落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第6話「不良なんかじゃ、ありません……!」

 

「この量のスモークは反則だろ……ッ! ゲホッ!」

「はぁ、何なのあいつら……柴関ラーメンを爆破しようとしてたなんて、絶対許せない!」

 

 むせるアネゴと憤慨するセリカの元に、ミニガンを背負ったノノミと彼女に追従するドローンがたどり着く。

 

「セリカちゃん大丈夫ですか? 怪我はないですか? 泣いてませんか?」

「泣いてないっ! あんな奴らにやられるほど弱くないんだから!」

『良かった……急に爆発が観測されて何事かと……。セリカちゃんが無事で本当に良かった……』

「アヤネちゃんまで心配性なんだからっ」

 

 ドローンを通じて通信しているのは、セリカと仲のいい友人である奥空アヤネであった。通信越しにセリカの無事が確認できた彼女はほっと一息つき、そしてドローンのカメラをアネゴに向けた。

 

『それで、ええと……こちらの方は?』

「アタシはアネゴ団のアネゴ、セリカには恩があって協力してる。あと、柴の大将ンとこもな」

「わぁ、私は十六夜ノノミです☆ セリカちゃんとはどんな関係なんですか? 気になっちゃいます!」

「心の恩人、ってとこだな。てかお前らのことはよく知ってるよ。イヤってほどな……」

『?』

 

 遠い目であらぬ方向を見つめるアネゴに首をかしげるアビドス生たち。気を取り直したアヤネがドローン越しにセリカたちに話しかける。

 

『ともかく、今交戦した相手について話が聞きたいから、セリカちゃん今から学校に来てくれる?』

「問題ないわ、でも先に大将の方に寄らせてよね」

「じゃあ私もそれに付き添っちゃいます」

「……それアタシはどうすりゃいいんだ? 一応セリカに警戒されてる身なんだが」

 

 全員の視線がアネゴに集中する。

 

『えっと……どうしましょう?』

「私はイヤよ。でも、柴大将のところにこんなチンピラ置いていくわけにもいかないし……」

「こら、セリカちゃん。駄目ですよ、助けてくれた人にそんなことを言っちゃ」

「そォだぞ、チンピラじゃなくてアタシは不良だッ!」

「変わんないからっ!」

 

 むくれるセリカと、それをよしよしと慰めるノノミ。アヤネはドローンを右往左往させたあと、アネゴの前に移動させた。

 

『ええっと、それじゃあアネゴさん? もアビドス高校にお越し願えますか? 一応、話などはお聞きしたいので』

「おう、わかった。セリカ!」

 

 呼びかけたセリカにアネゴは袋を投げつける。キャッチしたセリカはそれが没収していた武器などを入れていた袋だと気付いた。

 

「そいつに銃とナイフは入れといた。携帯は勘弁してくれ、仲間を安心させなきゃいけねェんだ」

「さっきの奴らみたいにぞろぞろ引き連れてんじゃないでしょうね!?」

「2人だよ、たった2人。な、頼むよ」

「……しょうがないわね。でも、アビドスに何かしようとしたら容赦なく撃つから!」

「あァ、それでいい」

 

 セリカの許しを得たアネゴはモモトークを開く。チビとノッポの個別チャットやアネゴ団のグループチャットを開くが、彼女たちからのメッセージは来ていなかった。

 

(あいつらも何か巻き込まれてんのか? 心配はしてねェが、とりあえずアタシの無事だけでも教えとかねェとな)

 

 アネゴはグループチャットにメッセージを打ち込み、数秒待ってから携帯端末をしまう。彼女のメッセージに既読はつかなかった。

 

「よし、待たせたな。それじゃ案内頼むぜ、アビドスサンよォ」

「はい、任されました☆」

「うぅ~、ほんとに何なの今日は……」

『あはは……』

 

 アネゴを加えたアビドス生の一団は、まずは柴関ラーメンの屋台がしまわれている倉庫へ向かうのだった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 時は少し遡り、アネゴが柴関ラーメンに突き刺さっていた頃。

 アビドス自治区から少し離れた商業区画。その一角にとある事務所が存在していた。そこにいるのは金さえ積めばどんな依頼でもこなすという、キヴォトスの裏社会でも名の知れたアウトロー集団。その名を──。

 

「はい、こちら便利屋68(シックスティーエイト)。依頼内容を──」

『あ、カレー屋ココイツさん? 出前なんだけど、カツカレーの1辛と』

「カレー屋じゃないわよっ!!」

 

 がちゃん、と乱暴に受話器を叩きつけたのは、事務所の最も奥まった場所に設置された椅子に座るコートを羽織った少女──陸八魔アル。

 

「あははっ! 今日だけで間違い電話何件目? それもカレーの出前ばっかり!」

「うぅ、どういう巡り合せなのよぉ……!」

 

 椅子の背に捕まり、回りながら笑っているのは浅黄ムツキ。彼女の笑い声にアルは小さく唸ることしか出来なかった。

 

