落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第2話「ウチなりのアネゴへの恩返し!」

 

 灰長髪を揺らしながら嬉しさを抑えきれない表情のチビが両手で掲げたのは、1台の大きなシネマカメラだった。

 それをまじまじと眺めたアネゴはセミロングの薄茶髪をガシガシと片手でかき、腰に空いた手をあてがいながら頭にハテナマークを多数浮かべていた。

 

「なんだこれ? ロケランにしちゃあ……変な形してんな?」

「武器じゃないよアネゴ! これはシネマカメラ。カメラなんだから」

「か、カメラ? このデカいのが?」

 

 アネゴが知っているカメラは携帯端末に内蔵されているカメラアプリだけである。

 街頭ニュースなどをじっくり見ていればクロノススクールの報道部が似たような大きさのカメラを担いでいる場面が映されていたかもしれないが、彼女はニュースをじっくり見るタイプの人間ではなかった。

 

「う、うん。アプリとかのじゃなくて、綺麗な映像をしっかり撮るためのスゴいカメラなんだ」

「最新型の2世代前とかいう嫌な言い回しをしてきたけどね、あの店主」

 

 はしゃぐチビの手元にあるカメラを見ながらげっそりとしているノッポ。

 黒のボブカットが萎びて見えるほど彼女は気疲れしているようだった。

 

「それでもこのタイプのカメラが出回る事は滅多に無いんだから!」

「はいはい……あー、今チビ先輩に何言ってもダメそう」

 

 全てを諦めたノッポは脱力してうなだれる。

 そんな彼女に苦笑いしながらアネゴは肩に手を回した。

 そしてチビに向けて満面の笑みでサムズアップする。

 

「よっし、そんなにスゲェカメラならアタシらの事一発撮ってみてくれよ!」

「もちろん! アネゴたちを撮る為に買ったんだから!」

「え、そうなの?」

 

 道を外れて空き地に移動した一行。

 チビはシネマカメラを構え、アネゴたちにレンズを向けながらセッティングしていた。

 

「よし、これで10秒後に録画が始まるから、なにか喋ってみて! 5、4、3……」

 

 チビの合図を確認したアネゴはカメラの真正面で仁王立ちし、廃墟をバックに腕を組んだ。

 そして息を大きく吸い、目を見開いて叫ぶ。

 

「気に入らねェ奴はぶっ飛ばす! 気に入らねェ道理もぶっ飛ばすッ! キヴォトス(いち)のアネゴたァ、アタシの事だァッ! テメェら全員よォく覚えとけェ!」

 

 ドン! と構えたまま目を瞑り、これ以上言う事は無いとアネゴは沈黙する。

 それを見ていたノッポは、『これの後に喋んの?』という表情をした。

 チビは無慈悲にも笑顔で大きく頷いた。

 

「あ、あー……なんか恥ずいね。うん、長身(ノッポ)だからノッポ。よろしく?」

 

 言い切ってから羞恥心が出てきたのか、赤い顔で目を逸らすノッポ。

 そこまでばっちり尺に収めた上でチビはカメラの録画を完了した。

 

「これで映像が取れてるはず……!」

「早速見ようぜ! どうやって見るんだ?」

「えっと確か、携帯端末に映像を転送すると見れるようになるって。ちょっと待ってて」

 

 シネマカメラを一旦地面に置き、黒セーラーのスカートが土で汚れるのも厭わずに座り込みながら携帯端末を取り出すチビ。

 そして通信コネクタでカメラと携帯端末を繋ぎ、少し操作を行った。

 

「あっ、出来た……! みんな、これがさっき撮った映像だよっ」

 

 チビが嬉しそうに見せる携帯端末の画面を、アネゴたちは覗き込む。

 そこには啖呵を切るアネゴとはにかみながら自己紹介するノッポの姿が超高画質・超高音質で映し出されていた。

 

「おおー! すげェ、マジでアタシらがここにいるみてェじゃねェか!」

「け、消して……凄い恥ずい……」

「えへへ、ノッポちゃんかわいいよ?」

「嬉しくない……」

 

 映像が最後まで再生され、再び最初から繰り返される。

 

「やっぱりカメラアプリなんかとは段違いに良い画が撮れるんだぁ……!」

「良い買いモン出来てよかったなチビ!」

「うんっ!」

 

 ひとしきり動画を再生し終え、携帯端末をしまったチビはシネマカメラを持ち上げ、優しく土を払った。

 

「ウチね、いつもの子たち(グレランと愉快な弾薬たち)の研究とは別に夢があるんだ」

「夢?」

「うん。学園にいた頃に出来た、新しい夢。本当は退学した時に諦めてたの」

 

 シネマカメラを愛おしげに見つめるチビ。

 夢という言葉を聞いたアネゴはゆっくりと腕を組み、表情を少し硬くした。

 

「チビ。そいつはアタシらが聞いても良い話か」

「もちろんだよ。アネゴは……優しいね」

「はァ? オイオイチビィ、アタシはお前らのアネゴだぜ? 甘やかした覚えはねェーんだけど?」

 

 拗ねるようにふいと顔をそらしたアネゴに、2人はくすりと笑う。

 

