前回のあらすじ:やれやれ私が解説するしかないですね、とか思ってたら一人優秀なのがいて割りとビックリ。
「今戦のベストは拳藤少女だ! 作戦の立案から物間少年捕獲まで実に鮮やかだった。詳細は多分…というかほぼ確実に分かっている子達がいるから、話したい人は挙手で!」
「はい、オールマイト先生」
半ば職務放棄した新米教師からの問いに手を上げたのは、やはり骨抜柔造だった。
(これは私が語る必要も無いですかね)
なので私も省エネモードになって彼の説明に耳を傾ける。
「初見の…というか詳細が分からない物間のコピーに対して、拳藤が一番合理的判断に基づいた行動していたからだと思います」
「だよな~。物間や小大さんも凄かったけど、それを見越した上で行動している感じだったし」
「あはは、いや~照れるなあ」
状況証拠から個性で出来る事、出来ない事を暴き出し、そこから設定に合ったアプローチを仕掛けて勝利を収める様はモニターの映像だけでも各人に伝わっていた。
「逆に物間は焦り過ぎって言うか、先手先手を取る事に意識が向き過ぎててその粗を拳藤に突かれたって感じだな。オールマイトの個性をアテに出来なかったのは不運としか言いようがないが、その後の計画立案の部分で明暗が分かれたな」
「おや、それは心外だなあ。今回敗れたとはいえ、僕は自分の作戦が間違っていたとは思わないけどね」
「それに関しては物間氏に同意ですぞ。小大氏が核兵器を個性で小さくし、その小大氏と核兵器を骨抜氏、貴方の個性『柔化』で壁の中へと隠した後、今度は私の『ビースト』で時間稼ぎに徹した。拳藤氏に看破されたとはいえ、何も間違っているようには思えませんが」
宍田の指摘に何人かが頷くが、それを見越していた骨抜から補足が入る。
「そう、俺が言いたいのは最後の時間稼ぎに関してだ。オールマイト先生、訓練開始から物間捕獲までの時間はどの位でしたか?」
「そうだね、大体10分程だろう」
「試験が開始されてから身を隠すのに5分、『ビースト』発動後で5分。一人でこれだけ稼げたら十分と思うかもしれないけど、逆に言えば10分
「でも、結局は時間内に見つけられなくて
「ルールの上ではな。下手に壁を壊して核兵器に傷が付いたんじゃ不適切な行動と見做される。壁に埋まって何処にあるかも分からない危険物とヴィランを見つけ出すのにあの二人の個性は不向き。となると、最善は
片や敵をほぼ無力化し、応援を待つだけのヒーロー。
それに対し壁の中に身を潜めるしかない
「要は決着を急ぎ過ぎたのが今回の敗因だろう。長期戦が不利というのは分かっていて、尚且つ1枠分ストックを無駄にしたんだ。逸る気持ちも分かる。けどさ…」
納得がいってなさそうな物間を視界に捉え、僅かに苦笑を讃えた。
「何度も言うようだが、今回は互いの手の内も知らない状態からのスタートだったんだ。個性の上限が明らかでない内は最初の5分間のようにハッタリを利かせる手も有ったんじゃないか? その方が勝てないにしても有利に盤面を終えられたのになって思ってさ」
実際、その方が拳藤としても嫌だったんじゃないか? と、MVPの立役者に意見を求める。
「まあね。あそこで捕まえれたのは最高の結果だったけど、他にも考えうる手段はあった訳だし。正直真正面から突っ込んでくれたのは有難かったかな」
「とまあ、当事者からの意見はこんな感じ。なので時間稼ぎという考え自体は良かったが、そのアプローチを誤ったという点で拳藤の方が合理的だったと思い至った訳だが……其方さんの見解としてはどんな感じ?」
解説者がソフトパスを送った相手。それは今回のカードが組まれた時点で、自身と同様の推測を立てていた少女へと向けられた。
まあ、つまり
「そうですね…。今の説明ですと時間稼ぎ以外の部分は問題無いように聴こえましたが、私はそもそも今回の作戦自体が敗北の要因だと確信しています」
私の言葉にざわッと場が揺れるが、気にせず持論を展開していく。
「骨抜さんは先程、個性の詳細を互いが知らない
