なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜 作:nyagou
紅魔館の戦いから一夜明けて博麗神社にて。夜通し働いたため、眠そうに霊夢はちゃぶ台に肘掛け、魔理沙は縁側で足をぶらぶらとさせていた。
「眠いな」
「じゃあ、帰ってとっとと寝なさいよ」
「それはそれで健康に良くない気がする」
「しょっちゅう魔法実験で夜更かしするヤツが健康なんてよくいうわね。明日の天気は雨かしら」
「そういう霊夢はどうなんだよ」
「私は大丈夫よ。太陽が出ていれば起き、沈めば寝るもの。昨日は例外よ」
「…逆に寝すぎじゃないか?」
霊夢と魔理沙の他愛もない話をよそにそよ風が縁側から吹き込み、魔理沙と霊夢の髪を撫で上げる。魔理沙はふと気になったことがあったのを思い出したようで霊夢に聞いた。
「で、あれでよかったのか?」
「あれって何よ」
「あれだ、あのー…吸血鬼のこと」
「ああ、レミリアね。…ええ。紫がああいうなら仕方ないわ」
そう言いながら霊夢は昨日の紫とのやりとりを思い出していた。霊夢がレミリアを倒した直後のことだった。
「そこまでにしとけって…なんでよ?こいつは異変の主犯なのよ?」
霊夢は振り上げた大幣を下ろしつつ紫の方を振り返る。
「それはそうだけど…色々状況が変わったのよ。これからはむやみやたらに力のある妖怪を倒すわけにはいかなくなったの」
「それはあのマークが関係してるのかしら?」
「流石、霊夢の勘ね。そうよ。でもこっちは私が片付けるからあなたは何もしなくていいわ。でも万が一私単独ではどうにもならなくなった時には、力のあるもの…あなたや他の妖怪たちの応援も必要になってくる。そこで幻想郷の大賢者として博麗の巫女であるあなたに頼みがあるの」
「何よ、改まって」
「これから先、幻想郷には今夜のような異変がたくさん起こるでしょう。これまでなら、ただ異変の主犯を潰せばよかった。でも、これからは見極めてほしいの。この幻想郷に必要になるほど強いか、否かをね」
「見極めてどうするの?拘束するの?」
「弱ければ今まで通り叩き潰せばいいわ。でも、強ければ…異変を起こした罪を不問にしなさい。そして自由放免よ」
「ハア?!」
霊夢は唖然とした。してしまった。霊夢は紫が言ったことが信じられなかった。異変を起こすことは幻想郷の秩序を乱す大罪である。無論、その主犯の罪は天よりも高く海よりも深いため、死を以ってでしか償えない。それが許されると紫は言った。力の強さによっては極悪人を野に放っても構わないと言った。幻想郷の秩序を守る博麗の巫女にとって受け入れがたいことを紫は平然と言い放ったのだ。
「ごめん、私疲れてるのかな?異変を不問に…?今のは…何かの聞き間違いよね?」
「いいえ、聞き間違いじゃあないわ。なんなら新たに『首脳』という役職を設けてその力のある妖怪に授け、幻想郷の部分的な統治を認めようとすら思っているわ」
「…人間を蔑ろにするつもり?」
「そういうわけではないわ。でもやるなら万全にしたい、それだけよ。それにこの吸血鬼と私には何か通ずるものがある気がする」
そう言うと意識を失って倒れているレミリアを紫はじっと見つめる。
「とにかく、手始めにこのレミリア・スカーレットを首脳に認定するわ。そして、あなたは首脳にふさわしい力のある妖怪を見極めなさい。いいわね?」
そういうと紫はさっき入って来た時に使ったスキマに入り、そのまま消えていった。
「あのマークと紫に何の因縁があるのか知らないけど…こんなの前代未聞だぜ。異変の時に霊夢が力を見極めて力のある妖怪に特権を与える?まるで異変を起こしてくださいって言ってるようなものだ!ありえないぜ!」
魔理沙は勢いよく立ち上がって憤慨する。それに対して霊夢はさほど怒ってはいないようだ。
「まあ、いいんじゃない?戦うのは嫌いじゃないし。幻想郷に必要なことなら仕方ないわ」
「それでも…!」
「多分、紫にも何か深い考えがあってでの決定だと思うわ…多分だけど」
霊夢は座ったまま空をひさしから見上げる。うっすらと雲がかかり、日光も微妙に入ってこない。そんな天気だった。
***
一方、紅魔館では。
「失礼します」
そう言うとレミリアのメイドである咲夜がレミリアの部屋のドアをゆっくりと開けた。レミリアの体のあちこちが包帯で巻かれ、ベッドで横たわるレミリアのそばで治療にあたっていた編笠の医者が座っていた。
