素早さ極振りにした怖がり少年はネクロマンサーになるようです。 作:名無しという名の者
今回は結構長めです。
彼が進んでいった北西の方向へと全速力で走った俺は、苔だらけで今にも崩れ落ちそうな神殿にたどり着く。
中に入ってみると、中は柱が周りにありつつも真ん中は比較的開けていた。
そして地面には不自然にあの荷物がちょこんと置かれている。
逃げる途中で奪ったやつが落として行った可能性も無くはないが…それにしてもこんなど真ん中に綺麗には落ちないだろう。
さて…。
「兵士一号、行ってらっしゃい」
俺は【
なにやら驚いていていて拒否している感じがするが、【気配察知】を使っていて目を開けていないので俺にはそれが伝わらない。
なので彼に拒否権は無い。
行くのを渋っていた兵士一号だったが、進まないと何も変わらないことに気づいた彼は嫌々荷物へとゆっくり近づいていく。
あと5m…3m…1m……そして遂に荷物を手に取る。
何か起きるだろうと思っていた俺の予想とは裏腹に、実際は何も起こらない。
一応中を開けるように言い、兵士は言われた通りに中身を開けるがこれでも特に何かが起きる訳でもない。
あれ?まさか本当にドジして落として行っただけか???
だが、その後にきちんと事件は起こる。
兵士は急にダメージエフェクトを出すと、何が起きたか分からずただ立ち尽くしたまま闇の中へと消えてしまったのだ。
つまり今の一瞬でうちの自慢の兵士がやられたことになる。
「どういうことだ…!?」
【気配察知】を使っているにも関わらず俺は反応することが出来なかった。
荷物の中身が何か危ないものでそのダメージを食らった可能性もあるが、それなら開けた瞬間にダメージエフェクトが出るはずなのでほかの原因があるということになる…。
俺はふとさっき見たエクストラクエストの名前を思い出す。
クエスト名は【暗殺者】。つまりこれは…
「暗殺者がどこかに潜んでいるってことか」
だがそれなら俺にも考えがある。
相手も姿を隠しているのなら、こちらも姿を隠せばいいのだ。
「【隠密】!」
一旦スキルを使って姿を消し、相手の様子を伺いつつ位置も把握しておこう。
そう思った時。運び屋の彼が神殿に着いたのだった。
「はぁ…はぁ…疲れた……って、あれは頼まれた荷物!ドジなやつだなぁ、せっかく奪ったものを落としていくなんて」
そう言って彼は荷物を早く自分の手に戻そうと近づき、そして手に取る。
あの馬鹿野郎、罠かもしれないのに安易に近づくなんて!
俺は全速力で彼のもとへ向かい、そしてコボルを呼び出して守らせる。
これでとりあえずクエスト失敗になることは無いだろう…。そう思っていた。
しかし、その認識は間違っていたことを俺は知らされる。
次の瞬間、圧倒的なHPを誇るはずのコボルがダメージエフェクトを出しながら闇の中に消えていったのだから。
「………一体どんな攻撃をしてきているんだ?」
よしムーン、ちょっと出てこい。
『これは私にも分かりません。何か我々の知らないスキルを使って攻撃しているのは分かりますが、それは魔法なのかそれとも武器を使っているのか…。それすらも分かりません』
そいつの位置とかいい対処法とかは…?
『そうですね…ひとつ分かることは…』
ムーンがそう言いかけた途端、ムーンは急に姿を現して大剣を素早く動かし、俺の首元を狙ってきた何者かからのナイフを防ぐ。
『油断していると狙ってくる、というところですかね』
っっっぶな!!!ムーンが防いでくれてなかったら間違いなくやられてたな俺……。
あれ?ってか俺【隠密】使ってんのに位置バレしてんのか…そういう看破するスキルも持ってるのか?
「私の攻撃を防ぐとは流石ですね」
俺はとりあえず声の聞こえてくる方向に顔を向ける。
そこには真っ黒いローブを被りながら手のひらの上にナイフを数十本浮かせている完全にヤバいやつがいた。
というか、さっきまでそこには何も無かったのにそこから出てきたということは、あいつも姿を隠せるということだろう。
これはめんどくさい相手が出てきたぞ…
「戦いを楽しみたいところですが、今日は仕事なので…最初から全力でいかせてもらいます」
「…望むところだ」
ということでグリード!よろしく!!
『キュイ!』
俺はまず最初にグリードを呼び出す。
遠距離から攻撃をしてもらいつつ、俺が攻めて【
しかしこの作戦には重大な欠陥があった。
『我が君、荷物を持っている彼のことも守らないとクエスト失敗となってしまいます』
「まままままじ!?!?」
そんなことを話していると早速彼に向かってナイフが。それもかなりの速度で。
…これ間に合わなくない?
