運使い対無貌の仮面……VSメシア教会   作:十八

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第5話-5

 

 宛がわれた宿舎で荷を降ろし、彼は戦闘服(サイクルウェア)に着替えた。

 移動手段(じてんしゃ)に合わせ、違和感なく設えられたが、生憎ただ敵を倒せばいいと言った仕事が少なかった為、余り日の目を見る事が無かったそのフル装備。

 サイクルジャージの上下にアイウェア(サングラス)、前に多数の空気穴、後ろ穴がやたらと刺々しいヘルメットを腕に下げ、腰裏のポケットに、木の人型を刺し込んだ。

 そうして宿舎を離れて、施設外延のサークル棟へ。

 ガイア連合自転車部――看板のかかるプレハブの前に、軽く会釈して片手を上げた。

 そうしてその先、薄手のジャージに筋骨が盛り上がった禿頭の初老と、傍らに立つ金髪(パツキン)トランジスタ(ちび)グラマァ(きょにゅー)。その周り、各々個性的な愛車を手にした数名が、それを見て手を上げたり会釈したり、何故前腕二頭筋を盛り上げたり帽子を廻したり、それぞれてんでバラバラな仕草で挨拶らしきものを返した。

 そうして彼らの後ろから、WildHuntが自走し飛び出し、少年の傍らに身を寄せる。

 翔意は相棒に微かに微笑み、そのハンドル取付金具(ステム)を軽く撫でた。

 

「今日はお世話になります」

 

 早朝、神社に辿り着き、報告や挨拶、手続き等を経て、今はまだ土曜の午後早く。

 夏は過ぎ去りし今でも、日はまだ高い。

 少年は、一同の前に歩み寄り、もう一度頭を下げた。

 

「おう、宜しく任された」

 

 その中心、禿頭の初老はそう言うと、まず傍らの金髪を指し示す。

 

「きちんとした紹介はまだだったな。コイツはオレのシキガミで由見(ゆみる)

 

 生松がそう言うと、彼の傍ら、ロード二台を手で支える少女がその頭を下げた。

 部長は次に、片手()筋肉を盛り上げ(ポージングす)る巨漢を指し示す。

 巨漢の下げた片手の下に、前後のタイヤにチェーンが繋がる大きなギアの小径MTB?が見えた。

 

「ソイツは地揺(じゆらし)寛嗣(かんじ)

 その筋肉(パワー)と早さと無縁の小径2WDで、あらゆる地形の高速踏破を目指す変人だ。

 小型の車体と巨体を生かした自転車での肉弾戦を得意とする」

 

「中村君の左腕の話は聞いている。車上での受けのコツが判らない時は相談に乗ろう」

 

 巨体とポーズ、奇怪な説明に似合わぬ落ち着いた表情のダンディは、どこか静謐なその表情を崩さぬまま、部長の言葉にも劣らぬ狂った言葉を吐き出した。

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 とは言えその内容は有用なモノ、翔意が半ば気圧され乍らそう答えると、彼はうむと頷き薄く頬笑む。

 

「次にコイツが、浅見耀(あさみよう)

 ひょろい眼鏡のイメージ通りの電撃使いの魔法型。ウチ最年少の高校一年だ。

 ちょっとスカして年上好きな位で、後は特徴はねぇな」

 

「ひょろいと特徴が無いは余計ですよ、生松部長。

 僕は浅見耀、ジオ系魔法と麻痺発動率を高めるパッシブを覚えてる。よろしく」

 

 部長の言葉に、学生服の少年は苦笑して眼鏡の弦を持ち上げた。

 相棒は、クラシカルなバッチが付いたクロスバイクで、確かに他のと比べてキャラが薄――落ち着いた雰囲気だ。

 

「よろしくお願いします、浅見さん」

 

耀(よう)でいいよ、中村さんの方が年上だからね。

 それと、できたらラティのやり方を教えて貰えると嬉しいかな」

 

「じゃあ耀君、時間があれば喜んで」

 

 そうして部長に視線を戻すと、次に彼は最後の一人へ手を向けた。

 帽子を被ったショートの少女が、サイクルシャツとスパッツの上に丈の長いジャケットを合せている。一見中学生位に見えるが、耀が最年少との事だから、高校生だろうか?

