ヤバいッ、めっちゃ怖い!
細道から出てきた2Pヴィランの横を掻い潜り、脚に力を入れて疾駆した直後だった。
最早聞きなれた落雷の音が後ろの方で轟き、それにより何が起きたか瞬時に察すると振り返ることもせず前へ前へと推進する。
流石に無いと思うが、足を止めた瞬間にあの雷光が自分に降ってくるような気がして息を整える暇すら惜しい。
もし自分に襲い掛かって来たら、喩え傷が無くてもあれこれ理由を付けて慰謝料を
というか攻撃されなくても十分ふんだくれるのではないかこれ。実害受けた子も大勢いることだし、皆で今回の元凶であろうあの白い悪魔を訴えようかという考えが本気で頭を
でも仮に押し掛けたところであの余裕顔が歪む姿を想像できないのは、それだけ会った時の印象が強すぎて彼女のイメージに反するからだと予想する。
(というか当たり前に神藤さんが犯人だって決めつけてるけど、状況からしてそれ以外ありえないし大丈夫よね)
神藤美羅。あの子が私を認識したのは恐らく此方から話しかけた時。でも私が……いやあの大講堂に割り振られた殆どの人が既に彼女に注目していただろう。彼女が会場入りし、自分の席を目指して着席する。その何でもない動きから他者を圧倒し、人の眼を引き付ける存在感を発揮していた。
いっそ美しい以外の言葉が思い浮かばなかった。
他のオドオドとして緊張を漂わせる受験生とは明らかに違う空気感。その歩き方も凛とした確固たる信念を漂わせ、流れるような
しかし彼女の眼からこぼれる感情の気配はどこまでも冷たく、底冷えするものだった。まるで私達のことを路傍の石くらいにしか思っていないような無機質かつ、それでいて愉悦の色を孕んだ紅玉の瞳。他の素材が白い分余計に目立つが、何より恐ろしいのはそれを巧妙に隠している事だろう。
一度見た程度では彼女の異常性に気付くことは無く、美羅との会話の中でようやく違和感を感じるといったほど表に出すことがない。
その違和感の正体も、こうして危険に晒されなければ辿り着くことすらなかった。それを思えばどれだけ上手く隠していたのかとある意味で賞賛を送りたい。その畏敬の念すら今の惨状でチャラになったが。
「とにかく、今からこれを止めるのは多分無理。あの子は今も上空にいるだろうし、例え見つけても声が届くかどうか。それよりも倒れてる人を見つけて避難させないと!」
正義感あふれる彼女は自分の合格よりも人命救助を優先し、早い内から被害に遭って動けない人を見つけては安全圏への避難を求めていた。中にはそれでも試験を続けたいと訴える者もいた。
雄英合格を目標にずっと頑張ってきた一佳にはそれが痛いほど理解できたし、平時ならそれを叶えてあげるのも吝かではないが、状況が状況なだけに気絶させてでも市内からの脱出を強行した。
後で恨まれるかもしれないが、人間命あってなんぼだ。まだプロヒーローでもない彼らを戦場に置き去りにするのはどうしても躊躇われるのだ。
「って何様なんだ私も。自分だってまだ仮免すら取得していないってのに」
標的が減ったのか、はたまた手を休めているかは分からないが、先程よりかは攻撃の間隔が空いてきている。それにより精神的にも幾許か安心が生まれ、思わず苦笑を湛える程度には余裕が出てきた。
『あと6分2秒~』
「ッ――、まだあと6分もあるの⁉ 早く終わって!」
しかし自身の体内時計との差異に一瞬だけ気が動転し、思わず悪態を吐く。そんな自分を何とか律しようと頭を振り、改めて気持ちを引き締め直す。
「よし――ッ! ってあれ? 小大さんじゃん、丁度よかった!」
とそこで、自分と同じく試験開始前に美羅と一緒だった小大唯を発見する。彼女もまた人命救助に時間を当てていたのか、その足元には全身を麻痺させた受験生が何人か転がっている。
「あっちゃー、見事にやられてるね。さっきこの辺に雷落ちてたけど、その時に巻き添え食らったか」
「ん」
