なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜 作:nyagou
人里にて。霊夢がとある店の前で立ち止まり、看板を指差す。咲夜と捕縛された魔理沙も止まる。
「ここよ。ほら。早く入るわよ、魔理沙」
「ちょっと…流石に人前なんだからそろそろこの縄解いて欲しいんだが?」
「はいはい…今解いたわ」
「はっや!まあいいや。入ろう」
魔理沙の身体に巻き付いていた縄はもうない。自由になった魔理沙は霊夢の前に出ると店の引き戸をガラガラと開ける。
「いらっしゃいませー!」
明るく大きな声が店内に響く。店先の看には『鈴奈庵』とデカデカと書かれていた。パチュリーのバウル図書館ほど大きくはないが、本棚が並でおり、奥から店員らしき人物が出てきた。
「私、店主の本居小鈴と申します!今日はどんな本をお探しですか?」
「うーん…妖怪系?生態とか書いてるやつ」
「妖怪の生態って…キノコじゃないんですからもう少しマシな言い方してくださいよ。とりあえず、こちらです」
小鈴が先導して案内する。霊夢達も後に続く。
「それにしても随分急ですねえ。何かあったんですか?」
「紫に頼まれてね。強い妖怪を探してるの」
「あー、首脳探しの件ですね。あれ別に妖怪にこだわらなくてもいいですよ」
「そうなの?」
「はい。強けりゃどんな種族でもいいらしいです」
「ふーん…ってまだなの?結構歩いたような気がするのだけど」
「そういう系の本は普段私がいるカウンターから見える範囲にないと紫様がうるさいんですよ。万一、万引されたら人間が何しでかすかわからないって」
「なるほどねえ」
さらに奥へ奥へと歩いて行く。まだまだ到着には時間がかかりそうだ。
「人間といえば、霊夢さんが魔理沙さん以外を連れているなんて珍しいですね。新しいお友達ですか?」
「私のこと?」
咲夜が口を挟む。
「別に仲間ってわけじゃあないわ。なんていったらいいんだろう…ビジネスパートナー?」
「そんな認識なの?!」
「まあ、いいじゃないですか。霊夢さん交友関係全然ないですし。少しでも広がれば人生も豊かになるってもんです」
「何それ…」
「…てっきり私も魔理沙と同じように霊夢の仲間になれたと思ったのに」
咲夜がうっかり本音を滑らせる。その瞬間、霊夢と魔理沙が立ち止まり、変な雰囲気が漂い始めた。
「…何?私何か変なこと言った?」
沈黙に耐えきれず、咲夜が口を開く。その言葉でハッと覚めたように魔理沙はバツが悪そうな顔をする。霊夢はポツリと呟いた。
「…こいつとはただの腐れ縁よ」
「…え?」
「何でもないわ。先へ行きましょ」
霊夢は小鈴の後を追いかける。魔理沙は咲夜の方を振り返った。
「悪いな。私達はそういう話は嫌いなんだ」
そういうと魔理沙も後に続く。
(なんなんだろう…)
咲夜は一抹の疑問を胸に後を追った。
***
「こちらになります!」
小鈴が指差した本棚はちょうどカウンターの前。小鈴の椅子がカウンターに鎮座しているのを見ると確かに小鈴が見える範囲にあるというのは間違いないらしい。
「あるとしたらこの本棚とその右隣の、そしてもう一つ右隣の計3つの本棚にあるはずです!流石に全部の本は把握してないので後は調べてください!」
「オッケー。ありがとう小鈴。後は私達で何とかするわ」
そういうと霊夢はふわりと浮くと、指差された本棚の一番上の段に手をかけ、一番左端の本を取り出した。魔理沙は目を見開いて驚く。
「そんな端っこから何してんだ…?え、ひょっとしてだけど、まさか今から全部調べようってわけじゃ…」
「当然でしょ?やるなら徹底的にやる。それが私のスタンスよ」
