Breathtaking view with Silence.   作:今無ヅイ

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煌めく星、次々と。




Four stars,shoot out forth.

【エアグルーヴ、トリプルティアラに向け調整は"芸術的"】

【孤高の逃亡者、トレーナーデビュー後の初の実戦!】

【中山レース場、メイクデビュー観戦チケット完売】

【無敵のマイラータイキシャトル!次の標的はジュブナイルステークスか】

【"漆黒のステイヤー"ライスシャワー、本屋で転倒。トレーナーの如月氏が身を挺して救助】

【マチカネフクキタル、マタモヤヨクネテル。トレーナーの火宮氏「いい夢見てますね」】

 

スズカのメイクデビュー当日。

 

メイクデビューにマイルではなく中距離である2000メートルを選んだのは、中山の雰囲気に慣れさせるためだ。今後のホープフルステークスや皐月賞などの重賞に備えるためだ。

ここ3か月で鍛えたスズカの脚なら2000、もしかしたら2400も届くかもしれない。それを見るという目的もある。

 

ということでこの日を選んだのだが、なんと観客席がほぼ満員。チケットは売り切れだそうだ。

……いや、メイクデビューは確かに注目度が高いレースではあるけど、こんなに観客来るものか?

 

GⅠまでとはいかないが、重賞ですらないのにこの盛り上がりはちょっと予定外だ。

私の時のことはあまり覚えていないが、それこそマスコミがちらほらとデビュー戦のファンくらいだったと思うのだけれど。

そんな熱気が待つパドックへ、スズカに地下バ道を車椅子を押してもらいながら進む。

 

「ここからでも歓声が聞こえますね。すごい盛り上がり……これが本番なんですね」

うん、まぁ、ちょっと想定より違うけど。うん。

 

「そうだね。これが本番。ここがスタートラインだ」

パドックへの入り口を指さす。あそこが、私とスズカのスタート地点だ。

プレッシャーを感じている様子はない。あれだけ走ることに没頭できるスズカだ。

盛り上がっててすごいなーくらいに考えているだろうし、多分もう頭の中は2000メートル駆け抜けることでいっぱいのはずだ。

 

「スズカ。ここ3か月みっちり練習してきたスズカなら大丈夫。練習場では味わえない、最高の景色を見ておいで」

背中を押す、のはちょっと難しいので尻尾の付け根辺りを押す。

 

「はいっ、アイリストレーナー。先頭の景色、この目に焼き付けてきます」

頼もしいの一言。プレッシャーをプレッシャーと感じないウマ娘は強い。

 

パドックへ向かうスズカを見ながら、元来た道をきこきこ車椅子を漕いで戻る。

これがまぁまぁ面倒くさいけどしかたがない。

「急がないとなー。電動車椅子買おうかな……」

 

「アイリストレーナーさん!」

 

地下バ道を出てすぐくらい。

名前を呼ばれたので顔を上げてみると、そこには見覚えのないウマ娘が立っていた。

はて?スズカの知り合いかしら?

 

「はじめまして。メジロドーベルと申します」

メジロドーベル。

たしか今年デビューした注目株の一人。

つまり、スズカの同期ということである。なんの用だろう?宣戦布告?

 

「あの、ですね……じ、実はその……」

なんだかもじもじしているけどどうしたんだろう。トレーナーの姿が見えないということは、つまりプライベートなのだろうけど。

 

「さっ……サインください!」

「えっ?」

……えっ?

…………えっ?

 

「サイン……ですか?」

サイン色紙とマーカーを差し出し、表彰式のような構えになっているメジロドーベルに話しかける。

その顔は若干赤らんでいるのはわかったが、なんで赤らんでいるかはわからない。

 

いや、まぁ、別にいいんですけどね?悪い気はしないし。といってもサインを書くだなんてすごい久しぶりである。

ちょいと不格好になってしまったサインの入った色紙を渡すと、すごく感動したような、うれしそうな顔になっている。

 

「あの”孤高の逃亡者”エボニーアイリスのサイン……大事にします!」

そう言うとありがとうございました、と頭を下げて去っていった。

なんだかんだ、悪い気はしない。うん。

 

「でも、もう主役は私じゃないんだよー、メジロドーベルさん」

なんてことを一人言いながら、トレーナー用の客席まできこきこ漕いでいった。

 

ファンファーレが鳴り響く。大きなメインモニターにゲートインするウマ娘たちが良く見える。その中、枠順は12番。12番!?

 

大外じゃん!

