転生して氷の王女と田舎でスローライフをおくりたい 作:桐ヶ谷 雅輝
「アル、ちょっといいかしら?」
「どうかしたの、エルナ母さん?」
ミスフィード家に誤解を解くために訪れて早1週間、あと1日2日いたらコリアット村に帰ってもいいかなとミスフィード家の屋敷でラーちゃんと紅茶を飲んでゆっくりしていたらエルナ母さんが訪ねてきた。この時間はフローリア様と魔法談義しながらお茶してると思ったのに珍しいな。なんか手に手紙っぽいものを持って─
「どこに行くのアル、これからお話しするんだから座ってていいわよ」
「い、いや紅茶の飲みすぎでトイレにね?」
「すぐ終わるから我慢してちょうだい」
しまった!いつも通りの声音で話しかけてくるから油断した、面倒事の匂いから逃げようとした時には既に肩を押さえられていた。これは明らかに何かめんどくさい事に巻き込まれるやつだ。
「そんな嫌な顔しないの本当にすぐ終わるから」
「すぐ終わっても面倒事は嫌です母上!その手紙に何が書いてあるのですか!」
「あら、話が早いじゃない。王女様から手紙が来てね」
「嫌だー!王女からの手紙とか絶対パーティとかだ!どうせノルド父さん目当てなんだから父さん達だけで行ってきてよ!」
「子供を置いて大人だけで行くなんてそんなこと出来るわけないでしょ」
「アル、パーティ嫌なの?」
「え?」
俺が母さんと熱い攻防戦を繰り広げていたらラーちゃんが質問してきた。ラーちゃんにもめんどくさがりの血が流れていると思っていたけど公爵令嬢だと少し違うのだろうか。
「パーティなんて知らない人がいっぱいだし、貴族っぽい会話は疲れるから出来れば行きたくないかな。ラーちゃんはパーティ好き?」
「んー確かに挨拶とか大変だけど、パーティのご飯美味しいから好き!」
「う〜んそっかー美味しいご飯は大事だもんね〜」
確かに前回リーングランデ家のパーティに出ていた貴族料理はとても美味しかった。ラーちゃんならまだ挨拶回りも少ないだろうしあの料理が毎回食べれるならパーティが好きなのもうなずける。
「好き嫌い関係なく今回は来てもらうわよ、アルもわざわざ名指しで招待されているんだから」
「え、俺も?」
「えぇ」
「父さんじゃなくて?」
「えぇ、それも第三王女から」
「え、なんで?!」
「私が聞きたいわよ」
どうやらノルド父さんのファンである第二王女様が王都に来てるのを知って招待状を出してきたらしい。今スロウレット家はミスフィード家に歓迎されている身なのに横から攫うのは失礼なのでは、とも思ったが相手が王族では関係ないようだ。そして今回第三王女が珍しく社交の場に出てるだけじゃなく俺を呼んできたらしい。
「アル、ほんとに心当たりないの?レイラ様が出てくるなんて余程だと思うのだけど?」
「王族になんか縁は一つも…ないよ」
「…今なにやら怪しい間があったけれど?」
「何もない!なんも無いよ!どうせ玩具王の件がバレてるとかでしょ」
「まぁそれが1番ありそうかしら…」
「アル、レイラ様にお呼ばれするなんてすごいね!」
「う、うん。なんで呼ばれたかは分からないけどね…」
父さんが第二王女様に呼ばれるのは分かるがなんで俺が第三王女様に呼ばれたんだ?玩具王は結構隠してないとはいえ、王様との手紙では形式上俺じゃないことにしてるし空を歩いていたところを見られた件しか心当たりがないぞ…春頃に来た時にエリックといたところを見られたあの子が第三王女なら納得がいく…王都への不法侵入とかで方法を聞かれたら空間魔法のことがバレるに決まってる。そんなのがバレたら絶対魔法学校に連れてかれるに決まってる!どうにか隠し通さないと…
招待状に関して話していたらミスフィード家のメイドさんがラーちゃんたちにも招待されていることを伝えに来た。お世話になってる家も招待されてるなら自分たちだけ断る訳にもいかず本格的に逃げ場がない。
「でもパーティ用の服なんて置いてきたからないよ?」
「そんな理由で王族からの誘いを断れるわけないでしょ。今回は特例で多少の略装でもいいとの事だからさっさと買いに行くわよ」
「やっぱ新しく買わなきゃなんじゃん…」
「別に頼めば服装の用意もしてくれるみたいよ?流石にお断りさせて頂いたけど」
「それってつまり何がなんでも来いってことでは…?」
「そういうことよ、出かけるから準備なさい」
やっぱ「ドレスがないので」作戦は無茶だったか…王女様が父さんのファンなのにパーティ無しなわけないよね。見つかって色々話を聞かれないように端っこで気配を消していよう…
「そういえばラーちゃんは第三王女様にあったことがあるんだね」
「うん!いちどパーティでお会いしたよ。リバーシが好きなんだって!」
「そっかー教えてくれてありがとうね」
「えへへー///」
第三王女様が玩具にも興味があるならなんとかそっちに話を逸らすか…最悪新商品であるスキーなんかをPRして誤魔化そう。平地まみれの王都周辺で需要あるかな…