「お身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、ゆーて私吸血鬼だから。明日には完治するわよ」
「それは何よりです。しかし、先ほど見て来たのですがパチュリー様が…」
「何、パチェは瀕死だとでも言うの?!」
レミリアは驚いて目を見開いてガバッと跳ね起きる。
「怪我そのものよりも、運動による筋肉痛で当分は動けそうにないと言っておられました」
ポカンとするレミリア。それを見てクスッと笑う咲夜。案外咲夜はイタズラっぽいところがあるのかもしれない。
「ああ、あーね。何だ、びっくりしたじゃない。安心したわ」
「申し訳ございません」
「まあ、パチェは元々引きこもり体質だから、たまにはああいう運動もやらせないといけないわね。やれやれ…」
レミリアは首を振る。編笠の医者も何故か首を振る。医者の観点からも引きこもりは良くないのだろう。
「フランはどうだった?確か暴走したと聞いたのだけど」
今度はレミリアが尋ねる。
「妹様におかれましては…また出たがっているようですね。どうやら異変の最中に面白い金髪の人間の魔法使いに出会ったとか…また来るでしょうと申しましたら大人しくしてくださりましたが」
「それでいいわ。あの魔法使いは招かずとも来る気がするし」
「運命というものですか?」
「うーん…どちらかというと勘かしら」
「なるほど」
咲夜は相槌を打ちつつ紅茶を入れる。温かい湯気がカップから仄かに立ち上がる中、レミリアは編笠の医者に飲むことを勧めつつ自分も飲み干したのちに言った。
「申し訳ないのだけど、ドクター。少し席を外してくれるかしら?」
「え?ああ、もう治療はすでに終わっておりますのでなんなら帰ってもいいのですが…」
「ああ、そうなの。なら、咲夜。ドクターをお見送りしなさい」
レミリアは咲夜と目を合わせながら言う。咲夜は何か勘づいたようで、編笠の医者を玄関まで送り謝意を述べるとすぐさま能力で時を止めてレミリアの部屋に戻った。そしてレミリアの部屋の鍵をガチャリとかける。
「なんでしょう?お嬢様」
「単刀直入に言うわね。今回の異変を起こした目的は強者たる我々が幻想郷を支配することと私はいったわね」
「はい」
「あれは嘘よ」
「ええ?!」
「全くの出鱈目。異変の理由に相応しいものを適当に思いついただけよ」
「じゃあ、本当の理由は…?」
「決まってるじゃない。当主として、この紅魔館を守る。それだけよ」
「それじゃ別に異変を起こさなくてもよかったのでは?」
「いいえ、これしかなかった。私の能力で様々な運命を見たけどことごとく私達が死ぬ運命に行き着いた。能力で本来とは違う未来を見るだけならいくらでもできるから徹底的に検証した。誰かよくわからないヤツに殺されたり、八雲紫に亜空間に投げ飛ばされたり…色んな運命があったわ。そして出た結論が異変を起こすことだったのよ」
「そんな…」
「それだけが私がまだ生きている世界線…運命だった。そして私の
「そ、そこまで…流石お嬢様です。これほどまでの深謀遠慮を張り巡らせていたとは気づかず、従者として恥ずかしい限りです」
咲夜は頭を下げて謝罪する。レミリアはそれに構わず話を続ける。
「別にいいわ、生き残ったのだもの。命あっての物種よ。…ここからが本題よ。あなたに主人として命令するわ」
「はい、何なりとお申し付けください」
咲夜はレミリアの前にひざまづいてかしこまる。
「博麗の巫女の仲間として潜入しなさい。そして、できる限り博麗の巫女が活動しやすいように立ち回るように」
「わかりました。一応聞いておきますが、あくまで紅魔館のためにということですね?」
「紅魔館、ひいては幻想郷のため。当然よ」
「承知しました」
「あ、あとそれと…」
「なんでしょう?」
「八雲紫には特に注意しなさい。あいつに関してはあなたの裁量で独断行動を取っても構わない」
「その理由はやはり、今回の異変ですか?」
「ええ。運命を見るに…あいつ、今回の異変よりももっと恐ろしい何かに何枚か噛んでる可能性があるわ」
レミリアは重々しく咲夜にそう言った。しかし、流石のレミリアも咲夜の後ろのドアの外でさっき帰ったはずの編笠の医者が、赤い目を爛爛とさせて聞き耳を立てていたとは気づかなかった。
***
「首脳制を復活させるとは誠ですか?」
藍が紫の前に立ったまま尋ねる。紫は自身の家である大官邸の自室の畳の上に座ってそれに答える。
「もちろんよ」
「しかしあれは紫様の権威を削ぐという理由で紫様自身がかなり前に廃止したのでは?」
