なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜   作:nyagou

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いつも通りの平穏な日常

仄暗い森の中。鬱蒼とした木が生い茂っている。そんな普通の人間なら近づかないようなところに、大きな洞窟がポツンとあった。

 

「ここっぽいわね…いかにもって感じだわ」

 

その洞窟の前に空から降り立つ黒髪の少女。真っ赤な巫女装束をしており、頭に大きくてこれまた赤いリボンをつけている。腕からしかない袖は何故か白色である。そして、左手には大幣を持っている。

 

「流石だなぁ、霊夢。その索敵?能力、私にも欲しいぜ」

 

続けて魔法使い然とした金髪少女が箒から飛び降りる。白いリボンのついた黒い三角帽に黒い服、そして白いエプロン…やっぱり魔法使いらしい。

 

「勘のことね…勘なんてあげられるものじゃないって言ってるでしょ…自分で鍛えときなさい。それよりも魔理沙、もう少しは緊張感持ちなさいよ。一応、低級妖怪に人里を襲撃させるくらい強いらしいんだから」

 

ただの勘なのに目を光らせる魔理沙を見てやれやれと霊夢は肩をすくめる。これでは妖怪退治に来たのか、勘観察に来たのかわからない。

 

「一応とはなんだ、一応とは!俺様は幻想郷最強の妖怪だぞ!」

 

筋肉ムキムキの大きなゴブリンが洞窟から腰を屈めて出てきた。そしてスックと背を伸ばす。霊夢の3倍の大きさはあるだろうか。その後ろにはその部下と思われるチビゴブリンがひしめいた。

 

「そうだ、そうだ!」

 

「オレ達のお頭にかかったらお前らなんかけちょんけちょんだぜ!」

 

「うるさいわね…ちょっと黙ってくれない?あんたらのボスと大事なお話があるのよ」

 

霊夢は、目が血走り口から涎が垂れている下品な部下達につっけんどんに言い放った。

 

「なんだと?」

 

「博麗の巫女だからって気取ってんじゃ─」

 

「黙れって言ってるのよ!」

 

霊夢が凄まじい怒声と共にギンッと雑魚共を睨む。竦み上がった部下達はビビってヒャいという情けない声をあげてすごく後ろに下がった。

 

「…で?人里襲撃の目的は?」

 

邪魔を排除した霊夢は再びボスゴブリンに向き直る。ボスゴブリンは既に冷や汗をかいていた。それでも、勇気を振り絞り、傲慢な風を装ってニヤリと作り笑いをして言い返した。

 

「フフン、人間を食うためだ」

 

「なんで食べる必要があるの?」

 

「ヒャヒャ、当然だろ!妖怪は人間を食って強くなる。そして俺は更なる最強を求めている。だから、人間を食い続ける!博麗の巫女がここまで馬鹿だったとはなあ!先が思いやられるぜ!ヒャヒャ!」

 

「ふーん、そう。じゃ、さよなら」

 

「ええ?!」

 

霊夢は地面に両足がめり込むほど踏み込むと、一気にボスゴブリンの目の前まで飛び上がった。

 

「はっ、はやっ…」

 

ボスゴブリンが驚く間もなく、霊夢が顎に蹴りをお見舞いする。ボスゴブリンは白目を剥いて、顎から血を吹き出しながら倒れる。身体が大きいせいで洞窟にもたれかかる格好になり、音を立てて入り口が崩落する。落ちてくる岩を避けようと逃げ惑う部下達を眺めながら、霊夢は御札を掲げる。

 

「霊符『夢想封印』!」

 

霊夢がそうスペルカードを宣言すると、霊夢の周りに虹色に輝く光弾が次々に形成される。そしてボスゴブリンめがけて撃ち込まれる。

 

「ゴブアア!」

 

一度失ったボスゴブリンの意識が四肢が飛び散る痛みで再び戻った。しかし戻った視界に映ったのは─残酷にも空が見えないほど近づいていた光弾。ボゴンという鈍い爆発音と共に首から上の部分が飛び散る血飛沫だけになった。

 

「お、お頭ァー!」

 

「…確かに妖怪は人間を食って強くなるわ」

 

