落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第5話「私たちはアビドス・ブレイカーズ」

 

「そ、それで……その後どうなったの!?」

 

 逆向きカゴに座りながら前のめりになるセリカ。彼女に向かって不敵な笑みを浮かべながらアネゴはもったいぶって話す。

 

「もちろん、ヘルメット共にしばかれてブラックマーケットへ逆戻りよォ」

「えぇっ!? その流れでやられちゃうの!?」

「ヘッ、気に入らねェ奴らにヘコヘコ頭下げるよりかよっぽど良かったぜ。つーか、アタシが勝ってたらアンタをその場で解放してたわ」

「そ、そうなんだ……」

 

 両手を挙げてアネゴは伸びをする。

 遠くに隔離している彼女の武器の方を見て、セリカは合点がいった。

 

「だから、今はショットガンじゃなくてハンドガンを……」

「いや、それは関係ねェ。あの後依頼主もぶっ飛ばしたしな」

「はぁ!? ……やっぱこいつヤバいんじゃ」

 

 ジト目で睨むセリカの視線から逃げるようにアネゴはそっぽを向く。そんな2人を眺めながら柴大将は優しく笑った。

 

「それで初心を思い出せたから、セリカちゃんが恩人ってわけなのか」

「そうなんすよ大将! あのままスレきれちまってたらどうなってたか、想像もしたくないす……」

 

 腕を降ろしながら柴大将にアネゴは笑いかけた。そんな2人を眺めながら、セリカは小さく唸る。

 

「うぅ、でも複雑。別に改心とかしたわけじゃないみたいだし」

「まァな。そもそもアンタは気絶中で覚えてないだろうし。だからこれはアタシの一方的な恩で、そもそもアンタに会うつもりもなかったんだよ」

「ふーん……」

 

 頭をかきながら弁明するアネゴに、セリカは少し思案する。彼女にはアネゴの経験談や大将への態度が嘘のようには思えなかったが、やはり不良生徒であることは間違いないようで、いつ自分たち──特に柴関ラーメンや柴大将に危害を加えないかがわからなかった。特に、セリカにとっては便利屋68という前例があったため、警戒し続けるに越したことはないという結論を出し、それでも初対面時よりはその目つきは幾分か柔らかくなっていた。

 

「さァて、そろそろ続きすッかァ。セリカ、指示頼むぜ」

「んんっ、そうね。ビシバシこき使ってやるんだから!」

 

 2人が立ち上がり、屋台へ向かおうとした瞬間だった。突如爆発音が鳴り響き、轟音とともに衝撃が地面を揺らす。

 

「おおっと!」

「おわッ」

「うわっ、何!? 爆発!? 大将大丈夫!?」

 

 その場で踏ん張った後、セリカはすぐさま柴大将に駆け寄った。

 

「ああ、大した揺れじゃなかったから大丈夫だ。またゲヘナのお嬢ちゃんが何かしてるのかねえ」

「まさか、便利屋の連中の仕業……!?」

「おい、こっからでも煙が見えるぜ。爆発した場所はかなり近そうだな」

 

 アネゴが指差した方向は、倉庫の向こうの道路沿い方面だった。倉庫越しに黒煙がもうもうと立ちのぼっており、爆発の影響であることがどう見てもあきらかであった。

 

「あっちって……今日営業してた場所の方向じゃ!? 大将、屋台と一緒に倉庫に隠れてて!」

 

 ラックにかけてあったアサルトライフル(シンシアリティ)を持ち出し、少し迷った後、隔離していたアネゴの私物一式を彼女に投げつけた。

 

「おっとォ、アタシも行くんだな」

「当たり前でしょ、大将と2人きりには出来ないし。裏切ったら容赦なく撃つから!」

「ヘッ、そうこなくっちゃなァ!」

 

 拳銃を腰のホルスターへ、ナイフを足のポーチへしまい、携帯端末をスカートポケットへ滑らせる。 

 

