拙的に2000年頃に起こして欲しい草子   作:うすうす

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唸っている間にモジュロが始まり、完結した。


むつかしげなるもの

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 聞き耳を立てるに先日のくそでか呪霊は、集団で方違え*1をミスるという謎凡ミスによって生じたものらしかった。なんか、暦が1日ズレてて大将軍*2遊行日(ゆぎょうび)*3を踏み違えたとか、なんとか。そんなんで出るんだ、あの規模の呪霊。平安怖。

 正直(まじな)いとゆーものを舐めていた。そらみんな従うし気を付けるし重要視もする。私も風呂の周期をちゃんと占いで予定立ててみようか……とまで考えて、そういえば対の屋に引きこもり始めてからはそーゆー占いしてないんだよな、と思い出す。大丈夫ならいいか、面倒(めんど)いもの。

 

 風呂といえばここ最近、使用人さんが以前より輪をかけて怯えている気がしていた。ので湯浴み時に訊いてみた所、言葉に詰まりつつもどうにか教えてくれた。どうやら呪霊討伐(あの日)以降みんなが怖がっているらしかった。私を。

 

 ……まあ、心当たりはあった。呪霊を祓った後帰宅した私は家に居た人々に目撃されたわけだが、みんな訝しんだり目を見張ったり怯えたりした視線を向けていた。()()()()()()()布を纏った私に向けて。

 

 あの、消えると思ってたんですけど、呪霊の血。

 

 これは測るに不変の影響で、身につけた衣服についてまでは安定した適用を行えていなかったからだ。衣服に乗った半端な適用の不変が、血が染み込むのを許した上、血の消失を防いでしまった。

 

 そりゃ怖いよな〜なんの血だって話だし、何してきたって話だし、それやってるの子どもだし。あと引き篭もりだし。あれ、私の世間体に良いところ無い? ……いや、そりゃそうか。

 

 

 

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 呪力で直方体を形成するにあたって、1番楽な体勢は手を上下に配置したものだ。左右一対の手の間に呪力を留めて、空間に形状を成形する。下方の手を基礎に、下方の手で概形、上方の手で細部と、意識的に役割を分けて取り組むと行い易い。

 

 形成を終えたら、この呪力を基礎に空間に「不変」を適用する。

 一口に空間といっても、空間そのものでは捉え難い。ここで術式の対象とするのは()()だ。出来上がるのは無色透明のボックス。呪力を視ることでのみ視界に映る。手で持つことが出来、弾けばふわりと部屋の隅まで飛んでいく。無重力感が風船の様でちょっと愉快。

 

 といった形で、生得術式の検証と慣れのために、色々試すのが日課になっている。この新しいおもちゃで随分遊んでいて、部屋に浮かぶ幾多の図形がその結果だ。

 各図形は私と術式のパスで繋がっている。維持にはじわじわと呪力を食うし、衝撃(変化)を加えれば不変のために相応の呪力消費が生じる。天井の隅に群れる四角たちに近くを通った三角錐を投げ付けると、当たって弾けてぶつかり合ってふわふわと漂う。呪力が身体から相応に吸われ、部屋の様子は少し騒がしくなる。ボウリングじみてちょっと楽し気かも。

 

 とまあ、呪力を無駄遣いし続けているのだが、これが一向に枯渇しない。底を見ておいた方が良いかなとも多少思ってたんだけど。他の術師を1人もちゃんと知らないし、術式の燃費どんなんとか、私の呪力総量どんなんとか、何も判断できないや。

 

 

 

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 『不変』の術式効果は文字通り "変えない" こと。凡ゆる干渉を無効化し、状態を保持する。

 例えば手遊(てすさ)びにしていた石塊(いしくれ)を徐にひと摘む。不変とした石塊の鋭利な角は、容易に私の肌を割く。私の指先もまた不変とすれば、互いはその一切を害さない。更には石塊もその不変を解けば、抵抗も無しに容易に握り潰される———とはならない。

 

 いや、肉体への呪力強化を施せばまあ難なく潰せるわけだが。いくら自身(やいば)に不変をかけようとも、石塊(あいて)を圧し壊す為には相応の馬力が必要である事には変わりない。

 

 このような様を見て先日、でっけー呪霊を殴り抜いた時を思い起こす。あの時の、不変に裏付けられた暴力。あれは単なる不変では成立しない。解釈を広げた座標不変、或いはその先に運動不変。反作用の仕事を、不変を害するとして亡きモノにしていたのがその証左。

 

 座標を不変にした上で自分からは動けていたのもちょっとわかんない。いや、ニュアンスは分かるんだけど理屈まで落とし込めないというか。

 

 あの時その場のノリ、なんとなくで成立した術式の解釈。モノに出来るものか、そもモノにしてもよいものか……。考えてみれば中々恐ろしい。一度固めた解釈とは、この先ずっと付き合う事になるだろうという予感しかない。

