祖龍のヒーローアカデミア   作:暦月

3 / 14
 前回のあらすじ∶入学試験受けたと思ったら雷降ってきた。


第二話 入学試験(中編)

 

 美羅たちが試験に臨んでいるのと同時刻――。天城邸のとある一室では、そこの家主である天城光圀と一人の若い男がテーブルを挟み対座していた。

 

「お前には謹慎を言い渡していた筈だ。組での立ち場を慮ってこんな緩い“ケジメ”しか出来なかったが、それすら破ろうってんなら俺の面子を軽んじるってことだよな」

 

 静かに、それでいて見る者を竦ませる覇気を身体から放出し、対面の男に浴びせる。齢を重ねたとはいえ、ヒーロー達が幅を利かせるこの飽和社会で組織を維持し続けてきた男の威圧だ。並のヒーローならそれだけで戦意を喪失し、喩えヴィランだろうと撤退に追い込むまでには気配が研ぎ澄まされている。

 

「本来なら壊理を利用しようって時点で海溝に沈めてやるところを、おめェの意思を汲んでこの程度に治めてんだ。良いからさっさと持ち場に戻れ。これ以上居座るってんなら破門にするぞ」

 

 しかし対面に座す男――治崎廻は、その威圧感(プレッシャー)に怯むどころか天城の威厳に満ちた様子を見て、ペストマスクの下そっと笑みを浮かべる。彼にとって親同然である天城がまだまだ現役であることを肌で感じ、嬉しさが込み上げたのだ。しかしその笑みを一瞬で消すと、再び顔を上げ本題を切り出す。

 

美羅(みら)の奴を雄英に入れたんだってな」

 

 短いその言葉に、だが即座に事情を把握して此方も表情を引き締める。

 

「その話か…。入学を勧めたってだけでまだ合格が決まった訳じゃねえ。今頃は実技試験の最中だろうな」

 

「いいやアイツは受かるさ。病人(ヒーロー)どもは正義や正当性がどうとか抜かしてるが、結局は力ある奴を望んでいる」

 

「どうだかな。真面目に受かる(・・・・・・・)つもり(・・・)なら苦労はしねえだろうさ。アレは何処まで言っても自分本意でしか動かねェ。……で、詰まる所何が言いてえんだてめェは。応援なら直接本人に言ってやれ」

 

 そんなある訳ない事を仮定に上げ、話の本筋を引き出す。このヒーローやそれを目指す者たちを“英雄症候群”と呼び激しく憎悪を滾らせる男が、素直に後押しする筈が無いと。

 

組長(オヤジ)が警戒するようなことは何もないさ。ただ、どういう意図が合って送り出したのかを聴いておきたかっただけだ」

 

 それでも治崎は冷静に、天城の眼を見て純粋にそれが知りたいということを訴える。

 

美羅(アイツ)は中立を気取っちゃいるが、その本質は酷く残忍で我儘。己が気に入らなければ何だ()んだと理由を付けて秤を傾けるか、力で敵を押さえつけては恐怖で逆らえないようにしてきたような奴だ。

協調性なんて皆無。綺麗事ばかり(のたま)う病人どもには、美羅の存在はさぞかし不気味に映るだろう」

 

 治崎が美羅のことを良く思っていないのは周知の事実だが、それとは別に彼女の能力の高さを評価してもいた。自分達を纏めて抑え込める人間はそう居らず、その中でも奴は別格だと言っている。だからこそ何故彼女を雄英などという病巣に送り込んだのか、その意図を掴み切れずにいた。

 

「……社会に出て、友達(ダチ)の一人でも出来れば、少しは変わる」

 

「何だって…?」

 

 しかしある程度の内容を予測していた治崎だったが、その天城の間欠的返答には言葉を詰まらせた。

 

 友達…? 奴が――美羅がか?

 

「初めは中学に通わせるのもどうかと思った。実際今の学校に入ってから問題行動こそ起こしてないが、それは単に周りに興味が無いだけで人と関わっていなかったからだ。何の変化も起きず、成長も見られないなら、このままカタギと同じ生活を続けてても効果は無いと思っていた」

 

 しかしそれは先日の一件で見事に覆った。

 

「だがな、そんなアイツも変わったのを遂に実感できたんだよ…! 今まで自分の過去や現在を憂慮することはあっても、未来のことを話に上げたことは今まで無かった。俺が雄英の話を出した時もヒーローになる事には難色を示したが、その“前提”となる部分は否定しなかった」

 

「それは…ただ変化を嫌っただけだ。アイツは一度習慣化したら、そこから外れることを酷く嫌う。恐らく学生生活が肌に馴染んできたから無意識に進学すると口走ったんだろう」