相も変わらず「ん」だけで会話を済ませるが、そのマイペースさに温かみを感じ再び余裕が戻ってきた。緊迫した状況下でも、人は日常的な部分に触れるだけで安心感を生むのだと何処かで聞いた気がする。
「取り敢えず街の外まで避難させようか。このまま此処に置いておくのはマズイ」
「ん」
そう言うや一佳の両手が巨大化し、人を掴めるほどの大きさへと至る。その手で全員を手の中に収めると、道を頼りに走り出した。
「そういえばまだ私の個性を言ってなかったね。私の個性は『
戦闘時にはこれで敵を殴ったり捕まえたりも出来る。話の途中で今度は正面から敵が現れ、二人の行く手を阻む。
直ぐ様戦闘態勢に入ろうとするが、今は生憎手が塞がってること。更には美羅の雷が落ちてくることを考えると敵との接近は避けた方が良い。
踵を返すついでに声を掛けようとしたタイミングで、彼女が振りかぶり何かを投げているのが目に入った。
「一体何を――『ドッガッシャアアン‼』――は?」
放たれたものを目で追い、疑問が声に出た瞬間だった。
「私の個性は……『サイズ』」
控えめに呟かれたその言葉で凡そ何が起こったのか理解した。今当たったものを見てみると、倒壊した建物の一部と思われる瓦礫がヴィランの頭部に命中していた。恐らく救助の途中で出た破片を個性で小さくし、投げて元の大きさに戻ったそれをぶつけて倒したのだ。
「成る程っ、遠距離からなら巻き込まれる可能性は低い。じゃあ小大さん、向かってくる敵が居たらそれで対処お願い!」
「…良いの?」
恐らく自分だけポイントを重ねることに対しての問いだろうが、その答えは既に決まっている。
「仕方ない……うん、仕方ないんだよ。どっちにしろ私の『個性』じゃこれがやっとなんだからさ。それよりも合格に縋って助かる人を助けない方が私は嫌だ」
未練を断ち切るようにゆっくりと、しかし覚悟に満ちた声音で返事を返す。雄英に通う事だけがヒーローの道じゃない。勿論合格するか否かでその後の可能性に差が出るのは仕方ないが、人を救うヒーローとしてここで選択を誤る事だけはしたくなかった。
「だから…頼むね、
「ん……分かった、
それが唯にも伝わり、後を託された者として彼女なりの精一杯の敬意を払う。
その後無事安全圏まで送り届けた二人は、未だ脱出できていない人を探すべく再び市内へと入っていった。そしてその直後、美羅も感じた衝撃と破壊音が二人に届く。
「ちょっとあれ…! あれがプレゼント・マイク先生の言っていたギミック…!?」
「大きい…」
その存在は一瞬だけ二人の頭から美羅の脅威を忘れさせることに成功する。しかしほんの一瞬だけ。美羅とは違う意味で目が離せない存在が向かう先、それを認めた瞬間両者ともに息をのんだ。
『『 美羅!! 』』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人の声が聴こえた気がして下に眼を向けると、案の定先程見掛けた拳藤さんと小大さんが焦ったように声を発していた。
しかし悲しいかな、距離が開きすぎているため彼女達が何を言っているのか分からない。
というかあの二人いつの間に合流したんだろう。それに拳藤さんはともかく小大さんが声を荒げるのは珍しい……のではなかろうか。
「ま、とは言っても
視線を少し上げれば、先程の大型ヴィランが此方に向かってくるではないか。市内にいる人間を追っ払ったため、その中心部で我がもの顔で居座る美羅を標的に定めるのは至極当然の話。
もしくは受験生の脅威である自分を戦闘不能に追い込み、通常の試験形態に戻すようプログラムされているのかもしれない。
「どちらにせよ面倒ですね。あまり利にならない事はしたくないんですけど」
それでも人が限られている以上、自分が何とかするしかないだろう。このまま放置して終了まで追われる方が面倒くさい。