「前提…つまりは個性の認知度か」
「ええ。ヴィラン側に明確に有利な点はそこですから。逆に言えば上を目指すヒーローなら絶対に避けては通れない障害でもあります」
むしろそこに突っ込まなかったことに最初はおや…? と思ったが、よく考えたらこの間まで普通の中学生をしていた彼等にそこまで完璧な答えを求めるのは、現状酷だろうと思い至る。
「中には破壊衝動に駆られ後先考えない敵もいますが、今回は核兵器まで持ち込んでいる想定なので頭脳犯の線を先ず疑うべきです。そんな輩が管轄地域にいるヒーローの顔と個性を覚えていないと思いますか」
「いや、ないだろうな。拘束や屋内戦闘に秀でた個性持ちや、物間みたいなコピー系は特に警戒されるだろうし」
なので私から提示する「正解」をしっかり理解したうえで、それを将来の糧とし日本の文化やコンテンツを守れるヒーローになってくれればと願っている。
「私もオールマイトの個性が〝スカ〟だったのは単なる不幸で済ませちゃっていいと思います。でもやっぱり問題はその後ですよねえ。ヴィランが『コピー』の詳細を知らない前提で作戦を立てちゃったのが不味いと思います」
仮に「何をコピーしたか」で揺さぶりを掛けるなら駆け引きの余地もあったでしょう。
でも彼は「個性ストックの上限、制限時間」といった、個性そのものを考察の主題に据えようとしていました。これはいけません。
「こんなのが通用するのは名前が売れてない最初だけです。詳細が分かれば当然対策も取られるでしょうし、個性ストックが切れたところを狙われるのは目に見えている。そんな状況下で捕獲にも撃破にも向かない中途半端な作戦を幾つ立てようと、結局は同じ結果を繰り返すだけだと思います」
襲撃時点で既に残る二つのストックも使い切っており、これでは喩えあの場で捕まえられなかったとしても〝時間稼ぎ〟という本来の目的は達成不可能だっただろう。
「なので個性ストックは常に3枠埋めておくべきでしょう。今回であれば〝スカ〟だった事も事前に想定し、訓練中に補充できる『サイズ』『大拳』『ポルターガイスト』のいづれかを主軸とした2ndプランを立てるべきでしたね」
「ん…? でも物間は唯の個性を……あぁ、1つ目の個性を
「そうです。『サイズ』はその場で小大さんからコピれますし、その分ストックに空きが出来るなら同じ試合展開でも有利に事を進めた筈です」
後はまあ、
実質的な脅威度は下がるでしょうが、今みたいな選択予想が立てられず個性も自由に使える分、戦略の幅が広がるので時間稼ぎならこっちの方が向いてるんじゃないかしら。
「とまあ長々と話してきましたが、要するに物間さんの作戦が拙いのとは対照的に、何が起きても対処出来る立ち回りをしていたヒーローチームと、それを考えた拳藤さんがMVPなのに異論は無いという事です」
「ううむ…神藤少女の意見は極めて実践的だ。が、内容が授業の先を行き過ぎているし、今回は初回だからそこまで難しく考えなくても良いだろう! 皆も最初は骨抜少年の考えを参考に、それから徐々にステップアップを図っていってくれ!」
『はい!!』
うんうん、いい返事だ。と何度か頷き、横目で不貞腐れたような顔を晒す物間――あと何故か美羅も――を捉えつつも次の対戦の準備に取り掛かる。
「さあ次の対戦は! こいつらだー!!」
「うおお! 2戦目にして早くも好カード来たー!」
「拳藤さん達が危惧していたオールマイト級の
「オールマイト級のヒーローって、それもうオールマイトじゃん」
あー、こういう展開になりますか。面倒ですね。頭良いヴィラン相手するのって。
と、そんな事を思っていると、茨の髪をした女子生徒が私に向かってきた。あれは確か対戦相手の…塩崎さん、でしたっけ。
「神藤さん」
「はい、なんでしょう」
本当に何なんでしょうね。鉄哲さん程ではないにせよ、彼女から敵意に近しいものを向けられているのには気付いていた。
でも原因が分からないため放置していたら、組み合わせ発表と同時にやる気も一入増したみたいです。何で?
