なんかおかしい幻想郷 〜失楽園の素敵な巫女〜   作:nyagou

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出会いとは残酷なものにして

「ここで待ちましょう」

 

紫がそう言うと霧の湖の畔に降り立った。霧の湖という名の通り、元々霧が湖の上に立ち込めているのだが、今夜は撒き散らされた紅霧と相まって一層濃くなっている。

 

「霊夢達が首謀者を倒し次第、調査に入るわ。あなた達は一旦大官邸に戻って他の幻想郷の被害状況を調べなさい」

 

もう紫は大丈夫なようだ。この状況に対して的確な指示を出しつつ、スキマを使って大官邸へのルートを作り上げていく。ちなみに大官邸とは紫の家のことである。

 

「しかし、ここまでの規模となりますと首謀者も相当な強者と予想されます。私の計算では霊夢達だけでは厳しいとなっておりますが…」

 

「問題ない。あの子達ならきっとやってくれる。それにあくまで欲しいのは『博麗の巫女が異変を解決したという事実』。仮に追い込まれたら私も援護するわ」

 

「承知しました。では」

 

そう言うと藍は橙を連れてスキマの中に消えていった。スキマは閉じ、それを見届けた紫は紅魔館の方へ歩き出した、その時だった。

 

「久しぶりだな、紫」

 

紫の背後から声が聞こえた。後ろに誰かいる。そして紫は目を見開き、冷や汗をかく。その後紫は目を閉じて覚悟を決めるとぐるっと振り返った。

 

 

***

 

 

熱い。すんごく熱い。息が焼けるように熱い。いや、文字通り焼けてるのかもしれない。パチュリーの炎の渦の中でそう魔理沙は思った。

 

「死ねる熱さだなぁ、こりゃ」

 

終わりが見えない炎の中を進みながら魔理沙は呟いた。死んだら霊夢にどう言い訳しよう。せっかく霊夢に拾ってもらった命なのに。そうだ、あの時の私もこんなに燃え盛る炎の中にいたっけ─

 

 

魔理沙は人間だ。人里において裕福な古道具屋の娘で、幼い頃は不自由なくお嬢様のような生活をしていた。古道具屋の下男を揶揄ったり、古道具をいじったりしてそれはそれは愉快な生活をしていた。

 

しかし5才の七夕のお祭りの日、状況は一変した。その日の夜はせっかくの七夕だというのに、厚く雲がかかっていて天の川も月すらも見えない、そんな暗い夜だった。

 

「お父さん、なんでお星様が出てこないの?今日はお祭りだよ?」

 

曇りとはいえ人里はお祭り騒ぎで屋台があちこちで開かれ、大通りがぎゅうぎゅうになるほど賑わっていた。魔理沙は押し潰されそうになりながらも父親に手を引かれつつ、父親にそう尋ねた。

 

「うーん…今日は曇りだからなぁ。仕方ないよ」

 

「そっかぁ…じゃあ、私が出してあげる!エイッ!」

 

「え?」

 

魔理沙の手から星が出た。星達はフワフワと空へ浮かんでいく。周りにいた人間達幻想郷それに気づいた。

 

「あれって…魔法じゃない?」

 

「え、まさか、妖怪?」

 

「危ない、逃げろ!食われるぞ!」

 

怒号と悲鳴が人ごみを貫き、魔理沙の周りから一斉に人が遠ざかる。お祭りはもうめちゃくちゃになり、無秩序の塊と化した。

 

「え?何?お、お父さん?」

 

魔理沙は混乱しながらも父親に縋ろうとして探した。逃げた群衆の中に父親がいたとも知らずに。

 

 

魔理沙が本来妖怪にしか使えないはずの魔力を使えた。その事実が人里中に広まるのにそう時間はかからなかった。

 

「なんで?どうして?!私のおうちはここよ!?」

 

「恐れながら、私のご主人が入れるなとおっしゃいましたので…」

 

疲れでふらふらになりながらもなんとか1人で帰ってきた魔理沙といつも揶揄っていた下男が店先で押し問答をしていた。

 

「お父さんがそんなことを言うはずがない!だって私は…」

 

「お嬢様…」

 