 

大外枠なんて私がこの世で一番嫌いなものの一つだ。あと脚が多い虫とか、生魚とか。

スズカにとってのデビュー戦がまさか大外だなんて、これはあの作戦が機能するか、少し不安になってきた。

始めて走る中山の2000メートル。しかも大外。

これは苦戦するかもなあ、外枠の時の作戦考えてなかったなあと思っている私の視線に気づいたかはわからない。

だが、ゲートに入る前、少し不安げにきょろきょろしていたスズカと目が合った、気がした。

 

そして。

 

「勝ちますから」

 

そう聞こえた気がした。

 

「さぁ始まります、未勝利戦、芝2000メートル。ここ中山レース場には新時代のスターを目撃しようとたくさんの観客が詰めかけています」

 

お、そろそろか。というかこの実況の人、変わってないんだな。何歳なんだろう。

 

「本日、一番人気はなんといってもこのウマ娘、サイレンススズカ」

ものすごい歓声が上がる。やめて、なんか緊張してくる。

 

「彼女のトレーナーはウマ娘史上初のトレーナー、あの“孤高の逃亡者”エボニーアイリスですからね。好走に期待しましょう」

 

……どうやらスズカ自身にプラスして私の分まで期待されているらしい。

あまり無駄なものを背負わせたくはないけれど、まぁ、いいさ。

未だに私に注目している連中よ。スズカの走りに度肝を抜かされると良い!

 

「ゲートイン完了、出走態勢整いました」

 

がたん、とゲートが開いた。

 

 

――さぁ先頭に立ったのはサイレンススズカ!

 

――第二コーナーから第三コーナーへ、先頭は変わらずサイレンススズカ!

 

――やや間延びした展開です。先頭を進むのはサイレンススズカ。どうでしょうこの展開?

――掛かっているかもしれません。息を入れるタイミングがあればいいのですが。

 

――最終コーナー、ここで一気に後続が距離を詰めてきました!

 

――さぁ最後の直線です!先頭は1バ身差!おおっとサイレンススズカ!行きました!

 

――残り400を通過!サイレンススズカ、後続を突き放す!これは決まったか!

 

――サイレンススズカ逃げる!サイレンススズカ逃げる!なんという末脚!

 

――後続を突き放してサイレンススズカ、今ゴール!

 

――サイレンススズカ!大差でデビューを飾りました!次のレースが楽しみです!

 

 

終わってみれば、大差の圧勝。

スズカがゴールした時に、第四コーナーを回り終わった子がいるくらいだ。

 

観客の歓声は最初どよめきから始まり、そして戸惑いに変わり、最後は大歓声へと変わった。

見ていた感じ、初めて試す「逃げて差す」戦術はきちんと機能していたようだ。それでこの完勝っぷり。

 

見ていて実に気持ちがいい。

最高の景色だ。

 

「アイリストレーナー!」

走り終わった勢いのまま、スズカがこちらへ走ってくる。

顔が紅潮しているのは、走ったからだけではなさそうだ。

 

「お疲れ様、スズカ。どう?いい景色は見れた?」

タオルを投げ渡してあげると、それで顔をぐるりと拭き、ふうっと息を吐き出す。

 

「今までで、一番きれいな景色でした」

晴れ晴れとした顔をしている。心の底から走るのを楽しんでいる、ウマ娘特有の表情だ。

「今までで、一番いい走りだったよ、スズカ」

動かなくなって、すっかりやせ細った自分の脚をさする。

ふと気づくと、スズカが走っているのを見ていただけなのに、脚が汗をかいていた。

思いの継承。自分がターフを走っているような錯覚。

ふふふ、と思わず笑みがこぼれる。

 

「今日が今までで一番きれいな景色だった、そういったねスズカ」

はい、とうなずく。

 

「満足はしていないね?」

一瞬はっとした表情になるが、スズカは変わらずはい、と力強くうなずく。

 

「よし。ここからだ。今日のゴールはゴールじゃない。ただスタート地点を通過しただけだ。さあ、走り抜けよう!」

 

あの時と、選抜レースと同じように、握手を交わす。

 

世間に、世界中に【エボニーアイリスの担当】でなく【サイレンススズカのトレーナー】と言わせてやろうじゃないか。

私たちならできる。

私が今まで培ってきた技術を、そして叶わなかった思いを、無限に考えたたらればの全てをスズカに託してみよう。

そして私はスズカの夢を背負おう。一人では背負えなかった夢も、きっと私たち二人なら背負って走れるはずだから。

 

まだ誰も見たことがない、頂の景色。

息を飲むような、最高の景色を見る旅がついにスタートした。

 

 




「そういえばアイリストレーナー、どうしましょう」
「えっなに?ケガした?」
「ウイニングライブの練習、してません……」
「……あ」
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