前回のあらすじ:入学早々やかまし…不穏な空気が漂う。
あの騒動の後、何やかんやあってブラドキング先生が挨拶botから抜け出し、入学式が近付いているのを告げると(一部を除き)皆大慌てで準備し始めた。
何せ天下の雄英だ。財界政界の重鎮は勿論の事、ヒーロー協会の上層部が出席するのも容易に想像がつく。
ここで醜態を晒そうものなら、適正無しと判断され将来をふいにする可能性だってある。
雄英は確かに世界でも有数のブランド力を誇るヒーロー育成校であるが、その分だけ人々の関心を引き、注目が絶えないホットスポットでもある。
それは逆に言えばマイナス面も露呈しやすいという事。美羅に突っ掛かっていたギザ歯の少年も、周囲の説得に応じ渋々といった様子で怒りの矛先を収めた程だ。
既に切り替えの早い者は自分の一挙一動に細心の注意の払い、ガラスケースに並べられた商品が如く静謐に自分を売り込んでいる。
最早新入生だからは通用せず、ヒーロー社会の縮図がそのまま講堂内で展開されていた。
『で、あるからして~~』
「くー、スー…Zzz」
(――気のせいだろうか。凄く小気味の良い寝息が後ろから聞こえてくるのは)
(What!? この方、このambienceで気持ちよくsleepingなさってマス!?)
まあそんな
着席するや否や、周囲に怪しまれない程度に姿勢を崩すと、壇上で来賓が述べる祝辞を睡眠BGMにしながら浅い夢の世界へと飛び立った。
美羅の入学を決めた理由がオールマイトと個性の制御にある以上、その目的に合致しない入学式など全校集会の校長先生の話と同じくらい無意味で退屈なものだった。
先程新任教師の着任式でオールマイトが場を賑わせたので、それが終われば本格的にすることが無くこうして惰眠を貪るに至ったのだ。……いや話聴けよ。
『続いて、新入生代表挨拶。神藤美羅さん、前へ』
「はい」
(( 起きるの早っ!! ))
そして何を隠そう、その唯一例外たる彼女こそが今年の首席合格者なのである。
正直スピーチの話が上がった時点で他の者に任せた方が…という意見が大半を占めたが、ヒーロー協会からお達しが来たこともあって従来通り美羅が新入生代表の挨拶を賜ることになった。
ざわざわ……ザワ…
(う~ん、何だか騒しいですね。どうしたんでしょう。来賓からの視線も値踏みされているようで凄く不快ですし、バックレれば良かったかも)
委員会側としては入学式の惨状を引き起こした美羅が果たしてどういった存在なのか、場合によっては
そんな裏事情など露知らず、講堂に集まった数百人の注目を一身に背負い壇上へと上がる。
「あれが試験を滅茶苦茶にしたっていう雷の『個性』持ちか」
「クソっ、アイツのせいで俺はこんな所にッ…」
「やっべ、聞いてたよりずっと可愛いじゃん」
(ん? もしかして試験落ちて普通科に入った人がいるんですかね。それも結構な人数。…何故?)