下男が片膝をついて魔理沙と同じ目の高さに目を合わせる。下男の目には涙が溢れ、肩が震えていた。

 

「もう…何もかもおしまいでございます…!」

 

「うう…」

 

魔理沙は呻き声を上げる。幼い魔理沙にも涙はわかる。どれほど揶揄ってもほのかな苦笑で済ませてきた下男がここまで自分のために泣いているのがわかる。そしてそれほど残酷なことが自身に起こったということも。

 

「うわああああん!」

 

魔理沙は大声で泣いた。下男は魔理沙をひしと抱きしめた。魔理沙の涙が天からこぼれ落ちるようにどんよりとした雲から大粒の雨が降りはじめていた。

 

 

そこからはどん底の日々だった。寝るところも食べるものもなく、人里の薄暗いゴミ捨て場を漁ってはまだ食べられそうなものを探した。それよりももっと恐ろしいのは─

 

「おい、あそこでゴミ漁ってるのって例の魔女じゃないか?」

「お、魔女だ!やっちまえ!」

 

─魔女狩りだ。妖怪に憎しみを持つ一部の人間達が魔理沙を妖怪と決めつけて殺しにかかるのだ。魔理沙は確かに魔法を使える。しかしまだ幼すぎて敵を撃ち倒せたり空を飛べるほど魔力は強くない。だから魔理沙は地べたを走ってただ逃げるしかなかった。

 

「どこへ行った?!」

「探せ!きっとそう遠くには行ってないはずだ!」

 

大の大人達がドカドカと走り回っているなか、魔理沙は民家の前にあった空の大きな壺に潜り込み、口に手を当てて息を殺して過ぎ去るのを待った。

 

「…行ったか?」

 

魔理沙が周りの様子を見ようと首を出した瞬間…

 

「お、やっと見つけたぜえ、魔女!」

 

男の太い腕がにゅっと伸び、魔理沙の首根っこを引っ掴むと魔理沙は壺の外に放り出された。

 

「は、放せえ…」

 

「ジタバタするなよ、魔女。これからもっとジタバタすることになるんだからなぁ!」

 

必死になって抵抗する魔理沙を樽のように持ち上げると肩に乗せて男は歩いて行った。

 

 

「人里を混乱に陥れ、恐怖で人間を支配せんとした魔女!ここに私刑を決定する!」

 

さっきの捕まえた男が高らかに魔理沙の前でそう宣言した。魔理沙は十字架に縛り付けられ、十字架が突き刺さった根本にはありったけの材木が積まれていた。

 

「魔女死すべし!滅ぶべし!」

 

魔理沙を囲むように座っていた取り巻き達が一斉にそう唱和する。男は松明をとって十字架に向かう。

 

(ハハ、なんでこいつが殺されなきゃいけないかわかんねーけど、これで俺は人里の英雄だ!俺という人生の礎になれよぉ、魔女!)

 

男はそんなことを思いながら松明をたかだかと掲げた。

 

「魔女死すべし!」

 

男はそう叫ぶと松明は十字架の根本に向かって振り下ろされた。パチパチと音を立てて材木が燃えていく。徐々に登ってくる火を見て恐怖で魔理沙は声も上げられずにただ目を見開いて足元の火を見つめていた。

 

(なんで、どうして…私はただ魔法を使えただけなのに!それでなんで私がこんな目に?別に人を傷つけたわけではないのに!なんでなんだよ?!)

 

火が魔理沙の足を舐める。熱が足に劈くような痛みを与える。魔理沙は悲鳴をあげ、群衆は満面の笑みで拍手し魔女死すべしと唱和する。

 

(痛い!痛いよ…お父さん)

 

魔理沙は助けてくれるはずもない父親を思い出す。しかし、燃えていく足の痛みでかき消えてしまった。油でもしいていたのだろうか、十字架のてっぺんまで一気に炎が燃え広がる。魔理沙は背中も燃やされ再び悲鳴を上げる。拍手が再び上がる。魔理沙は痛みと悲しみで涙を流しながら目を閉じる。

 

(誰か…助けて…)

 

そう思った時だった。

 

「何やってんのよ、あんたらあ!」

 