 彼女の自転車はごく普通のロードに見えるが、ハンドル前に鞄が、増設された荷台の両側に鞍袋のようなバックが取り付けられていた。

 

「んで、最後の一人のコイツが相坂泰雅(あいさかやすまさ)

 ウチで一番喧嘩っぱやい武闘派槍使いで、こんなナリだが成人男子だ」

 

「……え?」

 

 思わずぎょっと目を向く翔意に、視線の先の少女にしか見えない男は溜息を吐いた。

 

「いつもの事だから一度は許すが、次似たような反応したらぶんなぐるからな。

 ……俺は、相坂泰雅、こう見えて21歳の男だ。

 どうもクーフーリンの転生者らしくてな、その影響でこの通りの合法ショタらしい」

 

「クー?え?」

 

 女神転生のクーフーリンは、長髪の美青年の姿で現れる。

 その白皙の美貌を女性的な容姿と言うならそう遠くない気もするが、合法ショタ?

 混乱した様子の翔意に、泰雅はこう続けた。

 

「俺はチャリでも槍を使うんでな、今日は指導してやれと言われてる。

 こっちにいる間中はお古の槍を貸してやるが、壊すなよ?」

 

 そうして、後ろの鞄から出した袋を少年に放った。

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 投げ渡された袋の中身は、組み立て式の手槍らしい。困惑の抜けぬまま中を確かめると、そこにはねじ込み式の棒が数本と、鞘に入ったその穂先らしきものが見えた。

 今ここで組み立てるべきか?顔を上げた翔意に、部長はコホンと咳払い。

 

「異界に入って暫く不整地を移動する。槍を組み立てんならその後の方が良いと思うぜ?

 午後からだとそんなに時間も無いし、レクチャーもある。

 今日はさわりくらいの予定だが、流石に入り口付近だと悪魔が弱すぎるからな」

 

 そう言って、シキガミから大きい方の自転車を受け取ると、先導して歩き出す。

 そうして少年がある気来た道を逆に辿ると、今度は神社の本殿へ。

 裏手に回って突き当りの崖の前、大樹に両側を囲まれた砕けた大岩の、その向うに開いた洞窟へ、部長を先頭に各々自転車を引いて列になって足を踏み入れた。

 

「……そう言えば、ここに入るのは初めてでしたね」

 

 果てしなく広く、奥に行けば行くほど何処までもレベルが高い悪魔が出現するその特性から、連合転生者のレベル上げのメッカとなっているこの超大型異界だが、半面、強い悪魔と戦う為に必要な移動距離や奥地への侵入に必要な許可等煩わしい点も多く、単独で急かされるように進んでいた翔意は、今迄入ったことが一度も無い。

 砕岩を踏み越え洞窟の天井を見上げた彼に、クロスバイクの少年がその目を丸くする。

 

「……栃木は酷い状況だとは聞いているが、ここに入らずそこまでレベルが上がったのかい?」

 

 既に30の壁を超えた自転車部武闘派トップ程ではないが、翔意のLvも30目前。

 如何に終末が近づいているとはいえ、外では破格も良い所だ。

 なのに、ここに足を踏み入れてもいない驚きに、耀が尋ねる。

 

「感覚ですけど、栃木には一日合計50Lv分位の悪魔が現れますからね。

 多分これが、東京結界で処理しきれず排出されている悪性Magの量なのでしょうが」

 

 そして、Lv50、その衝撃的な数字に、周囲が一斉に目を剥いて少年を見た。

 それに足を止め、翔意は苦笑い。いやいやと空いた右手を軽く振る。

 

「流石に今まで戦った一番強いのでもLvは30強ですよ。

 合計50Lvが、30Lv帯0~1、20Lv帯0~2体、10Lv帯0~3体、残りは一桁Lv帯みたいな感じに振り分けられて現れる感じです」

 

 とは言え、今後緩やかに上昇するだろうと目されているし、30代ともなれば異邦の主神級悪魔が出てもおかしくないLvだ……が、幸い人間由来で特定の色が付いたMagという特性から、出現するのは怪異やローカル妖怪に大きく偏っている。

 

「仲間を呼ぶ悪魔がいると、もう少し増える事もありますけどね。

 むしろ、ある程度高Lvに纏まっていてくれていると楽なのですが、最悪の場合、県内に散らばった1桁Lv悪魔を、浚って虱潰しにする作業に追われます。

 毎日がその繰り返しなので、30そこそこ位までは普通にLvが上がりますよ」

 

 壊せない高Lv異界を一つ、抱え込んでいるようなものだろうか?