偶然拾った声を頼りに周囲を見回すと、先程の視線が畏れや嫉妬といった負の感情を孕んでいることに気が付く。
(ヒーロー科が駄目で、でも雄英というブランドを諦めきれずせめて普通科で、とかそんな所ですか)
阿保らしい。雄英入学などヒーローになるための手段の一つでしかないだろう。重要なのは何処で卒業したかではなく、限りある高校生活で何を為すかだ。
確かに雄英であれば己の価値を高め、発信しやすいだろうが、プロになれば皆同じ目線で見られる。初期位置こそ差は有れど、きちんと研鑽を積み実力を示せば覆せる程度のものでしかない。
それを学力が高いだけで訓練とは無縁の普通科に進学を決めるなど、美羅にすれば未練に振り回されて可能性を潰す愚か者でしかなかった。
(スッパリ諦めて違う学校のヒーロー科に入学した方がずっと有意義だというのに、どうして正しい選択をせず盲目的になるのか理解に苦しみます)
尚、雄英には成績次第でヒーロー科への編入を可能とするシステムがあり、美羅に敵意を向けていた者達も考え無しに入学を決めた訳ではない。
それどころか他のヒーロー科に進学した者達にはない「決意」が彼ら彼女達にはある。
それ以外は美羅の想像通り、憧れを延々と引き摺っている者達で占められるが。
「あたたかな春のおとずれと共に、私たちは入学式を迎えることができました」
(それにしても早く終わらないかなぁ。雄英が誇る設備とやらを早速確認したいのに)
器用に頭で考えていることと話す内容を別離し挨拶する。先の喧騒も止み、この場に居合わせた全ての者が美羅の動向を探るべく水を打ったかの様に静まり返る。
「本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げ――」
ドウゥゥーーン
「ん…?」
「何だ? どうして止まった」
だからだろう。本来なら決して届くことの無い「爆破」の余韻が、微かに美羅の鼓膜を刺激したのだ。
「――失礼しました。新入生を代表してお礼申し上げます」
(今の爆発音、方向は……確かグラウンドだったっけ)
距離が離れ過ぎて美羅以外は全く音に気付かなかったが、確かに生じた爆発音に彼女の関心が流れる。
(そう言えば、私のクラスが1-BならA組は何処に……もしかして、今の爆発が?)
消えた彼等がグラウンドに集まって何を行っているかの検討が付くと、周囲に悟られないよう内心で臍《ほぞ》を噛んだ。
(しまったなぁ…あっちが
まさか入学式当日からそんな面白そうなことをやる担任がいたとは。
人相のわりに伝統やら格式を尊びそうなうちの担任との対比を思い、気持ちが沈んでいくのを感じる。
(今からでも学校にクラス移動を打診できないかしら。私の入学が許可された位だもの、この程度の我儘なら通ってもおかしくない…はず)
対価として裏で出回っている情報を提供すればどうにでもなるだろう。
美羅が知るモノだけで国際指名手配中の
中には犯行の補足すらされていない凶悪な個性持ちの存在なんかも交渉のネタとして用意してあり、これ等一つだけでもクラス替えの対価としては十分過ぎる程だ。
(それにしても…あーあ、仰っけから幸先悪いですね。これが組長の言ってた天罰ですか)
あの日――雄英の合格通知を受け取った後で天城から言われたことを思い出し、ついでに皆の前で癇癪を起こした自分にも嫌気が差してきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあお
「ええそうよ。学校側としては私に首輪をつけた上で情報を吐かせたいわけでしょう? その時に退学を仄めかして制御できると思われるのは心外…というより論外。
でも私が求める水準で『個性』なんか使ったら、それこそ一発レッドカードを貰うのなんて目に見えてる。それが分かっていながら入学を目指したところで徒労に終わるし厭。それに折角なら雄英に入学して最新機器も試してみたいじゃない」
だから敢えて此方から妥協点を設けたの。双方がギリギリ納得できる、
「イエローラインだと?」
「ええ、そう」
先程の醜態を感じさせない、年齢不相応な蠱惑的な笑みを湛え、自身の目論見が上手くいったことに酔いしれた。
「簡単よ。私が齎した被害に雄英が目を瞑れば
そして私が
因みに、そのラインというのが
これで入学が認められなければ素直に諦めて、別の方法で個性を制御しようと思っていた。
「成る程な。しかしお前の想定より超えた設定したのはどういう意図が有ってだ」
「ああ、それなら互いの認識の擦り合わせをしたいなと思って。今回のケース、もし私が逆の立場だったら入学を認めてなかったのだけれけど、実際にそうはならなかったでしょ? つまり学校側は私が思うより私を高く買っていて、ちょっとの加減間違いが起きても或る程度は大丈夫というのが分かったわ」
入学後に被害を受けた家庭に直接謝りに行くぐらいは求められると思ったけど、どうやらそれも無いようですしね、と未だ光を宿さない眼を携えたまま朗らかに嗤った。
「ふふ、協会は今頃頭を抱えているでしょうね。今回の件で私が雄英もといヒーローに入れ込んでないのは伝わったでしょうし、監視という名目で雄英に色々融通を効かせてくれたら有難いのだけれど」
「…はぁ」
美羅への事情説明…もとい言い訳を聞き終えると、頭を抱えて呆れたように首を振る。
「相変わらずというか何と言うか。それだけの力を有し、要らん被害まで出した割には目的がみみっちいな」
「こんな『
別にヒーローを集めようが、返り討ちにすること自体は容易い。
だが犯罪者の烙印を押されること、それ即ちファッションやグルメといった文化的な生活を手放すのと同義である。
私なら喩えヴィランに堕ちても自由気ままを貫き通せるだろうが、それとこれとは話が別だ。敵側に加担した場合、得られるメリットなんて高が知れてる。
何にも抑圧されずに個性を使いたい?
