祖龍のヒーローアカデミア   作:暦月

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 七つの大罪の新作、【《不殺》は時を廻したい】も始めたので興味があれば其方も見てくれると嬉しいです。

 と、初っ端からダイマでした。





第十四話 戦闘訓練④

 

 幼い頃から、自分は恵まれていると思った。

 

 裕福な家庭に生まれ、優しい両親や気の合う友人に囲まれながらも、それに甘んじることなく努力に研鑽を重ね、その甲斐あり無事こうして雄英に入ることが出来た。

 

 優秀な成績、誰もが羨む環境、そして恵まれた個性。

 

 だがそんなもの、此処(ヒーロー科)ではありふれている話の一つに過ぎない。倍率300の壁は伊達ではなく、自分と同じような境遇の人が毎年悔し涙を呑んでいる。

 

 だからこそ、其処に足を踏み入れた者達は更に高みを目指さなければならない。

 

 努力が必ず報われるとは限らない。しかし、報われた者が現状に満足し停滞すれば、それは報われなかった者達にとって裏切り以外の何物でもなくなるからだ。

 それまで費やしてきた努力や時間を無駄だったと錯覚し、今まで歩んできた道程を否定されるに等しい。

 

「それで、話は終わりました? 下らないヒーロー思想を垂れ流す暇があるなら、さっさと授業を始めて欲しいです」

 

 しかし、そうは思わない人もいる。

 主席合格というこの学年の頂点に立ち、尚且つ最も多くの脱落者を出した女子生徒が、あろうことかオールマイトに噛み付いた。

 

 彼女――神藤美羅が起こした惨状は、当時同じ会場にいた友人の一人から聞き及んでいた。

 

 

曰く、その攻撃は(まさ)に天災そのもの。抗う気概を赦さず、逃げるという意思さえ砕く破壊の権化。

 

曰く、合格を諦めず、あの場に残った人の殆どが医務室送りとなった。悪夢の如き惨状は一切の慈悲を見せず、勇敢に挑んだ稀人を愚か者として罰した。

 

曰く――、あの(いかづち)はたった一人の個性によるものだったとか。それが目標(ターゲット)、受験者関係なく猛威を振るい、あの最悪の光景を創り出したのだと云う。

 

 

「茨さん、合格おめでとう。私は駄目だったけど、茨さんなら立派なヒーローになれるって私信じてるから」

 

 幸い友人は脅威に巻き込まれることなく試験を終えた。

 そう、幸い。あの場にいて無事に済んだだけでも幸運な方だ。

 

「じゃあね、頑張って…」

 

 そう言って去っていく友人の背を見送って、悟った。

 

 嗚呼、彼女はもうヒーローになる夢すら諦めたのですね。

 

 彼女のように身体は無事でも心を折られた人、もしくは肉体も精神も屈した人が多いと知ったのは、その後だった。

 

 

 

「分かりますか。彼女らの合格を阻んだだけなら未だしも、ヒーローになる未来まで絶ってしまった貴女には相応の罰が下るでしょう」

 

「今の話だけ聞くと友人の報復のようにも取れますが」

 

「いいえ。ヒーローとは私怨で動くものではありません。これはあくまで貴女が否定したオールマイト先生のやり方で更生する(裁く)ための方便です」

 

「結局裁くんじゃないですか。ところで骨抜さんから作戦の概要が伝えられてたと思いますが、このマッチアップも彼の指示ですか」

 

「いいえ。ですがヒーローとは謀るのではなく、示す者。(はかりごと)は穢れに通づると、ヒーローを名乗らない貴女にも教えて差し上げます」

 

「……成程。つまりは独断専行ですね。まあ敵に雇われた正義感の強いヴィジランテという事で解釈しておきましょう」

 

(来るッ――!)

 

 彼女の個性は増強型と発動型の複合系統。どちらも並のプロヒーローを軽く凌駕しますが、特に警戒すべきは前者の方。

 体力テストで見せたあの瞬発力(スピード)。蔓で雷を防ぐにしても、視界を覆ってしまえばその分だけ対処が遅れてしまいます。

 

 故に蔓での防御は最小限に、先ずはフィールドに個性を張り巡らせ戦う準備を「バチィ!!」………は?

