落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第7話「なんであんたがここにいる」

 

 臨戦態勢に入る便利屋68の面々と、それを睨みつける黒セーラーの戦闘員。

 

「便利屋68、万魔殿でも把握しています。ゲヘナでも指折りの問題児集団。校則違反と破壊活動を繰り返す無法者(アウトロー)

「へぇ、わかってるじゃない。で、そのアウトロー集団に取り囲まれているわけだけれど、あなたに勝機はあるのかしら」

 

 戦闘員の視線を真っ向から受け止め、アルが妖しく嘲笑う。はっきりと『お前では勝てない』と言い切った挑発である。それを真正面から受け止めながら、戦闘員は黒のボブヘアー越しにアルを強く睨む。

 

「ありませんよ。けど、この場所という情報を持ち帰れる」

「ずいぶんお喋りじゃない。黙って帰すと思う?」

「末端でも、私は万魔殿です!」

 

 スナイパーライフルを手早く構えた戦闘員は、アルの頭に狙いをつけてスコープを覗かず(・・・)にトリガーを引く。しかしそれと同時に飛び出したハルカの胴体に弾丸は受け止められてしまう。そのままハルカはショットガン(ブローアウェイ)を連射しながら戦闘員に迫った。

 

「許さない許さない……アル様の大事な事務所をよくも!」

「ぐっ……!」

「ナイスハルカちゃん。ま、ちょーっと痛い目見てもらおっかな!」

 

 ハルカによって足止めされた戦闘員に狙いを定め、マシンガン(トリックオアトリック)を乱射しながら肉薄するムツキ。ハルカの攻撃をスナイパーライフルを盾にして受けていた戦闘員は、ムツキの猛攻に対応出来ず全弾食らってしまう。

 

「ぐうぅっ……!」

「まだ倒れないの? しぶといな……」

「ええ、私の優秀な社員たちを前によくここまで耐えたものね。けど、社長である私に銃を向けた時点で、この結末は決まっていたのよ」

 

 片手で得物を構え、息も絶え絶えな戦闘員に狙いをつけるアル。戦闘員は彼女たちの連携のレベルの高さに内心舌を巻き、牽制目的の1発を放った瞬間に全ての退路が潰されたことを察した。

 

「終わりよ。後始末は──……何の音?」

 

 バラバラバラと謎の騒音が外から聞こえてくる。車両やサイレンの音ではない。

 

「これ、ローター音……? まさか、本当に万魔殿の……」

 

 カヨコが呟きながら窓枠の外に目を向けた瞬間、上空から戦闘ヘリが便利屋68の事務所めがけて飛来した。

 

「ヒャハハハハ! ここが便利屋どものアジトかぁ! ……え? なんでもう荒れてんの?」

 

 操縦席に座っているのはヘルメットを被った不良生徒。ヘルメットの正面にはバツ印のつけられたアビドス校章ステッカーが貼られており、ヘリの側面にも同じステッカーが貼られていた。

 

「まあいいかぁ! 吹っ飛べ便利屋、我らカタカタヘルメット団の仇ぃ!」

 

 戦闘ヘリに備え付けられた機関砲が唸りをあげて乱射する。それを確認したカヨコは咄嗟にアルを庇い、戦闘員はスナイパーライフルを投げ出し、ハルカとムツキを引っ掴んでヘリの死角へと投げた。

 

「えっ!?」

「うわっ!?」

「ヒャハハハハ!! 虫けらみたいに消し飛んじまえー!」

 

 機関砲の射撃をまともに食らったカヨコと戦闘員は大きく吹っ飛び、壁に打ち付けられてしまう。だが、庇われたわずかな間でアルは銃口の向ける先を戦闘ヘリに変え、カヨコが吹っ飛んだ瞬間に操縦席へ向かって弾丸を発射した。

 

「気分イイぜぇ! このままぐわああああ!?」

 

 撃ち込まれた弾丸は大爆発を起こし、戦闘ヘリは炎に包まれながら墜落していく。

 

「な、なんなのよ今日は本当に!」

「ヒャッハー! 便利屋許すまじ!」

「アビドスに協力したことがあるって事は、アビドスの仲間ってことだよなあ!?」

「アビドス協力者ぶっ壊すべし!」

 

 ひとりごちるアルの前で、さらに3機の戦闘ヘリが窓の外に現れた。

 

「……ふ、ふふふ……逆に面白くなってきたわね……!」

 

 コッキングを行い、得物を構え直してヘリの群れを睨むアル。狙いが彼女に集中し、機関砲が弾を打ち出そうと回転しはじめたその時。

 

