転生して氷の王女と田舎でスローライフをおくりたい   作:桐ヶ谷 雅輝

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氷の王女と魔法談義

「アルフリート・スロウレット、殿下の招待を受け馳せ参じました。」

 

 気がつくと彼はいつの間にか窓枠に跪いていた。

 

「あんなに離れていたのにいつの間に…」

「女性を待たせる男はモテ…好かれませんので」

「でも、一体どうやってあの距離を?」

「不可能を可能に、奇跡を起こすのが魔法でございませんか?殿下」

 

どうやったのか分かりませんが、どうやら魔法であの距離を移動したようです。教えて下さらないようですが、噂以上の魔法の腕前と思って良さそうですね。

 

「詳しくは教えて下さらないのですね」

「手品は種が分からないから良いのですよ」

「…分かりました、そこではなんですのでとりあえず中へどうぞ」

「よろしいのですか?不法侵入かと思われますが」

「部屋の主が許可を出しているのだから大丈夫ですよ、そこにいると下の衛兵に見られますよ」

「…かしこまりました、失礼致します」

 

 何時までも窓枠に跪かせるのもあれなのでとりあえず中に入ってもらいましょう。時間は少ないですから色々話を聞かせてもらわないと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、転移でなんとか誰にも見られずに城に近付けたがマジで今日は呼ばれたのだろう。魔法の話をしようと言われてはいたが昨日の今日でする程なのか?やはり玩具関連なのだろうか…

 

「ひとまずお座り下さい。サリヤ、紅茶を入れてちょうだい」

「かしこまりました」

「あ、お構いなく…」

 

 窓際に置かれた椅子に勧められるがまま座り、机を挟んでレイラ王女と向かい合わせになる。車椅子の為か思ったより薄い絨毯が敷いてあり、部屋の広さの割に家具は少なくベッドと化粧台、後は背が低い本棚くらいだった。しかし煌びやかで品を感じる調度品達がここが王女の部屋だということを否応にも意識させる。

 

「改めて自己紹介をさせていただきます、アルフリート・スロウレット7歳。どうぞ気軽にアルとお呼びください」

「よろしくお願いしますね、アルくん。今日は突然の呼び出しに応えてくれてありがとう」

「王女様のご命令とあらば。ところで、本日はどういった御用で私は呼ばれたのでしょうか、王女様」

「そう畏まらないでください、私は王女といっても政略結婚にしか使えない第三王女です。」

「そんなご自身を卑下しないでください、貴重な氷魔法が使える優秀な魔法使いではないですか」

「それだけです、王族としては血くらいしか価値がありません。魔法が使えてもこの脚では出来ることも限られますから」

「そんな…」

 

 呼ばれていきなり地雷を踏んだのか雰囲気が暗くなってしまった。てか今のはほぼ不可避だろ流石にどうしようもないぞ。

 

「湿っぽくなってしまいましたね、すみませんこちらからお招きしたのに」

「い、いえ。お気になさらないでください」

「聞きたいことは色々あるのですが、お時間もあまりない事ですし早速お聞かせ願いますか?『玩具王』様?」

「な、なんの事ですか?『玩具王』は確かに我がスロウレット家の領民ですが…」

「隠さなくてもよろしいですよ、最初の頃は隠されてなかったですよね?」

 

あーリバーシやパスタの出始めはそんなに流行ると思ってなかったから特に作者の情報とかトリエラさんに隠してもらってなかったからなぁ…

 

「ご存知なら仕方ないですね、確かに私が玩具王でございます」

「権力に振り回される偏屈な職人には見えませんけどね」

「その節は王様には失礼を。しかし、私は田舎でノンビリしてるのが好きですので」

「別に責めているのではありません。私も王族以外の生き方に憧れがありますので」

 

 王族がこんなこと言ってて大丈夫なのか?貴族の責務(ノブレス・オブリージュ)的にやばくないだろうか…聞かなかったことにした方がいいんだろうけど…

 