 

「何を悠長に構えてるんですか。まさかそんな燃える素材を重ねたぐらいで私の攻撃を防げる…なんて思ってないですよね」

 

「ッ…!!」

 

 見通しが甘かった! 雷撃の威力も、速度も、何もかもが想定を上回っています…!

 

 視線を向けた先では蔓が焼き切られており、全くと言っていいほど機能しない盾のなれ果てが映った。

 

「ほら、どんどん行きますよ。ちゃんと加減はするので対処してくださいね」

 

「うッ!?」

 

(手を振るってから雷を撃ち出すまでのラグが殆ど無い! 予備動作から放出のタイミングは分かりますが、それもわざと避けやすくしたものばかりッ)

 

 確実に舐められている。しかし私と彼女の実力差は、それを咎められないまでに隔絶していました。

 

(何処か身が隠せるところを)

 

「20点。思考を止めないのは大変良いですが、動きがおざなりです。考えながら行動出来るまでは誰かと組んで練習しましょう」

 

「かはッ――!」

 

 撃ち出された雷撃を囮に距離を詰められると、死角から突き出された掌底をモロに食らい、膝をつく。

 

「げほ、げほっ…!」

 

「さ、実力の差は分かったでしょう。それを踏まえた上で骨抜さんと連携し、状況に即した対応というのを学んできてください」

 

「な、ぜ。見逃そうとするのですか」

 

「最初に言ったでしょう。私は私の幸せのために皆さんの事は応援してるって」

 

 建物の方を指さし、仕切り直してから再度挑戦を促す美羅。その行動の意味が分からず、息を整えながら当然の疑問を呈した。

 

「美味しくて安全な食事、何不自由ない生活環境。それに多様な娯楽文化。世界全体を見渡しても日本ほど恵まれている国はそうなく、これ等は全て先人たちの努力とそれを守るヒーローの存在あってこそです」

 

 今でこそ現代日本に生まれた恩恵を享受できているが、嘗ての自分はそうではなかった。だからこそ今の幸せが長く続くよう、将来のヒーローの育成を図っているわけだ。

 

「貴女方には社会を正常に回すための歯車になっていただきたい。その為にも今ヒーロー社会に蔓延る個人プレイ重視の風潮から先ずは変えていこうかなって」

 

 腰を下ろし、話す体勢になると自身の考えを打ち明ける。

 

「そもそも皆さん、オールマイトに感化され過ぎなんですよ。今の平和がオールマイトありきで成り立ってるからって、それに夢を見ちゃう人が多いんですよね」

 

 私の中学時代とか特にそんな感じでした。あんなお粗末な個性でどうして成り上がれると思ったのか甚だ疑問です。

 

 

「どうして皆気付かないんでしょう。ヒーローになれる人間も、トップに立てる素質も、全ては個性で決まる事に」

 

 

 

 

 一方、モニタールームで試合の様子を観戦していたクラスメイトは想像以上の塩崎の奮闘と、それすらも封殺した美羅に賞賛を送っていた。

 

「いやあ、やっぱり神藤が実力を見せたけど、塩崎の方もナイスガッツだったよな」

「アレ…? でも確保せずにsitダウンしてマスよ」

「どうせ敗れた塩崎さんを煽ってるんでしょ。あ~ヤダヤダ、これだからヴィランは」

「いやアンタじゃないんだから」

 

 その中で唯一音声を拾えるオールマイトと、他の面々より少しだけ彼女に詳しい拳藤、小大だけが画面に難しい顔を向けていた。

 

「本当にただ雑談してるだけ? ううん、絶対違う。あれだけ合理的な考えを持てる美羅が、そんな事で時間を浪費する筈が無い」

 

「ん」

 

(全く。何かしてくるとは思っていたが、随分捻くれた考えを持っていたようだね神藤少女)

 

 追撃を加えるなどの直接的な被害が無いため目を瞑るが、これ以上塩崎の成長の妨げになるようならと、何時でも中止の放送が出来るよう準備する。

 