それから買い出しに出かけて相変わらず母さんの着せ替え人形をしたり「どっちが似合う?」の2択に苦しめられたりしながら準備を整えた。
× × ×
色々あってパーティ当日、爵位が低いほど早めに行くのがマナーなので男爵と公爵様が同時に会場に行く訳にもいかず、早めにスロウレット家はミスフィード家の屋敷を出発していた。今回は城内の大広間が使われるらしくとても行きたくない。城の構造とかには興味があるけどもっと観光気分で来たかった。
「ねえノルド父さん」
「ん?どうかしたかいアル?」
「第二王女は以前挨拶…はしてないけどお会いしたじゃん?第三王女とはお会いしたことないけど父さん達はあるの?」
「レイラ様かい?確かシルヴィオがデビュタントの時にお会いしたのが初めてだったかな」
「歳が近いからエリノラとも何度か会ったことがあるけど、お身体の事もあってそこまでお話しはしなかったわね。クーデリア様みたいにドラゴンスレイヤーの話もそんなにみたいだし」
「あれ?そうなんだ?」
ふむ、これは意外だ。王都を襲ったドラゴン退治なんて国の英雄みたいなもんだし、第二王女程では無いにしても興味があると思ったんだが。
「むしろ魔法の使い方とか聞かれてたよね」
「確かにそうだったわ、今思うとあの時のレイラ様は少しアルに似ていたわね」
「え、俺に?」
「えぇ、魔力の効率のいい使い方とかを目を輝かせて聞いてこられたわ」
「アルと一緒で魔法を使うのが好きなのかもね」
「なるほどね。教えてくれてありがとう父さん、母さん」
脚と魔法のことで人嫌いって噂だったけど、もしかしてコミュ症研究者タイプだったりするのか?いや、シルヴィオ兄さんのデビュタントといえば5年も前だ。まだ氷魔法を使えなくてそんなに人に絶望してなかったのかもしれない。情報が古いけど魔法関連の話で乗り切って玩具関連に触れられないようにしよう。
「にしてもアル、本当に今回の件に心当たりがないんだよね?」
「う、うん。お祭りとかで氷像を作るってカグラに行く時に護衛の冒険者に聞いたけど春来た時は祭りなんかやってなかったし」
「そうだよね…アレイシア様とかに呼ばれるならまだ分かるんだけど」
「それはそれでちょっと怖いけどね…」
アレイシアはただの暇人と自分では言っていたけど暇人が持つには大きすぎる力があるから時限爆弾みたいな怖さがあるよね。暇なヤツほどろくでもないことをやらかすんだ。
「そこの馬車よ止まれ!ここは王城だが何用だ!」
「ノルド様、お城にお着き致しました」
「おっと、もうそんな時間か。ちょっと貴族章と招待状を見せてくるね」
「俺も一緒に行くよ」
「そうかい?すぐ乗るからあんまウロウロしないようにね」
「分かった」
どうやら色々話していたら着いてしまったらしい。せっかくだから馬車をおりて正面からお城を見上げてみよう。
馬車を降りると2人の衛兵が槍を交差させて門への道を塞いでいた。漫画とかでは定番だけど実際に目の前で見ると怖いな…
「我々はスロウレット家のものです、本日は第二王女殿下と第三王女殿下からパーティへの招待状を頂き参上いたしました。」
「ふむ、確認するので貴族章と招待状もこちらへ」
「はい、こちらを」
衛兵の方が受け取ると何かのリストを取り出して確認している。来城者リストとか貴族の紋章一覧とかなのかな?
「こら、許可が出るまでここから先はダメだぞ」
「おっと、ごめんなさい。近くで見たのは初めてでつい」
「分かればよろしい。王城に招かれるのは初めてか?観光でもさすがにここまで近いと全体が見えなくてあまり来ないからな、招かれた栄誉に感謝するといい」
「そうします、お仕事お疲れ様です」
「ご配慮感謝します、ようこそミスフィリト城へ」
「え?」
「アル、馬車に戻るよ」
「あ、はいただいま!」
どうやら確認が終わったらしい。俺の相手をしながらノルド父さんの方にも意識を割いていたのか、全く気づかなかったや。まぁ注意しててもノルド父さんレベルの不審者が暴れるのを止められるような人が門番で留まってるとは思えないけど。
「ここからはいつも以上に大人しく頼むよ、アル」
「…最善を尽くします、父上」
「…不安だなぁ」
不安だと言われても自分だってボロが出そうで不安なのだ、やれることをやるしかない。さっきまでは綺麗で歴史や威厳を感じた城も今や自分を生贄に捧げる邪教の総本山に見えてくる。なんとか生き延びてコリアット村に帰るぞ…
「こちらが会場になります、スロウレット家の皆様」
「案内ありがとうございます、さぁ入るよ」
「はい、お父様」
ついに会場に着いてしまったようだ、覚悟を決めるしかないか…結局呼ばれた本当の理由が分からないままだが、なるようになるしかない…南無三!
案内の人がドアを開けてノルド父さんに続いて会場に入るとそこにあったものは────