 

 それだけで成長した事にはならないと、多少ムキになって反論する。進学は良くても、ヒーロー科の…それも雄英に入学を希望したという事実まで肯定することは本能的に嫌悪感を催すからだ。

 

「勿論それもあるだろう。だがな、俺はそこに可能性を感じた。染まりやすいとは、言い換えれば適応しやすいという事。今のように心が未熟なままでは、いずれ真に大人になった時衝突は避けられん」

 

「だからこそ鬱陶しいヒーロー芸を学んでいるガキ共の中に放り込んで、友達作って心を入れ替えさせようってか。少し考えが甘いんじゃないか、組長(オヤジ)

 

 奇しくもそれは、美羅自身が鼻で嗤い揶揄したことだった。あの時は咄嗟に理由を付けて本音を隠したが、そこに多分の期待が含まれているのは紛れもない事実なのだ。

 

「甘くても()い。これが俺のやり方だ」

 

 治崎に何を言われても自らの考えを覆す気が無いのか、それ以降はただ閉口して彼が謹慎先に戻るのを待った。

 

「……そうか。もう話すことは無いと、そう言いたいんだな。なら最後に俺からも一つ言わせてもらうが――」

 

 席を立ち、部屋を出て襖を閉じる直前、彼は振り返った。

 

「俺は美羅の奴の入学に反対して此処に来たんじゃない。むしろ逆だ。アイツの存在はヒーロー社会全体を通して毒でしかない。ヒーローなどという幻想に夢をみる異常者どもを、その育成の最前線に当たる雄英で奴が圧倒的力の差を見せつければどうなるか。幾ら頭の足りねえ莫迦共でも気付くはずだ。自分等がやろうとしている事が自己満足でしかねえ下らないお遊びだったとな」

 

 理解は出来ないが、都合が良いので黙認する。

 

 壊理という劇薬が使えなくなった以上、今度はそれを止めた美羅自身に己の野望の一翼を託す。それは彼女の実力を間近で見てきた自分だからこそ言えること。

彼女の『個性』が雄英の奴らその他大勢の心を完膚なきまでに、絶望的に、二度とヒーローを目指すなどと言えない程に追い込んでくれると確信してるから言える事だった。

 

「俺はヒーローを否定する。“英雄症候群”を発症している奴ら全員を元の状態へと戻し、『八斎會(ウチ)』が再びこの国を裏から支配してみせる」

 

 そうして言いたいことを云い終えた治崎はそのまま部屋を出、大人しく謹慎場所に指定されている離れへと戻っていった。

 

「…ったく、どいつもこいつも。人の話を訊けってんだ。そもそも受かるかどうかも分からねえって言ってんのによ」

 

 一人になった天城はテーブルに置かれている玉露に手を伸ばし、それを一飲みで(あお)った。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ――そして現在。

 

 (くだん)の少女がいるのは雄英が誇る模擬市街地演習場、Cブロック会場。そこは今、一言で言うと地獄だった。

 

「う、わああ”ぁ”――ッ!?」

「だ、誰か助けてくれェ!!」

「誰か消火できる『個性』の奴は居ないか!?」

「もう嫌だッ、お家に帰りたいよぉ」

「ふざけんな! これ以上こんな所に居られるかってんだ!」

「最初から無理だったんだ…私なんかが雄英に入るなんて」

 

 ある者は心折られ、また或る者は我先にと攻撃(・・)の及ばない場所まで逃げていく。

 

 最早試験という形すら成り立っておらず、未だ市内にいるのは合格を諦めていない者か、物理的に避難の足止めを食らっている者達だけだ。

 どちらも数える程しか居らず、両者に共通しているのは試験突破が絶望的ということのみ。ポイントは一人の受験者の総取りであり、しかし被害に遭っている彼らがそれに気付くことは無い。

 何せこの地獄を形成している災害が、たった一人の『個性』により引き起されたなどと誰が信じようか。まだ学校側の妨害と言われた方が真実味もあるというもの。

 

「はあッ、はあ――ッ」

 

 そんな見るからに人気が少なくなった街の大通りを、一人の少女が駆け抜ける。

 

「誰か、救助が必要な人は居ませんかー! 逃げ遅れていたら返事をお願いー!」

 

 少女は必死に声を荒げ、自らの身を挺し負傷者確認を行っていた。自分の『個性』では街全体を見回ることは出来ないが、こうして人が集まるだろう幅の広い道を優先的に潰していく位はできる。そうして偶に返事が返ってくるとそこへ駆けつけ、さながら救助ヒーローのように受験者たちを助けていく。