「2人共気をつけてな」

「おう! 大将は早く隠れてくれよな」

「今度は絶対来ちゃダメだからね! 行くわよ!」

「おう!」

 

 2人はエプロン姿と頭巾を被ったまま走って黒煙立ちのぼる現場に急行する。そこには爆発跡と思われる黒焦げの空き地と、銃を構えた数十人のチンピラが待ち構えていた。チンピラのうちの1人がセリカたちに気づき、ニヤつきながらアサルトライフルを肩に乗せて近づいてきた。

 

「ん~? おかしいねぇ、柴関ラーメンはここで営業してるんじゃあなかったのかい? 黒見セリカちゃ~ん」

「どいつもこいつもなんで私を知ってるのよ!? あんたたちが便利屋の差し金ね!」

「便利屋ぁ……? 面白いこと言うねぇ、君」

 

 銃を肩から降ろし、両手で持ち直すチンピラ。頭に被っている安全ヘルメットにはアビドス高校の校章ステッカーが貼られており、その上から黒のペンキでバツ印が描かれていた。

 

「あいつらと一緒にしないでくれよ、私たちはあんな奴らとは違うんだからさぁ」

「へェ、じゃあ名乗りのひとつでもあげたらどうだ?」

 

 ホルスターから取り出した拳銃をくるくると回しながらアネゴがバツ印のチンピラを睨みつける。

 

「確かにねぇ。特に黒見セリカちゃんにはよぉく聞いてほしいからねぇ」

「ど、どういう意味よ」

「ひひひひ……」

 

 彼女の周囲に他のチンピラも集まり始める。よく見ると彼らにはまとまりがなかった。スケバンの格好をした不良生徒やヘルメット団員、PMCと思われる軍用オートマタやドローンまで集まってきていた。彼らに共通しているのは体や服の一部にアビドス校章ステッカーを貼っており、その上からバツ印を描いているという点だった。

 

「私たちはアビドス・ブレイカーズ。略して『AB団』さぁ」

「エービー団……?」

 

 その団名にセリカたちは聞き覚えが無かったが、ろくでもない組織だろうということは予想出来た。

 

「ここに集まってるのは君たちアビドス高校や対策委員会に恨みを持つ不良、元ヘルメット団、元PMC……君たちをめちゃくちゃにしてやりたいと思ってる正当な復讐者たちなんだよぉ」

「そうだ! お前たちアビドスのせいであたしらカタカタヘルメット団は壊滅しちまった!」

「お前たち対策委員会が元理事の解任を招いたせいで、我々も路頭に迷うはめになったんだぞ! 責任を取れ!」

「はぁ!? 逆恨みもいいところじゃない!」

 

 頭に血の昇ったセリカが銃を構える。チンピラたちも各々の得物を構え、臨戦態勢に入る。

 

「ほーォ? 中々おもしれェなお前ら」

「こっちは面白くない!」

「君はアビドスの生徒じゃなさそうだけど、私たちと戦うのかい? その意味はあるのかなぁ」

 

 ニヤつくバツ印のチンピラの挑発に、不敵な笑みで応えるアネゴ。

 

「こいつにゃァ恩がある、柴の大将にも恩が出来た。だから大将のラーメン屋を襲おうとしたテメェらはしばかせてもらうぜ!」

「そうか、残念だねぇ。まあ大したことは無さそうだしいいか。まずは1人目、仕留めるよぉ」

 

 バツ印のチンピラの合図で、AB団員たちがセリカたちに一斉に襲いかかる。それと同時にセリカはトリガーを引き、アネゴはAB団に向かって走り出した。

 

「あんたたちなんかにやられ──」

「アタシの恩人に手ェ出すんじゃねェキィイイイイック!!」

「えぇぇー!? 何やってるのあんた!? バカなの!?」

 

 助走をつけてドロップキックを決めたアネゴは、数人の団員を巻き込んで倒れ込む。気絶した連中を足場にして立ち上がったアネゴは、拳銃を片手に構え、空いた方の手で握りこぶしを作り天に突き上げた。