「あの時は自分勝手だったしね。幻想郷のことを慮るだけの器がなかったのよ、当時は」
「はあ…」
「それに敵の炙り出しにもなるから。いいのよ、これで」
「いいんでしょうかねえ…」
藍がため息をつくと紫がすっくと立ち上がり、スキマを開ける。
「どちらに向かわれるので?」
「…ちょっと人里にね」
「ならば、私も同行したします」
「いいえ、結構よ」
「人里くらいなら別に…」
「いいと言ってるの!」
紫が珍しく怒った声を出す。藍が驚いて飛び退いて平伏する。
「も、申し訳ございません!出過ぎた真似をいたしました…お許しください」
「わかればいいのよ」
紫はいつもの笑顔に戻ると平伏する藍を尻目にスキマの中に入っていく。そしてそのまま目玉だらけの亜空間を移動しながら紫は独り言を呟いた。
「ごめんね、藍。こればっかりはあなたにも知られるわけにはいかないのよ…」
***
今度は薄暗い大広間。横は短いのに縦は異様に長い部屋で、その真ん中にこれまた横は短く縦が長い机が置かれその縦の部分に向き合って顔を隠している輩共が椅子に腰掛けている。そして横の部分に紫との接触を終えて戻ってきたオッドアイがまるで王様のようにふんぞり返っていた。そしてその机にも王様気取りのオッドアイの背後にも例のマークが刻まれていた。
「これで全員か?」
瞳の色が赤と青それぞれ1つずつという異様なオッドアイが口を開いた。
「ええ。残念ながらこれで全員のようです。もはや作戦会議みたいになってしまいましたね」
オッドアイに最も近いところに座る、布を目の部分以外顔に巻き付けている人物が答えた。
「やれやれ、陛下のせっかくの復活だというのになんたるざまだ!同胞がほとんど来ないとは!」
2番目にオッドアイに近い、マスカレードマスクをつけた人物が嘆く。
「来ないというよりも来れないのだろう。仕方あるまい」
3番目に近い、フードを被った者が宥める。フードは深々と被られていて顔は到底見えない。
「そう言ってすぐ喧嘩を始める。大体、我々の結束が固ければ封印なんてされるはずがなかったっていうのによお!」
一番遠いサングラスをかけ、マスクをしている人物が文句を言う。どうやらこれでオッドアイの部下は全員のようだ。
「そういきりたつな、デミゴッド。起こったことはもう覆せない以上、仕方がない。問題はこれからだ。紫の侵攻は防がねばならん。我の能力も回復せねばならん。当然我々の目的である幻想郷支配もなさねばならん。やることは山ほどある。ではまず我々はこれからどう動くべきか、それについて何か意見があるものはおらんか?」
シーンと静まり返ってしまった。皆それぞれ唸ったりしながら考えている。少しの沈黙の後、布を巻きつけた人物がおずおずと手を挙げた。
「やはりグリムリーパーが一番早かったか。言ってみろ」
「はっ。では述べさせていただきます」
そういうと椅子から素早く立ち上がってオッドアイの方を向いた。
「私はやはりトリックスターの役職につくべき『あの者』を迅速に呼び寄せるべきだと思います。幻想郷の大賢者たる紫はやはり脅威です。あの者に紫の侵攻を止めさせ、その間に我々が目的を達成する。これならば…」
「待て待て、それは納得できん!」
マスカレードマスクが立ち上がりながら抗議する。
「何故です?エンジェル。これが一番効率よく物事が運ぶ方法と思われますが」
「確かに効率は良いだろう。しかし、『あの者』は性格が壊滅的に終わっておる!それにあいつはもう…」
「いいではないか」
オッドアイがエンジェルの反駁を止めた。
「仮に性格が終わっていようとも戦力は戦力だ。ならば受け入れない理由がないだろう。違うかね?」
「…」
エンジェルは沈黙する。オッドアイが続ける。
「今ならまだ紫も動き出していない。早急に接触を急げ。担当は…そうだな、ゴスペルにしよう。行ってくれ」
「承知しました」
フードを被った人物が短く答えた。
「では、他に何かないか?」
「はい、私は…」
まだまだ会議は続きそうだ。話は熱に熱を帯び、一向に終わる気配がない。
各陣営の思惑が蜘蛛の巣のように交錯していた。
ちょこっと補足。オッドアイの部下は全員役職名で呼ばれている。実はオッドアイにも『クリエイター』という役職名があるが自身で名乗ることはあんまりない。役職階級はクリエイター>ペルソナ>グリムリーパー>エンジェル>ゴスペル>デミゴッド>トリックスター。
久しぶりに書いたら何か色々疲れた。