異なり、目の前の黒尽くめの白皙の目は、茫漠として何も宿さぬように見えた。




 ……戦闘シーンは書くのが楽でいい


・鬼神
 最近すっかり影が薄いが、地味にご主人様をサポートする蹴り技を覚えていた。
 腕なのに……。



・水上戦
 人間が水上を走るには秒速30mが必要だそうです。これは音速の1/12で、カオ転設定のLv20↑速運特化+ブースト付であれば、優にクリアできる条件であると判断しました。
 なので彼は、止まると沈みます(ホッピングでフォロー可能だが、継続しては難しい)が、水上戦闘が可能です。寧ろ得意?



・神野十三郎こと白凰坊/朝松健著、逆宇宙シリーズ、白凰坊伝埼帳修羅鏡
 逆宇宙シリーズに登場する、苦止婁得宗所属の妖術僧。
 ニャルラトホテプモチーフの白黒男。
 当初は敵で、作中言及されているスニーカー坊主のライバルキャラであった……が、人気が出たせいか、シリーズ第一作を生き抜き、ダークヒーロー枠へ。
 二作目ではライバルとのダブル主人公に昇格、後に彼が主人公の短編も出版された。
 状況を動かす能力に優れる半面、話を聞かない相手に先手で畳みかけられると脆い面があるらしく、続編序盤でも、妖気の影響でおかしくなった武闘派ヤクザにぶんなぐられている。その流れで、レベリングが足りず速度差が圧倒的且つ、能力の相性が悪かった今回は良いとこなしに終わってしまった。
 同条件なら強そう……に、見えたらいいなーと思っているのだが。



・逆宇宙ハンターズ、レイザース/朝松健著、朝日ソノラマソノラマ文庫刊。
 狂気の侵攻に晒されている宇宙で、今やその最前線にある地球を守るために戦う宗教者、霊能者達と、狂気の先兵である邪教との戦いを描くオカルトアクション小説。
 逆宇宙とは、この世界の秩序とは異なる法則に支配された世界的なサムシングで、妖術師や彼らに召喚され狂気に陥った神々等を先兵にこの世界に食い込んでくる。
 ぶっちゃけた話をすると、クトゥルフ神話の世界観を既存宗教ベースの伝奇に仕立て直したみたいな話。あっちは元々世界全体が向う側よりで、こっちは秩序勢力、狂気勢力が鬩ぎあっているエターナルチャンピオン味のある世界だが。



・「よう久しぶり、俺だよ!神野十三郎だよ!」
 神野十三郎こと白凰坊の体質。吐いた嘘八百を相手に信じ込ませる事が出来る。
 虚さえ突ければ、ラスボス及びその幹部連すら纏めて騙しおおせる恐ろしい能力。
 会話スキルなので耐性では防げず、巧くすればショタおじにすら通じる(効果量自体は力量で軽減される)が、戦闘中は使えない為、一度敵対した相手には使い辛い。
 彼は、この能力目的で教会に配されていたが、翔意の超感覚で発動前に潰された。


・ホッピング
 自分で設定しといていうのも何だが、ちょっと便利すぎたかなと思わなくもない今日この頃。



・ジャンピングニー/デビルサマナー(外道フーリガンなど)
 配置に関係なく敵一体を攻撃できる技属性物理特技。威力は低い。
 何故かデビサマには、前列一体を攻撃する特技“跳び膝蹴り”がこれとは別に存在するが、この話では飛び膝蹴りにジャンピングニーとルビを振っている。
 ホッピングとの併用により威力が向上しているようだ。



・スニーカー坊主
 逆宇宙シリーズに登場する僧侶、吉水都英の事。作者の大学時代の友人がモデルでリアル住職らしい。ヒーロー気質の脳筋チンピラ僧侶でフィジカルエリート。武器は鉄数珠。
 当初別のキャラが主役だったこのシリーズの主役の座を奪い取った男で、同作者の著作、秘神伝奇ネクロノームにおいて、作者のうっかりミスで被災し死亡した疑惑がある。



苦止婁得(くしるう)宗/朝松健著、逆宇宙シリーズ
 逆宇宙ハンターズに登場する、真言立川流に端を発する邪教。
 白黒パンダ男こと神野十三郎は、これに属する妖術僧、白凰坊である。
 なお、宗派名はクトゥルーの捩りで、経典がネクロノミコンの訳だったりする。
 デビサマ登場の特技“劫火召喚”は恐らく同名の苦止婁得宗妖術が元ネタで、初代デビサマにはこのシリーズのアイテムやら術やらがかなり登場している。
 薬師仏笑が魔封効果だったり、某登場人物の装備が一式揃ってたり、逆宇宙シリーズ以外で見たことが無く、ググっても情報が一切出ない武器が登場したりしてるからね……。



・修羅偏在
 白凰坊の得意とする妖術。自分の二重存在を効果範囲内に自在に生み出し、操り、情報をやり取りする。呼びだした分身はほぼ同等の思考と能力を持っているようだが、お手軽にポンポン出せるわりに強敵相手には余り使わない為、何らかの制限はあるらしい。
 また、術終了後は猛烈に喉が渇くようで、複数体出した後などは水差しの水を一気飲みしたりする。



・白い仮面
 月長石か何かの様な、ツヤと透明感のある白い石の仮面。火星の人面岩と一時期話題になった地形や、それを模した古いシューティングのボーナス破壊対象に似ている。

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