転生して氷の王女と田舎でスローライフをおくりたい   作:桐ヶ谷 雅輝

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お久しぶりです、人間って不思議なもので何度筆をとっても進まなかった物が些細なことで道が見えることもあるんですよね。


氷の王女と人形操術

 応接室を出た私たちは、メイドを先頭に王城の中庭に移動してきた。お茶会などで使うのか花壇の近くに豪華なガゼボが建っており、ベンチやテーブルが置かれている。冬なので少し寂しい雰囲気が漂っているが大工や細工師の手掛けた装飾が自然に負けない美しさを放っている。

 花壇を逸れて奥に進めば、王子や護衛兵が使うのか小さいながらも平らに均され土がむき出しの場所に出た。たしかに通路からは離れているのでここなら人も来にくいだろう。

 

 

「ここでしたら、普段は誰も来ませんし庭師もこの時間は正門の辺りにいる時間ですので見られる心配はありませんよ」

「お心遣いありがとうございます」

「失礼します、お連れ様をご案内しました」

「あら、ちょうどいいタイミングですね」

 

我々が着いたところで後ろから別のメイドがバスチアンとティクルを連れて現れた。たまたまだとは思うが、もしタイミングを測っていたならやはり王宮のメイドといったところか。

「だ、旦那様。私たちは何故こちらに呼ばれたのでしょうか?」

「ティクル!先に御挨拶が先でしょう。失礼致しました王女様」

「あ!も、申し訳ありません王女様!」

 

急に王族の前に連れられて来たからかいつも以上にオドオドしたティクルと私にだけ分かる程度に表情が硬いバスチアンが揃って礼をする。

 

「申し訳ありません王女殿下、部下が失礼を」

「謝罪を受け入れます。それで、彼らが例の魔法を?」

「はい、正確にはこちらのメイドが無属性の適性を持っていまして。バスチアン、ティクル、挨拶しなさい」

「執事のバスチアンと申します。どうやら魔法についてのお話のご様子、残念ながら私は適性を持っていませんのでこちらのティクルからお聞きください」

「ティ、ティクルと申します!先程は謝罪を受け入れて頂き、感謝致します」

「大丈夫ですよ、実はドール子爵との会話でティクルさんの魔法について見せてもらうことになりまして、こちらにお呼びしたの」

「わ、私ごときの魔法でよろしければいくらでもご覧下さいませ」

 

 挨拶を済ませると、王女殿下が早速話を振ってきた。どうやら思ったより期待が大きいようだな、営業は興味を邪魔しないようにせねば。

 

「王女殿下、お見せしたいものというのが人形と無属性魔法を組み合わせたものでして」

「まぁ!人形と魔法をですか?」

「えぇ。バスチアン、私の荷物を持ってきてくれ」

「はっこちらでございます」

 

王女殿下と話を進めながらバスチアンに頼みカバンを取ってきてもらう。念の為人形を持ってきていてよかった。

バスチアンはこちらに近づき私の前で小さなカバンを開く。カバンは普段使いのものと別に用意した人形用のケースであり、中には体に沿った緩衝材に包まれたカエルのゲコ太人形が入っており、横から王女殿下が覗き込むように見ている。人形劇関連で実際に動くところを見せるために持ち歩く機会が前にもまして増えた為、作らせたものだ。

 

「これは、確かカエルという生き物でしたか?図鑑で見た覚えがあります」

「正解でございます王女殿下。こちら水辺に住むカエルを模した人形です」

 

王女殿下の問いに答えながらカバンから取り出す。テーブルなどは無いのでバスチアンが閉じたカバンの上に座るように置く。

 

「私事ですが、実は子供の頃から生きた人形と会話したり遊んで暮らすのが夢でして」

「生きた人形ですか、素敵ですがそれは難しい夢ですね」

「ええ、難しいというよりハッキリ『不可能』と言うべきでしょう。人形はあくまで『モノ』であり、命が宿ることはありませんから」

 

私の独白に王女殿下が目を伏せがちに答え、私も更に言葉をもらす。生きた人形などは幻であり、目の前にあるのは現実のみ。

 

「ですが、私は友人から夢の続きを教えてもらいました」

「夢の続き?」

「はい。彼は息子が、魔法で『生きている』かのように動かして遊んでると言ってくれまして」

「それが、例の?」

「はい、その後おりを見て実際に見せてもらう事が出来ましたが本当に生きているようにそこに存在していて、あまりの感動に泣いてしまいましてね。ティクル!」

「は、はい!『我は求める 意思に従い 念動せよ』」

「是非王女殿下にも見ていただきたい、無属性魔法はサイキックによる命を得た人形を」

 

少し重くなった空気を振り払うようにティクルを呼び準備させる。叶わぬ夢を見る馬鹿への同情か、冷笑か、先程とは少し違う雰囲気を纏っていた王女殿下も目の前で何が起こるのか興味を動かされたように視線を送る。

 

「さぁ起きるんだカエルのゲコ太、王女殿下の御前だ」

「まぁ!これはこれは…」

 