 比べ移動の労力が果てしなく大きく、正直冨和は良く一人で廻せていたと思うが……。

 

「……まぁ、最近は外部協力者が増えましたし、県内メシア教も参入したので多少楽にはなりましたが、これも良し悪しで、ええ、栃木派出所では絶賛移籍者募集中です」

 

 そうして最後は、少しお道化た様に締めるが、それに笑ってくれるものはいなかった。

 

「……よくもまぁ、そんな場所に踏みとどまってるもんだな」

 

 彼が口に出したもの以外に、例の仮面の組織の問題がある。

 その存在を知る部長がポツリ、言葉を吐きだすと、少年は大げさに肩を竦めて見せる。

 

「なんだかんだ言って故郷ですし――それにどういう訳か、痛いのは嫌いなのに逃げるのはもっと嫌でして」

 

 そう言って翔意は、相棒に沿えた左の、生身と義腕の境界を無意識に撫で摩った。

 異界行、偽装を解いた左手は、右と比べ一回りも太く、盛り上がっている。

 

『そう言えば、この決断もその内だったのかもしれない』

 

 撫でてからそうしている自分に気づき、彼はふとそんな事を想った。

 時折湧きあがる、してはいけない、やらねばならぬ、そんな強迫観念。

 片腕を落とす――今にして思えばその決断の根底には、繰り返される痛みや前世の死の再経験への忌避以外に、そうすれば覚醒出来るとの確信めいたものがあったのでは……。

 

「……」

 

 沈黙、誰も何と言っていいのかわからず、しばしコツコツと、足音だけが続いた。

 短い洞から、その向う、緩い山肌を無限に降りていくような、下り坂の異界へ抜ける。

 その先に続く、幾重に別れた九十九折の所々には、誰かレベリングに励んでいるのか、それとも以来の類か、炎や氷、雷、竜巻と言った、戦う者達の力が時折パッと咲いては散っているのが見えた。

 

「……とりあえず皆チャリに乗れ、しばらく道を外れてショートカットするぞ。

 寛嗣と泰雅は先鋒を頼む。翔意は暫く、前で戦う二人を見とけ」

 

 生松部長がそう言って下がると、それに合わせて皆が動き出す。

 泰雅、寛嗣、生松、由見、そして二人に囲まれて、翔意と耀。

 そして動き出す列の最前、少女めいた容姿の青年が、何か思い至ったかのように目を眇め口元を引き締めるが、それに気づいたものは誰もいなかった。

 

 




・地揺寛嗣《じゆらしかんじ》

 Lv20 力体型 特技:物理耐性、猛反撃、二分の活泉、生命の泉(P3版)、他
 仮面:アースクエイク/ニンジャスレイヤー(グラマラス・キラーズ版)

 ガイア連合自転車部の一人。身長2mを超えるタフいマッスル。筋肉戦車。

 物理耐性までならダメージレースで勝てるが反射吸収持ちには無力なので、弱点を補う“補助/疾風魔法使い”のシロ(カマ?)イタチ型シキガミ、ノロイを従えている。

 その巨体で小径2WDに跨る自転車部きってのイロモノで、マッスル前提のデカいチェーンホイール(前歯車)を持つ固定ギアの愛車は、常人には廻すのが難しい代物。
 体と比べ車体が小さい為、自転車を駆り乍ら無理のない肉弾戦が可能で、自転車部の先陣を切って戦う肉弾突撃馬鹿……何故自転車で肉弾戦しようなんて考えた!言え!

 誰も気づいていないが、ニンジャスレイヤーに登場するソウカイヤシックスゲイツの一人、アースクエイク=サンの仮面を宿しており、巨大なパワーと高い防御力、冷静沈着な判断力を兼ね備えている……筈なのだが、当人が縛りプレイから充足感を得るマゾ気質な浮かれポンチなので、最後の一つが発揮される機会はまずない。

