運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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状況にあった掲示板記事が思い付かぬ……。
それと、来週は更新をお休みします。


第5話-1

 オリオン通り――東武宇都宮駅と、宇都宮二荒山神社の参道から旧宇都宮城へと続く“バンバ通り”とを繋ぐアーケード街。

 自動車の普及、大規模小売店舗法改正、バブル崩壊、郊外型商業集積の台頭……。

 様々な要因から低迷が進みつつも、前世のそれと比べればまだまだ賑いも残っているその道を、奇妙な形の自転車を押しながら少年が歩いていた。

 休日の人並みを抜け、宇都宮駅方面からバンバ通り方面へ。

 信号を渡り、古びたカレー屋の前を過ぎ小川を渡ると、その少し先で北に折れ、一つ先の十字路から、バンバ通り方面に続くデパート前の道に入った。

 そうして進んだその先の小さな喫茶店の前でその足を止める。

 ポーチから取り出したカードを見て、店名を確認。

 気が付かれぬようにと自転車の結界を展開。

 ひょいと跳び上がり、修理が済んだ愛車を二階の壁に貼り付けると、何食わぬ顔で飛び降りて店の扉を潜った。

 古いと言うべきか、趣きがあると言うべきか?

 珈琲豆の容器が並ぶ店頭を抜け、少し薄暗い、落ち着いた店の中へ。

 少年が歩を進めると、店の奥、笑顔で手を上げる男の姿が見えた。

 全体の印象を言うなら恰幅が良い。褒めて言うならそうなるだろう。

 白いスーツにパナマ帽を被ったオールドスタイルは、古い日活活劇(えいが)からでも歩いて抜け出てきたよう。

 少し頬が緩んだその顔は、赤い鼻が顔の中央に大きく出張っていて、野卑と言うか、下卑たというか、気品と言うものとは大凡無関係に見えたが、良く動き、何処か人懐こいその表情が、男をその顔のつくりよりもはるかに魅力的に見せていた。

 

「やぁ、やぁ、中村君。

 ……いや、失敬、失敬。こちらはコイツ越しに幾度も君の雄姿を見せてもらっているのでね、どうも初めて会ったような気がせんのだな」

 

 そうして、歩み寄った少年、ガイア連合の対仮面専従班班長と言う、一種の客寄せピエロを務めている彼、中村翔意を、彼は立ち上がって迎えると、大きく顔と体を動かして、口から先に生まれてきたとでも言う様に捲し立てた。

 

「はじめまして、私は<大使>、仲間内ではそう呼ばれておるよ。

 勿論人間の名前もあるのだが、こっちは田中一郎、中身も佐藤一と少しばかり没個性でね。できれば君にも、大使と呼んでもらえると有り難い」

 

 コイツ、こっちと言う度に自分の額をコツコツと指で叩いているから、自分の正体や身元を隠す気は全くないらしい。

 

「ああ、ここでの話が漏れる心配ならしなくても良い。

 悪いが店主には、少しばかり手妻を掛けさせてもらっていてね。

 勿論、その分飲み食いはさせてもらうつもりではある。

 この場は当然私が奢るから、君も好きなものを頼むと良い。

 熟成豆をローストした珈琲と自家製のケーキは中々のものだぞ」

 

 そう言って彼は、少年に椅子を進めて自分も席に着くと、喉を湿す為か、コーヒーカップの中身を軽く口に含んだ。

 

 

 

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 そのきっかけは早く、例の白仮面奪取から三日ほど後の事だった。

 手に入れた仮面は、その日の内に封じられ、折鶴と貸し与えられたもう一体の手で、既に山梨へと移送済み。調査結果が出るまでは、出張業務も休止との通達が来ていた。

 Lv的にも、翔意は栃木の現環境ではほぼ頭打ちな状態で、メシアの参入により、既に彼がブラック労働に従事する必要は殆どない。

 なのでそれからの土日放課後は、主に蝉川の教育――急速に強化された肉体の制御や、覚醒により得た魔法のレクチャー、簡単な戦闘訓練等――を、彼女の世話を焼きたがる花子さんも交え行う事になっていた。のだが……

 

「……翔意」

 

 そうして新しいサイクルが始まった、その矢先のことだ。

 

「翔意宛に手紙が届いていたのです」

 

 火曜放課後、派出所で荷を降ろした少年に、花子さんが、一枚の手紙を手渡したのは。

 秋の日は釣瓶落としと――は昔から言う事だが、彼女は日暮れに合わせて神社の掃除時間を早めていて、最近は翔意の到着より早く、それが終わる様になっている。

 珍しく事務所で彼を待ち受けていた――書類では翔意のシキガミなので席がある――花子さんは、入ってきた翔意に手にした白封筒を示した。

 

