転生して氷の王女と田舎でスローライフをおくりたい 作:桐ヶ谷 雅輝
あれから1週間ほど経って、俺たちは王都からコリアット村に帰ってきていた。帰るまでにラーちゃんのお兄さんに魔法教えたりとかアレイシアが遊びに来たりとか色々あったけど、やっと何のしがらみもない状態が出来たのでゆっくり出来る。
もうすぐ春で俺も8歳になるので貴族の勉強も増えてくが、大人になれば一人でもある程度動き回れるから理想のスローライフにも近づけるだろう。帰ってきてからはお土産を渡したり、またカレーを作ったりバーシェルを演奏してみたり王都の話で盛り上がるなど忙しかったが、一段落して今日は特に予定がない日だ。
「時間も出来たし、そろそろ実験始めるかな」
レイラ王女と話して思いついた魔法について、ようやく動き出せそうだ。部屋を出るとちょうどサーラが廊下を掃除しているところだった。
「あ、アルフリート様。すみません掃除中でして」
「サーラお疲れ様、ちょっと散歩に行ってくるね」
「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」
そう話しながら屋敷を出て人目のつかない場所に移動してから秘密基地に移動する。今回は東の森にあるワカサギを釣った湖の近くにしよう。
「よいしょっと。周りは誰も来てなさそうかな?」
湖のそばに作った家を出て様子を見ると今日は村人は誰も来てないようだ。湖に張ってた氷も春が近づいてきて人が乗れない程度の薄さになっている。
「木漏れ日が気持ちよくて日向ぼっこでもしたいけど、早速実験を始めるかぁ」
軽く伸びをして、村と反対側に向かいつつ開けてるところを探す。一応実験だし、事故ったらあれだからね。適当に歩いて少し開けてる場所に出たので土魔法で地面を軽く整える。
「まずはマネキンを作るか」
今回考えてる魔法は自分の身体に使うが、怪我の可能性があるので人型の物を使って練習するか。無理は良くないからな。
土魔法を使って氷像なんかを作った要領で人型にしていく。今回は関節が動くようにしたいので球体関節をそれっぽく再現する。フィギュアなどで動くやつはパーツの繋ぎとして中にゴム紐が入ってることが多いけど、今回は最低限動けばいいので関節に回転軸となる棒を刺すだけにしとく。
練習用で見た目にこだわる必要は無いので、適当に埴輪もときの顔を一応つけてとりあえず完成、関節を固定する筋肉などがないので現状は地面に転がしてある。
サイキックをかけて体操選手バリに身体を動かしているが摩擦を気にしないで済むように緩めにしたので特に問題は無さそうだ。流石にずっとやれば摩耗するだろうがまた作り直せばいいだろう。
「問題なく動くからこれで一旦いいかな、本題に入ろう」
サイキックで宙に浮かしながら、次の魔法の準備の為に魔力を集めていく。これさえ完成すればエリノラ姉さんにも一泡吹かせられるかもな…
ー時は少し遡り、アルたちが王都を出てまだ村に帰る最中の王都ー
「この度は無理を聞いていただきありがとうございます、ドール子爵」
「無理などとんでもない!お呼び頂き光栄でございます、レイラ王女殿下」
アルたちが馬車に揺られてる際に王城では、人形好きのドール子爵と第三王女殿下の会談が行われていた。
「にしても、本日はどういったご要件でしょうか?失礼ながら、王女殿下からお招き頂くような心当たりが私にはないのですが…」
王城内のいくつかある応接間に今は私とレイラ王女殿下に殿下のお付のメイドが一人だけになっている。王城にはバスチアンとティクルの三人で訪れたが現在は別の客間に待機となっている。
正直、私はすごく緊張していた。我が領は良質な綿花が取れるので王族のドレスにも使われる場合があるが、王家との直接的なやり取りなど税金やこないだ行われたパーティのように貴族全体に声をかける催しくらいである。
一番の心当たりはやはり【人形劇】だろう。王家ともなれば王都に情報網を張り巡らせているだろうから、私が劇場のオーナーと会ったことや魔法使いや俳優などの人材募集をしている事から新しい事業を嗅ぎつけてもおかしくは無い。しかし、現段階では『何かやりそう』という所までは分かっても【人形劇】までは辿り着けないはず。王族に人形趣味のある人がいるという話も聞かないし、何かやろうとしてるから支援を申し出る間柄でもない。
領土経営で何か問題でもあったのだろうか、それとも自領の布が原因で王族の誰かに体調不良でも起きたか。金属由来のものなど、使う染料によっては肌が荒れやすいものがある。
もし、王家の方が被害に遭われたら大事になるだろう、我が家に仕えてくれてる代官や領地経営を手伝ってくれてる両親、現場の職人たちも仕事は丁寧だが、ミスはいつかは起こるものだ。
しかしそれなら、陛下自ら招集をかけてもおかしくない。何故、普段は表舞台に立たれない第三王女殿下がただの子爵にお声掛けを…
「そう固くならないでください、ドール子爵。今回は貴殿の交友関係について少し話を聞かせていただきたいのです」
「わ、私の交友…ですか?」
「実は先日スロウレット家の方々と話す機会がありまして、そこでドール子爵の話が上がったんですよ」
「スロウレット家ですか、確かに仲良くさせて頂いていますが、お互いの名物を交換しているくらいで長い付き合いでもありませんよ。それがどうかなさいましたか?」
不安で自問自答に駆られていたところ、意外な答えが返ってきた。私の交友関係だと?自分で言うのもなんだが、私は人形愛が強いあまり交友関係は広くない。しかしここでノルド殿達の名が上がるということは人形劇関連と見ていいだろう。王家公認となれば人形文化の発展に大きな影響が出るだろう、これはチャンスだ!