私の合図でティクルがゲコ太が今起きたかのように身体を起こし、前足で目を擦る。こちらを見たと思えばカバンの上で数度飛び跳ね、あくびのように口を開ける。こないだアルフリートと会った際に言われてから、なるべく褒めるようにしてからティクルの腕はまた伸び始めた。子どもでも分かることを出来ていなかった自分に恥じもしたが、逆にあの時に知れて良かったとも今は思う。

 

「私は生きたカエルを見た事はありませんが、確かに滑らかな動きですね。どうサリヤ?あなたの目には」

「とても素晴らしく思います。たまに雨の日などに見かけますが、実際にこのように飛び跳ねて移動する生き物なんです。本物は表面がヌメヌメしておりアレですが、この人形ならとても可愛らしく人気も出るかと」 

「お褒めの言葉を頂き感謝申し上げます、先程も申しましたがこちら無属性魔法のサイキックで動かしております」

「では噂の魔法とはサイキックだと?」

 

 そう聞き返す王女殿下の目には様々な感情が見えた。

驚嘆、疑問、不満、そして絶望。何故彼女がサイキックに興味を持ったのか、実際にどんな会話をしたのか、それはその場にいた者しか知らない。

 

 そもそも、本来貴族や王族は感情を顔に出すものではない。もちろん無表情という訳では無いが本心を出していては弱みなどを握られたり、社交上失礼になりかねない。

たとえ、社交経験の少ない第三王女殿下とはいえ滅多なことでは崩れない『氷の人形』とも言われた方が今こうして明らかになるほど動揺している。アルフリートとの会話でよほど大きな期待を持っていたのだろうか。

今、王女殿下を包む明らかな悲しみが何から来るのか私には分からない。それでも、この素晴らしさの前に悲しみは似合わないと自分は信じている。人形は、幼き子供だった私にしてくれたように人を笑顔にしてくれる存在。私にはこの大きな影をどうにか振り払いたくなった。

 

失礼にならない程度に王女殿下を観察する。明らかに期待外れといった彼女だが、微かながらその碧い瞳の奥に確かな希望を見た気がする。

 

理由はわからないが、人形の素晴らしさを伝える。

私に出来ることをやれ、と頭の中で誰かが叫ぶ気がした。

 

「そうでございます。初めて彼にこの技を見せてもらった私は現実になった夢を前に全てを投げ出して教えを乞いました。ですが、夢を叶える奇跡は自分は持っていない無属性魔法。自分に出来ない(すべ)を伝授され、私は夢を否定されたように感じ世界に絶望しました…」

「確かにそれは悲しみに暮れるかも知れませんね」

 

未だ彼女は謎の暗い気配に包まれている。それでも王族として失礼のないように感情を隠しこちらの話を聞いてくれようとしてくれているのが伝わる。

 

「ですが、目の前で嘆く私に対して彼は『ならば出来る者に頼めば良い』と言ったのです」

「出来る者ですか…」

「えぇ、自分でダメなら他所から力を借りれば良い。命がない人形にも我々が与えればいい。たとえそれが魔法をかけている間だけの仮初の物だろうと」

「自分でダメなら、他所から……」

 

私の思いを伝えると王女殿下の口は深く閉ざされる。何かを考えているようだが、邪魔にならない程度に私は思いを綴り続ける。

 

「サイキックとは『物を動かす』魔法です。本来動かない物を別の力で動かすのですから、自分の力で動かすのに拘る必要も無いかと思いまして、この素晴らしさを広めるために今は無属性魔法を使える人材を集めて動く人形だけで行う劇を計画しています」

「物を動かす魔法………ッ!」

 

話を続けていたら琴線に触れるものがあったのか、王女殿下は目を見開きながらこちらを見つめてくる。欲してきた答えを見つけられたらしい。

 

「本日はお見せできませんが、先程の動きに風魔法で人形が話しているように声だけを演技する形で稽古をしております。もし完成しましたら、王女殿下も御招待致しましょう。なぁゲコ太」

「え、あ…ゲ、ゲコ!ぜひ見に来て欲しいゲコ〜!」

 

話しながら目配せを送り、ティクルに男の子のようなハツラツとした声でゲコ太を演じてもらう。少女らしい柔らかい印象の素の声と演技のギャップに驚いていた王女殿下たちだったが、伝わるものがあったのか暗く纏わりついていた影が霧散していくように見えた。

 

「ふふ、本日は驚かせていただきました。素敵なものを見せてくれありがとう、ドール子爵、ティクルさん」

「王女殿下にご満足頂けたなら我々も自信となります。こちらこそ本日はお招き頂きありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!」

「時間も結構経ちましたのでこの辺りでお開きと致しましょうか。人形劇、楽しみにさせていただきますね」

「はっ、完成の暁には必ず」

 

礼を尽くしながら覗き見た王女殿下の顔には、氷の王女の名に相応しくない温かな笑顔が浮かんでいた。

 

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