それは気配。
部屋の外に急に慌ただしい雰囲気を感じて、何かあったのだな、と確信に至る。
この家で、焦ったような声と足音をこう
「……はて、ちょっと見てみるか」
ガタ、と内の襖を開けて、それから下付きの
そして
「———せ、
不意に目の合った使用人にめっちゃびっくりされる。まーそれもそうだろう。対の屋に陣取ってからそろ1年、こうやって
使用人は
ふむ。
「ちょっと出てきますね」
まあいいか。本題は外だ外。
「へ、は、はいっ。あ、……え」
歩を進めつつ周囲を眺めると人が多く出ているのが見える。呪術師は数名で門やら玄関口を固めており、なんとも非常事態といった風体。
衆目を集めている中強行して門から出ても訝しまれるだろうからと、塀の
はて、いつ振りに見る "外" か。
……なんて感慨は
「でっっっっ」
か。何あれ。呪胎じゃん。
平安の街は軒並み1階建なので空に浮かぶそれのデカさは測りづらいが、直径が我が家の寝殿程度*3 はあるように見受けられる。あれから何か生じるんでしょ?怪獣映画が始まる気がするんだけど。
それと気配で仔細までも読めはしないが、幾体かの呪霊の纏まりが複数箇所に生じているのがわかる。術師らが出払っているらしいのは、これの掃討に当たってもいるのだろう。
屋根と道を跳び進んで近くに寄る。先程のひそひそ話に立てた聞き耳で、有力な術師等はちょうど他所に出払っているというのも聞いていた。例えば前に見た六眼なんかも居ないのだろう。つまり。私が勝手に交戦しても幾分邪魔が入りづらいだろうということ。*4
そうして跳んで、跳んで。呪胎の元までたどり着いた頃には、既にその形容は変態を遂げていた。
目の前には、謎の力場に支えられてゆっくりと地に降り立つ巨躯の人型。
あら、周辺物件に気遣いが成ってるなぁ。と呑気に構えていれば呪霊の
返事とばかりに踏み込みが大地を揺らし。
大質量の呪力塊である。そーゆー道具だっけそれ。
「わ」
飛ばされた先は上空。目の前の景色が、スカイツリー展望台かな?*5 ってぐらい高くてびびる。
身体が振り回されていて視界が安定しない。重心、でのコントロールは難しいので呪力で姿勢を制御する。ニュアンスとしては言うなれば……、動作無しで逕庭拳を中空に放つって感じで。威力としてはお粗末で精々おもしろ技術かなと考えていたが、意外な使い道があるものだ。威力の低さは肉体動作が伴わない
だからそう、都を踏み越えて飛ぶ私を追う呪霊くんが追撃までも
……はて、空中での何も出来なさは何とかしたいかもしれない、精々数秒とはいえやはり無防備であるし。
(着地———)
ずごん。字面は間抜けだが爆音である。
地面がハジけて舞い上がった土埃が、私のほんの少し下がったテンションを覆い隠した。大きな音は不得意なのだ。
それにしても、フフ。
初撃、空高く打ち上げられて無事な時点で確認は取れていたが、やはり私の身体にダメージはない。
呪力防御というわけではなく。
身体がちょー丈夫というわけでもなく。
けれど確信できていたことで、驚きはなく。
私の生得術式は「不変」。
これは摂理。
"不変" たる私を、何者たりとも害する事はできない。
ふふ。嗚呼、まぁそうだろう。これはきっと
今朝の私の身に起こった不意。生得術式の自覚。
中々とっても素敵な誕生日プレゼントだ。おかげでかなり
私に追撃を与えんと振り上げられた呪霊の巨腕を見上げる。
こんな
「……やぁ、デカブツ君」
折角だ。少し
「少し、拙
不変を身体だけでなく、座標にまで適用する。
もう何者も。私をここから
『不変術式
先程と同条件であれば次は地平に盛大に吹き飛ばされそうな威力をしているが、しかしてそれは。
「おや」
私に触れてピタリと停止した。
殆ど虚空に消えたエネルギーの不可解さ。
消滅を免れた
「そうなるか」
これは足し引きだ。妙に少ない、少なすぎる呪力消費で把握する。
不変で在る事は呪力を消費する。外部からの干渉を無視するのなら尚更に。
よってこの、
「……んぁ、力みすぎちゃったわけか」
ちょっと気恥ずかしくなって頭を掻いた。
これはその、張り切った結果、不変の適用が想定からズレたのだ。不動の私に力を与えようとすれば、行き場を失ったエネルギーが相手を害する。なれば害しないのであれば釣り合いが取れる。そーいった採算の結果だこれは。
———だからちょっと
と、不変の適用範囲を整えれば、得物を捨てて私を直接潰しにかかっていた呪霊の手が弾ける。身体から抜けてく呪力を感じる。そう、こーゆーのを想定してた。
縛りじみた損益の計上。術式、或いは呪術そのものの特性であろうが、意図せず直面できたのはまあ、良い機会になった。しかし呪力を渋る必要もないのだ、もっと攻撃的に在った方が場に沿ぐうというものである。
良い。良いね。あと直近、試したいのは……。
これか。思い当たって、体表から薄〜く呪力を延ばす。
メートル単位で中空へと伸びる呪力の板。私の常日頃の暇つぶしの成果である。
これだけだと蜘蛛の糸じみて
こいつ、なんか二足歩行だし、足でも狙っておくか。
刃渡り10mを喰らえ。
「そぉ、らっ」
脳内に響いたずばんっ、とゆー小気味良い音とは裏腹、現実は在って無いような小さな風切り音が少々。足の首からポキリと、片足を失った呪霊が地面に崩れ落ちる。
んー。
重心移動のタイミングが噛み合い、相手が勝手に体勢を崩して運良く折れてくれたが、切り込みは途中までしか入っていなかった。根本から2.8m地点でポキリと折れた呪力刀は、私の身から離れたことで直後に霧散している。実際の成果は厚さ数mm程度の薄すぎる傷。切り離せてもいないのであれば、呪霊なら通常はすぐに閉じて終いだろう。
取り敢えずはこんなところか。一応実戦だし、ヘタなこと試す場面でも無いでしょ。
だからこれでおしまい。そうしよう。
「ありがとね」
踏み込んで、殴りつける。
不変に裏付けられた暴力は病的に一方的である。哀れ呪霊は爆発四散、と。
返り血がキショいなぁ、と思いつつ、どうせすぐに消えるので気にせず被った。