(だがこれはある意味でチャンスだ。腹の内が読めない彼女を知る切っ掛けにもなるかもしれない)

 

 願わくば地に伏せた少女が折れない事を祈りつつ、そんな期待と共にモニター画面を仰ぎ見た。

 

 

 

 

「私が求めるのは何でも出来るスーパーヒーローではありません。勿論、オールマイトのような平和の象徴が何人も居てくれるのが理想ですが、現実はそうじゃない」

 

 だからこんなのはただの高望み…ですらない質の悪い願望だ。

 

「雑魚ヴィラン相手なら今の体制でも充分でしょう。数でも質でもヒーローが後れを取る要素が見当たりません。なら相手が雑魚でなければどうでしょうか」

 

 私ほどでは無いにせよ、一度表に出るだけで社会を混乱に陥れる強力な個性持ちを、裏の世界で何度も見てきた。

 

「今の状況がまさしくそれです。この場面だけ切り取れば、独断専行した挙句に負ける情けないヒーローの図にしか見えません。まあ当然ですよね。塩崎さんの個性も優秀ですが、どう頑張ったって私には及ばないんですから」

 

 ビクリっと塩崎さんの体が震えますが、構わず持論を展開していきます。

 

「私が思うに。発現する個性にはそれぞれランクがあって、下のランクが上のランクを負かすのは基本的に起こり得ないと見ています」

 

「ではランクが下の者はただ予定調和の結果に従うしかないのか。いえいえ、それを何とかする為に作戦やチームワークが重要になってくるんですよ」

 

 余りに実力差が開き過ぎていたらそれも無意味ですが……という本音は心の中に仕舞っておいて、優秀だが余計な拘りがある目の前の少女を“説得”するべく、会話の内容から表情に気を付けながら本命の話を切り出す。

 

「塩崎さん。オールマイトに憧れるのは良いですが、目標にするのだけは止めてくださいね。彼は貴女より……というかプロヒーローを含めて2つ3つ上のランクにいるのがオールマイトですから」

 

「ッ――」

 

 分かります。認めるのが辛いんですよね。でもそれを自覚しないと貴女は一生弱いままですから、ここは心を鬼にして事実を突きつけます。

 

「残念ですが、貴女は一生オールマイトにはなれません。良い所まで行けるとは思いますが、それ以上はどうしたって個性の限界が邪魔します。同ランク帯でも当然強い弱いがあり、仮に強い方のヴィランと当たった場合、真正面からの制圧では対処しきれない事も出てくるでしょう」

 

 優しく諭すように語り掛け、相手に疑問を生じさせないよう配慮を尽くす。

 

「しかしそれではいけません。それでは今まで築き上げてきた文化が…あと人々の命も失われてしまいます。なので決してそうならぬよう、ヒーローとして使命()を受け入れてみませんか」

 

「ヒーロー、使命…」

 

 倒れている彼女に手を差し伸べ、賛同を図る。

 

 地面から離れた手が、ゆっくりゆっくり私の手と重なると――

 

 

 パシンっ

 

 

 接触は一瞬。乾いた音と共に差し伸べた手を弾かれた。

 

「莫迦に、しないでください」

 

「……」

 

「最後だけ耳障りのいい言葉を並べれば私が絆されるとでも。結局は貴方の都合の良いように私を誘導したいだけでしょう」

 

 ああ、そうか。薄々分かってましたが彼女、私の言葉に疑問を挟むどころか最初(ハナ)から信用しちゃいないんだ。

 

 嗚呼………

 

 

 面倒くさいなあ

 

 

「貴女からは信念をまるで感じません。自分の全てを賭してでも貫きたいという信念が何も」

 

「信念…? それって塩崎さんの謀は駄目とか、オールマイト先生が騙っていた下らないヒーロー思想のことですか。でも私はヒーロー志望じゃないのでそんなの関係ありませんよね」

 

「生き方の問題です。ヒーローを軽んじるその精神性は、孰れ貴女を悩ませる障害となるでしょう」

 