 なお、他の媒体だと怪獣の類なので、この話の彼のベースはグラマラス仕様のグッドルッキングガイだが、車体と体のサイズ比較は、誇張されてる方に近いイメージ。



・ノロイ

 Lv15 魔速型 特技:ガルーラ、タルカジャ、スクンダ、ラクンダ、戦慄の眼光、等

 風を操るシロイタチ型シキガミ、普段は寛嗣の服のポケットに入っている事が多い。

 普段はとってもキュートなイタチちゃんだが、笑うと顔がラスボスの風格を帯び、見たもの全てを高確率で恐怖にする戦慄の眼光を放つと言う。



・2輪駆動自転車
 マイナーだが実在する。
 片輪駆動より重いが、悪路走破性や直進性が高く、坂道を登り易く疲れにくいらしい。

 覚醒者の身体能力ならメリットの方が大きいと思われるが、使用者は少ないようだ。



浅見耀(あさみよう)

 Lv17 魔>運型 特技:ジオンガ、マハジオ、電撃ブースタ、バステブースタ、他
 仮面:浅海輝(あさみてる)/メガトン級ムサシシリーズ

 冷静な感じの眼鏡の少年。メガテン世界では非常に有用なジオ系魔法を能くする。
 周囲が濃いので影が薄くなりがちで、冷静な性格もあって、尻拭いに廻る事が多い。
 愛車も、クラシカルなバッヂが付いたレトロデザインなクロスバイクと、特徴が無いのが特徴と言った風で、決してチャリで敵に突撃したりしない優等生。年上好きらしい。

 比較的最近ガイアに参加し、装備を優先した事等から、まだシキガミは持っていない。



相坂泰雅(あいさかやすまさ)

 Lv31 バランス>>運型 特技:地獄突き、八百万針、ザンマ、マハザン、魔力覚醒(暴)
 仮面:逢坂大河/とらドラ

 少女めいた容姿の青年、合法ショタ。

 癇癪持ちで、怒ると額に光輪が浮かぶクーフーリンの転生者。戦いの狂乱による異形化の片鱗とも言えるその特徴から、自身がその転生者であると逸早く知ることが出来た。

 シキガミは、槍型のガエアイフェ。擬態で自在に変形伸縮し、普段は泰雅の腕にアルムレットとして巻付いている変幻自在の電撃の魔槍。斬艦刀並みにグニグニ変形する。

 自転車部きっての武闘派で、騎乗したまま槍を使う銀輪騎兵。激しやすい性格をしているが、怒るとより一層子供っぽく見えるので務めて冷静でいるように心がけている。
 騎乗戦闘のレクチャーを依頼され、翔意に以前使っていたお古の槍を貸し与えた。。

 なお、サブカルでは、美青年だったり兄貴だったりするクーフーだが、クアルンゲの牛取りでは仲間に子犬ちゃん呼ばわりされたり、メイヴが呼び寄せた戦士に「こんな子供と決闘するのは……」と難色を示されたり、笑窪がどうとかエクステがどうとか女性的な描写が多ったりと、どうも中性的な合法ショタだった節がある。

 この話ではそのイメージから、逢坂大河の仮面を上から貼り付けた合法男の娘とした。



・ガエアイフェ

 Lv22 力体型 耐性:状態異常に強い
 特技:擬態B++、放電、雷電槍、ディア、アムリタ

 槍型のシキガミ。主の補助に特化しており、低位の擬態スキルを高度に使いこなして行う瞬間的な形態変化、自身に電撃属性を付与する雷電槍、治癒、回復魔法等を使う。
 なお、名前はゲイボルグ(ガエボルガ)の別名で、アイフェの槍の意。



・例の魔界への大穴
 星霊神社で封じてるなら、入り口は本殿かその裏辺りだよなぁ……。
 けど、本殿に武装してゾロゾロ入ってくのもアレだしなぁという事で、この話では、本殿裏手の崖に巨樹(桃木)に囲まれた砕けた大岩(千曳の岩)があって、その奥の洞窟が例の魔界に繋がる異界と言う設定にしました。入る時は本殿の横を廻り込む。

 恐らく、魔界の穴-穴を封じるクナドの神-出てきたのを焼き払うヒノカグツチ-ヒノカグツチの抑え兼嫁な埴山媛と相棒のミズハノメ見たいな感じに配されていると思われ。

 なお、崖ではなく坂で、嘗ては巨樹の根が大岩を抱いてた……とかの方がヴィジュアル的にはエモいんですが、それだと神社内のランドマークになってしまうので断念。
 神社内のランドマークと大穴の位置は最初に決めとくべきだったなぁと反省しきり。

 あ、もし本家とかに位置関係とか、入り口や異界の見た目なんかががでてる話があったら、教えてもらえるとありがたいっす。


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