「…誰にでも理想はあるものです。可能ならお聞きしても?」

「えぇ、別によくある話ですから。こんな城に閉じこもってないで、自分の脚で世界を見て回りたくて」

「…なるほど、確かに王女様のお立場を考えればよくあるお話かも知れません。連れ去ってくれる王子様が欲しいところですね」

 

身体も立場も不自由となれば確かに自由が欲しくなるのは道理である。

 

「物語なら確かにそうですね。ですが、ここは現実で私を連れ出してくれる人はいないので」

「それで、私は何を?」

「リバーシを見た時もでしたが、去年の春、あなたを見た時になんて自由なんだろうと思って。だから一度お話を聞きたかったのです。何を考えてるのか、どんな魔法を使うのか」

「やりたいことをやれる範囲でやってるだけで特に変わったことをしてるつもりはないですが…」

 

まぁ確かに異世界産の物は不思議に映るかもしれないが、やってる事は既にあった物を真似てるだけだしね。

 

「でしたら、私とは根っこから違うのでしょうね。空を歩いていた魔法、あれは無属性魔法のシールドですね?」

「そうですが、あれくらい誰でも一度は考えるものでしょう?」

「考えはしても普通は魔力が足りずに出来ないものですし、実際に王都でも研究されましたが魔力や集中力の問題で失敗とされています。」

「え?そうなんですか?」

 

 それは知らなかったな。宙に板が固定できるなら物を置いたり上に乗ったりするのが普通だと思ったのに。母さん達に言われた通り、この世界の平均より魔力量を持っているのかもしれない

 

「宮廷魔道士でも、戦闘中に1枚出して一瞬足場にするくらいです。あんな高さ落ちたら死んでしまいますからね」

「あはは、流石に戦闘中に出したことは無いですが、魔力制御も魔力量も多少自信がありまして。母の指導のおかげです」

「もし本当なら羨ましい限りです。よければどんな訓練をしてるかお聞きしてもよろしいですか?」

「先程も言いましたが特に変わったことはしてないですよ、魔力量はひたすら使い切るまで魔法を使い、魔力制御は日頃から魔法を使うくらいです。暇つぶしに魔力の循環をやったりしてますから」

「ひたすら使い切る?それで魔力が増えるのですか?」

「え?ええ、もしかしてあまり一般的では無いのですか?」

「少なくとも私は聞いたことがありませんね。サリヤは知ってた?」

「いえお嬢様、私も存じあげませんでした」

 

 おいおい神様そこら辺は教えといてくれよ!こちとらもう5年以上も訓練してるんだぞ!常識だと思うじゃないか!今思えば母さんの特訓も魔法が成功したら制御感覚を忘れないうちに繰り返すとか魔力循環とか制御方面ばっかで量については何も言われたことは無かったな…適当にでっち上げて誤魔化しておこう。

 

「子供の頃に見つけた自己流なのでよかったら忘れてください」

「いえ!とても興味深いです!どうやって気づいたのかお聞きしても?」

「特に面白い話では無いですよ。ある日魔法で遊んでいたら魔力切れを起こしてしまって体調を崩したんです」

「あの独特な感覚は辛いですよね、私も幼い頃に経験があります」

「ええそうなんです。それでもうならないように魔力量の限界を調べようと思って魔法の持続時間とかを調べていたら昨日よりほんの少しだけ魔力が増えていることに気づいたんです」

「それが魔力切れのおかげだと?」

「まだ子供で魔力制御も雑だったので気のせいかとも思ったのですが、半年ほどかけて実験した結果からそうだろうと推測しました。恐らく限界まで使うことで身体が鍛えられるのだと思います」

「なるほど、確かに筋肉を鍛えれば力がつきますものね。魔力で同じことが起こっても不思議では無いです」

「えぇ、ただ魔法は才能が占める割合が大きい世界なのでやはり個人差はあるかと。それに魔法使いをしてるような魔力量がある大人が使い切るのも大変でしょうから普及してないのかもしれません」

 