ボスを倒され怒り狂うチビゴブリン。それに対して冷静に語る霊夢。何匹か霊夢めがけて走り込み、ゴブリン達の持つ矛先が霊夢にあたりそうになった瞬間…

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

今度は霊夢の背後にいた魔理沙が極太の虹色のビームを放つ。そのビームは目の前のチビゴブリンのみならず、洞窟をも包み込んだ。撃ち終わった時には洞窟は跡形もなく消し炭になった。

 

「でも、妖怪が人里に手を出すのは禁忌。そして私は幻想郷の調停者。…“幻想郷最強”の妖怪がここまで馬鹿だったとはね」

 

ハラハラと落ちる煤を見つめながら、霊夢は呟いた。

 

 

***

 

『幻想郷』─それは、かつて人間の急激な近代化による精神の荒廃から自身の存在を守ろうとした妖怪とその考えに同調した、あるいは巻き込まれた一部の人間を現実世界から結界によって隔離した世界である。霊夢は幻想郷の住民の中でも『博麗の巫女』という妖怪と人間といった異なる種族間の衝突を調停する重大な役職に任命されている。ちなみに、魔理沙はその博麗の巫女のやっていることが面白そうだからついていっているだけである。本来なら別についていく義務はない。

 

「あいつ、本当に幻想郷最強なのか?」

 

「あんなのが最強な訳ないでしょ。もしそうなら今頃私が天下とってるわよ」

 

「そっかー。まあ、新魔法の試し撃ちが出来て良かったぜ」

 

魔理沙はゴロンと縁側に横になる。その隣で霊夢はズズズッとお茶を啜る。どうやらここは霊夢の住居らしい。

 

霊夢達の左斜め前には長い石段があり、それを登り切ると鳥居がある。狛犬はその後ろに控えている。そこから石畳の参道がずっと続き、お社があるという割と質素な神社の作りだ。当然、参拝客は誰もいない。

 

「試し撃ちってそんだけ八卦炉がオーバーヒートしてたら実戦じゃ使い物にならないでしょ。もっと修行なり勉強なり頑張りなさい」

 

「確かになあ…」

 

魔理沙は後ろを振り返って、ちゃぶ台の上の八卦炉と呼ばれた煙を上げてる短い八角柱の黒い木箱みたいなものを見つめながら答える。これはいわゆる魔力増幅器というもので、さっきのビームもここから撃ったらしい。

 

「霊夢は?」

 

「私は強いからいいの。…それにしても妖怪退治の後のお茶は美味しいわあ」

 

「血を見た後の少女が言うセリフじゃないのぜ…」

 

魔理沙は八卦炉を掴んでポンと叩く。ウィーンという音と共に中の管のようなものが伸びて、残っていた煙を排出する。

 

「っていうかさっきの勘というのさあ、私にも教えてくれない?」

 

「だから、勘を教えるってどうすりゃあいいのよ。それに持ってても楽しいもんじゃないわよ?」

 

「どういうこと?」

 

「次に何が起こるかわかってしまうのよ?サプライズも何もあったもんじゃないわ。大体楽しみっていうのは期待とはいい方向にズレてるときにしか出てこないもんなんだから」

 

「なるほどな」

 

「まあ、何の変化もないレールの上を延々と転がるか山あり谷ありの荒野を踏みしめるか選びなさいな」

 

「なんかどっちも嫌だぜ…でも勘も万能じゃないんだろ?」

 

「まあね。ある種の条件下じゃ全く使い物にならないし、強い奴と当たった時なんか奇想天外な攻撃とかしてくるからそこは楽しめるかしら」

 

「じゃあ、幻想郷最強の妖怪でも退治してきたらいいじゃないか。楽しむついでに人間のためにもなるし…」

 

「それは無理な話ね」

 

霊夢と魔理沙の前から急に声がしたかと思うと、目の前の景色に黒い裂け目のようなものが現れてそこから紫色の前掛けとフリルドレスの高身長の女性が現れた。魔理沙は驚きで声も出ない。

 

「博麗の巫女とこの私は幻想郷の結界維持において必要不可欠。だからよほどのことがない限りお互いに不可侵よ。万一共倒れなんてしたら目も当てられないわ」

 

「久しぶりね、紫。人里の被害調査の結果が出たの?」

 