「アル様ーーーーーー!!」

 

 戦闘ヘリのうち1機の横っ腹に、助走をつけたハルカが飛びついた。

 

「ひいっ! なんだあ!?」

「消えてください消えてくださいアル様の敵は全て私が消します!」

 

 ヘリのメインローターに向けて何度もショットガンを連射するハルカ。その攻撃により根本がひしゃげ、曲がったことで回転により軸がねじ切れてしまい、メインローターがヘリから分離して隣合っていたヘリに突き刺さる。

 

「ハルカ!?」

「はあっ……! で、できました……あ、アル様の敵を消せました……!」

 

 2機のヘリが墜落していくのを横目に、ハルカは事務所の床へ飛び移り、アルの側へとすっと移動していた。

 

「あと1機残ってるじゃん。くふふっ、ハルカちゃんってばやっさしー♪」

 

 物陰から飛び出したムツキが機関砲向けて爆弾満載のバッグを投げつける。回転の始まっていた機関砲から発射された弾丸がそれを容赦なく貫き、ヘリもろとも大爆発を起こす。最後のヘリが墜落したのを見届けたムツキは、アルたちの方へ振り返り、カヨコの元へと駆け寄った。

 

「カヨコちゃん無事? 骨とか大丈夫そう?」

「痛っ……まあ、平気だと思う。社長がすぐ撃墜したし」

「そっか。で、こっちは……うわぁ、重傷」

 

 立ちあがり埃を払うカヨコの隣、蹲ったままの戦闘員に視線を移したムツキは、思わず口に手を当てた。黒のセーラー服はボロボロになっており、腹部には吐いた後と思われる血の跡があった。さらに彼女のヘイローは明滅を繰り返しており、気絶一歩手前の危うい状態であることが明らかだった。

 

「ね、パンデモちゃん。なんでさっき私たちを庇ったの?」

「……それ、私のこと、ですか……?」

「だって名前わかんないし。で、なんで?」

「……あなたたちは問題児で、校則違反もしていますが……」

 

 腰を曲げて覗き込んでくるムツキの顔を見上げ、戦闘員は力なく笑う。

 

「ゲヘナの生徒ですから……万魔殿として、当然の行動です……」

「ふーん? へぇ……」

 

 ムツキの瞳が妖しく光る。ハンカチを取り出した彼女は戦闘員の口元についている血をそっと拭うと、放り出されていたスナイパーライフルを彼女の手元に握らせた。

 

「僅かだけどまだローター音が聞こえる。多分、まだ来るよ。どうする社長」

「わ、私はまだ戦えます……! アル様の敵をいくらでも消せます……!」

「もちろん、徹底抗戦よ。……でも」

 

 カヨコたちに宣言しながらアルは事務所をぐるりと見渡す。戦闘や機関砲によって壁や床が穴だらけになってしまっており、このままここで戦い続ければビルごと事務所が倒壊する恐れがあると彼女は判断した。

 

「場所を変えるわ。皆、外に出るわよ!」

「りょーかい! ところでアルちゃん、この子どうする?」

 

 ムツキが指差す戦闘員を見遣り、アルはしばし考え込んだ。

 

「……とりあえずここからは連れ出すわ!」

「オッケー。じゃ担ぐね」

「……いや、ムツキはフリーな方がいい。私が肩を貸す」

「そう? じゃあカヨコちゃんお願い」

 

 立ち上がらせ、戦闘員に肩を貸すカヨコ。

 

「……あんたが何者かは知らないけどさ。ムツキとハルカを庇ってくれたのはその、礼を言っておくから」

「……」

 

 ヘイローが消えかけている戦闘員はカヨコの呟きに返事せず、されるがままゆっくりと歩きだす。

 便利屋たちがビルを駆け下り外へ出た時、彼女たちはすでに大勢の不良集団に囲まれていた。

 

「なななな、何よこれー!?」

「来たな便利屋68! お前たちを倒して我々AB団は過去を振り切る!」

「エービー団? アルちゃん変な不良に因縁つけられちゃったの?」

「知らないわよ!?」

 

 各々の銃を構える便利屋たち。カヨコも片手に愛銃を構えながら戦闘員を庇うように立つ。

 

「ああもう、こんな連中ちゃっちゃと片付けるわよ!」

「……仕方ないか」

 

 不良やオートマタ、ドローンに戦闘車両の混じった不規則な群れが便利屋たちへ殺到する。すかさずカヨコが天に向けて神秘の篭った弾丸を発射。すると集団の動きが一瞬止まり、たじろいだ。

