逃げたので初投稿です。
娘が彼氏を連れて来るらしい。
その報告は、娘から言伝を預かった魚人から急に我が家にもたらされた。
奔放な性格の娘だと思っていたがこの報告はあまりにも唐突だ。母さんは娘が久しぶりに帰ってくると喜んで迎える準備をしているが、我は娘の浮ついた話なんて気配もかんじなかったぞ。
そもそも準備なんて必要だろうか?我が種族の住処には他種族のように文化的な家具は一切ないし、他種族に出せる食事はグロテスクな生魚ぐらいだ。
なんたってここは、何もない深海なのだから。
我らの種族は腹に
しかしその強靭な身体も幼少期となれば話は変わる。ちょっと大きな烏賊と変わらない幼少期には天敵が多い。
怪魚、カジキ、魚人、大王烏賊、怪鳥、かもめ、人間(漁師)、人間(釣り人)....
知恵をつけるまで大きくなれるクラーケンは非常に少ない。それを考えると我が娘はよく大きくなってくれた。
大きくなるまでにどれほど襲われたのだろうか?
それに魔王様の戦争にも我が一族の面目を保つためにも協力してくれた。胴体に一生消えない傷を勇者につけられても気丈に振る舞っていた我が娘。
....そうだな、その献身に報いるためにも娘の彼氏。暖かく歓迎する準備をしなくては。
『....と思っていたんだがなあ!』
『お父さんがそんなに考えていてくれたなんて....私、とっても嬉しいよ!』
『そうねぇ、良かったわねぇ』
『母さんもイイ話で終わらさない!』
『あらあら、彼氏さんもいい人じゃない。こんな深海にまで挨拶に来てくれて』
『そうだけどもそこじゃない、
なんでその彼氏がよりにもよって勇者なんだ!』
▶ゆうしゃはふかぶかとあたまをさげている!
家族そろって団欒するときに使う平らの岩、その岩の上で頭を下げる娘の彼氏こそ、
人間の国家に侵攻し念願を果たそうとしていた魔王軍をたった一人で打ち破り、遂には魔王様まで打倒した今代の勇者、
勇者ブレスト、人間の英雄その人であった。
▶ゆうしゃはふかぶかとあたまをさげている!!
そして我が娘が連れてきた彼氏でもあった....。
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勇者ブレスト 六年前に王国に選ばれ、四天王を単独で撃破し、魔王軍の追跡をかいくぐり、去年、今代の魔王様を打倒した現在もっとも最強に近い人間の一人。
歴代勇者でも最上級の魔力を持ち、精霊の寵愛を受け、火、水、風、土、全ての属性の魔法を使いこなし、その剣術は岩を断ち切り、刀身よりも大きなクラーケンすら傷ついたという。
....武勇伝の中に娘の傷害事件が混ざっているのが癪だがその実力は本物だ。水中というのはクラーケンの独壇場であるはずだが、当の勇者はケロッとした顔をしている。むしろ今、娘が触腕を絡めたことにより少し照れているように見える。
この生物には水圧という概念はないのだろうか?
『で、ふたりの馴れ初めは何だったの?』
『えーそのねえ....』
母さんが状況の奇妙さに突っ込まないまま普通に彼氏との挨拶を始めやがった。
そいつ勇者だぞ。魔王様の仇だぞ。
しかし、現状が意味不明である今、娘と勇者の出会いを聞くというのは一番良い選択肢なのかもしれない。(?)
『私とブーちゃんの出会いかあ、確か私が襲った船に乗ってたんだっけブーちゃん?』
▶ゆうしゃはクラーケンのことばにうなずいた!
お前ブーちゃんで呼ばれてるのかよ。ブレストの名が泣くぞ。ブレストの由来知らんけど。
しかし、やはりと言うべきか二人の出会いは娘が襲撃した船から始まったらしい。どんな出会いだ。と声に出る前に娘は話を続ける。
『そこで船体を真っ二つに折ったんだけど、中から人間が飛び出してきて。私は護衛がついていたか!って一応触手で防御態勢をとったんだけど。
ブーちゃんは崩れてた船の木片をシュパパパパって駆け上って来て、私の胴を一閃!
傷つけらけちゃたの....♡』
いや、普通に傷害事件だ。
『やられたーってのけぞった時にブーちゃんが目の前に落ちてきて....。一目惚れかなー、その時に』
『素敵ねぇ....』
▶ゆうしゃはてれている!!
惚れるのか?一生消えない傷(物理)をつけられてるのに?
もしかして傷が出来た時に気丈に振る舞っていたのは、心配されぬようにではなく、一目惚れのおかげだったのか?自分はものすごく心配して、せっかく辞めた魔王軍に復帰しようとまで考えていたのに?
そして母さんはこのただの娘の傷害事件に対する感想が、素敵、でいいのか?