「ええ…でもこれかなりあるぜ?適当にそこら辺のを漁って無理そうなら、諦めて妖怪共が暴れ出すのを待ってもいいんじゃ…」
「ええい!やるったらやるのよ!ちょうど3人いるから魔理沙は私の隣の棚、咲夜はその隣!オッケー?!」
「おおう…わかったぜ」
「了解したわ」
魔理沙も咲夜も諦めてそれぞれ本棚の前に踏み台を持って来たりはしごを持ってきたりして、作業に取り掛かり始めた。それを見た小鈴もカウンターに座って眼鏡をかけ、何やら書類の整理を始めた。
***
─2時間後
「うーん」
「これは違うな…」
「…」
─さらに2時間後
「お腹すいた…」
「書いてる文字がゲシュタルトだぜ…」
「全てはお嬢様のため…」
─さらに2時間後
「…これやる意味ある?」
「お前がやろうって言ったんだろうが!」
まだ一段目も読みきってない霊夢のぼやきに魔理沙が本を読みながらツッコむ。霊夢は床に積まれた本のビルの間に寝転がる。咲夜はもはや壊れたロボットのようにブツブツ呟きながら本を調べている。
「どうです?見つかりそうですか?」
小鈴がカウンターから声をかける。
「壊滅的にないわね。何でこんなに本があるのに強い妖怪の居住関連の情報がないのよ!」
「まあ…そもそも妖怪って能力が個性的なので、それにあった隠れ方なんて妖怪それぞれですしね」
「ああ確かに…何ですって?」
完全に寝そべっていた霊夢がムクリと起き上がる。
「え、ですから、能力の関係上、妖怪の隠れ方には恐らくマニュアルはありません」
「じゃあそういう系の本は…」
「恐らくないかと…」
「もっと早く言いなさいよ!」
霊夢がカウンターまですっ飛んでカウンターを台パンする。
「じゃあ今までの努力は完全に無駄ってこと?それをあんたはずっと何も言わずにぼんやり眺めてたってこと?」
「そ、そういうわけじゃなくて…!わ、私の能力は阿求みたいな完全記憶じゃなくてただの解読ですから、その…本の内容全部覚えてるわけじゃなくてですね…もしかしたらあるかもと…」
霊夢の凄まじい剣幕に小鈴は怯む。霊夢はパチュリーの言ったことを思い出していた。
『もしかしたらその妖怪の特徴とか出てくるかもしれない。あくまで可能性だけどね』
(『あくまで可能性』なんて保険かけやがって…怒りたくても怒れないじゃない…)
「小鈴ー?いるー?」
「阿求!」
玄関から誰かが歩いてくる。着物姿に若草色の羽織の裕福そうな少女。3人もその声の主に目をやる。
「『幻想郷縁起』についてちょっと相談しに来たのだけど…先客がいるみたいね」
「お前がその完全記憶とやらの阿求か?」
魔理沙が阿求に詰め寄る。
「はい。私こそが稗田家当主、稗田阿求です。能力は『一度見たものを忘れない程度の能力』ですから、まあそうですね、完全記憶です」
「じゃあ、阿求。ちょっとした質問をするぜ。ここの書物って全部読んでるか?」
「小鈴が次から次へと本を仕入れてくるので何とも言えませんが…少なくとも2週間前までに仕入れた本なら全て読みました」
「じゃあ、妖怪関連の本で隠れ方について書かれたものは?」
「全くないですね」
「じゃあ今度は小鈴。2週間前から今日にかけて新たに仕入れた妖怪関連の本は?」
「霊夢さんがちょうど読んでた段にしか置いてないです…多分もう全部霊夢さんが読みました」
「じゃあ、ないってこった。終わり終わり」
「そんなあ…」
魔理沙がそう結論づけて自身が調べていた本棚のところへ戻る。霊夢はガッカリする。一方、咲夜はふと気になったことがあり、阿求に近づく。
「ところでこれ何なの?」