「甘やかされてはないけど、確かにアネゴは優しいかも」

「ノッポまで何言ってやがるッ! アタシは不良としてだな……」

「うん、『不良としてダセェ真似はしねェさせねェやらせねェ!』だったよね? 最初に言われたこと覚えてるよ、ちゃんと」

 

 チビはアネゴに正面から向き合い、カメラをぎゅっと抱きしめながら見上げた。

 

「アネゴはいつもウチたちを助けてくれて、それでいて必要以上に踏み込んできてくれない。それって多分、アネゴの優しさなんだと思う。だから……」

 

 チビはカメラに視線を落とし、もう一度アネゴに向けて顔を上げる。

 その目はまっすぐアネゴを捉え、ひたすらに輝いていた。

 

「だから! ウチはカッコいいアネゴの映画が撮りたい! それがウチの夢! ウチなりのアネゴへの恩返し!」

 

 チビの夢を正面から受け止めたアネゴは一瞬目を見開き、そして深く閉じて不敵な笑みを浮かべる。

 

「……ヘッ、学園にいた頃の夢だって話はどこ行ったんだ」

「映画を撮ってみたいって思ったのは在学中だったよ。でも、何を撮るかは決めてなかったんだ」

「そうか」

 

 呟き、目を開くアネゴ。

 

「最高じゃねェかチビ! 最高にキマった不良映画を撮ってくれよ!」

「もちろんっ! アネゴのかっこよくてスゴいところ、どんどん撮っちゃうから!」

「調子付きやがって、可愛いヤツめ!」

「あぅ、えへへ……」

 

 満点の笑みでうなづいたチビを、アネゴはわしゃわしゃと撫で始める。

 そんな2人の様子を眺めながらノッポは小さく笑みを浮かべ、アネゴに顔を向ける。

 

「私も、アネゴには感謝してるから」

「ん? オイオイ、今日はなんだお前ら。アタシをおだてても何も出ねェぞ」

「おだててないよ。改めて言ってなかったなって。まだ何も返せてないけど……」

「んな事考えなくていい」

 

 チビの頭から手を離し、ノッポの背中を軽く叩いてからアネゴは2人に背を向けた。

 

「アタシはお前らに恩着せたくて不良してんじゃねェ! けどな、貰える恩はもらっとく!」

 

 腰に手を当て、わりと俗物的な宣言をするアネゴ。

 チビはくすりと笑い、ノッポはただアネゴの背中を見つめていた。

 

「だからアタシに何かしたくなった時は、チビみてェにやりてェことをやりやがれ! もちろん不良らしくな!」

 

 振り返り、ニッと笑うアネゴと目が合うノッポ。

 

「……わかった」

 

 重々しく頷いた彼女に満足し、アネゴはチビの方に視線を合わせた。

 

「それとチビ、後でカメラの使い方教えろよ」

「え? いいけど、どうして?」

「お前だけが撮ってたら、お前を撮れねェだろうが! 今のアタシを撮りてェなら、お前もノッポも欠かすんじゃねェ!」

「あ、アネゴ……!」

 

 感激した様子のチビにふんと鼻を鳴らし、アネゴは前を向き直す。

 

「さァて、そろそろ今日の寝床を探すぞお前らァ! チビィ、カメラしっかり持っとけよ!」

「分かってるよぉ、ちゃんと防弾バッグにしまって大切にするんだから!」

 

 歩き出すアネゴと、カメラをバッグにしまいながら後をついていくチビ。

 ノッポは足を踏み出せずに、彼女たちの背中を少し眺めていた。

 

「……いつだってアネゴには何か返したいのに」

「おいノッポォ! 置いてくぞ!」

「ごめん、すぐ行く」

 

 ぐるりと後ろを向いたアネゴに怒鳴られ、走りだすノッポ。

 

「というか、アネゴ前見て歩いて。普通に危ない」

「危なっかしい奴を見てねェ方がアタシにとっちゃ──ギャー!?」

「わぁ!?」

 

 曲がり角から突然現れた人影が前方不注意のアネゴに激突、そのまま2人は尻もちをついてしまう。

 

「ッテェ〜〜! どこ見て歩いてんだこンにゃろォ!」

「大丈夫かヒフミ!? すまない、私たちは急いでいて……」

「急いでりゃ許されると……あん? トリニティの制服……?」

「あうぅ……アズサちゃん、私は平気だから……」

 

 目を回しているブラウンヘアーの少女と、彼女の後から現れて手を貸して立ち上がらせている薄紫髪の少女の制服に、アネゴは見覚えがあった。

 

「アネゴ、厄介なことになった。彼女たちが来た方向からこっちにチンピラが大勢やってきてる」

「朝のヘルメット団よりは少ないけど……それでも多いよぉ……!」

 

 少女たちが飛び出してきた曲がり角の路地裏からゾロゾロとスケバンやヤンキーなどの不良集団が現れ、あっという間にアネゴたちは囲まれてしまった。

 

「オイオイ……どうなってんだこいつァ」

 

 不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がるアネゴ。

 しかしその頬には冷や汗が浮かんでいた。

 




プロローグの書き溜めはあるので、それが尽きるまで毎日投降します。
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