なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜 作:nyagou
魔理沙が、逃げるこあを追いかけるために玄関ホールを駆け抜けた頃。
「派手にやってるわね。まあ別に悪くはないけども」
爆破された玄関から入ってきたのは霊夢。いつものように大幣を肩に担いで乗り込んできた。
「さて、今通ったのは魔理沙と敵かしら。とりあえず魔理沙と合流して…」
霊夢が左の方で遠ざかっていく人影を確認し、そちらに向かおうとした瞬間─
「はっ?!」
霊夢が咄嗟の判断で身をかがめ、右へ転がる。次の瞬間、ナイフ型の弾幕が霊夢のいた場所に正確に突き刺さっていた。
「あら、今の避けるのね。かなりギリギリまで近づけてみたのに…さすが博麗の巫女を名乗るだけあるわね」
いつの間にいたのだろうか。銀髪のメイドが階段前で佇んでいた。目は青く、見つめていたら吸い込まれそうな瞳をしている。
「…あんた誰?」
「私は十六夜咲夜。紅魔館メイド長にして人間よ。美鈴はどうしたの?」
「既に始末したけど…それが?」
「そう。じゃあやっぱりあなたには死んでもらうしかないようね、博麗の巫女」
咲夜がポケットからナイフを取り出す。霊夢も御札と封魔針を構える。
(こいつはやばいわね…。何より…)
霊夢が咲夜の方を睨む。久しぶりのゾクゾク感に心躍らせつつも、同時に恐ろしい事実に冷や汗をかいている。
(勘が…全く通用しない…!)
***
「一難去ってまた一難、か」
魔理沙は三角帽を被り直した。パチュリーは冷徹な目で空中から魔理沙を見下している。
「だが、難局を乗り越えることこそ人間の本懐ってもんだぜ」
魔理沙は八卦炉を構える。何故かパチュリーの目は八卦炉に吸い付けられた。輝いているようにも見える。
「いい魔道具ね。あなた、もしかして魔法使い?」
「ああ、そうだ。人間代表の魔法使い様だぜ」
「人間なのね…それは残念。生粋の魔法使いなら仲良くなれそうだったのに」
そう言うと、パチュリーは手に持っていた魔導書の表紙を開けた。するとパラパラと魔導書はひとりでにページをめくり始め、パチュリーの周りに魔法陣が形成され出した。
「せめてあなたの魔道具だけでも私のコレクションに加えることにするわ。だから安心して死になさい、人間」
「不安だから死ぬことはあるかもしれんが、死んだら安心するなんて聞いたことがないぜ」
魔理沙はパチュリーの辛辣な言葉に対してアイロニックに返す。
「ふん…本に書かれてる通り、人間は弱いくせに強がるわね。とりあえず小手調べから」
次の瞬間、パチュリーの前後左右の魔法陣から細いレーザーが斜め上と斜め下そして真っ直ぐの3方向に射出された。しかもその魔法陣はパチュリーの周りを周り始め周囲を薙ぎ払う。
「レーザーって魔道具なしで打てるものなのか?!」
「魔法使いだったら、こんなの常識よ」
魔理沙は走りながらレーザー光線を回避しつつ驚くが、パチュリーは何食わぬ顔である。そのままレーザーを出しつつ、本に触れると本に書かれた魔法陣が発動し魔理沙に向かって小さな球状の弾幕を数十個飛ばした。
「やるなあ…だが、私のレーザーはこんなものじゃないぜ!恋符『マスター…あれ?」
魔理沙は違和感を感じて八卦炉を見る。なんと八卦炉は煙を上げていた。さっき本棚を吹き飛ばした時のオーバーヒート状態がまだ続いているようだ。
「ぬあああ!なんてこったあ!」
魔理沙は箒に飛び乗って急上昇する。なんとか全ての弾幕を回避したが、かすったのか服の右袖に焼けた穴が見える。
「このお…!くらえ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙は空中で魔法陣を展開し、そこから星型の弾幕が空間を敷き詰めるようにばら撒かれる。パチュリーは迫ってくる弾幕を避けもせずに眺めるとこう言い放った。