「『幻想郷縁起』です。幻想郷の歴史とか幻想郷の目立った妖怪について書かれた、稗田家に代々伝わるものでして…」
「それじゃん!」
霊夢が新たな本の登場に飛びつく。小鈴はやっと霊夢が離れてくれて胸を撫で下ろす。
「それ調べりゃわかるじゃん!ちょっと貸しなさい!」
「霊夢さんに言われたら仕方ないですね。1時間くらいなら貸しましょうか」
「1時間?!まあいいわ。ありがとう」
霊夢が阿求から『幻想郷縁起』を受け取ると、魔理沙と咲夜が霊夢の元に集まり、霊夢が早速ページをめくり始める。阿求はカウンターの小鈴の隣の椅子に腰掛けて小鈴が淹れてくれたお茶を飲む。
「えーと…『魑魅魍魎の章』。これね」
「魑魅魍魎で何で妖怪に繋がるの?」
「まあいいじゃないか。どんどん行こうぜ。もうかなり時間無駄にしちゃったんだし」
霊夢は幻想郷縁起の目次から『魑魅魍魎の章』に一気にめくる。そこにはさらに目次があり、注目すべき者達の名が連ねていた。
「あれ、思ったより少ないのね…えーと?一番最初は『八雲紫』?これはいいや。どうせ勝手に自分で首脳に任命するでしょ」
「何でお嬢様の情報が入ってないの?」
「今から小鈴と相談して資料を集めるところだったんです。だから今日来たのですが…」
咲夜の文句にカウンターから阿求の返答が飛んできた。魔理沙は無視して続ける。
「次だな。『西行寺幽々子』。444ページ。へー…妖怪じゃなくて亡霊なのか。八雲紫の親友にして冥界の白玉楼の主。能力は…『死を操る程度の能力』?!」
「控えめに言って強そうね。首脳に認定してもいいんじゃないかしら」
「お、『元首脳』って書いてあるぜ。…辞めさせられたのか?」
「そもそも首脳っていう制度自体今までなかったから、昔に一旦制度ごと廃止したのかもね」
「なるほど。能力の『死を操る』って…私達、人間だけど大丈夫なの?」
咲夜が急に不安でソワソワし始める。
「さあ?でも行ってみないことには始まらないでしょ?」
「それもそうね」
「その白玉楼へにはどうやって行くんだ?」
「それはここに書いてあるわ。『空の果てに結界あり、霊魂のみ通じ他は叶わず』…行くのは無理ってこと?」
「結界なら私が何とかするわ。私の専門分野だし、結界を緩めて侵入くらいお茶の子さいさいよ」
「まあ、霊夢は腐っても博麗の巫女だもんな」
「腐ってもは余計よ」
「さて、そうと決まったからには行こうか。阿求、ありがとな」
魔理沙は幻想郷縁起をカウンターに置くと3人はさっさと鈴奈庵を出て行く。嵐のような事の運びに一瞬ポカンとしていた小鈴はハッと我に帰ると叫んだ。
「片付けてくださいよー!ってあー、もう!」
玄関をピシャリと閉める音が聞こえた。小鈴が何とも言えない顔で本棚の前の本の山を眺める。
「危なかったね、小鈴」
阿求が呆然とする小鈴に声をかけた。太陽が雲に覆われたのだろうか、店の中が急に暗くなる。
「へ?何が?」
「私が気づかなきゃ、危うくあなたが処罰されるところだったよ」
そういうと阿求は咲夜が調べていた棚の前に行き、一番下の段の右端から本を取り出す。かなり古いのか、どす黒く汚れている。
「うわ…ありがとう、阿求。それもだったの?一応、一通り調べたつもりだったんだけど…」
「どうせまた後であの人に会うし、これは私が預かっておくね」
そう言って懐にその本をしまうと、阿求は小鈴の方に向き直る。
「それじゃ、レミリアさんの資料出してもらえる?」
「それより先に片付け手伝ってもらえる?これじゃお客さん来たら困惑しちゃうし…」
「それもそうね…」
霊夢達の後始末をやらされることになった小鈴と阿求であった。
最近セリフ多めにしているのだけどいいのかわかんない。