『【超次元】』
一瞬でクエストが終了するのかと絶望していると、ムーンが超スピードで走り……というより瞬間移動?をして彼へと向けられたナイフを全て弾き返してくれた。
『かなりギリギリですね、私が護衛しているので我が君はあの暗殺者をお倒しください』
「りりりりりょーかい」
ムーンが守ってくれるなら一安心だ。
俺は全く安全じゃないけど、と迫り来るナイフを避けながら思う。
さて、攻撃開始だ!
とりあえず俺は【冥界への一歩】を使って空中を歩きながらナイフを投げてるアイツとの距離を縮める。
後ろの方でグリードもちょっかいをかけてヘイトを買ってくれている。
そろそろ【
俺はすぐさまムーンのほうを見る。が、ムーンは警戒しているだけで戦闘はしていなかったのでそっちのほうは大丈夫そうだ。
『キュイッ!?』
安堵するのも束の間、グリードが鳴き声をあげる。
見てみると、そこにグリードは既にいなかった。
『我が君!どうやら手で持っているナイフで油断しているところを攻撃するとと、一撃で倒せるスキルを持っているようです!』
ムーンの報告を聞いて思わず唖然とする俺。
なんだそのチートスキルは!?
ワンパンできるスキルなんてゲームにあっちゃだめだろ!
だが目の前にはそのチートスキルを持っている相手がいるんだ、戦う他ない。
「でもそれなら!」
俺はゴブリン達を全員呼び出す。
ワンパンスキルを持っていても一体一体捌いていたらキリがない。さて、どう動いてくる?
アイツは大量のゴブリン達を見ると俺達から一旦距離をとる。
そしてスキルを使ってナイフを数十本出現させるとそれをゴブリン達へと一斉に投げ始めた。
だが、ゴブリン達にばかり気を取られてる今がチャンスだろう。
「【超加速】【不撓不屈の支配者】【
次は逃げられないように俺は自分の出せる最高速度でアイツのすぐそばまで移動して、10本の糸でアイツをぐるぐる巻きにする。
そうして行動不能になったところに【
これなら硬直があっても関係ないからな。
これでMPを使用して使えるスキルは全て封印したので、あとは影達に任せるだけで勝手に倒せるだろう。
「【幽闇】」
そう思っているとなにか喋りだしたのでふとあの暗殺者の方を見ると…あれ!?いなくなってる!!?
MP吸収したからスキルは使えないはずじゃ…って、MPを必要としないスキルの可能性もあるのか。
いや、【
とにかく俺はあの暗殺者がどこに行ったのか確認するために周りを見渡す。
すると、いつの間にかゴブリン達がHP1になるまで追い込まれていた。そしてその残り少ないHPも状態異常のダメージを食らって0になり、次々と倒れて闇の中へと消えてゆく。
ムーンは男から離れる訳には行かないので、残されている影は兵士七人と魔術師が一人ということになる。初期メンバーだ。
結構まずい。最初から全力で影を出して畳み掛ければ結果は変わっていたかもしれないが…
そんな話をしてもこの現状がどうにかなる訳でもないので、テンションが下がる分考えても無駄だな。
『投げられたナイフには状態異常"出血"を付与する効果があるようです!毒とほとんど同じ効果ですが、出血状態は重なるので攻撃を受ければ受けるほど割合ダメージが増え、食らうスピードも早くなります!』
ムーンは周りから無数に来るナイフを一つ一つ冷静に捌きながら俺にまた報告する。
俺はどうすれば勝てるのか立ち止まって考える。
無闇やたらに突っ込めばスキルを使って逃げられ、ただ隙を晒すだけになる。
かと言って今みたいに油断してると…
ってこれ避けれないっ…!?
「【不撓不屈の支配者】」
俺は一瞬で近づいてきた暗殺者のナイフを糸で防ぐ。
攻撃が当たらなかった暗殺者は体制を立て直すためか、また闇に溶け込み姿を消す。
貫通攻撃だったら糸を切られて一発KOだったが、貫通攻撃じゃないみたいだ。よかったぁ!
このように考え事をして油断していると、ヒットアンドアウェイを繰り返される。
最初のうちは防げるからいいが、時間が経つうちにいつか当てられてやられるのがオチだろう。
さらにムーンは完璧……かもしれないけど、いつかはミスをして男への攻撃を許してしまう。と思う。
そろそろ反撃しないとやばい訳だが、さっきの手はもう通用しないだろう。もう一度【不撓不屈の支配者】で身動きを取れなく出来たらいいんだけど…
よし!これが刺さんなかったら結構まずいけどとりあえず思いついた!