 これだけ『あくまで私はそうでしたが貴方もそうかは分かりませんよ?』と言っておけば怪しまれはしないだろう。日本でのウサギ跳びみたいな効果があるとされてるけど証拠は無いものとでも思われたら十分だ。

 

「それでもとても興味深い話でした!後日私も試してみたいと思います。」

「お嬢様、あまり無理はなさらないでくださいね」

「大丈夫ですサリヤ、私ももう大人ですから耐えられますよ」

「お嬢様はお身体が強くないのですから心配をかけるようなことはおやめくださいませ」

「…お2人は大変仲がよろしいのですね、傍から見てるとまるで姉妹のようです」

 

そう言うとレイラ様は一瞬驚いたような寂しそうな顔をしたあと優しく微笑んでこう言った。

 

「…ええ、サリヤは数少ない私の信頼出来る人ですので」

「レイラ様…」

 

 レイラ王女の一言を聞いたメイドさんは感極まった顔になってしまった。直接話していて、あまり感じなかったがやはり「氷の人形」の噂はある程度真実味があるのかもしれない。

 

「少し話が逸れましたが、魔法の特訓に関してはそれくらいですね、魔力量もですがやはり魔法制御の上手さが大事なので普段から魔法を使うくらいです」

「魔法と言えば属性は何をお持ちなのですか?村で魔法で雪像を作ったという話を私耳にしまして、無属性に水と氷は使えるということですよね?」

「属性ですか?!え、えーとですね」

「勿体ぶらずに教えてくださいな」

 

そこからは上手いことを話を逸らしながら魔法の使い方や無詠唱の考え方を教えたり王宮での話や王都の「玩具王」の評判を聞いたりなどそこそこ楽しい時間が流れていった。

 

「今日はとても興味深い話をありがとうございました。まだお話をお聞きしたいのですが、この後会談がありまして失礼ながらこの辺で今日はお開きとしますね」

「畏まりました、こちらこそ王女様の私室に上がれるなど滅多にない機会をありがとうございます」

「先程も申しましたがそう畏まらないでください。気軽にレイラとお呼びください」

「そうは言われましても王女様と男爵の息子ですので…」

「では王族命令です、断ったら魔法学園への推薦状を書きますね」

「…それはずるいですよレイラ様」

「ふふ、どうかお許しください、私はワガママな王女なので」

「…分かりました、レイラ様」

「本当は敬語もない方が弟みたいで可愛くていいのですが今日は妥協しましょう。本当に来てくれてありがとうございます。何かお礼をしたいのですが…」

「いえ、気を使って頂かなくても結構ですので」

「そうは言っても見つかれば不法侵入で捕まりかねませんからね、何かお願いでもありませんか?」

 

 お願いと急に言われてもなぁ…調子に乗って王族に失礼なことをしてもあれだし…いや失礼なことした方がむしろ距離を取れるか?

 

「それでは…不躾ながらレイラ様にひとつお聞き…いや、確認したいことが」

「私に?答えられることであればお答えしますが何でしょうか?」

「では失礼ながら、レイラ様が先程申し上げた『自由に自分の脚で世界を見て回る』というお話、レイラ様が言う自由とはなんですか?」

「それは…」

「今まで少ない時間でしたが、見ていて車椅子の操作は1人でも出来る様子でした。それこそ自分の手足のように滑らかに」

「何が言いたいんだ貴様!それ以上は無礼だぞ!」

「大事なことなんです!」

 

確かに失礼なのは承知だが以前から考えていた()()()()()をこの人なら実行出来るはず、どうせなら確認しておきたい。

 

「サリヤ、私は大丈夫です。それに言いたくないなら答えなければ済む話です」

「しかし!」

「…やはり、歩いてみたいですか?」

「…そう、ですね。歩けるものなら歩いてみたいです。この動かない脚で大地を踏み締めて望む場所まで気ままに」

「つまり世界を見て回るのはオマケで、歩くことが出来るならいいのですね?」

「え?」

 

脚を治すのは流石に不可能だが、()()()()なら魔法で恐らく解決出来る。試したことがないから実験する必要が有るけど…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「つまり世界を見て回るのはオマケで、歩くことが出来るならいいのですね?」

「え?」

 

 別れ際になにかお礼をしようとしたら、何故か私がずっと抱えてる想いについて聞かれてしまいました。私の脚が動かないことは承知のはずですが、嘲りなどない真剣の眼差しで見つめられたのでつい答えてしまいましたが…彼は今なんて言いましたか?