何だその子供染みた欲求は。少なくとも私はそんな破壊衝動を抱えたことなど一度も無い。
大体、私の個性は〝全ての個性が行き着く先〟にある。今更自分の力を確かめたいだとか、世間に認知してもらいたい等といった自己顕示欲も希薄だ。
そんなことの為に今の立場を捨てるのは莫迦のする事だと私は思ってる。
雄英で個性を学ぶのも、幸せに暮らす近道であるからに他ならない。世の中にはその優先順位を履き違えている者が少なからず居るが、まあ私には関係ない。
「とにかくこれで準備は整った。自由な学校生活を送りたい私と、そんな私を
「クラス移動を希望したいだと? 駄目だ、認めんッ!!」
「……」
それなのに、まさか初日から躓くことになろうとは。
「あの、我儘言ってるのは重々承知してますけどもう少し悩んでも良いのでは? 近く活動を開始した“ヒーロー殺し”ステイン。彼の居場所と能力、その他ヴィランの情報の対価としては破格も良い所だと思うのですが」
「そうだな、我々ヒーローにとってそれは喉から手が出るほど欲しい情報だ」
「そうでしょう。では――」
「だが、クラス移動は断固として認めん! 既に俺の生徒となった以上、誰一人欠けることなくこのクラスで卒業式を迎えてもらう」
「……」
時間は入学式が終わって既に夕暮れ時。一佳提案の下、殆どのクラスメイトが校内見学という名の関係形成に勤しむ中、その輪から外れ、更には別のクラスへ編入しようとしている不届き者がいた。
そんな空気が読めていないどころか初日から雰囲気をぶち壊しかねない所業を行っている美羅はと言うと、呆れと困惑が混在する眼で担任の男を見上げていた。
「はあ、ではこの取引は無かったという事で」
「よって! 要求は呑めんが神藤の持つ情報の開示を求めよう」
「はぁ? そんな話、呑める筈ないでしょう」
「何故だ。先に挙げた情報は治安を維持する上で大きな助けとなる。それを提供するのはヒーローとして当然の行いだろう」
ピキッ、と何かが切れたような音がする。が、努めて冷静に、何事もなかったかの如く笑顔で対応する。
「……ふぅ。あのですね、私はヒーローとかどうでも良いんです。この学校には個性を制御するために来たんですから」
初日から入学目的を明かしてしまうのは予定外だが、そうでもしないと話が進まないと思い仕方なく自らの言い分を述べる。
「だからヒーローがどうとか言われても正直不快でしかありませんし、当然先生が説く持論も私には関係無い話です。先生もそれは分かっているんでしょう? 何せ私の家ってヴィラン一歩手前の危ない組織ですからね」
挑発的な笑みを浮かべてブラドキングの顔に焦点を合わせると、無言のまま此方を見下ろす彼と目が合った。
そのまま互いに言葉を発しないまま十数秒経ち、漸く動いたかと思えば難しい表情をしたブラドキングが溜め息を一つ吐く。
「…確かに、最初は俺もそう思ってた。だが神藤の担任を受け持ったからには何時までも生徒を色眼鏡で見る訳にも行かないのでな。今は指定敵団体の神藤美羅ではなく、他と同じく俺の可愛い生徒として接しているつもりだ」
「――!」
「それでも俺では駄目か」
どこか赦しを得るような視線に、僅かに気勢を削がれる。
「…もういいです。校長先生に直訴してきます」
何となく、そう何となく居心地が悪くなり、当初の目的を取って付けてまるで逃げるようにしてその場を離れて行った。
「うん、クラス変更は認められないね」
「……理由を伺っても? 正直に申し上げて、この条件で断られるとは思ってもみませんでしたから理由を教えて欲しいです」
結局その足で直談判しに校長室へと向かったが、結果は御覧の通り。最初に話を切り出した時点で既に取り付く島もなかった。
「入学前なら未だしも、既に来賓にお披露目した後だからね。それも入試一位に出て行かれたとなっちゃ、何もしてないブラドキング先生の評判を落とす事にも繋がっちゃうのさ」