『うおっほん、....でその勇者、ブレスト君との出会いは分かったが、そこからどうして付き合うことになったんだ?』
『あー、それはねー、傷が癒えてから最寄りの港町を捜索して、ブーちゃんが泊ってる宿を突き止めて、とりあえず告白したんだ。』
行動力がすごい、流石我が娘だ。(?)
しかし、元々敵同士だった事柄だ。そう簡単にいくのだろうか?
『でもその時は敵同士だったから断られちゃって』
『当然だな。』
▶ゆうしゃはさすがにね、とおもっている。
『でもでも、何度も何度も何度も何度も通い詰めて、ようやく話せる事柄になったんだ!』
執着心がすごい、流石我が娘だ。(??)
『いろんな話をしたね~、綺麗な場所の話とか~、美味しい魚とか、そこでお父さんのことも話したよね?』
▶ゆうしゃはよくおぼえている、とうなずいた!
まさか敵の最高戦力に我が身の上が知れていたとは....。しかも情報源は実の娘。
▶ゆうしゃはおぼえてるないようをはなした!
『そうそう!お父さんはね~、触腕でちょうちょ結びができるんだよ!』
『お父さんの得意技ね!触腕が柔らかくないとできないから挑戦すると意外と難しいのよねぇ』
▶ゆうしゃはかんしんして、はなしをきいている!
おっえあああぁ!!
叫びたがる羞恥心を抑え、冷静さを取り繕う。
ちょうちょ結びはまだ精神が幼かった娘をあやすために考案した触腕遊びだ。奔放な娘が幸いにも気に入ってくれたので何度も見せたがそれがここに来て奇襲を仕掛けてるとは....。
墨吐きそう。
『それでも、その時はただの友達って感じがしててー....。』
『....ああ....話を聴く限りそんな様子だな。』
『やっぱり、このままじゃダメだなぁと思って、ブーちゃんが魔王様を倒した時に、もう一回だけ告白しようと考えたんだ。
そして、この告白が失敗したらもうブーちゃんともう会うのはやめようともね。』
『........』
『クラーケンと人間って種族的に敵同士だし、魔法でいくら騙しても元々の姿は人間からみたら私たちって化け物らしいからね....。
ブーちゃんに会い続けて、ブーちゃんに悪い噂が広がっちゃって迷惑かけるなんて私も嫌だし。』
『ブーちゃんもやっぱり人間の女の子が好きなのかなぁと思うと告白をやめようかなと考えちゃうこともあったけど、
奔放で自由なのが私のいいところ!お父さんもそう言ってたからね!自分の想いを真っ直ぐに告白したんだ。
そして、』
娘は勇者ブレストに向き合った。
『私の告白、受け取ってくれて、ありがとうブーちゃん。』
▶ゆうしゃはクラーケンのむすめをだきしめた。
『うんっ....。私っ....、勇気出してよかったあ』
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我は少し席を離れることにした。
あの二人は長いだろうし、母さんは涙もろいタイプだからな。
娘の様子をみる限り、勇者との関係に偽りはなさそうだ。二人は立派なつがいだ。
まあ元々、どんな相手だろうと娘の関係を断ち切る気はさらさらなかったのだが。
第六次となる今回の魔族戦争は勇者ブレストが魔王様を倒したことにより魔族側の敗北という形で終結した。結果はどうあれ娘は魔王軍の兵役に従事し我と先王との約束を果たした。
つまり娘のことは外部にいざこざ言われる筋合いはないのだ。我だって人間が嫌いとはいえ、我の契約を代わりに果たしてもらった以上、娘の人生を変える権利などないのだ。
ただその相手が我ら魔族の不俱戴天の敵である勇者であることが衝撃的すぎただけなのだ。
ともあれ、我が家の後継者問題は残るものの、親として娘が良い相手に出会えたことに喜ぶべきだ。
勇者であっても....。
....やはり我が娘と勇者が付き合うのだから。勇者を輩出した王国にもこの辺の海の海王として挨拶に伺った方がいいのだろうか?
その場合の魔族の反応は?人間と同盟組むわけではないと知らせるためにはどうすれば?
二人が住む(迷惑をかける)であろう町の行政官にも挨拶が必要だろうから礼品は、町の船を襲撃しないとかはどうだろうか?
いや、娘はどこで暮らすか聞いてなかったな。
そうこう考えていると二人だけの世界が終わったのか我が娘が呼びに来ていた。
『お父さーん!』
『ん?ああ、すまんな少し考え事をしていてだな。』
『そうなんだ、あ、あと今日からよろしくね!』
『なにがだ?』
『ブーちゃんと話し合って、ここで住むことにしたから!』
『ここに!?』
『ここにだよ!!』
『深海だぞ!?』
『ブーちゃんいけるって!!!』
『マジかよあいつまじで
こうして娘とブレスト君は我が家(水深2000m)で暮らすことになった。
義理の息子とどう付き合っていけばいいか今のところわからない。
なぜなら娘の旦那は勇者なのだから。
※クラーケンはシロナガスクジラぐらい大きいです。