祖龍のヒーローアカデミア   作:暦月

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第一話 入学試験(前編)

 

 事の始まりは中国の軽慶市で“発光する赤児”が生まれたというニュースだった。

 以来、世界各地で超常現象が報告され、世界総人口の約八割が超常能力『個性』を持つ超人社会へと至った。

 

 そうして次第に『個性』を悪用する輩――(ヴィラン)が現れ、それを取り締まるのに『個性』を発揮して治安維持に努める者達を、人はヒーローと呼ぶようになった。

 

 

 国立雄英高等学校ヒーロー科は、プロヒーローの資格取得を目的とする、”オールマイト”を始めとした名だたるヒーロー達を輩出してきた実績を持つ全国有数の養成校だ。

 その人気は凄まじく、“偉大なヒーローになる為には雄英卒業が絶対条件”と謳われる程ヒーローになるための登竜門として広く認知されている。

 数あるヒーロー科の中でも最難関とされる雄英の今年の偏差値は79。それでも毎年300倍を超えるほどの倍率を叩き出すのだから、そのブランド力に一切の偽りはないと断言できる。

 

 そうして迎えた雄英高校ヒーロー科の一般入試試験当日。組の者達が微妙な顔をする中、壊理と組長から快く送り出された美羅は現在、自宅にいる時のような日本文化を前面に押し出す装いに身を包んでいた。

 

 相手に舐められないようにと身だしなみに関して口酸っぱく言われ続けてきた彼女は、まさしく大一番である今日この日にも自分のスタイルを崩すことなく入試に臨んでいた。

 

 

「おいおいあの子、まさか着物で雄英に挑むつもりか?」

「凄い自信。というより余裕綽々といった感じかしら」

「それに思わず嫉妬しちゃうぐらいの美人さんじゃん。変に動揺してない所も堂々としてカッコいいわ~」

「アルビノっぽいけど日光は平気みたいだし、あの髪と肌も『個性』に関わる事なのか?」

 

 

 そんなものだから周囲から注目を浴び、しかし本人は大して気にもせず雄英の敷地へと足を踏み入れる。途中で後ろから『どけデク‼』や、『わっ え⁉』『おっおっ、おぉおお』とかいう意味不明な声も聞こえてきたが、構わずスルーして歩を進めた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!! エヴィバディセイヘイ!!』

 

 シーン……

 

 扇状に並べられた席の正面。大講堂へと案内された受験生たちは、そこにいるDJ風の男が張り上げた声に誰一人として追従することなくピリピリとした緊張感を持って説明を受けていた。

 

『こいつあシヴィ――!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ‼ アーユーレディ!?』

 

『YEAHH!!』

 

 ついには自分で合いの手を入れ場を盛り上げ始めた。というか何だあの変人は。まさかあの五月蠅いのがここの教員な訳ないよね。などと思っていたら、斜め前方にいるワカメみたいな髪をしたモジャモジャ頭の男子生徒から図らずも情報が入ってくる。

 

「ボイスヒーロー『プレゼンマイク』だッ、すごい…! ラジオ毎週聞いてるよ感激だなあ!」

 

 マジか、あれヒーローなのか。思っていたヒーロー像と色々なところでかけ離れてる。

 

 当然のことながら、『死穢八斎會』に属する者達はヒーロー嫌いが多い。その為この手の話題が家で持ち出されることはない。美羅も美羅でヒーローに興味が無いため、学校で周りが話をしていても今まで聞き耳すら立ててこなかった。故に、彼女がギリ知っているプロヒーローがオールマイトだけという致命的な情報ロスが発生していた。

 

『リスナーにはこの後、10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ! 試験の持ち込みは自由! 各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!』

 

 試験の要約をすると、私達はこれからA~Gの7グループに分かれて試験を行う。演習場には試験用に用意された1~3Pの“仮想敵”が配置されていて、受験生はそれを破壊もしくは行動不能にしてポイントを稼ぐといったシンプルなものだ。途中妨害目的の0Pの敵(お邪魔虫)が現れるギミックがあるが、それは無視しても構わないらしい。と、そこまで訊いたところで美羅が腕を組んで考える。

 

(この試験内容だと索敵系や攻撃手段を持たない他の『個性』が真価を発揮出来ない。となればまだ知らせていないルールがあるはず。ここがヒーローを目指す学校である以上そういう事(・・・・・)なんだろうけど――)

 

 視線を動かし周囲の反応を窺うが、誰も気付いた素振りを見せない。将来プロヒーローを目指す者にとって、その観察能力の無さはどうなのだろうと思わなくもない。

 

『俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! ーー“真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者だ”と!!』

 

(ま、私には関係ないか)

 

 最後にマイクが締めくくったところで皆が一斉に立ち上がる。元よりヒーローになるつもりなどない美羅はその考えを頭の隅に追いやると、数百人近い受験生が生む流れに沿って自らの紙が記す演習場を目指した。

 

 

『“Plus Ultra”――それでは皆、()い受難を』

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 Plus Ultra……更に向こうへという意味の言葉だ。

 あの場でプレゼント・マイクがこれを投げかけたのは、障害無くして成長などないと僕らに訴えるためだ。今のヒーロー飽和社会において、敵はヴィランだけとは限らない。

 

 ヒーローとは良くも悪くも人気商売だ。街の治安維持や敵脅威の撃破といった功績を立てても、得られる収入は雀の涙ほど。そこから知名度アップに繋がらなければ、僅かばかりの報酬を享受するだけの日々が続くだけ。

 ゲームのように(ヴィラン)を倒したからと言って、その彼らがお金を落とすわけじゃない。

 勿論人々からの募金によって賄われこともあるが、被害規模によっては大量の資金を吸われることの方が多く、真っ当なヒーロー活動だけでは食べていけないのが実情だった。

 

 ではトップヒーロー達がどうやって億の収入を稼いでいるかと言えば、その知名度の高さを利用してグッズ展開や企業から広告を貰って生活している。

 ヒーロー活動とは謂わば世間に自分を知ってもらうためのパフォーマンスであり、聞こえ悪く言ってしまうと売名行為に他ならない。世の中綺麗事だけでは生きていけず、それは正義の味方である筈のヒーローですら例外ではないのだ。

 

 

「はあッ…、はあ――ッ!」

 

 

 故に、将来を安寧なものにする為にもここは絶対に受からないといけない。雄英卒業という絶対的な箔が付けば、それが可能なのだ。世間からの注目度という意味で雄英高校は他の追随を許さず、更に雄英の中で名を上げることが出来ればトップヒーローの地位も夢ではない。

 そうなれば下らない副業やアルバイトなどもやらなくて良いし、引退後は悠々自適な隠居生活を送れる。Plus Ultraとはよく言ったものだ。雄英合格が僕を更に上へと押し上げてくれる。倍率300倍という厳しい障害を乗り越えたその時に、僕の真に輝かしい歴史が刻み始める。

 

 大丈夫、僕はやれる。その為に中学では常にトップの成績を収め続け、周囲が没個性で埋もれる中、僕だけが雄英への挑戦権を掴み取った。何も心配はいらない。壁は高いが、その壁を取り払った先に成長を感じ取ることが出来る。

 

 だからそう……これは何かの間違いなのだ。だってそうでなければ僕が…、この僕が――っ

 

 

「はあッ、はあっ……、くそ! 一体何だっていうんだよ…!?」

 

 

 突き当りを曲がり、一人の男子生徒が路地裏へと身を隠す。既に息は上がり、肩が激しく上下に運動する。

 

 こんな筈ではなかった。本当なら今は順調にポイントを伸ばし、合格圏を視野に入れている筈だったのだ。それがこんな隠れるように逃げ回るだなんて…!

 

 

「クソっ! もう一回行ってやる、次こそは――」

 

『標的補足! ブッ殺ス!』

 

「ひいぃ~~!」

 

 

 次こそブッ壊してやる。

 そう息巻く直前、今来たのとは反対の道から試験用ロボが現れ、それまで何とか体裁を保っていた強気な姿勢が一気に瓦解する。途端に恐怖に顔を蒼白させると、息を整える間もなくまた何処かへ走り出した。

 

 

「はあッ…、はあ――ッ 本当に何なんだよぉ!?」

 

『殺ス、殺ス』

 

 

 物騒な言葉を吐いているアレが、今回の標的である“仮想敵(ヴィラン)”の1Pロボ。1~3Pまでの敵は形態によって識別でき、またその性質も若干異なっている。例えば今追ってきているあの1Pの敵は、素早さこそ中々だが耐久性能が極めて低い。

『個性』が戦闘向きではない者でも頑張れば破壊できるほどで、ハッキリ言ってしまえば彼の敵ではない。

 

 ではどうして息を荒くしてまで逃げているのかという当然の問いは、空から降ってきた本当の脅威(・・・・・)により解消される。

 

 

「く、来るなァ――!」

 

『殺ス、殺――』

 

 

 ビリ―――ドンッッ!!!