「それは…」
目の前の生物――まさか雄英の校長が人間ですらなかったとは――の主張に、さしもの美羅も言葉に詰まる。
「それでもブラドキング先生から承諾を得たんだったら今の話も吝かではないんだけどね。何せうちは自由な校風が売りなのさ。
そしてそれは〝先生側も〟また然り。そういう条件で現役ヒーロー達に教職をお願いしてるからね」
「そう、ですか。分かりました」
これ以上は粘っても好転しないだろう。残念だが此処は諦めて、来年クラス替えがあればその時に改めて話を付けておくとする。
「おや、随分素直だね。私の予想ではもう少し食い下がってくると思ったのさ。何か心境の変化でもあったのかい?」
「……別に。何も」
要件が済んだ以上、長居は無用だ。
特にこの校長のような学習するタイプの個性持ちと相対する場合、余計な情報を与えないよう発言の細部にまで気を使うため気疲れするのだ。故に今回のように用事でもない限り、さっさと切り上げるかそもそも話さないようにしている。
「そうかい。それなら私から一つだけ言わせてもらおうかな」
「?」
踵を返そうとした美羅を引き留め、居住まいを正した。やけに堂に入ったその姿を見て、無意識のうちに足を止める。
「入学おめでとう。入試の件で君のことを良く思ってない先生も中にはいるだろうが、少なくとも私は君にお祝いメッセージを言うのを楽しみにしてたよ。これからヒーロー目指して頑張っていこうじゃないか!」
「……」
「あぁ、そう言えばもう一人いたね。君の入学を我々よりも前から待っていた生徒が」
「…?」
「その子はね、入試直後にも関わらず我々に嘆願してきたのさ」
――お願いします。神藤美羅が起こした今回の件、どうか大目に見てもらえないでしょうか。
勿論ヒーローを志す者として、仕出かした内容の深刻さは重々承知しているつもりです。それでもルール違反を犯していない以上、雄英に入学させるだけの価値が彼女にはあると思うんです。
「それって…」
「恐らく君が察する通りの人物だろうね。枠が一つ埋まるリスクを負ってまで直訴してきたんだから、余程君の合否が心配だったんだろうさ」
「――」
暫し放心したように立ち尽くすが、次第に硬直から解け、挨拶も無く校長室を後にした。
「う~ん、難しい子だねえ。これは相澤君の言っていた通りかな」
「やはり校長でも彼女は計りかねますか」
その美羅が出ていった扉から先程逃げられたブラドキングが姿を表し、これまで数多の生徒を見てきた根津でも把握しきれない彼女の人物像に重い溜め息を吐いた。
「彼女、言動だけじゃなく内面までチグハグなんだよね。表面上取り繕っているのは間違いないんだけど、何をあんなに焦っているかが分からないんだよね」
「焦る…ですか。恥ずかしながら私にはそう見えませんでした。見た目通りの自信家な性格だとばかり」
「う~ん」
首を傾げ、変化が乏しくそれでいて愛くるしい
「参ったなあ。こればかりはさっぱり分からないや。私より相澤君に意見を求めた方が早い気がするのさ」
「イレイザーに、ですか…」
白旗を上げた根津の提案に、最初は光明を得たかの如く表情を明るくさせるが、直ぐにテンションを落とし、同時に忸怩たる思いを露わにする。
「おや、不満だったかい」
「そうではありません。ただ、自分の生徒のことなのに他のクラスの担任に頼らざるを得ない現状が悔しいのです」
ブラドキングの心は、まるで靄が掛かったように気持ちが晴れないでいた。
相澤が彼女の合否を覆すまで静観を決め、一度は見捨てるつもりだった自分に果たして美羅を導く権利があるのかと漠然とした不安が立ち込める。
(神藤が俺ではなく、一度も会ったことが無いイレイザーを選んだのも納得だ。教師として、俺は一歩も二歩も奴に劣る)