 

「気に入らねェ奴はぶっ飛ばす! 気に入らねェ道理もぶっ飛ばすッ! キヴォトスに悪名轟くアネゴ団のアネゴたァ、アタシの事だァッ! テメェら全員よォく覚えとけェ!」

「アネゴ団……? 知らない団だねぇ」

 

 天に突き上げた拳をそのまま振り下ろし、気絶していなかったオートマタの頭にアームハンマーをかますアネゴ。そのまま拳銃で周囲のAB団に乱射し、周りの注意を一気に引いた。

 

「チッ、マジで豆鉄砲だな。ノッポの助言通りナイフも使うか」

 

 ポーチから素早くナイフを取り出したアネゴは、一瞬で逆手に持ち直す。刃先が錆色のナイフを確認したバツ印のチンピラは、おかしなものを見たかのように嘲笑した。

 

「ひひひひ、そんなナマクラで何が出来るのかなぁ? というか君野蛮だねぇ」

「ヘッ、テメェらなんざナマクラで充分なんだよッ!」

 

 敵陣ど真ん中で大立ち回りするアネゴ。AB団の数を大きく減らせはせずとも、その注意を一瞬でもセリカから引き剥がすことが出来た。

 

「そっちばっかり見てんじゃないわよ! 覚悟しなさい!」

 

 怒りに燃えるセリカの弾丸が、AB団員たちの意識を的確に刈り取っていく。乱射しているように見えるが、彼女は大まかな目標を狙い撃ちながら攻撃していた。リロードする度に目に見えてAB団の数が減っていき、彼女の攻撃だけであっというまに殆どのAB団を倒してしまった。

 

「やるじゃねェかセリカ!」

「一度勝ってる相手に苦戦なんて出来ないんだから!」

「ふむ、やっぱりバイト中に奇襲できなかったのが痛いなぁ」

「さあ、物騒な団もこれで終わりよ!」

 

 バツ印のチンピラを含めた数人の生き残りに照準を合わせるセリカ。しかし、チンピラのニヤついた表情は変わらなかった。

 

「いいや、私たちはこの程度ではないよぉ」

 

 ぱちん、と彼女は指を鳴らす。するとどこからともなくAB団が大量に現れ、セリカたちを取り囲んでしまった。

 

「まだこんなにっ!?」

「おいおい、どんだけ恨み買ってんだよアビドス」

「これでもまだ全てじゃあない。さあ、続きを始めようじゃないかぁ」

 

 セリカたちの顔に冷や汗が流れる。セリカにとって、この状況でも充分勝てる実力はあると自負している。有象無象のチンピラが何百人来たって負けるつもりは無いが、本当に無尽蔵だと弾薬か体力が尽きてしまうかもしれないという危惧があった。

 

「……でも、絶対負けないんだから!」

「アネゴ団の恐ろしさはこっからだぜェ……!」

 

 覚悟を決めたセリカたちが交戦しようと銃を構え直したその時。

 

「ぐわああああ!?」

 

 取り囲んでいるAB団の一角が銃弾の嵐に薙ぎ払われた。

 

「セリカちゃん、助けに来ましたよ~!」

「ノノミ先輩!」

「うっげェ……」

 

 消し飛んだAB団の後ろから現れたのは、ミニガン(リトルマシンガンV)を両手で構えた笑顔の少女──十六夜ノノミだった。セリカは彼女の登場に驚き、アネゴは彼女の得物を見て苦い顔をした。

 

「ふむ、これは良くないねぇ。皆、撤退だよぉ」

「逃がすわけないでしょ!」

「でも逃げれちゃうんだなぁ。じゃあねぇ~」

 

 AB団全員がスモークグレネードを取り出し、一斉に足元に投げつける。凄まじい煙幕が周囲に充満し、それが晴れたころには倒れていた者も含めて全てのAB団員が跡形もなく消えていた。

 

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