落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第10話「……助けて!」

 

 コンクリートの地面に砂が残るアビドス高校校門前にて、あくびをするホシノにセリカたちが駆け寄る。

 

「ホシノ先輩ーーっ!!」

「ホシノ先輩、お待たせしました」

「良いって良いってー。セリカちゃんがケガしてなくて良かったよ~」

 

 にへらと笑いながらセリカたちを迎えるホシノ。セリカたちの後ろに控えているアネゴは、ホシノから顔ごと逸してそっぽを向いていた。

 

「で、そっちの子がセリカちゃんの子分だっていう人?」

「オウオウオウオウ今のは聞き捨てならねェなァ! セリカは恩人だがアタシは子分じゃねェ! キヴォトスに悪名轟くアネゴ団のアネゴはァ! 誰の下にもつかねェ媚びねェ下らねェんだよォッ!!」

「うるさっ! ……ってか大将には頭下げてたよね」

「そこはケジメってモンがあるだろォが!」

 

 明らかに自分を避けていたのに少しつついたら良い反応を返したアネゴの様子を見ながら、ホシノはへらへらとした表情を崩さずにまぶたを薄く閉じる。

 

「ま、ノノミちゃんたちがここまで連れてきたってことは、そんな悪い子じゃないんだろうね~」

「ヘッ、言ってろ。アタシは良い子ちゃんじゃねェ、不良だぜ?」

「……えっと、なんでホシノ先輩から妙に距離取るの?」

 

 呆れ顔のセリカの指摘通り、アネゴはホシノから少し離れた位置にいた。ホシノが1歩近づくと、アネゴは1歩下がる。ホシノが1歩下がると、アネゴが1歩近づく。

 

「うへ、訂正。変な子ではあるかも」

「うっ、うっせェ! アタシのことよりも、今はアビドスだろ!」

『──通信回復しました! 皆さん無事ですか!?』

 

 セリカの抱えていたアヤネのドローンに光が戻り、ふわりと浮き上がる。

 

「アヤネちゃんこそ!」

「校門はホシノ先輩が守ってくれていたみたいですが、アヤネちゃんは大丈夫ですか? 校内に侵入されてひどいことされてませんか?」

『えっと、それは大丈夫です。というか……』

 

 ドローンが旋回してバイト傭兵たちが来ている方角を向く。ホシノも表情を崩さないままそちらを向いた。

 

「敵の進行ルートがここだけなんだよね〜」

『予備ドローンで周囲の警戒をしているんですが、裏口などへは侵攻する素振りもないんです』

「アヤネちゃんが危なくないのはいいことだけど、うへ。ここに戦力が集中してるってことだからね〜。おじさんにはちょっときついな〜」

「私たちが来ましたから、もうホシノ先輩1人に任せきりにさせませんよ!」

 

 ミニガンを構えたノノミが笑顔でホシノに応える。セリカも愛銃を構えて頷く。

 

「誰が雇った傭兵か知らないけど、学校を襲うなら容赦しないから!」

「おうおういいねェ! 調子戻ってきたじゃねェかセリカ!」

「うっさいバカ! これ返しとくわよバカ!」

 

 ぶん殴られた袋をアネゴは危なげなくキャッチし、中身の拳銃とナイフを流れるようにしまい込む。

 

「言っとくけどアビドスに武器を向けたら容赦しないから!」

「わァってるわァってる」

 

 ホルスターにしまった拳銃を取り出してくるくると指で回し、バイト傭兵の侵攻ルートに向けて構えるアネゴ。ちょうど新たな敵の波がアビドスへと押し寄せつつあった。

 

「傭兵共にでけェ大砲、相手に不足はねェな!」

「大砲……? 皆、私の後ろに隠れて!」

 

 ホシノが盾を構えてとっさに前に出る。その瞬間閃光が辺りを包み、爆炎が彼女を襲った。

 

「くっ……ホシノ先輩!?」

「うへ、な~んか嫌な予感がしたからさ。前に出て良かった~」

「あの戦車、まさか……!」

 

