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幻想的でいて、それでいて狂気を孕んだヴァイオリンの音色が響く。
演奏しているのは希代の天才音楽家、蒼葉冬香だ。
彼女は瞳を閉じてヴァイオリンを奏でる。
しかし、その音楽は所々歪だ、例えるなら本来二人で奏でる音楽の一人のパートだけを奏でているような違和感があった。
ひとしきり奏でた冬香は瞳をゆっくり開く。
「ダメね! 全然ダメ! なんで合わせられないのよ!
彼女は虚空に向かって叫ぶ。
いや、正確に言えば彼女にしか聞こえない
叫ばれた音は自らの音色を束ね、冬香にしか分からない言葉に変えた。
『ナゼ、ワレガアワセルヒツヨウガアル? キサマハワレラガオウノアンネイノタメノドウグデシカナイコトヲワスレタカ?』
その音に対して冬香は返す。
「
怒りの声色で冬香は叫んだ。
『ニンゲンゴトキガワレニイケンスルカ、ムイミ、ムダ。ワレハスグニデモキサマヲ———』
トルちゃんと呼ばれた音が言い切る前に冬香は言葉を紡ぐ。
「そうやってすぐ実力行使しようとするから音楽が下手なのよ! |馬鹿
その言葉を紡いだ後、冬香の体が吹っ飛ばされ壁に激突する。
『フケイナリ! ワレコソハ
音……混沌の音楽神トルネンブラはそう叫ぶ。
「いてて……すぐ暴力振るうな! 知らない! 絶対アンタのお願いなんか聞いてやらない!」
冬香はそう叫んで防音室を後にする。
本来ならトルネンブラに魅入られた時点でそのものは少しずつ音楽の腕を上げながら狂い、最終的には彼の魔皇の微睡を維持する為に、深淵の宮殿にて永遠に音楽を奏でる事になる。
そして、それを束ねるのが音楽神トルネンブラ、混沌の調律者である。
しかし、蒼葉冬香は最初こそ狂いかけたが今や音楽は神域に達したにも関わらず狂わない。
本来なら使い物にならないなら強制的に連れて行くなりすれば良いが何故かトルネンブラは蒼葉冬香に対してだけはその能力を使えない。
しかして、切るには余りにも惜しいセンスにまで至った冬香をトルネンブラはどうしても欲しいために日頃からこのようなやり取りがなされている。
実際問題、冬香のセンスは数世紀に一度レベルのものだからだ。
『ドウシタモノカ……』
そう、音を奏でてトルネンブラは目をつけている他の音楽家の元に向かった。
この奇妙な関係はしばらく続くが、それはまたの機会に……