 

 

「ぐッ…うわああぁ!!?」

 

 

 ソレ(・・)は仮にも受験者用に設計されたロボの外装を完膚なきまでに融解させ、鉄板に穴をあけて反対側まで貫通する。被害はそれだけに留まらず、衝突と同時に内包されていたエネルギーが拡散…コンクリートを伝って周囲に放電し、近くにいた受験者数人を巻き込んだ。その中には標的となったロボから逃げていた男子生徒も含まれていて、靴の絶縁性だけでは電気を逃がしきることが出来ず全身を麻痺させる。

 

 

「ガハッ――! ギ~~~ッ、い――っ、げほっ…!」

 

 

 後ろに倒れ背中を強く打ちつけると、肺の中の酸素が一瞬にして吐き出される。幸い彼含め人を殺しきる程のエネルギーは擁していなかったが、それが何の慰めになろうか。

攻撃を妨害しようにも、彼の個性ではソレに抗う事すらできない。否、仮に彼でなかったとして、誰がその脅威に立ち向かえるというのだ。

 

 何せソレは、この星が生んだ自然災害の一つとして毎年世界のどこかで甚大な被害をもたらす破壊の権化。

 大規模なものでは数千万~数億V以上にも及び、地上と天とを一瞬で繋ぐその様はまさに圧巻の一言。

 

 恐怖を具現化したような現象の正体は、空気の絶縁限界値を超えて放出される電子雪崩の極致。

 音速をも超える衝撃波と、数万度の熱量が込められたソレは容易く生物の命を刈り取り、古くには文明を滅ぼす神罰とまで称され畏れられた真の災害――(いかづち)に、果たして少し特殊な力を持っただけの人間がどう対抗し得るというのか。

 それに挑むのは余程の馬鹿か死にたがりに違いないと、誰もが思う。

 

 プレゼント・マイクは言った。良い受難をと。しかし絶対こういう事ではないと自信を持って言える。

 これを障害として認識できるのは、同じく理不尽の権化たるオールマイトくらいのものだ。決して自分なんかでは、それこそ挑むことさえ烏滸がましいと思う。

 

「はあ、はぁ――ッ」

 

 未だ放電のショックから抜け出せず、仮に身体を動かせたとしてどこへ避難すれば良いかも分からない。だけどこの場に留まるのは不味いと危機意識が働き、みっともなく何度も救援を呼ぼうと試みた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

――時間は十数分前まで遡り、試験会場にバスが到着したところから始まる。

 

 人っ子一人出歩いていない事を除けばごく普通のビル群が目の前に聳え立ち、試験開始を待つ受験生たちが思い思いにアップを始めていた。美羅は待機場から少し外れたところにあるベンチに腰掛け、静かにスタートの時を待った。

 そこへゆったりめの足音が近づき、視線を上げた先には黒髪ボブヘアーの少女が美羅を……正確にはその横の空いているスペースを見据え立っていた。

 

「……」

「……」

 

 お互い無言。美羅も自分から話しかけるタイプではないが、女子生徒はそれに輪をかけて口数が少ない。幾ら美羅でもこの状況で何も喋らず突っ立っているのは気まずいと思うし、同じ女としてこのまま放置というのも気が引ける。

故に、珍しく気を利かせ自分から話しかける。

 

「……取り敢えず座っては?」

 

「ん」

 

 まさかの「ん」だけで返事を済ませると、足音と同じくゆったりとした動作で美羅の横に座る。その後はまた無言の時間が続き、しかし当の本人たちは意外にもこの静寂を心地好いと感じていた。

互いに自分の時間を大事にする者同士。変に気を使われるよりも、こうして何気ない時間を送る方が心にゆとりを持てて良い。美羅も黒髪の女子生徒も、無口というだけで根が暗いわけではないのだ。

 

 そんな二人の姿を遠巻きに見る受験者も何人かいたが、傍から見て決して良いとは言えないその独特の空気感に混ざるほどの度量も、況してや他人に構っていられるほどの精神的余裕も無い。そのまま試験開始まで二人の時間が続くかと思われたが、とうとうそこに介入する者が現れた。

 

 

「こーら、そこの二人。せっかく一緒にいるんだから試験についての対策でもしてたら?」

 

「ん…?」

 

「ん」

 

 

