なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜   作:nyagou

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急を告げる無害事件

「こちらです!」

 

橙がそう言って人里に出来た黒い裂け目からピョンと飛び降りた。続いて紫が淑やかに降りる。さらに霊夢と魔理沙がヒラリと降りる。橙が先導するのについていきながら、魔理沙が霊夢に尋ねた。

 

「霊夢、あの変な裂け目の中の空間はなんだ?あんまり時間かからずに来れたのはいいんだが、中が本物じゃないけど目がめちゃくちゃあって気持ち悪くて…」

 

「ああ、あの亜空間ね。あれはあくまで紫の能力の副次的なものよ。むしろあの裂け目…スキマって言うんだけど、あれが紫の能力そのものって感じかしら」

 

「紫の能力?なんだそりゃ?」

 

「この際ついでだから覚えておきなさい、紫の能力は『境界を操る程度の能力』よ。事象の境界をいじることができるの」

 

「境界?どういうことだぜ?」

 

「たとえば、今のだったら博麗神社と人里はそれなりに離れてるし全くの別物でしょ?ということはそこに境界があるっていうことになるの」

 

「なんとなく言ってることはわかるぜ」

 

「だから、紫が博麗神社と人里の境界をいじることで本来なら離れてるはずの博麗神社と人里を無理矢理近づけることができる。でも現実では近づいているのはおかしいからあの亜空間が生まれるってワケよ」

 

「…わかった!とにかくすごいことが起こったんだな!」

 

「絶対わかってないでしょ…」

 

「そろそろ着きますよ!」

 

魔理沙の知ったかぶりを霊夢が嗜めているうちにもう襲撃現場に着いたようだ。人里の大通りのようで、急に視界が開ける。

 

「藍様、只今紫様と博麗の巫女と紫様曰く失礼極まる魔法使いをお連れしました!」

 

「名前がわからないからってその呼び方はないだろ!」

 

早速魔理沙がつっこむと白い道士服に紫のと似ている青い前掛けをしたのが割って入った。その人の腰には立派な9本の金色の狐の尾がふさふさと付いていた。

 

「どなたか存ぜぬが、私の式が失礼なことをした。橙に代わって私がお詫びを…」

 

「いいえ、失礼なのは橙ではなくてそこの魔法使いよ、藍。謝らなくてもいいわ」

 

「おい!」

 

「それで、その襲撃現場っていうのはどこなの?」

 

魔理沙と紫の延長戦が始まろうとしかかったところで、霊夢が藍に話しかけた。

 

「ああ、霊夢。それなんだが…実は襲撃はなかったんだ」

 

「「「「は?」」」」

 

霊夢のみならず、取っ組み合いをしている紫と魔理沙そしてそれを止めに入った橙までも唖然としている。

 

「どういうこと、藍?」

 

霊夢が詰め寄る。もし本当なら骨折り損のくたびれもうけだ。

 

「文字通りだよ、霊夢。人的被害はなし。物的被害もほぼなし。襲撃というには被害が軽すぎる」

 

「でも、調査中に藍様を襲ったあれは…」

 

「確かに、あれは凄まじいオーラを感じた。強者の覇気というやつかな。だから、橙を逃して紫様のところに急がせた。でも、戻ってきた時には既にいなかった。…不可解なマークを残してね」

 

そういうと藍は自身の後ろの方を指差した。その先には規制線を張り巡らしていて、人里の人間達が不思議そうに見ていた。

 

「マーク…?」

 

紫達が野次馬を払いつつ規制線の中に入ると、そこには地面いっぱいに棒で描かれたような謎のマークがあった。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

魔理沙があまりの異質さに驚く。

 

「これを上から見たのがこれだ」

 

藍がポケットから紙を取り出して広げる。

 

「このように4のような方位記号が4つ、十字になるように南の部分を一点に集め、東と西が重なるように延ばして描かれている。描いた目的も描いた動機も不明。もしかしたらただのイタズラかもしれないが─紫様?」