ここは複数家の関わる事業ということで詳細は隠しつつも、支援の約束を取り付けられたら最高だろう。
ドール子爵は商機とみて、気合いを入れ直しながら王女殿下の次の言葉を待った。しかし、出てきた言葉は少し拍子抜けするものだった。
「ドール子爵もご存知だと思いますがアルフリート殿、いらっしゃるでしょう?歳の近い氷魔法使いということで魔法談義に花が咲きましてね」
「アルフリート殿ですか?私も何度か魔法を使っているところを見ましたが、彼は本当に楽しげな様子で魔法を使いますな」
「そうみたいですね、彼からも攻撃魔法より生活を便利にする魔法の方が好きだとお伺いしました」
む?アルフリート殿と魔法談義か。確かにティクルの上達速度を考えると素晴らしい魔法の才能を持っているようだから王女殿下とも話が合うのだろう。
「アルフリート殿は将来有能な魔法使いになるでしょうな。ですが、それが私とどう関係するのでしょうか?私は魔法はサッパリなのですが」
「いえ、ドール子爵と魔法談義がしたいわけではないので問題ありません」
「と、言いますと?」
私というよりは私からアルフリート殿について聞きたいようだな。アルフリート殿は何故人形劇について話さなかったのだろうか、意図が読めんな…
「実は興味深い魔法の話を聞けそうだったのですが、なんでもドール子爵との秘密が関係するから話せないと言われまして」
「私との秘密、ですか」
「はい。ただ、別れ際に『ドール子爵に私との秘密について聞いてみるといい』と言われまして、お伺いにお呼びした次第です」
「なるほど…」
「私は魔法の研鑽を積みたいだけなのですが、魔法に限らず技術には価値があるものです。ドール子爵が公開したくなければ強要はしませんがどうか教えて頂けないでしょうか?」
話の流れからして、恐らく教えても良かったがこちらに気を使った形か?サイキックを使うための無属性魔法は使い手が他の属性より少ないと言われている。王家にサイキックの使い方などを話して貴重な人材を持っていかれる心配をしてくれたのだろう。
だが、一般的な魔力量では大した重さのものはサイキックでは操れない。軍で使用するならばある程度魔力に余裕のある人物になるはずだ。なら魔力量よりコントロールが重要な人形遣いとは人材的に競合しにくいだろう。
「そうですね、アルフリート殿の許可は実質下りてるようなものですし問題ありませんよ」
「本当ですか!ありがとうございます」
サイキックを使った人形劇について説明するだけでもいいが…どうせなら直接見て良さを知って欲しいか。人形ならいつでも連れてきているしティクルに実演してもらおう。
「ですが、言葉で話すより直接見てもらった方がいいと思うので魔法を使えるものを呼んでも良いでしょうか?」
「いえ、そこまでしてもらわなくても…」
「お気になさらないでください、ちょうど本日連れてきていたメイドが使えるので手間はございません」
「それなら…お願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かりました、危険はない魔法ですが念の為どこかいい場所はありますか?」
「では、中庭の修練場に行きましょう。あそこなら問題ありません。サリヤ、お連れの方をご案内して」
「かしこまりました」
メイドが王女殿下の指示を受けて部屋の外に出たと思ったら直ぐに戻ってきた。どうやら外に控えていた誰かに伝言して代わりに呼びに行かせたようだ。
「それではドール子爵、私たちも移動しましょうか」
「お供させていただきます」
こないだはバルナーク伯爵にうまく説明できずアルフリートに助けてもらったが今回こそは自分の力でこの素晴らしさを伝えてみせる!