 声を掛けてきたのはまたしても女子生徒だった。此方は橙色の髪をサイドテールに纏め、横の黒髪少女とは正反対に明朗な雰囲気が見て取れる。二人の様子を見て無理に入ってきた感じはなく、単純に試験の行方を心配し話しかけてきたようだ。放っておいてもライバルが不利になるだけだというのに、わざわざ忠告を入れてくる辺りお人好しというか何というか…。こういう人間がヒーローになるのだろうなあと、半ば他人事のように感じながら彼女を見ていた。

 

「プレゼント・マイク先生の言葉だと、これから始まるのは街中での戦闘を想定した試験という事になるわ。しかもこれは人数制限有りの個人戦。今まで『個性』使用を禁じられてきた私たちがより多くのポイントを獲得するには、自分に優位な状況を作り出し、尚且つ想定外の出来事も想定しておかないと」

 

 

「必要ないわ。この中の誰にも後れは取らないし、そもそもこんな試験で予想外の事が起こるとは考えづらいもの」

 

「…凄い自信。受かる気満々みたいね」

 

「さあね。合否を決めるのは雄英次第よ」

 

「何それ。面白いわね貴方!」

 

 

 不敵な笑みを湛えた後、美羅の言葉で快活に笑う。真面目な性格かと思ったが、案外ユーモアを大事にするタイプだった。

 

 

「挨拶が遅れたわ。私の名前は拳藤(けんどう)一佳(いつか)。私も試験に合格して雄英に通うつもりだから、もしかしたら一緒のクラスになれるかもね!」

 

「神藤美羅。そうね、その時はよろしく」

 

「……小大(こだい)(ゆい)

 

 

 オレンジテールの方は拳藤さん、黒髪ボブの少女は小大さんというらしい。

その後も雑談を交えながら、情報共有という形で(主に拳藤が)対策を立てていく。話を展開するのは拳藤さんが殆どで、それを私が質問に答えたり考えを巡らせる横で、小大さんが「ん」しかバリュエーションのない相槌を返す。

 中学では周りと距離を置いていたおかげで誰かと話す機会そのものが少なかったが、こうして組の連中以外の人と普通の学生みたいに会話するのも面白いと感じた。

 

 そうして周りが緊張感を昂らせ、三人が話に夢中になっていると唐突にスピーカーから声が流れる。

 

 

『ハイ、スタートー!』

 

 

「ん…?」

「あれ、今の声って」

 

 

 予告なしの開始の合図に、一瞬その場にいた全員の動きが止まる。

 

 

『どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられているぞ!』

 

「ヤッバ…! そういう事!」

 

 

 その言葉に反応した受験者たちが我先にと造設されたビル群の中を突っ切り、蜘蛛の子を散らすが如く皆思い思いの方向へと走り去っていく。

 

 

「成る程、実践にカウントは無い…か。ヒーローも中々良いことを云うわね」

 

 こんな所を組長に見られたらどやされるな、等と思いつつ、そのプレゼント・マイクの言葉に感心の意を示した。

 

「なに一人で納得してんの! 速く行かないとポイント取られちゃうって!」

 

「ん」

 

 

 拳藤さんと小大さんの二人が催促するが、私はその言葉に付き合わず彼女達とは別の方角に身体を向ける。

 

 

「私は敵が見えやすい位置に移動するから、二人とはここで。お互い合格目指して頑張りましょうね」

 

「あ…、いえそうね。これは雄英入学をかけた戦い。自分の力でやらなきゃ実力で掴んだと言えないじゃない」

 

「そういう事ね」

 

「ん」

 

 

 美羅の言葉に納得し、二人も別々の道から進むことを決める。その迷いの無い決断を見て、僅かばかりの笑みを浮かべた美羅が最後に一つ親切心を働かせる。

 

 

「それじゃあ私から最後に忠告だけ。身の危険を感じたら街の(・・)外周に逃げる(・・・・・・)ことをお勧めするわ。そこなら攻撃が届くことは絶対にないから」

 

「…? それはどういう意味?」

 

「すぐに分かるわ。それじゃ、健闘を祈ってる」

 

 

 美羅はそれだけ言い残し、背中から翼を生やす(・・・・・・・・・)と振り返ることなく街の中心へと飛び去って行った。

 一方残された二人はそれを呆然と眺め、しかし時間が無いことに気付いて敵を探しに別れた。

 

 

 それから数分後。街に降り注ぐ災害を()の当たりにし、美羅が言っていたことの真の意味を正しく理解する。

 

 

 




 ちなみに主人公の着物は翼が出る部分が露出している。峰田辺りが喜ぶ絶対。
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