 

「大丈夫? 怪我はない? 私はこれから他の所も見て回るけど、一人で此処を脱出できそう?」

 

 今もまた一人の受験生が転んで足を擦りむいており、手を貸して……いや手に乗せて(・・・・・)女子生徒を安全なところまで避難させていた。

 

「う、うん。もう平気。これでもヒーロー科志望だった(・・・)んだから、私一人に時間かけてられないよね。道さえ教えてくれればあとは自分で何とかするから」

 

「…そう、残念ね。道は分からないけど、とにかく街の外周を目指して走りなさい。そこなら被害も無くて安全だから。……あ! あと途中で人に遭ったら今の事伝えといて!」

 

「分かった、ありがとう。貴女もあの雷には気を付けてね!」

 

 助動詞が過去形に置き換わっていることに気付かない程酷く狼狽し、感謝を伝える表情からは安堵感しか湧いてこない。最早試験の合否云々を気に掛ける余裕すら無いようだった。

それに一抹の寂しさを覚えるも、事態は一刻を争う試験の渦中。今もまた雷豪が鳴り響き、何時また受験者が被害に遭うか分からないため少女を見送り救援者――拳藤一佳は市内へと引き返す。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一佳と唯の二人と別れた美羅は自身の肌と同じ色の翼を大きく羽ばたかせ、そのまま市内上空を位置取り辺りを俯瞰した。出遅れたのが仇となったか、一部の機動力に優れた受験生は既に交戦に入っていた。しかし大部分は者達はまだ接敵しておらず、それを確認した美羅が腕を組んだ姿勢から右腕を解いた。

 

「さ、忠告はしたのだし後は自由にやらせて貰おうかしら。殺すのは無しだけど巻き込むぐらいは赦されるわよね。仮にもヒーロー志望…無理して重傷を負うのも自己責任だもの」

 

 一応この試験のルールとして、他の受験生への妨害等はNGとなっている。しかし彼女の言い分では敵を破壊する上で(・・・・・・・・)起きた被害(・・・・・)については妨害に含まれないとなっており、その思考はヒーローというより最早(ヴィラン)のそれだった。

 適当に言い訳を並べつつ、右手に意識を集中させる。ほっそりとした腕から次第にバチバチと危険な音が鳴り、次の瞬間には大量の電気が可視化するまでに圧を高めていった。それから徐に右腕を掲げ、明らかに危険域にあるそれを何の躊躇も躊躇いも無く――振り下ろした。

 

 

 バチィ――ッ!!

 

 

 美羅の手から解き放たれたソレは、予め目星をつけていった標的へと迫り、その途中で電力が分散……否ッ、複数の仮想敵へと分かれて降り注いだ…!

 

『標的補足、ブッ殺――』

『排除、排除、標的ハイジョ…!』

『ピぎ…ギがッ……』

 

 装甲が融解したか、はたまた回路を焼かれたロボット達が上げる断末魔には見向きもしない。

 既に次弾を左に溜めた美羅が今度は無造作に横払いし、奥で待機していた仮想敵の集団を一掃した。これらは試験開始と同時に起動せず、あくまで後半の補充用に取っておいたものだったが、それを目敏く狙っていた美羅に纏めて再起不能にさせられたのだ。当然周囲に人は居らず、また起動していないと言っても試験場に放置されているため当然これもポイントの対象となる。

 

「これで40Pくらいは稼げたかしら。案外つまらない試験ね、拍子抜けしちゃった」

 

 それでも手を休めることは無く、また上空という視界を妨げるものが何もないため目につき次第サーチ&デストロイを続けた結果、いよいよ他の受験生たちが異常に気付き始める。

 

「どうなってんだ! 全然目標(ヴィラン)が居やがらねえじゃねえか!?」

「上空から雷が落ちてきてるんだッ、このままロボの近くにいたら危ない!」

「くそオ! 誰かこっちに来てくれ! ロボの近くにいた誰かが感電した!」

「試験への妨害は無しじゃなかったのかよ!?」

 

 地上ではこの時点で脱落者が続出していた。まだ事態の現状を彼らが正しく把握できておらず、周囲の混乱と成果を上げられない焦りとで判断に行き詰っていた。

 

「あら? あれは――ふふっ、この試験の仕組みに気付いた…という訳でもなさそうだけど、しっかり自分が何をすべきかを考えて行動できる辺りは流石ね。私が見込んだ通りの人だわ」

 

 そんな喧騒を極めた試験場を尻目に、次なる得物を探していた美羅の視界に見覚えのあるオレンジ色の人影(一佳)が映り込んだ。彼女は周囲が恐慌状態にある中で檄を飛ばし、周囲に何かを伝えようとしている。