「か、カレー屋があるからアル様に迷惑が……消さなきゃ。わ、私この世のカレー屋を全部消してきますアル様のために!」

「待ちなさいハルカ! そんなことしても私のためにはならないから!」

 

 青い顔で爆弾がぎっしり詰まったバッグを担ぎ、事務所を出ようとしていたのは伊草ハルカ。すんでのところでアルに呼び止められ、彼女はおずおずとソファーに座り込んだ。

 

「はぁ……最近実入りのいい依頼も来ないし。このままだとまずいんじゃない?」

「うぐ……」

 

 愛銃(デモンズロア)のメンテナンスをしながら現状を憂いたのは鬼方カヨコ。彼女の発言にアルの表情は非常に苦々しいものになった。

 

「……そうね、カヨコ課長の言うとおりだわ。たしかに今、私たちの状況は芳しくない。けれども──」

 

 立ち上がったアルが社員たちに心構えを説こうとした瞬間。事務所の窓が豪快に破られ、高速で何かが室内に飛来した。一瞬で事務所の中が砂埃に覆われる。

 

「何ーーっ!?」

 

 突然の出来事に一瞬全員の思考が止まった。しかし、まずカヨコが瞬時に拳銃(デビルズロア)を構えて飛来した物体に狙いを定め、次にムツキとハルカが各々の銃を構えながらアルを背にしてブロッキングの陣形をとった。アルもまた一瞬白目を向いていたものの素早くラックからスナイパーライフル(ワインレッド・アドマイアー)を取り出し、目を細めて状況を確認した。

 

「ふふっ、ついにカチコミされる日が来るだなんて。うちもアウトローとして名が売れてきたということね」

「全員揃ってるところに飛び込んでくるとか、とんだ命知らずだねー」

「死んでください死んでくださいアル様の大事な事務所を滅茶苦茶にした罪を償うために」

「……いや、待って。気絶してるし、砂まみれ……」

 

 砂埃が収まったのちそこに現れたのは、事務所の壁に激突して気を失い、蹲っている黒髪の不良だった。髪や服が砂まみれになっており、背中に背負っているスナイパーライフルもあちこちの隙間に砂が入り込んでいた。

 

「まさか、アビドスの砂嵐にでも遭遇してすっ飛んできたってわけ? それでなんでピンポイントにうちに突っ込んでくるのよ!?」

「あはっ、アルちゃん今日厄日だね~♪ ……ん~? この子、今朝見たかも」

「アビドス近辺でいつもは見かけない不良集団がいたって言ってたけど、その1人?」

 

 カヨコの疑問に小さく頷いたムツキは銃を片手に不良に近づく。そして不良を仰向けに転がし、彼女は確信する。

 

「やっぱり。参謀(ブレイン)っぽかった子だ」

「砂漠の方に出てやられたのかな。で、どうする社長」

「へ?」

「経緯はわからないけど、これ(・・)のせいで事務所は荒れたし、窓も全部ダメになってる」

「そ、そうね。……そうねー……」

 

 直視したくなかった現実を突きつけられ、遠い目をするアル。不良が突っ込んできた衝撃で事務所内の備品や書類があちこちへ散乱してしまっており、さらには直接ぶつかった窓以外の窓ガラスも全てヒビが入るか木端微塵に砕けていた。

 そうして現実逃避しているアルをよそに、不良の頭上にヘイローが現れる。意識を取り戻した不良はボブヘアーを揺らしながら小さくうめいた。

 

「ぅぅ……痛……」

「アルちゃん、起きたみたいだよ」

「……とりあえず『話』を聞くわよ」

 

 得物を片手で担ぎ、一歩一歩威圧するように甲高くヒールを鳴らしながらアルは不良へ近づく。頭を抑えている彼女の真上に陣取り、不敵な笑みを浮かべながらアルは彼女を見下ろした。

 

「あなた、不幸だったわね。よりによって私たち便利屋68の事務所に飛び込んでくるなんて。一応聞いてあげるわ、名を名乗りなさい」

「ぇ……? わ、私は万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の……痛っ!」

「……え? ぱ、万魔殿!?」

 

 名前を言おうとした瞬間頭に鋭い痛みが走り、うずくまる不良。一方アルは思ってもいない組織の名が飛び出してきたことで動揺していた。

 

「な、まえ……あれ? わ、わかりません……思い出そうとすると……痛っ……!」

「……ただの不良が、なんで万魔殿を名乗ってるの」

「ひ……!」

 

 うろたえるアルの後ろから、銃を片手にぶらつかせながらカヨコが不良を睨みつける。その眼力に彼女は小さな悲鳴をあげるが、すぐに睨み返した。

 

「不良なんかじゃ、ありません……! 私はゲヘナ学園1年の、万魔殿所属の……戦闘員です!」

 

 不良……否、戦闘員は立ち上がり、便利屋を力強く睨みつける。

 かつてアネゴにノッポと呼ばれていた少女は、自分の名と記憶を忘れてしまっていた。

 

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