「もしこの対戦で私のチームが勝ったら、オールマイト先生に懺悔なさってください」
「…は? オールマイト先生に?」
うん、いきなりですね。それにどうして今の流れでオールマイトの名が上がるのでしょう。急に話題に挙げられた本人も「えっ!?」みたいな顔で驚いてますよ。
「ちなみに理由を訊いても?」
「先程の先生に向けた発言です。No.1ヒーロー、オールマイトは我々ヒーローを目指す者…いえプロヒーローであろうと羨望を向け、この社会の規範となる謂わば道標。そんな平和の象徴が説いた教えを、貴女はあろうことか“下らない思想”と吐き捨てました。私はそれを断じて赦すわけにはいきません」
「あー、あれですか」
思い返してみると、確かにあの失言から塩崎さんの圧が強まったような気がします。あの時はオールマイトの何が気に入らなくて思わず悪態を吐いてしまいましたが、それで反感を持たれたみたいです。
決して意図的でないにせよ、こうして禍根を残してる辺りやはり百害あって一利なしの愚行だったと再認識しました。
「でもあれはオールマイト先生も悪くないですか。仮にも合格認定した生徒の矯正を、他ならぬクラスメイトに押し付けようとしたんですよ?」
そう、私は悪くない。悪いのは入試の件をしつこく掘り返してきた鉄哲さんと、彼に余計な事を吹き込もうとしたオールマイトです。私は少し強めに言い返しただけの被害者だ。
「それに、私が言ったことも強ち間違ってはいないでしょう。世間が皆さんに求めるのは平和な世の維持だけです。ヒーローとは一クラスという小さいコミュニティ内で仲良し小好しする学生集団ではありませんよ」
「ならば尚更見過ごすわけにはいきません。後半はともかくとして、人々が救いを求める中には貴女も含まれているのです。しかし幾ら力を持っていていようと、信念無き者に人は安寧秩序を委ねません」
「おい二人とも、ちょっと落ち着けって」
「ああ、その事ですか。それなら心配ありません。私の家は半分ヴィランみたいなもので、私自身もヒーローを目指す気はサラサラ無いですから」
「は?」
咄嗟に間に割って入った男子生徒から驚きの声が漏れる。彼だけでなく、事情を知る教師以外はリアクションに差こそあれ皆同じような反応を取っていました。
「雄英に入った者が皆ヒーローを目指すとでも? 私が入学したのは個性を伸ばせる環境が偶々手に届く所にあって、学校側もそのスタンスを認めたから入ったに過ぎません」
「ッ――、もしかして、入試でわざと落ちるような立ち回りをしてたのも」
「ええ、私という脅威を学校側がどこまで受容れるか試しただけです」
バラすつもりは無かったんですが、よくよく考えると早い段階で周知するのは別にそう悪い事でもありません。
今後も似たような展開が起きた時に〝ヴィランだから〟で誤魔化せられるのは正直楽ですからね。
「けど安心してください。組織の方は兎も角、私個人としては今のヒーロー社会に不満などありません。むしろこれからも私が幸せに生きられる世の中であり続けるために、皆さんの事は応援してる位ですし」
手をヒラヒラさせて無害だとアピールするが、それを真に受ける人はいないようです。当然と言えば当然ですが皆さん優秀ですね。
「なので私にヒーローの心意気なんて説いても無駄なんですよ。そんな事をしている暇があるなら技の一つでも磨いておいてください」
これ以上此処にいても話が長くなるばかりなので、未だ放心している鉄哲さんの腕を引いて指定された場所へと向かいます。
その時横目でちらっと見たオールマイトとブラドキング先生の呆気に取られたような顔を思い出し、人知れず留飲を下げるのでした。
幸せになるための秘訣①
お金に妥協せず、買いたいモノ、食べたい物があったら気の赴くままに購入すべし。