落伍者たちのロードムービー 作:野生の虚妄クトゥム
第1話「ツッパってなんぼの不良道なんだよォッ!」
キヴォトス屈指の無法地帯ブラックマーケット。
澄み渡るほど快晴の青空とは対照的に、空気が常に淀んでおり常人には足を踏み入れることもためらわれる危険地帯。
そんな闇と策謀渦巻く悪の坩堝では今日も至るところで争いが起きていた。
「おらおらおらーッ! くたばりやがれなんとかヘルメット団共ッ!」
「チッ、ただのチンピラ風情がいきがんな! お前ら撃て撃て、数で押していけ!」
荒れた道路を挟んでの銃撃戦。
片側にはヘルメットを装備した大勢の少女たちが詰めかけており、もう一方にはロボットの青年とそれを守る黒セーラー服姿の少女たち3人が遮蔽物を駆使して戦っていた。
もちろん数の多いヘルメット団の方が優勢であり応戦している3人の少女は防戦一方である。
「ひいいい! も、もう終わりだあ! こんなチンピラなんかに護衛を頼むんじゃなかったあ!」
「チンピラチンピラうるせーッ!」
「ひぃっ! か、顔が怖いよ『アネゴ』ぉ……」
セミロングの薄茶髪をばさりと翻しながらショットガンを構えた不良少女──アネゴが遮蔽物に隠れながら依頼人であるロボットの青年に怒鳴る。
その怒鳴り声に反応して小さな悲鳴をあげたのはグレネードランチャーをリロードしていた灰長髪の小柄な少女。
アネゴは少女の方をじろりと睨むとニイッと口角を上げた。
「いいか『チビ』! アタシら不良はナメられたら終わりなんだッ! ツッパってなんぼの不良道なんだよォッ!」
「で、でもこのままだと依頼人さんを守りきれないかも……敵の数が多すぎるよ……!」
「……アネゴ、応戦はやめて目的地への到着を優先しよう」
スナイパーライフルを抱えながら端末を操作していた長身の少女が口を開く。
すかさずアネゴが少女に怒りの形相を向けた。
「んだとォ!? このアタシに尻尾巻いて逃げろってのか『ノッポ』!」
「……はあ、アネゴ熱くなりすぎ」
ノッポは黒のボブカットを揺らしながらため息をつき、アネゴに向き合う。
「依頼内容は戦闘じゃなくて護衛。それにあの数のヘルメット団には勝てないよ」
「んなもん! やってみなけりゃ──」
「弾が足りない」
「……ん、ぐぬぬ……!」
「幸いというか、目的地はマーケットガードの巡回ルートと重なってる。奴らもそこまでは追ってこないはず」
「つっても不良にゃあ引けねェ時が──」
アネゴが反論しようとしたその時。遮蔽物の向こうでドカンと大爆発が起きる。
2人がおもわずチビに目を向けると、彼女は小さくピースサインを作りながらふやけた笑顔を2人に向けていた。
「えへへ、話は聞いてたよ……どう? ウチの子の効果」
遮蔽物の向こう側には一寸先も見えないほどの濃霧が発生していた。
チビの特殊弾による煙幕である事を理解したノッポは、あまりの規模の大きさに口元が少しひくついた。
「……アネゴ、今しかない」
「チッ、仕方ねェか。チビがやってくれたからにゃ応えねェとな」
ガシガシと頭を掻いたアネゴは依頼人にずかずかと近寄り、彼の体に手を伸ばす。
「ちょいと失礼しますよっと!」
「え、ちょっと、あの、いきなり何を!?」
「お前ら、依頼人担げェ!」
アネゴの号令を合図に3人がかりで依頼人は担ぎ上げられた。
依頼人を中心にアネゴが前方に控え、背後にまわった他2人が両手を使いしっかり中心を支える。
こうして世にも奇妙なキヴォトス護衛騎馬戦が完成した。
「アネゴ、場所はわかるよね?」
「あったりまえだ! さあ行くぞォ!」
「お、おー!」
「うわあああああ!?!?!?」
爆走する三人騎馬。
ヘルメット団は未だ収まらない煙幕の霧に囚われており彼女たちを捕捉できていない。
「くっ、逃がすな! 追えー!」
「何も見えなくて追えませぇん!」