「お前らおおお起きろぉ!」
俺はまず残っている影全員を呼び出す。暗殺者の姿を現せさせるための囮だ。
「【不撓不屈の支配者】【不撓不屈の支配者】!」
次に俺は【超加速】を使わないで出せる現状の最高スピードを出しながら【不撓不屈の支配者】を八回使用…つまり糸を八十本出して今日の分を使い切り、俺はその糸で蜘蛛の巣のようなトラップを作って、神殿内に無数に配置する。
そして兵士達のもとに戻ろうとすると、早速暗殺者は兵士達を倒そうと姿を現して攻撃をしようとしていた。
「!?」「かかったな!【
案の定俺の張り巡らせた蜘蛛の巣に引っかかった暗殺者に俺はまた近づくと【
恐らくさっきのスキル【幽闇】にはクールタイムがあるはず。
だからもう一度拘束してしまえば今度こそ勝ち確だろう!
「お前ら今のうちだ!」
俺がそう言うと、兵士達は暗殺者に近づき攻撃をしようとする。これで今度こそ動けないはず…!
そう思っていると、暗殺者はニヤリと笑みを浮かべているのに俺は気がつく。
まさかまだなんかあるのか…??
そう思った時。急に現れた数十本のナイフによる斬撃に暗殺者を縛っている【不撓不屈の支配者】は簡単に切られ、集まってきた兵士達も返り討ちにされたのだった。そしてもちろんその周りにいた俺も例外では無い。
貫通攻撃かっ……!?
『我が君…!』
くそっ!クエスト失敗か…また受け直したりできるのかな?
いや、エクストラクエストとかいう特別そうなクエストであるあたり、もう一度受けることは無理だろう。最初に様子見をしすぎたな…。
俺は斬撃にやられていく兵士達を見ながらすでに諦めの体制に入っていた。
しかし、一人…いや一体だけ諦めていない奴がいた。
突然俺の目の前に茶色い物体が現れ、"それ"は俺へ向けられた斬撃によるダメージを肩代わりする。
そう、攻撃は俺には当たらなかったのだ。
「これは…サン?」
そう、俺のテイムモンスター、サンだった。
テイム…"モンスター"???
「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
『我が君!?』
目の前でもう一度斬撃が起こる中、俺は避ける前に気を失うのであった。
「あれ?悪い夢を見ていた気が…」
気がつくと俺は神殿のど真ん中に横たわっていた。ひんやりとした床を背中で感じる。
そうだ、あれは悪い夢だ。俺の目の前にテイムモンスターであるサンが出てくるなんて悪夢、現実にあってはならない。
あれ?でもそうしたら俺のせっかくのエクストラクエストが…って!?そうだ暗殺者!運び屋のアイツは!?
『倒しました』
「ム、ムーン…流石お前だな」
俺は気絶して倒れていた体を起こしながら、背後で報告をするムーンの圧倒的な強さに感服する。
『いえ、倒したのは私ではなく…』
え?ムーンじゃないの??
俺は【気配察知】を使ってムーンの姿を見ると、ムーンは腕になにか抱えながらちょんちょんとその何かを指さしている。
抱えているのは俺を守って、そして気絶させた厄災、全ての元凶であるサンだった。
「……え?サンが倒したの??」
『はい。サンのスキルを確認してみてください』
俺は急いでウィンドウを開いて、そしてサンのステータスを見る。
サン
Lv12
HP 124/380
MP 2/100
【STR 80】
【VIT 100】
【AGI 100】
【DEX 10】
【INT 10】
スキル
【球化防御】【巨大化】
【スキルカウンター】
「【巨大化】と…【スキルカウンター】??」
【巨大化】
使用者の体を巨大化する。
【スキルカウンター】
ダメージを受けた攻撃スキルと同じスキルを使用して攻撃をする。ダメージを食らってから3秒以内に一度だけ使用できる。
「まさか…このふたつのスキルを使って倒したってこと?」
『はい。どうやらあの暗殺者は攻撃の数こそ豊富ですがHPとVITの数値は極端に低い、攻撃特化の敵だったようです』
「てかいつの間にこんなにレベルが上がって…」
心当たりなんて…いや、あったわ。心当たり。
第二回イベントの時にメイプルたちに預けたわ。
それにしてもこんなに上がるものなのか…?
考えても仕方ないな。あのメイプルだし。
「それじゃ、もうクエスト完了してるってこと?」
『はい、倒れた暗殺者が「負けました、あなたなら私の後継者になれる。力を授けましょう」といって我が君にスキルと武器を渡していました。そして荷物を回収したあの男はすぐにあの老人のもとへ行って、荷物を渡していました。なので完全にクエストクリアです』
アイツ…俺が倒れてるのになんの心配もせず自分の仕事したら帰るなんて…。ゲームのNPCだから仕方ないけれども。
とりあえず俺はまた急いでステータス画面を開き確認する。
「おぉ…!これはすごい…!!」
俺はアイテムをインベントリから取り出し、新習得したスキルを見ながら思わず呟く。闇魔法のスキルなら俺でも使えるぞ…!
これは…今度楓の木のみんなに見せてみよう…!
「それじゃ、ムーンお疲れ様!」
『ありがたきお言葉、失礼します』
これはかなりの良クエストを引き当てたな、とサンを指輪の中に戻しながら思ったのだった。