 はるか遠くに見える自走砲の対空砲から煙が見えていた。セリカたちはその対空砲に覚えがあった。

 

「私の前にそいつを出すなんていい度胸してる! すぐにスクラップにしてやるんだから!!」

 

 なぜならそれは、かつてセリカを襲撃した対空砲(Flak41改良型)だったからである。自走砲を操作しているヘルメット頭のチンピラが顔を出し、メガホンを構えてアビドス高校に向けて叫び始める。

 

「しぶといアビドスの皆さぁ~ん! 無駄な抵抗ご苦労さまでぇ~す! ですがぁ、お前たちは絶対に学校を守りきれませぇ~ん!」

 

 再び自走砲が砲弾を撃ち出す。今度は山なりに撃ち出されており、あまりにも高すぎて誰も届かない。

 

「あのままじゃ学校に直撃する!?」

『させない……!』

 

 校舎の向こう側から飛び出した予備ドローンが砲弾に突撃、空で大爆発が起こった。

 

「アヤネちゃんのドローンが! もう、許さないんだから!」

「許されないのはお前たちでぇ~す! カタカタヘルメット団の仇、我らAB団が討ち取ってくれる!!」

「カタカタヘルメット団の……? それに、エービー団って……」

「うへ、話はとりあえずやっつけてからかな~」

 

 ショットガンをリロードしたホシノは1歩前に出る。彼女たちアビドス生を見ていたアネゴは、小さく微笑んだ。

 

「折れねェ、引かねェ、貫くしかねェ。変わってねェな」

「何か言った?」

「いいや。セリカの学校、守ッぞ」

 

 頷きあったアビドス生が一斉にバイト傭兵たちへ飛びかかる。ナイフをそっと取り出したアネゴも、彼女たちに続いた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 戦闘自体は一瞬で終わっていた。ホシノとセリカがバイト傭兵たちを蹴散らし、ノノミが散らばった敵や車両を一網打尽にし、アネゴは彼女たちが戦いやすいよう場をかき乱した。

 

『敵勢力の全滅を確認。お疲れ様です皆さん!』

「……く、くくっ……まだだ……」

「あン?」

 

 爆発炎上した自走砲から運び出されたチンピラ──AB団員が呟く。

 

「お前たちは何も助かってなどいない……くくく、ここから30km先に何があるか、覚えているか……」

「30キロォ?」

『……カタカタヘルメット団が、かつて前哨基地を築いていた地点』

 

 ドローン越しにアヤネが緊張する。なぜ、今その数字が出るのか。なぜ今その情報を思い起こさせたのか。

 

「あそこは我らAB団の前哨基地として生まれ変わった……! くくっ、まだ外部への通信は出来ないだろう? 基地周囲30kmを通信遮断する大規模ジャミングがお前たちを孤立させているからな……! お前たちは外の誰にも助けを呼べないまま、我らの猛攻を受けて倒れる運命なのだぁ……!!」

 

 言い切ったAB団員はそれきり気絶してしまった。

 

「聞いてもねェことをベラベラと。ならその基地をぶッ潰せば終わりじゃねェか」

「それは……難しいと思います」

 

 ノノミが不安そうに校舎に振り返る。

 

「ホシノ先輩が傭兵たちを倒してから、すぐに増援が来ていました。30kmと言う距離を考えると、いくつもの部隊がすでにここへ向かっていると考えるべきです」

「それを全部倒しながらっていうのは、めんどくさいね~」

 

 うへ~と緩みながらホシノはセリカに向き直った。

 

「だから、セリカちゃん。ちょっとお願いできるかな」

「へ? わ、私?」

「そ。30kmのジャミング範囲っていうのが嘘じゃなければ、この場所はそのへり(・・)でしょ? ならちょっと走れば範囲を抜けられるはず」

『そうすれば、救援を呼べます……!』

「ほら、私は戦いっぱなしで疲れてるしさー、ノノミちゃんはさっきみたいな戦車とか来たときに頼りになるし、アヤネちゃんのドローンはこっちからの通信が届かなくなっちゃう。それに、アネゴちゃんに頼むのも違うでしょ?」