「手紙? 花子さんが? どこにあったんですか?」

 

「御供えの葡萄の箱の中です。

 藤稔ってロゴが入った立派な化粧箱でした」

 

「……それはまた、中々厳つい御供えが来ましたね」

 

 藤稔はブドウの高級品種で、大粒で巨峰より糖度が高いが、余り移送には向かず遠くに出荷し難い特徴がある。

 その贈答用の化粧箱入りともなれば、パック五千や一万に届くものもあった。

 

「綺麗で美味しかったですが、流石に一人では食べきれないのです。

 翠ちゃんが来たら皆で食べましょう」

 

 そう言う彼女から封を受け取り、まずは光に翳してみたが、内袋がある封筒なのか、中の様子は透かして見えず、また中味は紙だけなのか触れてわかる感触も無かった。

 その封筒の表書きには“ガイア連合、中村翔意様”の宛先が、裏書には差出人だろう“大使”の二文字が、中々達者な筆遣いで記されている。

 

「……大使?」

 

 大使は姓名として絶対にありえないとまでは言わないが、名字にしろ名前にしろ片側だけを書く理由がわからず、それだけで姓名と判ずるのは相当無理がある。

 かと言ってこれが役職だとすると、何処の“大使”なのかと言う点が欠けていた。

 

『尤も、あそこに供えられた俺宛の手紙となれば、所属は決まったようなものすが』

 

 口中そう呟いて封を開くと、中には三つ折りになった和紙の便箋が一枚。

 開くと同じ筆跡で、次の土曜の日時と店名らしき英単語、そして宇都宮市内の住所のみが簡潔に記されていた。

 

「ここで待つ、と言った所ですか。

 罠を食い破られて、交渉を持つ気になりましたかね」

 

 

 

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「……じゃあこの、ディアブロブレンドをお願いします」

 

 そうして直ぐに緊急報告。折り返しで接触命令が出て、処置済み戦力のスケジュールを確認、突貫で後詰の戦力の算段を付け……。

 実質気を抜けのはたった一日。直ぐに戻った変わらぬ忙しさを過ぎ越した四日後の午後、翔意はこうして<大使>と向き合っている。

 

「ふむ、中村君は、深入りの苦くて甘いのが好みかね?」

 

 四人席の対面に腰を降ろすと、メニューをパッと見、即座に注文した少年に、大使は話の接ぎ穂としてか、苦笑交じりの笑顔でそう尋ねかけた。

 名政治家(タレーラン)のものとして知られる言葉に因んでか?悪魔の名の付いたブレンドを置く店は少なくはないが、そう言ったものは概ね、苦くて酸味が少ない深入りで、コーヒー本来の甘みが強いものが多いのだ。

 

「いえどうにも、何処かの誰かさん達に振り回されて疲れ気味でしてね。

 目を覚まさせてくれる苦さが欲しかったので」

 

 対してにべもなくそう答えた彼に、大使は顔の笑みを抑えて軽くその頭を下げる。

 

「いや、それは済まない。わしは前々からガイアとはきちんと交渉を持つべきだと主張してたんだが、どうにもウチには、君らを怖がっている連中が多いようでなぁ。

 それで要らんチョッカイを掛けて、尻に火がついてからこんなことを言い出すもんだから始末に負えない。その上、交渉も丸投げするとは、本当に嘆かわしいばかりだ」

 

「……怖い? 怖いからあんなことをしたと?」

 

「そりゃあ怖いともさ、メシアもそうだが、君らはもっと。

 今の社会を見ればわかるだろう?

 君らの組織は、たかだか(・・・・)人生二周目程度(・・・・・・・)の、ただの数十人、数百人で、世界にこれだけの変化を齎したたのだぞ?

 その上、それらが皆、高い霊的才能を持つ超級の覚醒者の卵と来ている」

 

 思わず零れた翔意の言葉に、男は少し身を乗り出すようにしてそう言った。

 

「白状するがね、我らは皆、君ら転生者達に影響を受けた者達だ。

 そのミーム汚染を受けて、且つ、君らに対する一定以上の強い感情を抱いた者達の中から我らは生まれ出てくる」

 

 その言葉に驚き、目を見開いた少年に、彼はにやり、笑いかけると、上目使いにねめつけるようにする。

 

「そしてな、我らの中には、転生者達に恐怖に近い感情を抱いているものが多いのさ。

 何せ君らは、結果を出しているからな」

 

 そして、ごくり、そんな男に気圧されて、翔意は息を呑んだ。

 彼の前の男には、敵意も、こちらを思い通りに動かそうと言う策謀も見て取れない。

 少年の超感覚に、それはただ淡々と、興味の無い事実を話しているだけのように見え、それが肉眼に移る演出過剰なその仕草と酷く不整合で、恐ろしい。

 

「言っとくがね、君だってその対象だぜ?