「所詮ロボットなんて回路を断てばそれで終わりなんですから、どうにでもなるんですけどね」
通常、電気がショートするのは電気回路の+極と-極を直接つなぎ、一度に大量の電気が流れることで起こる。とは言え日常でよく使う電化製品には電気抵抗というものが設けられており、意図しない形で回路から外れない限りは先ず起こらない。
本当はそっちで焼き切っても良いのだが、色々と操作が難しい上に電路を把握する必要もあるため手間が掛かる。普通に電気抵抗の上から捻じ伏せるので良いだろう。
「……あら?」
そう思って大量の電気を浴びせるが、堪えた様子は無くどころか普通に向かってきている。追加で雷を放っても結果は変わらなかった。
「……ああ、もしかして『個性』で細工してあります?」
雄英にそういう『個性』持ちがいるかは知らないが、教師の殆どがヒーローとして活動しているのは有名な話だ。もしかしたら予め対策が為されていたのかもしれない。
実際は美羅が起こした惨状を受け、ロボの制作者であるパワーローダーが急遽改造したが故の措置だった。
絶縁性の高い部品をふんだんに使い、飛行機にも搭載されている放電装置まで用いたそれは、最早通常の電圧ではビクともしないまでに雷耐性を高めていた。
これを沈めるには先ほど語ったような方法を取るか、専用の雷雲を発生させるしかない。……専用の雷雲ってなんだ。
「う~ん。そうなるとやり方は限られてきますよねえ」
しかしそうとは知らない美羅はこの方法での攻略を諦め、どうやって撃退するかを案外真剣に考える。
「
その間にも両者の距離は縮まってきており、腕を伸ばせば届きそうな所まで迫っていた。
「――いえ違う。何のために雄英を受験しに来たのか思い出すべきね。こういう時こそ
一瞬不敵な笑みを浮かべ、しかし直ぐに無表情へと戻る。為すべきことは決まったとばかりに敵へ向き直る。
既に0Pヴィランは此方を叩き落す構えになっており、何秒後かには振り下ろす態勢に入ることだろう。
美羅は空中で静止したまま、一歩も引く気はないとばかりにそれを無感動に眺めていた。……いや、よく見れば瞳の奥からは好戦的な色が隠し切れてない。
「おめでとう。貴方はただのガラクタから私の『個性』のためのサンドバックに昇格した。光栄に思いなさい。私が雄英で刻む最初の一ページに、貴方が選ばれたという事を」
あくまで自然体を保ち、ビルをも超える巨体を正面から見据える。
すでに準備は完了している。あとは練りに練った一撃をこの木偶の坊に叩き込むだけだ。
右手に纏ったそれを、まるで空中に線を引くかの如く凪いで放出した。
「紅き雷光を、その身に刻め」
そして次の瞬間には分厚い装甲ごと両断された大型ヴィランの残骸が出来上がった。
〇個性『祖龍』
・雷攻撃に加えて飛行能力もある! 強いぞ!
・身体の中に発電器官を有しているため、滅多に電力切れを起こさない。ただし一度に放出できる量には限りがあり、それ以上溜めると自分を傷付けてしまう!
・普段使っているのはよく見る黄色の電気だが、彼女本来の力は深紅に染まっている。使用時には胸部が紅く発光するぞ!
・全身に電気を纏わせ放出できるが、指向性を持たすなら手から放った方が楽で簡単。口から放つのは見栄えが良くないので自重している。
美羅’s髪 → 白銀に近い白髪。本来の姿に近付くと王冠のように頭を飾る4本の角が生えてくる。
美羅’s目 → 瞳が紅い。視力は3.0 本気を出せば更に遠くのものを見ることが出来る。
美羅’s耳 → 先が少し尖っている。本気を出せば(ry
美羅’s顔 → クール寄りの綺麗系。少し幼さが残るが誰が見ても美人さん。
美羅’s肌 → 真っ白。『個性』の関係上そうなっているが、別に日光に弱いとかではない。
美羅’s胸 → 小さくはないが大きくもない。大体C~Dぐらい。
美羅’s翼 → 角や尾と同じで、望めば生えてくる。服は腰の部分に穴をあけている。