 

藍が紫の異変に気づいて言葉を止める。紫はさっきまでのナルシスティックな態度は消え失せ、言葉もなく膝をついて青ざめている。

 

「大丈夫ですか、紫様!」

 

藍と橙が紫の元に駆け寄る中、魔理沙はなぜか口角を緩ませて空を見つめる霊夢の姿を怪訝そうに見ていた。

 

 

***

 

 

「─という状況でした」

 

「人里でそんなことが…難しいことになったわね」

 

カーテンを閉め切った、魔法灯の光が煌々と照らす執務室のような部屋の中、重厚感があるアンティーク調の机の前で人里の状況を報告する銀髪メイドの姿があった。机の向こう側には大きな椅子に座ってる割には小さな子どもの体型をしているピンク色の衣服に包まれた女の子が座って聞いていた。よく見ると背中に広げたら身長よりも長くなりそうな翼が折りたたまれていた。椅子が大きい理由はこの翼のせいかもしれない。

 

「どうする?レミィ。私としては一旦計画を見送るべきだと思うのだけど」

 

そう言ったのは女の子とは少し離れて座っている薄紫色の寝間着に紫髪をした少女。動くのが億劫なのか、深々と椅子にもたれ混んでいる。

 

「確かに…今は幻想郷の主力が人里に結集している状況です。博麗の巫女だけならまだしも、八雲紫まで相手にするとなると勝率が大幅に下がります。しかも、ここは人里からあまり離れてないですし…やはりパチュリー様のいうように見送る方が賢明かと」

 

メイドが淡々と意見を述べる中、レミィと呼ばれた主人らしき女の子が椅子から立ち上がって窓の方に近づきカーテンを開け、さらに窓まで開けて外の風景を眺めた。外には湖が広がり、さらにその向こうにはこんもりとした森が長い影を落としている。そして、それは日の入りを告げるものでもあった。目を閉じ、外の空気を十二分に吸い込む。

 

「お、お嬢様?…」

 

メイドは『お嬢様』の真意を測りかねて尋ねる。

 

「決めた。計画はこのまま決行よ」

 

「わかりました…ってええ?」

 

『お嬢様』の口から思いがけない言葉が飛び出してメイドは驚く。紫髪の少女もポカンと口を開けている。

 

「門番にも伝えておきなさい。このまま続行、鍛錬怠ることなかれと」

 

「今の話を聞いてたの?このままでは明らかに不利な状況で始まってしまうわよ?!」

 

「このレミリア・スカーレットが判断を誤ったことが一度でもあったかしら?」

 

『お嬢様』は紫髪少女の立ち上がってまでした反駁を圧倒的カリスマで威圧すると窓を背にくるっと向き直った。左目の真紅の瞳が炎のように紅く輝く一方、右目は閉じていた。紫髪少女とメイドはハッと息を呑む。

 

「その目…まさかあなた、『見た』の?」

 

「ええ、多少計画に響くかもしれないけど…それはあなた達次第ね」

 

夜が迫ってきたのだろう。レミリアの後ろの窓の空が帷を下ろすように青く、そして黒くなっていく。その中、真紅の瞳は妖しく爛爛ときらめていた。レミリアは閉じた右目を隠すように右手を顔に当て、左手をそれに添えて言い放った。

 

「運命は既に決定された。動け、我がしもべ達よ。運命をあるべき姿に導け。─紅魔館当主、レミリア・スカーレットの名の下に命ずる!」

 

「「承知しました!!」」

 

メイドと紫髪少女はレミリアの前に跪いてそう答え、執務室を出ると駆け足で廊下を走っていった。

 

 

***

 

 

「なんで笑っているんだぜ?霊夢」

 

魔理沙は黙々と作業しつつもどこか薄ら笑いを浮かべる霊夢に尋ねた。

 

「…勘ではわからなかったから」

 

「は?」

 

