前回のあらすじ:ブラドキング先生の胃が死んだ。(1回目)
結局あの後、ブラドキング先生が復帰を果たすまでに五分以上掛かるアクシデントこそ有ったものの、残り三種目も無事終了した。
結果は持久走で一位を獲得したが、上体起こし、長座体前屈の最終種目二つはそれぞれ4位、5位という順位に終わっている。
うん、まあでもあれは仕方ないです。私の『個性』では角女子ちゃんやバラバラ少女みたく人体の切り離しは出来ないし、悔しいですがコピー詐欺師のような応用性にも欠けますから。
それでも全体一位という結果は変わらなかったので、何とか主席合格者としての威厳は保たれたと思います。
「あれれれれぇ? 僕の気のせいかなぁ。全種目一位みたいな雰囲気出しといて、最後だけ微妙な成績に収まるっておかしくなァい!?」←総合9位
「ふふ、そうですね。どうやら私の個性は〝
それよりも、と接続語で会話を繋げると同時に、言葉に深みを持たせた演出を挟む。更には瞳の奥の眼光を鋭くさせ、この場から逃さないとばかりに狙いを定める。
「当たりの個性を引けるだけ引けて、応用にも長けるコピー系の『個性』を持つ貴方はそれは素晴らしい成績を修められたのでしょうね。私のうっかりで攻撃を浴びせられても余裕で……ぷフッ、ごめんなさい。そう余裕で耐えた貴方ならそう難しくないのでしょう、羨ましい」
「あっーはっはっ! ところで話は変わるんだが君はどこのぎゃぶ――ッ!?」
「うわ、えげつねえ。言うだけ言い返しておいて最後逃げると判断するや即落ちさせやがった」
「そして歯牙にすら掛けず放置ッスか。悪魔ッスね」
結果は言うまでもなく美羅の勝利。誰もが予想していた結末に、むしろどうして煽りに行ったのだと物間に対して懐疑的な視線が向けられた。
「ところで今日はこれで終わりなのかしら。まだだいぶ時間が余っているようだけど」
「ふむ、確かに体力測定だけで3時間持たすのは些か無理があると思う。だからまだこの後に何かあると考えるが」
「その通りだ! よくぞ気付いた庄田少年!」
『!!?』
「この声は、まさか!」
突如グラウンドに響き渡る、聞き覚えのあり過ぎる声。咄嗟に周囲を見回すが、幾ら探しても自分達とブラドキングの姿しかない事に疑問を浮かべる。
「合格発表の時も思いましたが、どうしてヒーローって過度に演出したがるんでしょうね」
「美羅?」
「来ますよ、上から」
言い終えるや否や、集団の外に向かって歩き始める。
「わ~た~し~が~!!」
直後、勇ましい声と共に、大きな衝撃がB組の前へと落下した。しかもそれは美羅が歩いて行った方とはちょうど反対側に位置し、彼女だけが舞う砂塵の被害から逃れる。
「空から来た!」
「ウオオッ! 凄え! 本物のオールマイトだ!!」
「やっぱり迫力と言うか画風が違うよなあ」
「あれは…
しかし砂埃など何のその。スーパーヒーローの登場に場が湧き立つ中、周囲から一歩引いて美羅だけが冷静にオールマイトの観察に努めていた。
「…? これがオールマイト? でもそれにしては何だか…」
「HAHAHA! まあ落ち着き給えよ有精卵たち。今日は授業に来たんだ。サインはまた後で持ってきてくれるかな」
その言葉に全員が納得し、サインを強請るファンから授業に臨む学生のソレに切り替わる。
「素晴らしい! 時間は有限だ。早速だが本題に入らせてもらおうか!」
「今日の後半の授業はオールマイト先生との共同授業だ。皆の気持ちも分かるが、授業は真面目に受けるように」
『ハイっ!』
うんうん良い返事だ、と首を大仰に振り生徒の対応を讃える。
「という事で、今日はコレ! 戦闘訓練!! そしてそいつに伴って・・・あちら! 入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿って誂えた…戦闘服コスチュームを用意したぞ!!」
その言葉に先程とは違う意味で場が盛り上がる。ヒーローを目指す者なら一度は妄想に耽ったことだろう。その憧れのコスチュームが目の前に掲げられており、普段は冷静な一佳やあの唯ですら眼を輝かせて今か今かと指示を待っている。
「横にロッカーを用意してある。着替えた者から順次戻ってくるように」
『はーい!!』
その言葉と共に皆一斉に走り出し、先程までの歓声が嘘のように静まり返る。
「おや、君は行かないのかね、神藤少女」
だが美羅だけはそれに追従せず、何か思案する様に顎に手を当てオールマイトを見据えていた。