 まあ、私が私である以上、生得術式の効能なぞ先んじて決まっているようなものなのだろうが。

 

 

 

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 珍しく、ごろついて居られずに身を起こして、筆をとっている。目を覚ましてから、こんな程度まで強く現実感を抱けたのは初めてかもしれない。

 要因は昨日迄の施術であり、苦節半年弱を経て今や私の身に纏っていた呪力は、見かけ上の消失を達成していた。

 

 私の身を包む呪力はどうにも、出ている方が "自然" な様だった。右手へ左手へと纏めることはできても意識を切れば元通り。心を落ち着かせても体表を揺らぐ呪力の波が凪ぐに止まる。

 そんな中で、ひとつ手法を思いついた。どうにも普通でなさそうな現状をどうにかしたいのだから、別に普通な対処に拘る必要も無いという、開き直りのような思考の転換の末に辿り着いた手法。

 それは、呪力出力が限りなくゼロである状態を不変で固定すること、だ。中々にして脳筋。

 

 思い立ってからはひたすら実践。体表の呪力を退けて、退けて、そこに不変を掛ける。爪先なんかから始めて徐々に徐々に不変な範囲を増やしていった。

 最初、半月で施工を済ませた右の脚は、重なり合った無数の不変がパッチワークどころかモザイクみたいに広がっており、かなり混沌としていたのが印象に残っている。不意に謎の凝り性を発揮した私はそこからひと月弱掛けて、右脚のモザイクを1枚の綺麗な不変へと張り替えた。……より正確には、"繋いだ" と言うべきか。不変と不変の境界を一つ々々なぞって(なら)したのだ。

 当時も施工の完了後暫く、爽快感や開放感のようなものを感じられていた。もしかするとこれは、ムダ毛処理の後の感覚に似ていたりはしないだろうか。いや、知らんが*4。適当言ってるのであまり間に受けないでほしい。

 

 と、そんなこんなな過程を経て、私の体表から漏れ出す呪力の、その全てが封じられるに至った。窮屈さなどは特に無い。寧ろ自身の身体を見下ろす度に嫌でも感じられ(視え)る、煩わしく波打つ呪力の(レイヤー)が消えたことで漸く "自然" に思えるようになった。

 前生を経て今生、今の自身はこの身の(うち)で在ると言うことに、腑落ちが行かないという大きな引っ掛かり。解消された今になって、それが在ったことにようやっと気付いたと言う感覚がある。

 

 ふむ。そろそろ身の振り方を考えるべきだろうか。いや、ずっと寝てたいんだけど、いつまで寝てられるんだろうこれ。寝てる間に致命的な何かが進行してても分かんないし。

 

 

 

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 体表から。……そう、体表からである。

 自身のお肌事情と数ヶ月向き合い続けて気付いた。先日も記したが、私の身に纏っていた呪力というのは、どうやら体表から()()()いるらしいのだ。おかしい。呪力というのは腹から、臓腑から湧き出るものでは? 何故全身の体表から突然生じておいでになるので?

 

 例えば。東堂曰く、我々は全身全霊で存在している*5。しかしそれは呪力を捻出するにあたってのその過程を、理屈を意識から切り離す為の理屈。言い換えれば、呪力操作の習熟において手習いの段階を超えた状態。私は全力で世界に存在しているので、呪力も体表から直接出てますみたいな。果たして、自身が天然でその境地に達しているものと楽観視するのはちょっと難しい。というかこれってある種の方便でしょ。ほんとに体表以前の物理経路の見当たらない奴があるか。

 

 こうして悶々としていると嫌な想像ばかりが過ぎる。自分自身が厄ネタくさいのはちょっと……。 ……んまあ、呪いを扱うって前提の時点でハナから碌なものでもないか。いいもん自分が困らなきゃ。今の所困るか困らないかすら予想つかないんですけどね。へっ!

 

 ちゃんと把握するには、識ってる人間から話を聴くしかないだろうか。そも家族なりの作為によるものとして、転生者でもある自身は想定通りの身の上なのだろうか。詰まる所識っている人間は居るのだろうか。そして居たとして聴いて穏当に済むものなのだろうか。

 或いはそうだな。六眼から見たらどう写るんだろ。

 

 

 

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 六眼と友達になった。

 

 

 

 

*1
占いに基づいて方角の禁忌を避ける行い

*2
三年(ふさが)り。同じ方角に3年居座る特に傍迷惑な奴。逆説、分かりやすく誤り難い

*3
留守日。つまり別な方位に居るので禁忌が変わる。結局傍迷惑

*4
どうでもいいか、の意

*5
5巻 p.59「俺たちは全身全霊で世界に存在している」

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