 追い風参考とは言え、中学陸上で高校記録に近い成績を叩きだし、にも関わらず進学を機に、それをポイ捨てした中村翔意くん?」

 

 世の中、理解できない物ほど恐ろしい。

 二重の意味でそれを突きつけ、大使は口元を笑みに歪めると、椅子に座り直してカップを手に取った。しゃべりつかれたと言う様に、湯気を立てるそれを一口、口に含んだ。

 

「まぁ、そんな話でね。わしは不甲斐ない同胞を代表し、我らの真実を伝えに来たわけだな。

 なにせ、同じ目的を掲げる組織同士が、不毛な警戒でリソースを擦り減らせ合うなんざ、効率がが悪くて仕方ない。儂みたいな調整屋には悪夢だよ。」

 

 そしてカップは手にしたままで、苦い顔をしてそう続ける。

 

「そう言う訳で、こちらから伝える情報が二つ、ああいや、わしらの出自も含めてだと三つあってな。失礼だが、こうして賄賂を贈ってお呼び立てしたという次第だ。

 そうそう、ところで賄賂の味はどうだったかね? 自分の家で食べるのは少しばかり抵抗のある額の品だったのだが、まさか、そのまま廃棄したとは言わないだろうね?」

 

 そして直後、顔を再び笑みへと戻した大使に、翔意は少しばかりの苦笑を返した。

 その最後の問いかけだけは、本物の興味の情が乘っていたと、そう判ったからだ。

 

「ウチの女神見習いが大丈夫と太鼓判を押してくれたのでね。

 皆で楽しませてもらいましたよ。少しばかり甘すぎる点を除き、美味しい葡萄でした」

 

「そうか、そうか、それは重畳。

 うむ、それでどこまで話したかな、そう、我らの出自に関しての途中だったか?

 そう言う訳で、我らは君らが持ち込んだ平行世界概念に触れる事で感染し、接触した場で強い感情を向ける事で結ばれた縁を伝って仮面を手に入れる。

 そこから先は二通りだな。

 一時的な仮面の受け皿となる場合と、仮面とより強い繋がりを持って合一する場合。

 わしらは前者を兵隊クラス、後者を士官クラスと呼んでいるよ……」

 

 

 

 

 





・大使(田中一郎)/仮面ライダー1971-73
 小説、仮面ライダー1971-73の登場人物で、ショッカーの幹部。
 原作の地獄大使に相当する人物だが、変身能力、戦闘能力はもたない。

 表の顔は与党代議士岸和田氏の第二秘書で、後ろ暗いところから政治資金を集める能力に長け、その能力と話術で、政界に影からの影響力を張り巡らせている。
 肩書や表の顔の通り、調整と誘導、悪意に長けた人物で、一部では、口を開けば地獄が見えるとまで言われ恐れられているらしい。

 なお、ショッカーから技術や情報を奪い取り、成り変わる事を目指す国際組織“アンチショッカー同盟”の幹部である田中二郎とは実の兄弟で、弟の二郎も対立組織で似たような仕事をしているようだ。

 出したのは完全な趣味で、敵じゃないって主張している以上、向う側の交渉屋は出て来るよなってなった時、最初に思いついたのが彼だった。



・佐藤一
 大使の中の人。
 彼の言によると、目的の為に受け付けられた一時的に植え付けられていた蝉川とは違い、仮面を自ら受け入れ獲り込んでいる為、ペルソナ版デビルシフター的な状況にあるらしい……が、言っている人物が人物なので、詳細は不明。



・喫茶店
 実在店舗だが、ここ数年足を運んでないんで今どうなってるか判らん。
 ディアボロブレンドも、似た様なのはあったと思うがこの名前ではなかったかも。
 焙煎前の生豆を数年寝かせて熟成させているらしく、晴れた平日の昼間などに行くと、店主が店先で生豆に何かしら作業している(干している?)のを見かける事がある。



・シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール
 政治家、謀略家、外交官、美食家として非常に有名な人物。
 なんと、あのフランス革命以降の聳え立つ糞の山、もとい、激動のフランスを泳ぎ切り、一度は失脚するも、病死する数年前までイギリス大使を務めていた言う化物である。
 なお、例の言葉は、

 「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように清く、恋のように甘く」

 だが、甘い以外は味に触れてない上、それも本来は珈琲自体の甘みではないらしい。
 よく読むとあんまり味わっている感の無い言葉で、忙しい政治家生活の中で、眠気覚まし兼糖分補給として重宝していたのではないかと想像させられる(をい)。

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