 恐らく先程の忠告を触れて回っているのだろうが、美羅が起こした惨状が邪魔して流石の彼女でも場を収めることが出来ない。

 

「しょうがない。少し手を抜いてあげますか。これで彼女の言葉を聞き入れず残ろうとする莫迦は本当にどうなっても知らないけど」

 

 これで美羅の攻撃を掻い潜りポイントを稼ぐとかなら賞賛に値するが、今見た感じだとそのような器量を持つ者はゼロだ。天下の雄英もこんなものかと少しだけ残念に思う。

そんな思考を後回しにし、微妙に手が空いたので下の様子を伺った。

 

「へえ…人が街の外周に避難していく。この短時間で周囲を説得……救援活動も同時に行い、更にはその彼らを巻き込んで安全圏のことまで広めるとは。中々の手際ですね。災害時におけるインフルエンサーとしては悪くない」

 

 ヒーローを目指すならば当然街で破壊活動が生じた際の対処が求められる。

 その時々によって現場での要求は異なるが、やはり最も優先されるべきは市民の安全である。

 今回のように突発的な災害(本人曰く)が起こった時、または起きている最中でのヒーローの立ち回りは重要だ。非常事態に慣れていない一般人への対応が遅れれば遅れるほど状況は悪化し、しかも誤って情報を広めようものならその被害は加速度的に増していく。

 

 今は美羅から事前に情報を得ていたため迅速な判断を下せたが、それだって一佳が美羅の仕業と結び付けなければこれ程速く動けなかっただろう。最悪判断を誤れば彼女自身が運ばれる側になっていたに違いない。

 報道では(ヴィラン)への対応ばかり取り沙汰されているが、プロのヒーローは現場に来た時点で現状の把握、自身の役割を決定し、それから市民への指示と避難を効率よく短時間で行っている。

 

 要するに一佳はプロヒーローに求められる情報の取捨選択やそこからの感染力――良い意味での影響力を高い水準で満たしており、ヒーローの卵として素質だけなら他より一歩も二歩も抜きん出ている。

 

 まあ、これだけ(かた)っといてあれだが、大本の元凶……今回であれば私を何とかしない限りどれだけ言い繕ったところで言い訳にしかならないが。

 一年前のヘドロ事件なんかはヒーローが大勢いたにも関わらず、ヴィランに対処しなかったせいで世間から大バッシングを受けた。

 やはり最適な情報判断を下したところで一般人を危険に晒したままにしておくのは印象が良くない。命張って守らなきゃヒーローなんて要らないと思う。

 

「かと言って私相手に命懸けてもそれはそれで無駄死なんですけどねえ。そう思うとやっぱり危機的状況での判断力って大事です。生き死にに直結しますから。

っと、あそこにいるのは……小大さんか。あの人は口下手だから救援を行うにしても誰か傍にいた方が――って、何この音」

 

 新たに出張ってくる仮想敵(ヴィラン)の数も目に見えて減少し、微妙に退屈して独り言が多くなってきた時だった。突如地鳴りのような音が演習場に響き渡り、砂塵と共に音の正体が露わになる。

 

「あれは……」

 

 現れたのはビルをも超える超巨大ロボットだった。圧倒的重量を誇るそれは、一歩踏み出すたびに衝撃と振動を轟かせ、嫌が応にもその存在を主張する。

 

 空中にいる美羅は地鳴りの影響こそ受けないが、それでもその脅威を正しく認識していた。

 幸か不幸か、美羅が起こした災害により人が掃けて建物の損傷以外の被害は無い。遠くから『うわああぁ!』などと情けない悲鳴が聞こえるが、美羅から逃げた敗残者を追い詰めることだけは無いだろうと予測する。

 

 そしてそのロボより前に受験者たちを絶望の淵へと叩き落し、このCブロックどころか全会場含めぶっちぎりのトップを走る美羅。

 再び腕を組んだ姿勢からその様子を眺める。喩え『指定敵団体』の一員だろうと、ヒーロー科を目指す彼女は正面見据え――

 

 

「ああ、あれが例の0P敵(お邪魔虫)ってやつね。ポイントが入らないなら無視で善いでしょう」

 

 

――巨大な敵を前に、スルーを決めた。

 

 

 




 なお

人的被害 : 並のヴィランより暴れている
建造物損害度 : Mt.レディ > 主人公

 一つ朗報だ被害者諸君! そいつ(加害者)の家お金持ちだぞ! 慰謝料搾り取れ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。