空から声が聞こえた。魔理沙が目を開ける。次の瞬間、群衆のいるところで爆発が起き、群衆が悲鳴を上げる。そして魔理沙の懐に赤い巫女服の子どもが飛び込んできた。

 

「今助けるからね!」

 

その子どもはするすると魔理沙に巻きつけられた燃え盛る縄を解いていく。しかし、火の手は早く巫女服に炎が燃え移った。

 

「お、おい!お前も焼けてしまうぞ!」

 

魔理沙はその子どもに忠告する。

 

「だから何?!あんたも焼けてるでしょうが!」

 

そう言い終わった時にちょうどほどき終わった。その子どもは素早く魔理沙をお姫様抱っこするとそのまま空へと飛び上がった。

 

「うおおお?!」

 

魔理沙は生まれて初めての空を飛ぶという経験にびっくりする。火もあまりに早い移動スピードのお陰で消えてしまった。

 

「飛ばすわよ!」

 

その子どもは勢いよく加速すると爆煙と悲鳴が渦巻く現場を後にした。

 

 

「ありがとう、助けてくれて…」

 

魔理沙はその子どもに礼を言う。魔理沙達はあの後神社のようなところに降り、魔理沙は布団の中に寝かせられていた。

 

「…礼なら私じゃなくて私のお母さんとあんたのとこの下男に言いなさい。私はただあんたを連れ出しただけなんだから」

 

「…下男?お母さん?」

 

「あんたのとこの下男がこの博麗神社に来て、あんたが殺されかかってるって教えてくれたのよ。それにあの群衆に弾幕を打ち込んだのは私のお母さん。今頃あの群衆共と話をつけてこっちに向かってると思うわ。…ああ、もっとも私がお母さんって呼んでるだけで血縁はないらしいけどね」

 

「へえ…ところで、お前名前は?」

 

「初対面でお前って…まあいいわ。私の名前は博麗霊夢。次代博麗の巫女よ」

 

それが霊夢と魔理沙の初めての出会いだった。

 

 

その後、魔理沙は魔法の森という魔力なしの人間では住めないような森に住むことが決まった。下男は一連の出来事で嫌気がさしたのか店を辞め、魔理沙が住むための家を建てるときに金銭的な援助をしてくれた。

 

霊夢の方では元人間の魔法使いが近くにいると調べてくれ、その人のところにいくとその人の師匠に弟子入りすることを勧めてくれた。なんだかんだあって師匠も霊夢のお母さんである先代も死んでしまったが、特段不自由せずに今日まで生きることができた。そして、今に至る。

 

 

「はっ…走馬灯か?今のは…」

 

魔理沙は意識を取り戻す。魔理沙の周りには相変わらず炎が渦巻いている。

 

「でも、今ので勇気をもらえたぜ」

 

魔理沙は八卦炉を見つめる。もう煙を上げていない。完全に治ったようだ。魔理沙は三角帽を被り直して箒の束ねている藁の根元に八卦炉を取り付ける。

 

「この拾ってもらった命、まだ捨てるわけにはいかねえってなあ!いくぞ!彗星『ブレイジングスター』!」

 

次の瞬間、魔理沙の箒に装着された八卦炉から極太のビームが放たれ、その反動で魔理沙が周りに星型の弾幕をばら撒きつつ加速する。魔理沙はその勢いで炎の渦を一気に突き破り、ついに突破した!

 

「なにっ?!」

 

まさかの突撃に対してパチュリーは急速接近する魔理沙のスピードに対応できない。

 

「しまっ…!」

 

魔理沙はそのままパチュリーの頭めがけて頭突きをかます。ゴツンという鈍い音と火花が立ったかと思うとパチュリーは脳震盪を起こしたのかそのまま意識を失って地面に落ちた。

 

「パチュリー様ああ!」

 

こあが急いでパチュリーの元に降りていく。

 

「ふう…硬いのは頭の中だけだったようだぜ」

 

魔理沙はそう言いつつ倒れているパチュリー周りであたふたするこあの目の前に降り立つ。

 

「ひいッ!」

 

こあがすくみ上がる。魔理沙はこあにガンを飛ばしながら言った。

 

「『お嬢様』とやらはどこだ?」

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