ヒーローに似つかわしくないその劣等感は、あの日相澤が語った台詞を思い返すたびに強まっていった。
――時は戻り、入試結果の講評を行った日。
相澤が教師全員を説得し、美羅の担任にブラドキングを推薦した時点まで話は遡る。
「自分は彼女の担任にB組のブラドキング先生を推薦します」
「は……はァ!? ちょっと待てイレイザー! 今の流れでお前が担任をやるんじゃないのか!?」
「そんなことは一言も言ってない。それに、
「それはどういう…」
「まあまあ、驚くのも分かるけど落ち着いてブラド。そう言うって事は彼、何か察してるんじゃないかしら」
この時の共通認識として、美羅の不合格に唯一異を唱えた相澤こそが彼女の担任を引き受けるのだと思っていた。
しかし当の相澤は自分ではなく同じく1年の担任を務めるブラドキングを指名し、その提案にブラドだけでなく会議に参加していた教師全員が首を傾げる事となる。
「…まあ、そうですね。性格内面その他信条はともかく行動原理自体は合理的で分かりやすい。要は雄英が受験生を審査していたように、この神藤美羅という少女も今回の件を通じて俺たちを値踏みしている可能性が高いという事です」
「値踏み…だと?」
「一介の学生に過ぎないこの子がか」
何人かが懐疑的な目を相澤に向けるが、それに構わず自らの考えを展開する。
「プロフィールを見ればそいつがどんなヒーローを目指しているか大体見当が付く。しかし神藤美羅にはそれが無い。この時点でヒーローに何の思い入れも無いのが分かります」
テーブルの上に広げられた美羅の願書には、何処かで見たような定型文がそのまま志望理由の所に記載されていた。
「それなのにヒーロー科への入学を希望したのは……まぁ十中八九『個性』絡みでしょう。潜入の線も考えたが目立ちすぎな上に、下手したら裏情報の秘匿というアドバンテージすら逆に失いかねない。今までヒーロー社会に順応する形で存続してきた組織にしては余りにリスクを度外視しすぎている」
「ナラ、矢張リコノ少女ノ独断トイウ事カ」
「さてどうだろうな。他に狙いがあるのかどうか…」
その真相は天城が勧めたからだが、流石の相澤も、そしてその他面々も組織の長が美羅の成長を促すため一人敵地に送り出したとはまさか考えまい。
「兎も角、自分で進路を選んだと仮定して、問題はどうしてここまで事を大きくしたのか。結論から言えば合格か不合格か、先程の議論を引き起こす事そのものが狙いだった可能性が高いです」
「…?」
「待て、何故そんなことが分かる。その前に我々ヒーローの面子を潰しに来たと考える方が自然だろう」
「合理的じゃない。神藤は俺と同じく少ない労力でより多くの成果を欲しがるタイプだ。仮にヒーロー社会に楯突く気なら、そんな回りくどい事はせずもっと直接的な被害を与えに来るはずだ」
まるで彼女を知っているかの如く己が考えを述べ、それを聞いているヒーロー達も相澤の話と、彼が展開する彼女の人物像に疑問を投げ掛けていった。
そのまま会議という名の答弁が進行していき、先に述べた美羅の行動原理にまで話が行き着く。
そして美羅本人が話した内容にほぼ等しい憶測が全て相澤の口から騙られると、納得と同時に何とも言えぬ微妙な空気感が会議室を包み込んだ。
「…なあイレイザー、一つだけ良いか」
「何だマイク。手短に頼むぞ」
付き合いが長い二人の簡潔なやり取りを耳にしたヒーローたちは、直後に訪れるだろう
「それだけ分かってんならお前が担任持てよ! なァにを根拠に“俺より適任”だとか抜かしやがる!? お前ブラド煽ってんのか相性バッチリ過ぎんだろ!」
流石プロヒーロー、誰一人鼓膜を損傷することなく危険を回避した。元々こういう場面で声を荒げるプレゼント・マイクの性格を完璧に把握しているからとも云えるが。
そして当の相澤はというと、此方もしっかり防音対策が機能し、眉間に寄る皺を解しつつも予め用意していた答えを全員に披露した。