「アネゴちゃん!? 今お前ちゃん付けしたかこのアタシをォ!?」

「うへ~」

 

 ギャーギャーわめくアネゴをホシノは面倒くさそうに押しのける。改めてセリカと向き合ったホシノは、目を見て微笑んだ。

 

「ね、お願い」

「……それって、私が頼りないから」

「ん〜? いーや、逆逆」

 

 ホシノは背伸びしてセリカの肩に手をそっと置いた。

 

「セリカちゃんだからお願いするんだよ。うへ、セリカちゃんの頼みを断れる人なんていないからね〜」

「はぁ? な、なにそれ……いいわよ、誤魔化されてあげる」

 

 手を優しく払い除けたセリカは、愛銃を背負い込む。それと同時に地平線の向こうから後続の傭兵バイト部隊が現れはじめる。その中には自走砲(Flak41改良型)も多数含まれていた。

 

「さあ行って!」

「っ!」

 

 バイト傭兵の進行方向と逆に駆け出すセリカ。傭兵バイト部隊の進軍が早くなり、牽制射撃が始まる。

 

「逃がすなー追えー」

「君たちの相手はおじさんたちだよ~」

「撃てーっ! アビドスを粉砕しろーっ!!」

 

 数門の自走砲がまばらに撃ち出した砲弾がアビドスの校舎に迫る。だが前に出たホシノは砲弾を片っ端から盾で殴り飛ばし(・・・・・)、間に合わない分は体で受け止めた。連鎖的に大爆発が起こり、一時的に攻撃が止む。

 

「やったか!」

「──うへ~、おじさんもう若くないんだけどな~」

「な、何ーーーーっ!?」

 

 爆炎の中から現れるホシノにAB団と傭兵たちは慄く。

 

『ノノミ先輩、さらに前へお願いします!』

「任されました☆ 綺麗にお掃除します~♧」

「ぐわーーーーっ!!?」

 

 ミニガンのトリガーを引ききったノノミが突撃し、足を止めた傭兵バイト部隊を薙ぎ払う。その戦闘音全てを背中越しに聞きながら、セリカはただ走った。

 

「バカな、たった一瞬で全滅……だが、せめてあいつだけでも!」

 

 半壊した自走砲をAB団員が動かし、離れていくセリカに狙いを定めて最後の一発を放つ。

 

「……えっ?」

 

 砲弾が迫り、無防備なセリカに直撃──

 

「だァアアアアアッ!!」

 

 ──する直前、アネゴが割り込んで庇う。そのまま彼女は受け身も取れずに吹っ飛んでいき、傷まみれ砂まみれとなって転がっていった。思わずセリカは彼女の元へ駆け寄ってしまう。

 

「ちょっと! 生きてる!?」

「ハァ……ペッペッ、行けェセリカ!」

 

 血を吐き出しながらも立ち上がるアネゴに見つめられ、セリカは顔を背ける。

 

「……っ、わかってるわよ!」

 

 再び駆け出したセリカ。彼女を見送ったアネゴは不敵な笑みを深めた。

 

「さァて、アタシもアビドスもまだまだやれんぞバイト野郎共ォ!」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「はぁ、はぁ……っ、もう大丈夫かな……?」

 

 立ち止まり、携帯端末を取り出したセリカは、画面に表示されていた『圏外』の文字が外れていることを確認し、大きく息を吐いた。

 

「はぁー……よし。えっと、誰か……シロコ先輩……」

 

 モモトークを開いた彼女は、シロコに短くメッセージを送る。

 

「もう、学校が大変な時にいないなんて。あとは、えっと……」

 

 画面の前で指をさまよわせるセリカ。数秒の間そうして迷い、意を決してある人物へメッセージを送った。

 

【セリカ】

えっと

あのね、その……

 

【先生】

どうしたの?またバイトの誘い?

 

【セリカ】

……

先生!

……助けて!

 

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