 

「あはははっ! 蹴散らしてあげるっ!!」

「死んで下さい死んで下さい死んで下さい!!」

 

 動きの止まった連中をムツキとハルカが蹴散らし、包囲網があっという間に瓦解していく。慌てて動き始めた戦闘車両が彼女たちに狙いを合わせるが、その瞬間大爆発を起こして炎上、戦闘不能となった。

 

「あっはは、命中よ!」

「つ、強すぎる……! 事務所への奇襲で消耗させたんじゃなかったのか!?」

「消耗? 全然。むしろあの程度でどうにかなると思われたのなら心外ね」

「うぐっ!?」

 

 うめくオートマタの頭を踏みつけ、不敵な笑みを浮かべながらアルは彼を見下ろす。

 

「私たちを誰だと思っているの? アウトローの中のアウトロー……便利屋68よ! この程度、襲撃の範疇にも入らないわ」

(……社長、事務所が荒れたストレスを発散するために無理やりハイになってる。はぁ……)

 

 カヨコのジト目に気付かないまま、アルは高らかに宣言する。その姿を混濁した意識の中で戦闘員は眺めていた。

 

(……? 今、誰かの姿と重なって見えて……)

「AB団だかなんだか知らないけど、私たちに歯向かうなら容赦しないわ」

「こ、こんなはずでは……」

 

 気絶したオートマタを蹴っ飛ばしたアルは周りを見渡し、AB団がほぼ壊滅していることに満足した。

 

「はー、数だけ多いザコばっか! それでよく私たちに喧嘩を売れたねぇっ!」

「ぎゃー!?」

「死んで死んで死んで死んでし、んで……あ、わ、私……」

「ま、マジで死ぬ……がくっ……」

 

 最後の不良たちを倒したムツキたちも状況を確認し、アルたちの元へと戻っていく。

 

「あー、疲れた。アルちゃんまだいける?」

「当然よ、むしろ後はヘリだけだと考えればだいぶ楽ね」

「さ、流石ですアルさま……!」

「……噂をすれば」

 

 ローター音を轟かせながら数機の戦闘ヘリが便利屋めがけて飛来する。その数を確認したアルの頬に冷や汗が垂れた。

 

「お、多くない?」

「くふふっ、さっきよりは楽しめそうかも」

 

 戦闘準備を整え、戦闘ヘリを迎撃しようと構える便利屋たち。だがその時、1機のヘリが撃ち抜かれ、火を吹いて墜落した。

 

「場所が近いからって風紀委員使いが荒すぎる! 帰ったら絶対アコちゃんに文句言ってやる!!」

「これ、昨日のと違ってシャーレ案件じゃないっすよね? うえー、帰ったら書類作らないとじゃないですかー」

「徹夜だったし、ラーメンは食べれなかったし……! あっ!? お、お前らは便利屋!! またお前らの仕業なのか!!?」

「げっ、確か風紀委員の……」

 

 ヘリを撃ち落としたのは、風紀委員を伴った激昂したイオリだった。便利屋と鉢合わせた彼女は怒りを隠さず睨みつける。

 

「待って、今回は私たち被害者よ!?」

「おー、あんたたちがあの悪名高い便利屋68。……あれ? 便利屋って4人の部活じゃなかったっすか?」

「ん? たしかに1人多いな……新メンバーでも増やしたのか?」

「くふっ、言うと思う~?」

「……いや、え? まさか……」

 

 戦闘員のうなだれた姿を眺めていた風紀委員の表情から色が抜ける。そのままずんずんと戦闘員の方へと彼女は詰める。

 

「止まって。撃つよ」

「用があるのはあんたじゃないっす」

「……?」

 

 銃を向けてきたカヨコの制止により足を止めた彼女は、戦闘員を睨みつける。

 

「……なんで。なんであんたがここにいる」

「……あなた、は」

 

 顔を上げ、風紀委員を認識した戦闘員。その顔を見た瞬間、風紀委員はホルスターから拳銃を取り出し、怒りの形相で戦闘員の頭に狙いをつけた。

 

「なんで、退学したあんたがゲヘナの土を踏んでるんだっ!!」

 

 銃口を向けられた戦闘員は、風紀委員の言葉に衝撃を受けて顔面蒼白となっていた。その瞳は小さく絞られ、震える歯は噛み合わない。

 

「わ、私が……退学……?」

 

 風紀委員を見る戦闘員の瞳に、光は灯っていなかった。

 

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