「ふん…魔道具に頼りっぱなしではないのね。では…」
パチュリーが魔導書を10ページほど一気に捲ると、本を中心に魔法陣が描かれた。次の刹那、炎の渦がパチュリーを包み込む。
「火符『アグニシャイン』」
魔理沙の星型の弾幕は渦に吸い込まれてなくなり、渦は煌々とオレンジ色に周囲を染めつつ、さらに火力を増して膨張する。パチュリー自身を守りつつ、魔理沙を圧倒的な火力で攻撃する。攻守ともに完璧すぎる弾幕だ。
「これは…反則だろ…」
魔理沙は天井に張り付いてみたものの無駄なことをすぐに悟った。天井から床まで入り込める一切の隙がない。炎は眼前に壁のように広がり魔理沙を部屋の端へと追い詰めている。退路は本棚で塞がれた。もう一か八か渦の中の炎の薄そうなところに焼身自殺覚悟で飛び込むしかない。魔理沙の瞳に壁にかけられたこの部屋の時計が映る。
「20時20分20秒…ラッキートゥエンティってな!」
魔理沙はせめてもの幸運を祈ってニヤリと不敵に笑うと、竜巻のような炎に飛び込んだ。
***
一方その頃。
霊夢と咲夜は玄関ホールにて激しく弾幕を撃ち合っていた。針とナイフが火花を散らしてぶつかり合い、霊夢と咲夜は蜂のように残像が残るレベルで飛び回っている。ただ咲夜の残像は霊夢とは違い、まるで点滅しているかのように移動している。咲夜の弾幕であるナイフも同じように霊夢の前に突然現れては攻撃し、霊夢がそれを避けている。
「なかなか速いのね。私の速度についてくるなんて」
メイドが一旦攻撃をやめて階段の上に降り立ち、霊夢の方を向きながら話しかける。
「時を止めてる奴には言われたくないわね」
「あら、もうわかったの?」
「私の勘は超越した視点から幻想郷を見るというもの。そこに現在も過去も未来も関係ない。でも幻想郷を見ている以上、そもそも幻想郷のものではなかったり、幻想郷自体を弄られたら若干のズレが生じる。だから勘は概念系能力者には弱いのよ。勘が通用しない時点であんたのは概念系能力ってことがわかれば、後は戦ったらどんな能力かくらいはわかるわ」
「ふーん…それだけ?わかったのは」
「後はさっきの初見の攻撃から判断するに時を止めている間はあんたも弾幕も攻撃対象に2メートル以内には近づけない。投げてきたナイフの本数から見るに時止めの時間は5秒くらいかしら?」
「エクセレント。ここまで私を理解したのはお嬢様以来ね」
「ラスボスみたいな能力しやがって…お嬢様とやらもやろうと思えばやれるんじゃないの?」
「それはない。お嬢様は至高なる御方だから」
「じゃあこの場でくたばりなさい」
「お嬢様のために死ぬならば望むところよ!」
第二ラウンド開始。先手を取ったのは霊夢だった。霊夢は今度は弾幕ではなく肉弾戦にしてみようと、地面を蹴って階段を飛び越えて近づく。咲夜は間合いを取ろうとしてさらに上へと離れる。体術を使うにはあまりにも遠く、結局針とナイフが入り乱れる弾幕戦になった。しかし、霊夢は今ので確実に咲夜の攻略法を掴んだ。
「だんだん読めてきたわ。あんた、近くに誰かいたら時を止められないでしょ」
「ふふ、だからなんだと言うの?」
霊夢は咲夜のナイフの弾幕を掻い潜りつつなんとか近づこうとする。しかし─
「動かれる前に時を止めたらいいだけよ!幻世『ザ・ワールド』!」
その瞬間、咲夜の身体を中心に半径2メートルくらいの時計陣が浮かび上がり、時計陣より外の空間がモノクロの世界になって時が止まった。咲夜の目は青から赤に変わっていた。次の瞬間、咲夜は霊夢に向けてナイフを投げる…と思いきや、青いナイフは確かに霊夢を狙って投げたが緑のナイフだけ何故かめちゃくちゃに投げた。
「陸に上がった河童。勘の使えぬ巫女…くたばるのはあなたの方よ!」