「
「チッ、あと一歩のところで!」
「ハッハッハッハ! ざまァ見やがれヘルメット共ォ!」
こうしてブラックマーケットで起きているありふれた争いがひとつ消滅した。
「い、一応報酬は払うが……もうお前らチンピラなんかに依頼しないからな!」
「ハッ、肝っ玉の小せえ依頼人はこっちから願い下げだ! 行くぞお前ら!」
無事護衛依頼をこなしたアネゴたちは、ふんだくるようにクレジットを依頼人から受けとった。
彼女たちはその足で、ブラックマーケットの中でも露天商の多い地域に来ていた。
「あ、ありがとうみんな。わざわざウチの買い物の付き添いに来てくれて」
「良いって事よ! お前の欲しがってたモンも気になるしな」
「なんかチビ先輩は放っておいたら変なもの買わされてそうだし」
「そ、そこまで流されやすくないよ……! やっと貯まったお金で買うんだから……」
雑談しながら露天商の間を進んでいく一行。
その時、一人の少女が彼女たちの横を通り過ぎた。
ハッとした表情で振り返ったアネゴは、2人を抱き寄せる。
「急に何?」
「……おい、今の奴見たか?」
「へ? えっと、すごく綺麗な人だったような……」
「──錠前サオリ。ブラックマーケットに出入りしてる連中の中でも、ちっとは
「……アネゴが他人を気にするの珍しい」
もう一度振り返り、去りゆくサオリの背中を見つめるアネゴ。
心なしか彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「くぅ~、かっけーなァ! サマになってるっつーか、風格ってェの? ザ・強者って感じでさ! 憧れるよなァ〜!」
「アネゴって、憧れの人とかいたんだ」
「い、意外かも……」
2人の失礼な発言は、サオリに思いを馳せていたアネゴの耳には入らなかった。
「っと、足止めちまった。悪ィなチビ」
「だ、大丈夫。もうすぐそこだし……」
再び歩きはじめる一行。
それから数分後、ひとつの怪しげなテントの前でチビの足が止まった。
「こ、ここが目的地……じゃあ、行ってくるね」
「待って、チビ先輩だけだと不安。私も行く」
「んじゃアタシはここで待ってる。良い買いモンしてこいよ!」
「う、うん!」
チビとノッポは入り口の仕切りをまくり上げて中に入っていく。
仕切りが元の位置に戻り、2人の姿を完全に隠したのを見届けるアネゴ。
入り口の対面にある瓦礫の壁にもたれかかった彼女は、腕を組んで目を瞑った。
(……アイツらを拾ってから何週間だ? 拾った時とは見違えるくれェしっかりしてきやがった。チビはまだ危なっかしいし、ノッポも慎重すぎるところはあるが、
組んでいた腕が無自覚に解かれ、右腕がそっと腰の背中側に回る。
何もない場所を優しく、愛でるように撫でる右手。
それに気付いた彼女はハッとした表情を浮かべた後、慌てて腕を組み直した。
(チッ、未練がましい体め……)
再び目を瞑り、思考に耽る。
(もっとデカい事やるなら、どっかのヘルメット団なり大人なりに取り入るのが一番賢いやり方だ。アイツらがそれに気づいてない訳がねェ)
頭上のヘイローがわずかに揺れる。
(……いつ、愛想尽かされるんだろーな。アンタもこんな気持ちだったのか? アタシが──)
「アネゴっ! 無事買えたよ……!」
「やっぱり付いて行って正解だった……」
テントから出てきたチビたちの声を聞き、アネゴは思考を打ち切った。
ホクホクとした笑顔を見せるチビと、青い顔でげっそりとしているノッポ。
店内でのやり取りを大方察したアネゴは、知らず口角を上げながら2人を出迎えた。
「クッ、フフフ……なんつー顔してんだノッポ。おいチビ、何買ったか見せてくれよ」
「うんっ! ウチね、これが欲しかったんだ」
そう言ってチビが両手で掲げたのは大きなシネマカメラだった。