「ムム、そう見つめられると反応に困るな。どうだいこのコスチューム、中々にいい出来「オールマイト」って聞いてないね……うん何だい」
自慢の戦闘服もまるっと無視されて、それでも挫けず目の前の少女に応対する。
「オールマイト。自他ともに認める最強のヒーロー」
「うん、そうだよ。て言うと嫌味に聞こえるけどね」
「それは決して笑みを絶やさないヒーロー社会の象徴」
「外なら良いが、校内にいる時は先生と呼ぶように!」
「絶対に負けない、正に無敵のヒーロー」
「あのー、神藤少女?」
「ねえ」
だがいい加減レスポンスにも限界が訪れ、要件を聞こうとした。聞こうとしたのだが、続く言葉に二重の意味で二の句を告げれなくなる。
「貴方、
「ッ――!」
「うん? 何を言ってるんだ神藤。そんなの見れば分かる…ってまさか、オールマイトの顔も知らなかったのか」
「……」
ブラドキングの質問にも答えず、ジッとオールマイトだけを見据えている。その瞳には何の感慨も浮かべず、ただ純粋な疑問だけを宿していた。
「……ふふッ、いえやっぱり何でもありません。どうも失礼致しました」
そう言って笑顔の仮面を張り付けると、一つお辞儀をしてオールマイトの横を通り過ぎる。
結局何を意味する発言だったのか。説明もなく場を後にしようとする彼女の口から呟きが漏れたのは、その時だった。
「一つ貸しですよ、オールマイト
「ム…」
そのまま更衣室へと駆けて行き、遠くなるその背中を二人して見送る。
「何だったんだ、一体」
「HAHA,彼女、ブラドキング先生も随分苦労されているご様子ですね」
「ええまったく。ご覧のように言動や雰囲気がチグハグな子なので、恥ずかしながら私もどう接すれば良いか未だに図りかねている状態でして。
根津校長が言うには焦りの気持ちが強いから、らしいのですが…しかし私にはそれすら定かでなく」
「焦燥、ですか。しかし私にはどうも――」
「どうも?」
その先を促そうとして、だが当の本人も悩まし気な表情を浮かべているのを見るに、オールマイトも確信を得ていないのが分かる。
「いえ、やっぱりなんでもありません。何かあれば私の方からお伝えします」
それから数分後、最初に着替えを終えたヒーロー達が来るまでブラドキングに教育の何たるかを学ぶNo.1ヒーロー。小骨が喉に引っ掛かるような違和感を覚えながらも、新米教育者として今出来ることを優先させた。
もしこの時、オールマイトが美羅に感じた違和感を深掘りしていれば未来は違ったのだろうか。
仮面の下に隠された感情が、実は――
「あれ? 皆さんもう着替えたんですか。早いですね」
美羅が女子更衣室の扉を開けた時、そこには特徴的な衣装に身を包んだクラスメート達が互いのコスチュームについて感想を言い合ったり、軽いが行われていた。
「いやいや、美羅が遅いだけだから。オールマイト先生と何話してたの?」
「んー、特別な事は何も。ちょっとした世間話ですよ」
周囲から向けられる声を右から左に聞き流し、「神藤」と書かれたロッカーから自分でデザインしたコスチュームを手に取る。
「あれ、それってドレス? へえ、美羅ってそういうのが好きなんだ」
「……さてどうですかね」
彼女の手にぶら下げられた
「へえ、これは中々」
「ちょっとウラメシいくらいに綺麗かも」
「こ、これは強力なライバル登場ノコ!?」
「肌がホワイトなのもコスチュームにマッチしてマース!」
「この細腕からあの記録が出るのも謎っちゃ謎だけどね」
「ん」
「ふふ、ありがとうございます」
軽くお礼を言い、それから皆で一緒に部屋を出る。
「似合ってる、か。案外複雑な気分ですね」
「美羅…?」
「いえ、何でもないです」
最後まで残っていた私に、拳藤さんから訝しげな声が掛けられる。それに大丈夫と答え、今度こそ訓練に向けて歩き始めた。
今回美羅は被服控除というシステムを利用して、手ずからコスチュームのデザインをサポート会社に提出した。
本当はこんな機会だから〝自分で考えたモノを採用したかった〟が、彼女の目的の一つと天秤に掛けた時に、これ以外の選択肢は残されていなかった。
このくらいで満足したりしませんよ、私は。
散々邪魔してくれましたからね。こうでもしないと私の腹の虫が収まらないんですよ。
貴女に盗られた物全部取り返して、今度は私が
貴女の持つ全てを毟り取って、磨り潰して、粉微塵にして。身勝手に存在する意味、理由、思想その他悉くを根絶やしに、台無しにしてやるッ――、
――誰にも見せない仮面の下の本心が、実はどうしようもない“怒り”と“恐怖”で占められていることを。
うふふ。美羅ったら