咲夜が止まって動かない霊夢にそう言った次の瞬間、時は動き出す。霊夢はさっきも見たという感じだったが、緑のナイフの配置を見て目を見開いた。
「しまった…!」
霊夢は持ち前の抜群の身体能力で完全に咲夜の攻撃の避け方をパターン化していた。パターンというのは物事を効率よく動かせる一方、パターンから外れると人間は一瞬反応が遅れてしまう。それがランダムに撃ち込まれた弾幕の前でおこってしまった。
霊夢の右前腕に2本の緑のナイフが突き刺さる。血で白い袖が真っ赤に染まる。霊夢はこれ以上被弾しないため、距離を取ろうと玄関前に崩れるように落ちた。咲夜は追撃を加えるべく階段前に降り立つ。
「博麗の巫女とはいえ、所詮あなたも時に囚われた存在。あなたが私に勝てるわけがないのよ」
咲夜がツカツカと倒れかかっている霊夢に近づく。霊夢は咲夜の腰についている懐中時計をみる。そして立ち上がりながら咲夜を見返した。霊夢が完全に立ち上がったのを見て咲夜が歩みを止める。咲夜はナイフをポケットから取り出し、いつ攻撃されてもいいように構える。
「確かに一撃喰らってしまったわね。ご褒美に一つ予言してやるわ」
「予言?」
「あと20秒後、あんたはそこから一歩も動けずに敗北する!」
霊夢は自信満々に咲夜に言い放つ。その凄みは勝っているはずの咲夜をも圧倒した。
「ははは、そんな馬鹿な。第一、あなたはあなたを最強たらしめる勘を私の前では全く使えないじゃない」
「本当にそうかしらねぇ?」
霊夢が不敵に咲夜を挑発する。咲夜はナイフの狙いを霊夢に定めながら考えた。
(霊夢が勘を使えないのは霊夢自身も言っていた。間違いない。間違いないはずなのに…何でここまで余裕そうなの?今私が勝っているのに!それに動けないってどういう…!)
「霊符『夢想封印』!」
霊夢が不意に飛び上がると、霊夢の周囲から大きな色とりどりの光弾を咲夜に向けて撃った。光弾が咲夜めがけて激走する。しかし、咲夜は全く動じない。
「何だ、ただのハッタリか。でも残念、時を止めて仕舞えばなんてことは─」
能力を発動しようとしたその瞬間、咲夜が自身の異変に気づく。咲夜の目は青いままだ。時計陣も出ない。灰色の世界にならない。つまり─
「と、時が…止められないッ!馬鹿な!」
光弾は咲夜からまだ5メートルくらいは離れている。能力を発動するのには全く問題ない距離のはずだ。しかし発動しない。
「まずい、躱さなくては…!」
「出来ないわよ。今のあんたじゃあね」
「ハッ?!」
霊夢は咲夜を見下しながら言う。咲夜は驚きで固まってしまっている。
「あんたは今まで時を止めることで私の弾幕を対処してきた。だが、もうあんたには能力はない!そして、この光弾はあんたのチンケなナイフぐらいでは受け止められない!ゲームオーバーよ、咲夜!」
「く、クソがああ!」
次の刹那、霊夢の全弾幕が床に立ち尽くす咲夜に襲いかかった。
爆煙が晴れ、霊夢がその火元に音もなく降りる。倒れて動けなくなっている咲夜が微かな声で言った。
「冥土の土産に…教えてくれない?何で私は…」
「メイドだけにって?しょうもないわね…まあいいわ、教えてあげる。あれは私の勘よ」
「勘…?私には効かなかったって…」
「確かにあんたの攻撃は勘ではわからない。でも今地下で戦っている私の仲間の位置ならわかる。そしてあんたの能力は人が近くにいると使えない。だから私は勘をフル活用してあんたではなく私の仲間の位置を探知したのよ。そして20時20分20秒に私の仲間はちょうどあんたが今いるところの反対側で張り付いているとわかった。後はあんたをやられたフリで誘導するだけ。…一か八かの作戦だったけど、うまくいって何よりだわ」
「…流石ね、博麗の巫女…私もあなたみたいに…いつかは…」
そう言い残すと咲夜は青い瞳をゆっくりと閉じた。そして霊夢は何も言わずに前を向き、階段を登り始めた。