 

「今回はこの辺で失礼したいと思います、無礼なことを申し上げまして失礼致しました」

「あ、はいそれはいいのですが…今、歩くことができるならと言いましたか?」

 

彼は立ち上がり、こちらに謝辞と共に綺麗な一礼をしてみせた。いや、そんなことより彼は今歩けると言いましたよね?まさか、歩けるというのですか?この動かない脚で?流石にそんなこと出来るはずがないです。唐突すぎて彼の言うことが理解出来ません。彼は…何をしようとしているのでしょう?

 

「今の言葉が気になるならドール子爵に「私との秘密を知りたい」と聞いてみるといいでしょう。私はやることが出来ましたので、それでは」

「あ、ちょっと!サリヤ!」

「…見当たりません、レイラ様」

 

いつの間にか窓際に立っていた彼はそう言い残すと、窓から飛び降りるようにして行ってしまった。何らかの魔法で姿をくらませたようでサリヤと一緒に窓の外を確認したがあの飄々とした少年の姿は見えません。

 

「レイラ様、大丈夫ですか?」

「えぇ…突然だったけど大丈夫よ」

「もう一度呼び出しますか?明日ならまだ王都に滞在しているかと思いますが」

「…確認だけど、彼は先程『歩くことが出来るなら』と、歩けるならと言ってたよね?」

「確かに彼はそう申してましたが失礼ながら、王宮医師団でも治せなかった御御足を考えると…」

 

いったい彼は何を確認したかったのでしょう…私の願いとも言えるそれが彼にとって何か意味があるのでしょうか?それとも何かしら方法があるとでも言うのですか?

 知りたい。彼が残した言葉の意味を。

 

「…両家の関係を考えるなら、本人へのコンタクトはしばらくしない方がいいでしょう」

「ではドール子爵に?」

「そうします、子爵の動向を調べて下さい。」

 

確か、ドール子爵は人形好きとして有名で領地も高品質の絹製品が特産でしたね。あまりスロウレット家と繋がりがあるようには見えませんが…

 

「それでしたら先日のパーティに出席していたのでまだ王都にいるかと。すぐに手配致します」

「お願いするわサリヤ、私は彼宛ての手紙を書いておきますね」

「かしこまりました」

 

そう言い残し、サリヤは部屋を出ていきました。

 さっきの彼は…明らかに何か思いついたような顔をしていましたが、私の脚をどうするつもりなのでしょうか…医師達には匙を投げられ回復魔法も効かなかったこの脚を動かす手段があるのだとしたら…それこそ奇跡でも起こすつもりじゃないと…

 

「奇跡でもないと?」

『不可能を可能に、奇跡を起こすのが魔法でございませんか?』

 彼の言葉が頭を過ぎる。

奇跡。口に出すのは簡単だが世の中には可能なことと不可能なことがある。

確かに何も無いとこから火や水を生み出せる魔法は存在を知らなければ奇跡と言えなくもないが、魔法にもルールがあり万能ではない。

 

「まさか、魔法で動かすと?でもそんな魔法が都合よくあるとは…」

 

分かりません。彼の考えが、発想の源が、どんな生活をしていたら、何を見て、何を食べたら思いつくのでしょう。

 

「あぁ、アルフリート君。君のことをもっと教えてほしいです。君に生えた自由の翼を私にも分けて欲しい」

「またお話し出来る日が待ち遠しいですね」

 

彼の消えていった窓を見上げると、数羽の鳥が空を飛び回っていた。

 

 




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