「相性が良いからこそ、だろう」
「ア…?」
「考えが似通っているから行動の真意を汲めるというなら、その逆もまた然り。こっちがあれこれ考えて更生しようにも、その意図を見透かされるんじゃ効果は薄れんだろ」
「あぁ成程。確かに彼女、そういう裏の意味とか察してそうだもんね」
「中には敢えて気付かせて自らの行いを正すという方法も取られるけど、彼女それで改めるようには見えませんしね」
何人かが相澤の言葉に共感し、残りのメンバーも神妙な面持ちで話の流れを見守った。
「だから俺よりブラドの方が適任だって言ったんだ。こういうタイプは裏であれこれ画策するよりも、素直に感情ぶつけてくる相手の方がペース乱されんだろ」
「確かにそうよねえ」
「……何ですか」
「いえいえ、別に」
目の前の相澤とマイクを交互に見比べれば、久しく反応が無かった青臭い友情大好きツボに刺激が加わる。が、それを表には出さず、努めて冷静に相澤の探るような視線を躱す。
「それに相性が良いと言っても所詮は互いに合理性を重んじるってだけです。それ以外に関してはむしろ普通…どころか苦手なぐらいですよ」
「苦手と言うと?」
13号からの問いに一拍置き、目線は下げたまま淡々と言葉を返す。
「俺では素養を伸ばすことは出来ても、オールマイトのようにヒーローを目指すきっかけにはなれない、という事です」
「きっかけ……成程、そういう事か」
「ああ。神藤美羅を此方に引き込むか、或いはヴィランとして無力化するにしてもヒーローの認識を改めてもらう必要がある。
その為に先ずこの学校のカリキュラムに沿ってヒーローを目指すというのが近道だと思うんだが、如何せん本人のやる気を引き出せる気が微塵もしない。神藤が興味あるのはヒーローというより学校そのものだろうしな」
そしてそんな生徒を3年間もクラスに在籍させるモチベーションが維持できるかと言うと、恐らく無理だろうなと思う。
「神藤を俺のクラスに置いておいたら、きっとどこかで見限ると思う」
〝ヒーローに為る気もしない奴に教えても非合理的だ〟ってな。
「それは――」
「そして神藤もその事を察知し、そうなったらアイツがヒーローを理解する機会は永遠に失われることになる。喩えそれが一番合理的じゃないだと分かっていてもな」
「イレイザー、だが俺は…」
「だからこそ彼女を1―Bに推したんです。ブラドならきっと、最後まで見捨てず卒業まで導いてやれると思ったんで」
「ッ…!」
「自分からは以上です。長々と話してきましたが、最終的な判断は校長もしくは此処にいる全員の総意に委ねたいと思います」
寄せられる期待に言葉を詰まらす中、話を終えた相澤が再び席に着く。
「ふふふ。今の話を聞いてブラドキング先生に任せない訳にも行かないだろうさ。皆もそれでいいかな」
「ええ。大丈夫です」
「結局最初から最後まで先輩の掌の上でしたね」
「元からそういう感じだったでしょ、この人は」
「ブラドの方はとんだ災難だったな! ――
「もうマイク、貴方口には気を付けなさい。ただでさえ声大きいんだから」
そのままトントン拍子で話は進んでいき、此れを以て正式に美羅が1年B組に割り振られることが決まった。
しかしあの場で終始話の中心にいた相澤と、半ば蚊帳の外だった自分。
どちらの方が生徒に対する理解が有ったかは明白であり、おまけに一度落とそうとした事も相まって不安を抱かずにはいられなかった。
(俺は本当に神藤を導くことが出来るのだろうか…)
相澤が話してくれた理想の自分とのギャップに思い悩まされる中、今日から1年B組最初の授業が始まるのであった。
次回、ようやく……本当にようやくの個性把握テストです。
この時点で既に6万字近く費やしていますが、一番待っていたのは恐らくうちの子でしょう。
美羅「本当に、早くしてくださいね」ソワソワ