急に出現した紫にビックリして腰を抜かしている魔理沙とは対照に、霊夢はもう紫にお茶を出しながら用件まで聞いている。

 

「…やっぱり霊夢みたいなのが欲しいのぜ」

 

ぼそっと魔理沙は呟いた。

 

 

***

 

 

「…人里の方は人的被害はなし、ね。それは良かったわ」

 

「あなたがたまたま人里にいたからすぐに対処できたのも、不幸中の幸いってやつでしょうね」

 

「何となく勘でね。今日は人里に行った方が良さそうだったから」

 

ちゃぶ台を挟んで紫と霊夢が向き合って話をいる。魔理沙は相変わらず縁側で足をブラブラさせている。

 

なかなか見れない光景だ。大体、妖怪と人間は食う食われるの関係にあり、相容れない。出会ったものなら妖怪はその日の食事のために、人間は自分の命のためにどちらかが倒れて動けなくなるまで殺しあう。それが幻想郷という共同体の根幹でもあり、それこそが幻想郷たらしめるはずなのだ。

 

しかし、その人間という存在において最強である博麗の巫女である霊夢と、妖怪において最強、そして幻想郷の大賢者たる紫が火花を散らすことなく、手を伸ばせば殺せる距離に互いにいる。それを心地よく思っているかは別にして、とにかくこの状況が奇異であるというのは事実である。

 

「首謀者は無事霊夢に倒されたし、これで異変解決ね!今日も幻想郷は安泰でなりよりだわー」

 

紫がうーんと伸びをする。そのまま横になってふうと言う。

 

「めちゃくちゃ霊夢に馴れ馴れしいなぁ、紫さん。そこまで霊夢と親しいのか?」

 

魔理沙があまりにも気ままに動いている紫に尋ねる。

 

「そりゃそうでしょ。ああ、あなたとは初対面だったわね、教えてあげるわ。実はね…霊夢は私の子どもなのよ!」

 

「え?!霊夢、お前妖怪だったのか?」

 

魔理沙は衝撃的な事実を聞いてドン引きしている。霊夢がすかさず否定に入る。

 

「違うわよ!先代が私が幼い頃に死んじゃったから紫が私が一人前になるまで育ててくれただけよ。紫の言葉選びが下手なだけ」

 

「それでも私は霊夢の育て親でしょう?何も間違っちゃいないわ」

 

紫は涼しい顔をしている。魔理沙は事情を理解して安堵する。

 

「ああ、そういうことか。てっきり霊夢がこのおばさんの娘だからこんなに大人しく聞いてるのかと…」

 

「あ、その言葉は─」

 

霊夢が制止するも虚しく。

 

「お・ば・さ・ん?」

 

紫が起き上がって魔理沙を穴が開くほど見つめる。あちゃーと霊夢は頭を掻く。

 

「おばさんってどういうことかしら?この私が?おばさん?ゆかりさんではあってもおばさんなんて名前じゃないわよ?」

 

(あ、まさか、この人年齢のことをコンプレックスに思ってらっしゃる?)

 

紫が立ち上がって縁側の方に近づく。魔理沙はその威圧感で冷や汗びっしょりになりながら参道の方へ後ろ向きに下がる。

 

「私はぁぁ!たかだか!1000歳くらいの可憐な美少女よ!」

 

「おばさんというよりBBAじゃねーか!」

 

「紫様ァー!」

 

紫と魔理沙が衝突したその時、誰かが石段を息を切らして登ってきた。

 

「あら、橙。ちょっと後にしてもらえる?見ての通り私は忙しいの。幻想郷の未来のためにも、この失礼極まる魔法使いに骨身に染みるまで礼節を教え込まなければ私の気が済まないの」

 

紫は笑顔で魔理沙の首根っこを引っ掴みながら、ゼエゼエ言ってる猫耳紅白ワンピースのロリっ子に向かって言った。魔理沙は首元の紫の手を振り解こうとしつつ、ジタバタしている。

 

(魔理沙のせいで私の神社が地獄絵図だわ…)

 

霊夢が冷めた目で参道を眺めつつ再びお茶を啜る。

 

「それどころじゃありません!人里が…人里が!再び襲撃を受けました!」

 

「「何ですって?!」」

 

紫と霊夢が思わぬ出来事に思わず叫んだ。

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