霊夢はそう言うと整地用のトンボをグイッと前に突き出した。あの後、藍と橙の介護もあってなんとか回復した紫は霊夢と魔理沙にマークの消去を命じた後すぐに、藍と橙を連れてスキマでどこかに行ってしまった。反抗しようにも紫達はあっという間に行ってしまったので、仕方なく近くの民家からトンボを借りて今に至るというわけだ。

 

「勘でわからなかったって…むしろやばいんじゃないか?」

 

「そうよ。確かにやばいわよ。それほど先が見えない、強力な敵ってことだからね」

 

「じゃあ、なんで霊夢は喜んでいるんだぜ?」

 

「やっとレールが外れたからに決まってるじゃない」

 

霊夢はトンボの手を止めて言った。魔理沙は霊夢がここまで清々しい顔をしているのを見たことがなかった。

 

「どんな敵かは知らないけど、ここまで私を楽しませるものはないわ。普段なら、能力でこの後何が起こるか全部わかっちゃって、仮にそれが重大な変化だったとしても来ることがわかってるからすんなり受け入れて…でも今はお先真っ暗でゼロから始まる大戦争。…ああ、何年ぶりかしらこの感覚は!ゾクゾクするわ」

 

「…完全に戦闘狂のセリフなのぜ」

 

舞い上がっている霊夢にため息をつきながら、魔理沙は残った僅かな地面のマークをトンボで引いて消した。

 

「完全に消してくれた?」

 

紫が再びスキマから現れた。もちろん先程の藍と橙も一緒である。どこか顔が強張っている感じではある。

 

「ええ、もちろん。ただ、もう人里じゃあもうこのマークの噂で持ちきりよ。神が降臨するだの幻想郷が崩壊するだのって…文屋が号外号外って叫んでるのを聞いてるのにも慣れちゃったわ。で、あのマークは一体なんなのよ?」

 

霊夢はぶちのめす気満々である。拳に力を入れて、紫にずけずけと質問する。

 

「…そうか。もう人里に漏れたか…仕方ないわよね、いつかはこうなるって私もわかってたもの…」

 

「霊夢の質問に答えなよ、紫。全く答えになってないぜ」

 

魔理沙は戦闘狂ではないが、興味はあったので霊夢に加勢する。もっとも太陽が沈みかけてるせいか『さん』付けはどこかに行ってしまっている。

 

「詳しいことは言えない。でも─」

 

「「でも?」」

 

「幻想郷に仇なす存在であることは間違いないわ」

 

紫は俯きながらもそう答えた。

 

「それだけ?」

 

「言えるのはここまでよ」

 

「ふーん、わかった」

 

霊夢は紫があまり情報を言わなかったのにもかかわらずもう満足したのか、あっさり引き下がった。慌てて魔理沙は霊夢の袖を引っ張って紫達には聞こえないぐらいの距離まで離れてから霊夢に少し激昂しながら言った。

 

「おいおい、どうみても紫はもっと知ってそうじゃん!何で引き下がるんだよ?!」

 

「…見た感じ、まだ紫自身もこの状況を整理できてない。だから今問い詰めたって無駄よ。紫自身もわからないことだらけなんだから。今はまだ早いわ」

 

「でも…」

 

「まあ、いいじゃない。たまには自分の足で丹念に敵を追い詰めるのも悪くないわ。それに…」

 

「何だ?」

 

「もうすぐ異変が起こるんだし」

 

霊夢が急に真面目な顔になって言った。

 

「え?」

 

魔理沙が素っ頓狂な声を出した瞬間、今まで太陽が地平線の下まで沈み切って青みがかっていた空が急激に紅く染まり出した。霧なのだろうか、どんどん広がっていっている。遠くの紫達も驚いて空を見上げている。

 

「マジかよ…これで3連チャンだぜ…」

 

「今夜は寝かさないって感じかしらね。まあ、なんでもいいわ。とっととぶちのめしに行きましょ!」

 

魔理沙が呆れた顔をしている一方で、霊夢は大幣を肩に担いで勢いよく空へと飛び出した。

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