「負け惜しみですか? だとしたらガッカリです。塩崎さんには期待してたのに」

 

 如何にも残念だと言わんばかりの溜め息を吐き、右手に少量の雷を纏わせながら見下ろした先の少女に告げる。

 

「これからギリギリ活動(・・・・・・)できる(・・・)程度に痛めつけます。それでも戦闘継続の意思があるなら追ってきなさい」

 

 ただし次は手心を加えませんからね。

 

 恐怖心を煽るような物騒な物言いだが、それでも塩崎は屈しない。

 

「何故、そこまでしてヒーローをっ」

 

「さっきから言ってるでしょう。幸せの為ですよ。私が出張れば全て解決するのでしょうけど、治安維持なんかの為に貴重な時間を割きたくないな~って」

 

「ッ、ヒーローは都合の良い舞台装置などでは断じてありません!」

 

「いやいや、ヒーローに夢を見過ぎですってば。舞台装置ですよ。勝手に面倒ごとを引き受けてくれる雑用係的な」

 

「ッ――! ハアァァー!!」

 

「……へぇ」

 

 憧れのヒーローを、それに向かって研鑽を積む自分やクラスメイトを侮辱され、怒りが限界に達した。今自分が持てる力の全てを引き出し、美羅に挑みかかる。

 焼き切れた蔓の先端からまた新たに生え始め、長さも太さも一回り大きくなった蔓で美羅の全身を拘束した。

 

磔刑(クルセフィクション)!」

 

 それは正史(原作)ではまだ先の、塩崎茨が上鳴電気に使用し完璧に封じ込めていた必殺技の一つだ。しかもそこで見せたのとは明らかに出力が異なり、練度の低さを補って余る鉄壁の要塞を築き上げて見せた。

 

「ハァ、ハァッ――!」

 

 だがまあ。

 

「……正直言って驚きました。その身体で私が想定していた限界ラインを優に超えてくるとは」

 

「くっ…まだ、この程度では…!」

 

 今回の相手は、上鳴電気とは(レベル)が違う。

 

「誇っても良いですよ? 私の見立てって結構正確なので、こういった場面にあまり遭遇したことが無いんですよ」

 

 

 ブチブチ、ブチィ――!

 

 何かが千斬れる音と共に美羅の声も鮮明になり、数秒後には堅牢を誇る筈の磔刑(クルセフィクション)が素手でこじ開けられた。

 

 

「プルスウルトラ、か。 ヒーローが時折見せる底力。ふぅん、興味深い」

 

「ハァ、ハァ……っ、傷一つ付けられませんかッ」

 

「うん? あぁ成る程、私の身体って素の状態でもそこそこ(・・・・)硬いので、茨の棘程度なら何もせずとも防げちゃうんですよ」

 

 雷の力は使っていない。使わなくても脱出できるから使用しなかっただけだ。

 純粋な力を前に自身の全身全霊が破られ、素の防御に挑んだ攻撃は相手にもされなかった。

 

「さて、それでは少し痛めつけますね……と思ったけどその消耗具合じゃどっちにしろ同じかな。時間も勿体無いですし、今日の所は止めておきます」

 

「くっ、お待ちなさい…!」

 

 美羅の言う通り、限界を超えた塩崎に立ち上がるだけの体力はもう無かった。必死に食い下がろうとするも、麻痺も抜けきっておらず腰から下に力が入らない。

 

 

「最後に一つ、これは一般人の視点から言わせてもらいますが――」

 

 市民は貴女達(ヒーロー)の主義主張なんか正直どうでも良いんですよ。

 彼らが求めるのは自分や家族を護ってくれる戦力だけ。そこを履き違えて理想のみを騙るヒーローを、人はヒーローとは呼ばない。

 

「っ…!」

 

「塩崎さん、貴女ならどうしますか。今まさに地に伏している状況で、市民を前に先程の高説を垂れるでしょうか」

 

 それだけ言い残し、鉄哲と骨抜がいるビルに美羅も足を踏み入れた。

 

 

 

 

 





 あれ…、どっちが敵チームだっけ?
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